校訓
入学式も無事に終わりステフを連れて王都の屋敷に戻ろうとした矢先門の前に人だかりができていた。
何かあったのかと思いステフに目配せをして様子をうかがう。
すると人だかりの中心には三人の男子と一人の女子がいた。
生徒リストは大体頭に入れている。
学園を信頼していないわけではないが、厄介ごとを避けるために生徒の素性を調べさせたのだ。
王家運営の学園に対して不敬ではないかと思われるかもしれないが、領主として育成をするこの学園だからこそそれくらい自分で調べ判断する必要がある。
その上で目の前で起きている見るからに厄介ごとを僕はどうしようかと迷う。
片方三人の男子はローレイル侯爵次男のヴィータ・ローレイルとその傘下の子爵家だった。
対して女子生徒は確か王都の有名な鍛冶屋の一人娘ミミルだったはず。
どうやら彼女がローレイルの次男にぶつかってしまったことが原因らしい。
謝罪はしたが、それでは足りないからと屋敷にまで来いと言っているのに対して拒否しているようだ。
周りは貴族ばかりで同情的な表情は少なく、明らかに分が悪いのは見えている。
はぁと溜息をつきその輪の中へ歩を進める。
ステフは呆れたような表情を浮かべつつもすぐ後ろについてきた。
「こんな通り道のど真ん中で何をしているんだい?」
「あ?誰だ貴様っ!俺様の邪魔をするな。」
「こちらにおわすかたがどなたかわからないのか!」
「かのローレイル侯爵家の次男、ヴィータ様だぞ!」
そんな様子に僕はまたため息をつく。
なんでこうもあからさまなやつが学園にいるのやら。
しかも僕を知らないって自分で言うのもなんだけど結構な有名人だし、知らなきゃまずいと思うんだけどな。
特にローレイル侯爵家ならば。
周りにいて静観していた生徒も僕を見た瞬間からざわざわと喧騒が大きくなる。
どうやら周りの生徒の大半は僕のことを知っているようだ。
「……そうですか、であればこちらも名乗りましょう。ブリュンヒルド家当主、ジークハルト・ブリュンヒルドです。あなたの父君にはよくお世話になっていますが御存知ではないでしょうか?」
「「「なっ」」」
僕が名乗った瞬間赤かった顔が真っ青に変わる。
敵対派閥の人間に介入されればごり押しなんてできるもんじゃない。
それにもしそんなことをしようものなら貴族家当主と貴族家嫡子であればどちらのいうことが優先されるかなんて言わずもがな。
「”学園に在籍している間はみだりに権力を振りかざすことなかれ”先ほど校訓として言われたはずだがもう忘れたか?大体の予想はつくがこれ以上恥の上塗りをしたくなければすぐに立ち去れ。」
「し、失礼いたしました。」
そういってすぐにその場を去る三人組。
ポカーンとした様子で見ていたミミルは騒ぎが収まったあとものすごい勢いで頭を下げていた。
そんなことをされれば逆に僕が疑われるので代わりに王都の美味しいお店と鍛冶場を案内してもらうことになった。
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