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英雄に恋い焦がれる少女

引き籠ってすぐ父上や母上が部屋を訪ねたが私は部屋を出ることはなかった。

そうすると二人はせめて使用人を部屋の中で待機させるよう、メリッサを手配した。

最初は誰もいないものとして過ごしていた。

メリッサもそれに対して何か言うわけでもなく、ただただ黙っていた。

そんなことが一週間ほど経ったころ、メリッサに尋ねた。


「こんな何もない王女に宛がわれて大変だね。嫌なら出て行ってもいいんだよ?」

「そのようなこと言わないでください。……私は貴方様の傍にいることができればそれで幸せなのですから。」


わからない、特に何か接点があったように思えない。

なのに、どうしてそのようなことを言ってくれるのか。

冷やかしじゃないかとも思った。

でも、それが例え嘘だとしても、私を見てくれた人がいたというだけで少しだけ心が救われた気がした。

徐々に私はメリッサに話を聞くことが多くなった。

そうしているうちに幾つかの本を用意してくれた。

どれもお姫様と英雄が結ばれるようなメルヘンチックな物語。

例えば閉じ込められたお姫様を隣国の王子様が救い出してくれるような、あるいは困っていた王女を颯爽と助け出してくれる英雄のようなそんな存在にいつの間にか私は思いを馳せていた。


「ねえ、メリッサ。私もこの本みたいな英雄に会うことはできるのかな?」

「ええ、いつかおひぃ様のことを救い出してくれますよ。」

「そっか、それならこんなところにいつまでもいるわけにはいかないよね。私やっぱり待ってるだけじゃ嫌かも。それに助けられるだけじゃなくて支えられるような人にならなきゃ。そうと決まったら早速行動開始っ!」

「はい、おひぃ様。どこまでもお供します。」


そうして半年に及ぶ引きこもり生活は終わりを迎えた。

私の英雄様を迎えに行くために、その時に恥ずかしくない自分でいるために行動する。

父上も母上もそんな私の様子に面を食らっていたが、温かい目で見守ってくれていた。

相変わらず愛想を振りまいてはいたけれどそうして王宮の色んな人に話を聞いては学び、時には問題を解決していればいつの間にか王宮の偶像(アイドル)として扱われていた。

やっぱりその呼び方は好きではなかったけれど以前の空虚な像に比べればマシだと思うようにしてひたすら自己研鑽をした。

当然姉上や兄上にも話を聞きに行く。

嫉妬はしてもそれでも目指すべき目標であることには変わらない。

盗めるところは盗んでいきたいのだ。

姉上も兄上も頼ってくれたことが嬉しいとばかりに様々なことを教えてくれた。

まだ理解できないことも多かったけど順調に知識も増えていった。


それから二年が経った。

実際に領地を見てみたいと思い、西のとある辺境にある貴族を訪ねることにした。

その貴族の同年代の子息はやたら面倒を見たがっていたがそれよりも私は当主に話を聞きに行くことが多かった。

幾つか辺境の苦労や経営、隣接する国との外交など話を聞き領内を見て回る。

どこも辺境にあることを苦にせず、誰もが明るく暮らしていた。

王女の身である自分がどこまで我が儘を通せるかわからない。

でもできればこの国で英雄の妻となり、領地を安心して歩けるような場所にしたいと思った。


そうした訪問も終わった帰り道のことだった。

突如現れた盗賊によって馬車は襲われることになる。

怖い、怖い、怖い。

ただただ恐怖に心が支配される。


「おひぃ様大丈夫です。私が必ずお守りしますから。」


メリッサは私を慰めるように抱きしめる。

間もなくして外が更に騒がしくなる。

ちらりと窓の外をみるとそこには黒髪の少年が盗賊を相手に華麗に立ち回っていた。

先ほどまでの恐怖はどこかに消え、その少年に釘付けになっていた。

私がポーっとしている間に決着はつき、微動だにせず外を見つめる私の代わりに少年―ジークハルト様とメリッサが対応してくれた。

帰りの馬車はずっとメリッサに彼のことを話していたと思う。

それくらい私の中で彼の存在はそれこそ颯爽と王女を助けてくれた英雄と重なっていたのだった。

王宮についてすぐ私は父上にジークハルト様との婚約を打診する。

でも、


「ジークハルト殿はすでに慕っている女性がいると聞く。ちょうど先ほど婚約成立の通知もきたところだ。……さすがに横やりはできんぞ?」

「そんなぁ……。でしたら私は妾でもなんでもいいのでせめてお傍に……。」

「ばかもの!そんなことできるわけなかろう。とにかく落ち着け。……こういっては何だが、相手のステファニー嬢は品行方正で全くケチもつけれられないような令嬢だが父親のトレイル伯爵は色々問題も多い。」

「なるほど、全くチャンスがないわけではないのですね?」

「……ううむ。」


言いづらそうに父上は顔を顰める

でもそれだけで言いたいことはわかった。

神童と名高いジークハルトだけあってグレイスも王家と縁を結びたい。

でも下手に横やりを入れて機嫌を損ねるようなことはしたくないのだ。

なら私はいつものように頑張るだけ。

この気持ちが報われるかわからない。

それでも少しの可能性を引き出せるように選択肢を増やさねば。


そうしてすぐに王宮は騒がしくなる。

なんでもブリュンヒルト公爵領に龍脈が暴走し竜が現れたとの報告があった。

その戦いで公爵夫妻が亡くなったとも。

王国内の危機に皆騒然とする。

討伐隊の編成や領地への支援など手配していく。

そんなとき私はまたなにもできないでいた。

せめて助けになればと思い、自費を投入して支援物資を増やしてもらうことにした。


それから王宮には一つの報せが届く。

龍脈の鎮静化に成功。

黄龍ファフニールの出現と討伐。

それにより、王国に竜殺しの英雄が誕生したのだった。


ややあって、二年後なんとかジークハルト様との婚約を果たすことができた。

絶対に離れたくない、そんな想いを胸に私は更に行動する。

その時父上の悲鳴が王宮に響いたらしいけど私は気にしません。

それが私の今の生きる道なのですから。







————————

「ふふ。」

「おひぃ様?どうかされましたか?」

「いえ、少しだけ幼い時のことを思い出しただけですよ。」

「……今でも十分幼いと思いますけどね。」

「む、少しは大人になったと思いませんか?」

「それは、どうでしょうか?私としてはおひぃ様が大人になっても変わらずお傍にいるだけですので。」

「ありがとう。これからもよろしくねメリッサ。」


間もなく朝食の時間だ。

その後はやることは幾つかあるけれど、比較的穏やかな状況だ。

これなら時間に余裕はできると思う。

今日はヒルデと何して過ごそうかな?

いかがだったでしょうか?

最初の方のお話のマリー側の裏話でした!

来週は学園のお話に戻る予定です!

お楽しみに!


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