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押しかけ王女(上)

贈り物を渡して数日、皆喜んでくれたのか屋敷の中は平和な空気に包まれていた。

そんな中いつものように政務をこなしていると屋敷が騒がしかった。


「……どうしたんだ?」


周りを見るといつもいるセバスがいつの間にかいなくなっていた。

どうしたんだろうと不思議に思っていると廊下がより騒がしくなり扉をものすごい勢いで叩く音が聞こえた。


「じ、シークハルト様、忙しいところ失礼します。」

「どうした?」


そういって扉を開けると屋敷の侍女がぜえぜえと肩で息をしながら要件を伝える。


「そ、それが、王女様が……。」

「マリーになにかあったのか!?」


もしまたマリーに何かあれば……と考えを巡らせていると侍女から否定が入る。


「い、いえ、マリアンヌ様ではなくて……。」

「ん?じゃあ誰のことを……。」


そうして訪ねようとすると屋敷の外が更に騒がしくなる。


「そんなっ!?申し訳ございません、どうやら間に合わなかったようです。」


そうして外をふと見てみると黒い軍馬に跨った金髪の麗人が目に入る。


「あれはまさか!?」


金髪は王家の血の証でもある。

そして軍馬に乗っていることや赤い軍服に身を包んでいることから自ずと答えは導かれる。

そう、どうやら第一王女殿下――アリアンナがこの地にやってきたようだった。



―――――――


急ぎ支度をして外へ向かう。

既に軍馬から降り厩舎へ運ぶよう手配しているようだった。

マリーが可愛いと表現するならば彼女の井出立ちはかっこいいと表現するのが正しいだろう。

どうやら屋敷から出てきた僕に気が付いたようでこちらにものすごい剣幕で近づいてくる。


「お初にお目にかかります。私は――。」

「貴様がっ、私の可愛いマリーを誑かしたのかっ!!!」

「へ?」

「屁ではないっ。貴様が天使なマリーを攫ったのかと聞いているっ!!!」

「し、失礼いたしました。攫った云々に関しましては身に覚えのないことでございます。」


王族に対して不敬であるとはわかっている。

でも、急に来て意味のわからないことを言ってくるんだから間抜けな声がでても仕方ないと思うんだ。

それに変な言いがかりをつけられても困る。

現に周りの屋敷の人間は全員困惑しているし。


「しらばっくれるつもりか、もうよいっ!我が剣の錆にしてくれる!!」

「ちょっ――!?」


間一髪で抜かれた剣を避ける。

キャーと侍女達の間で悲鳴が上がる。

それから立て続けに襲われる剣をよけ続ける。


「逃げてばかりの腰抜けめっ。」

「そ、そう言われましても――!?」

「言い訳は聞かん。」

「話を聞いてください!?」


さすがに僕も急なことだったし、王女を迎えるのに帯刀などしていない。

受けられるわけがないんだから避けるしかないと思うんだ。

この話も聞いてくれない理不尽な状況を誰かどうにかしてくれないかな!?

それから数分の攻防(主に僕は防御)を続けるとついに一片の光が差す。


「アンナ姉上っ!何をされているのですかっ!!!」


遅れて支度をしたマリーとステフが姿を見せる。

マリーは一目見ても怒っているのが明白だった。


「あぁ私の可愛いマリアンヌ。無事でよか――。」

「そんなことよりもこれはどういうことなのですか。」

「……それはだな、この男に裁きを下そうとっ。」

「意味がわかりません。正式に婚姻を結ぶ相手にいきなり切りかかるなど何のつもりですか。」

「それは、その、マリアンヌがこやつに誑かされたと聞いて居ても立っても居られず。」

「誑かされてなどいません。私の意志でジーク様の元へ来たのです。そこを姉上に邪魔される筋合いはございません。」

「そんなっ!?婚姻の話をきいて国境から急いで戻ってきたというのに!?」

「そんなこと知りません。というよりも姉上は大事な戦の真最中だったはずです。すぐにお戻りください。」


そうこのアリアンナ王女は弱冠二十二歳で姫将軍として前線に立ちその手腕を奮っている。

今回北の国境付近である部族との抗争の為留守にしていたはずなのだ。


「ふんっ、そんなものマリアンヌの為に全て片を付けたとも。どうだ!?」

「……それは大変素晴らしいですが。それでも私の恋路の邪魔をしないでください。」

「そんな!?」


ガーンと崩れ落ちるアリアンナ王女。


「全く。ジーク様ご迷惑をおかけして申し訳ありません。その、()()は少々私を溺愛している節がありまして……。」


これは少々を行き過ぎていると思うというツッコミは野暮なのだろうか?


「くっ、妹を愛して何が悪い!!こうなったら貴様を……。」

「あーねーうーえー?」

「っ。」

「どうやら()()が必要みたいですね。ジーク様すみません、少しお部屋を借りますね?。」

「あ、あぁ構わないよ。」

「ありがとうございます。それでは姉上参りましょう。」

「ちょっマリアンヌ私はまだその男に――。」

「はーやーく。」

「お、貴様覚えておけっ!!」

「えぇ……。」


何だかよくわからないけど凄く嫌われているようだ。

何故だか一番最初にマリアンヌにあった時の陛下を思い出す。


「……陛下大変ですね。」


王都のほうで陛下が涙を流している姿を幻想した。

























それからマリーの説教は三時間を超えても終わることはなく、


「お前が可愛いマリーを誑かした男か!?勝負しろ!!」


僕は頭を抱える。

そうして新たに青いローブに身を包んだクール?な王女――ミリネリアが屋敷に押しかけてきたのだった。

いかがだったでしょうか?

そうです、タイトルの上は(じょう)ではなく(うえ)でそれを意味することは……。

明日は当然”下”となりますのでお楽しみに!


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