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下町の酒場

 ダイナの死亡から3ヶ月。

 特に目新しい情報も無くただ月日が流れていくばかりだった。


「そっちも特に手がかりは無しか」

「まぁな。お互い様みたいだけど」


 帝都の下町にあるとある酒場で、シュミナールとラウル、ダンロットは三人で酒を酌み交わしていた。


 騎士団本部や魔法省のある上流階級街にも酒場はあるが、堅苦しい日々から一時でも解放されたくて下町の酒場に足を運ぶ者は多い。


 下町の酒場も品行方正な客が売上に貢献してくれるのでお互いに良好な関係だ。


「手がかり一つないとなると身動きのしようもありませんね」

 ダンロットがため息をひとつついてそう言うとラウルが酒の瓶を片手に持った。


「仕方ねーだろ。気分転換のためにこうして呑みに来てるんだから今は目の前の美味しい酒を堪能しろよ」

 ラウルがダンロットの空いたグラスになみなみと酒を注ぐ。


「エルシュは大丈夫なのか。一見するといつものように飄々としているが」 

シュミナールがダンロットを見ながら酒をちびりと飲む。


「……あいつはいつでもああですから。だから余計に心配でもあるんですが」

「サニャちゃんも随分心配してたしな」


 ラウルが少し微笑みながらグラスの氷をカラカラと揺らす。


「サニャの存在はエルシュにとってはかなり大きいと思います。……悔しいけど」

「何だよ、女相手にヤキモチか」


 ニヤニヤしながらラウルが揶揄うとダンロットはそんなんじゃないです!とムキになる。


 そんな様子を眺めながらシュミナールは口の端に弧を描き、また一口酒を飲んだ。


「エルシュに対して臆することなくまっすぐに素直な心を現すことができるのはすごい。本当に良い子なのだろうな」


「何だよ、お前が女を褒めるなんて珍しいな」

 シュミナールの言葉にラウルが目を丸くする。


「何だ、俺が女を褒めるのがそんなに珍しいことか?」

 シュミナールは虚な目をしながら目線だけをラウルに向けた。


「そんなことより、最近取り巻きを追い払うようになったのはあの子が関係しているのか?浮ついた話も全く聞かなくなったが」


 ニヤリとするシュミナールに、ダンロットがえ?!本当ですか!?とラウルを見ながら驚く。


「はぁ?別にそんなんじゃねーよ」

 ラウルは肩肘をつきながらそっぽを向くが、その態度がむしろ答えになっていると心の中でシュミナールは苦笑した。


「サニャちゃんは確かに良い子だしめちゃめちゃ可愛いよ。それは認める。でもあんなに素直で純粋な子はむしろ俺には不釣り合いだろ。あの子が可哀想じゃねーか。俺なんかよりもっと良い男がお似合いだって」


 その言葉にシュミナールとダンロットは驚いてラウルを凝視する。


「は?何?なんでそんな驚いてんの?」

「……お前、まさか自覚してないのか?」

「……ラウルさん」

「え、何が?何だよ気持ち悪いな」





「……ヘックシ!」


 魔法省の図書館でサニャがひとつくしゃみをする。


「大丈夫?風邪でもひいた?」

 エルシュが心配そうに棚から顔を覗かせた。


「いや〜そんな感じはないですけど……誰か噂でもしてるんでしょうか」

やぁね、どっちにしても心配だわとエルシュがぼやくと、サニャは嬉しそうに微笑んだ。




こうしてなんてことない日常を帝都で過ごすことができるのも、あとほんのわずかな期間だということをまだエルシュ達は知らない。





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