帰ってきた領主
今領地は多くの人で溢れていた。
というのも王都や近隣領地から復興支援の為に人が集まっているからだ。
魔物の大氾濫による被害は多くの村を飲み込んだ。
帰る場所がない者たちに簡易宿場を提供はしたがいつまでもそのままというわけにはいかない。
早く住んでいた場所に戻してあげたい。
その為僕は復興支援の指揮をしている。
初めはセバスやクラインが僕が前線で指揮を執ることに猛反対をしていた。
だが、今の領地には食料などの余裕はあれど人の余裕はない。
当然村人たちは自分たちの住んでいた場所の復興の手伝いはしているし、領都の人々も各々ができることをやっている。
それでも人は足りていないのだから領主である自分が動かないわけにはいかないだろう。
きっとここら辺は前世の考えが残っているのかもしれないが。
だとしても二人はすぐには引いてはくれなかった。
もし僕に何かあったらどうするのだと、何度もそういってきた。
正直妹のヒルダもいるし問題はないと思うのだが……。
それでもやはり自分の主人を守れないのはもうこりごりだといってきた。
前領主である父は今回の大氾濫で命を落とした。
そして僕は龍脈を鎮めるために人柱になった、はずだった。
セバスもクラインももう二度とこんな思いはしたくないと必死に訴えてきたのだから少し申し訳ない気持ちになった。
風が吹きさらさらと髪が靡く。
その髪は根本から三分の一が白くなっていた。
右目を隠す眼帯に触れる。
何故戻ってこれたのか、そして何故このように変貌したのか。
それは龍脈の中での出来事だった――
―――――――――☆
光に包まれた空間に一人流れに身を任せて揺蕩う。
龍脈の光に飛び込んでそれからどれくらいの時間が過ぎたのかわからない。
この流れに逆らおうとするも思った方向へ進むことができない。
そうして流れに逆らうことを諦めた。
(あぁ、僕はこのままどうなるんだろうか?)
ここには食料も水もない。
そのうち衰弱していくかもしれない。
もしかしたらそれ以前にこの膨大な光――龍脈の魔力に溶かされ一部になるのかもしれない。
周りには何もない不安や死への恐怖が襲ってくる。
それでも、領地が守られたのだとしたらそれは本望だ。
そう思い、不安と恐怖を振り払う。
自分でそう決めてここに来たのだから今更いろいろ考えても仕方ない。
そう考えていると視界の隅に黒い物質を捉えた。
(なんだろう?あれは――剣か?)
上も下も左右すらもわからないこの一面の光の奔流の中に浮かぶ剣の半身。
段々とその様子がよく見えるようになる。
目を凝らすと空中に剣が刺さっているように見えた。
(これはあの剣の場所に向かっているのか?)
黒い剣が徐々に迫ってくる、いや僕が進んでいるのだろう。
剣自体に害意があるようには見えない。
だが、この場所にはあってはいけないものだと思った。
そうして近づく黒い剣に手を伸ばし柄を握る。
そのまま剣を引き抜こうと力を込める。
でも、剣はびくともしない。
というか力を入れても足場も何もないのだから踏ん張ることができない。
どうしたものかと考えふと半身の境目を見てみる。
その場所だけ何故か盛り上がっているように見えた。
そのわずかな場所を足場にもう一度剣を引き抜く。
するとそのまま空間から剣は抜かれた。
僕は抜いた力のまま後ろに後転していく。
そして辺りの流れが嘘のように落ち着いた。
(もしやこれが龍脈に刺さっていたのが原因なのだろうか?)
だとすればこの剣はいつどこからきたものなのか。
さすがにこんなものが自然に発生するとは思えない。
なら誰が何の目的でこんなことをしたのか。
いろいろと考えうる可能性を上げていく。
だが、今判断するにはあまりにも情報が少ない。
調べようにもこの場所じゃどうしようもないし、外に出られるはずもない。
こうなってくるとさすがに悠長にはいられない。
犯人がいたとして、もう一度このブリュンヒルド領を狙わないとも限らない
それの対処に当たるのは残された妹だ。
(くそ、どうしたらいいんだ)
『魔剣グラムンクを抜きしものよ。汝、問いに答えよ。さすれば道は開かれん』
急に頭に直接語り掛けるように声が聞こえる。
よくわからない、でも本当に道が開かれるとするならそれは願ってもないことだ。
『汝、身命を賭して巨悪に立ち向かう覚悟はあるか?』
物凄く唐突で意味がわからない。
巨悪ってなんだ?
悪いんだろうけど、正直実感が沸かないのが本音だ。
『再度問う。命を賭ける覚悟はあるか?』
もう一度今度は簡潔に問うてくる。
命を賭ける覚悟か、そんなものこの場にいる時点でできている。
そう、そもそも大を助けるために小を犠牲にしようというセバスの提案があった。
それなのに僕はそれを拒みこうして一人身を捧げた。
大も小も犠牲にするくらいなら自分の命を捨てていいと思ったのだ。
まぁ、ステファニー嬢とのこともあって自暴自棄になっていたのは否めないが。
だからこそ、その問いに対する答えは「ある」だ。
『ならば汝、英雄となれ。我が眼でその行く末を見届けよう』
そうして僕は再び光の波に攫われる。
今度は逆流だ。
剣が刺さっていた場所が遠のく。
今となっては周りとの違いはわからないのだが。
最後にふと気になることがあった。
「お前は誰だ?」
『我は世界の危機に現れる英雄の行く末を見届けるもの。我が名は――』
そうして光に包まれる。
こうして僕は元の世界に戻ることができたのだ。
そのあとすぐに竜に食われ喉元を持ってきてしまったグラムンクで切り裂き体外へ脱出する。
せっかく龍脈から出られたのに瞬間竜の体の中に入るなんてわけがわからない。
そうしてそのまま竜を一刀で切り伏せる。
全く困ったもんだと溜息をつく。
それから近くにいたクラインに泣きつかれ、城まで厳重な警備の元戻り今度はセバスに泣きつかれた。
おっさん二人に泣きつかれ困っていたところヒルデから「おかえりなさいませ、お兄様」とめちゃくちゃ笑顔で言われたのはとても癒された。
――――――
本当にこの一件から過保護になった家臣を説得するのが大変だ。
そうして作業を再び進めようと新たな指示を出していく。
そんな時セバスが急いで向かっているのが見えた。
何かあったんだろうか。
「セバスどうした?」
「ジーク様、大変です。王宮から召喚要請が来ていますっ」
王宮からの要請であれば断るのは難しい。
復興も忙しいのにどうしたもんかと青く澄んだ天を見上げたのだった。
お待たせしました。
次回ついに幼女……もとい王女様が登場します!!
お楽しみに!!
☆再度告知
12/29から1/4まで休暇ができました。
というわけで上記の期間連続投稿をしようと思います!
基本的にいつも通り21:00更新予定です!(今回は事前に予約投稿する予定です)
ぜひ楽しんでいただければと思います!
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