魔女の屋敷
かつて栄華を誇った侯爵家があった。
土地は潤沢で多くの生産品を国内に送り出すようなそんな場所で経済の中心でもあった。
そしてその最後の侯爵家にはそれはとても綺麗な一人娘がいた。
その少女は幼くして魔法に優れ、新たな魔法を生み出そうとしていた。
しかし、その魔法は日の目を見ることはなかった。
それが侯爵家に襲った悲劇の始まりだった。
「なんだか不気味ですね……。」
「そうですね。あたりはボロボロに形を保ってすらいないのにここだけ屋敷の形を保っているのも不思議ですわ。」
「つまりここに何かあるかもしれないってことかな?」
「……兄様こっち。」
「ヒルデ?」
ヒルデに手を引かれて屋敷の中を進んでいく。
まるで屋敷を知っているかのようにスムーズに進むヒルデに皆一様に驚く。
「ここに来たことあるのか?」
「……?ひーはずっと兄様といた。」
「そう、だよね。僕もヒルデもここに来たのは初めてのはず。だとしたらどうして道を知っているんだい?」
思わず疑問を口にする。
それに対して一瞬虚空を見つめてからこちらに顔を向ける。
「……ひーは知らない。この人がついてきてって言ってるからそうしてるだけ。」
「「ひっ!?」」
後ろでマリーとステフがお互いを抱き合い悲鳴を上げていた。
本来令嬢がそんな悲鳴を上げるべきではないというのもあるが、それは仕方ないことかもしれない。
なにせ僕たちの目にはヒルデが指さす方向には何も見えないのだから。
僕はいったんその存在に不安を覚えるがこうして屋敷内を案内してくれているのだから従うことにした。
案内はヒルデに頼みさらに先に進む。
そうして地下の書庫に辿り着いた。
そこにはこの土地の記録、そして失われたはずの新たな魔法が記載されている魔法書が収められていた。
なんにせよ調べものをするにはもってこいだ。
それからそれぞれに分かれて資料を確認していくことにした。
「つまり気のせいでも何でもなく本当にヒルデにしか見えてないのか。」
それから分かったことだが、ここの記録は恐らく魔法で記述されているということ。
そしてその記録が侯爵家がなくなる前から今までの記録だったこと。
そうなると誰が記録を続けていたのか。
ここまでの経緯を加味しても僕たちには見えないその人物しか考えられなかった。
「ヒルデは何を読んでいるんだい?」
「……刻印魔法の本。」
「刻印魔法?失われた新魔法のことかい?」
「……そう、らしい。面白そう。」
「そうか、それはよかった。」
僕たちには読むことができなかった魔法書をヒルデは読むことができるらしい。
正確には傍らの人物が読んでくれているそうだが。
この屋敷の地下に魔力が少量集まっていたのもどうやらその人物が魔法を行使していた影響のようだった。
つまり直接的な原因がここにはないということになる。
とにかく土地についてはある程度把握はできた。
後は龍脈の中心地に向かい調査をするだけだ。
その後ヒルデはこの書庫から魔法書だけを受け取ると次第に屋敷が光りだした。
そして宙に文字が浮かび上がる。
【ありがとうこれで思い残すことはなく逝けます。一時でも接することができて楽しかったです。最初で最後の弟子の道に幸あらんことを。―スカハ】
「……この魔法は必ず役立たせてみせるから任せて。」
そして光は霧散し唯一形を保っていたはずの屋敷の姿が見るも無残なものに変わる。
スカハ、侯爵家の一人娘にしてかつて新しいものを生み出し続けた栄華の魔女と呼ばれた人。
その想いがヒルデへと紡がれた。
一人空を見つめるヒルデに僕はそっと近寄り頭を撫でる。
これからヒルデはかつての彼女のように新たなものを生み出していくことになるかもしれない。
そのときしっかりと兄としてできることはしてあげたいとそう思えた。
いかがだったでしょうか?
また次回をお楽しみに!
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