運命のいたずらは突然に
トライル伯爵の長女、ステファニー・トライル。
彼女の家には多くの噂がある。
そもそもトライル家自体がよくも悪くも貴族らしい貴族である。
領民には重税を課し、税を使って私腹を肥やし豪遊する。
それだけでは飽き足らず多くの犯罪に手を染めているとすら言われている。
トライル家が関わると毎度のように情報が不自然なところで消えているのだ。
それこそ無理やり情報を握りつぶしたかのように。
だが、そんなトライル家にも才女と呼ばれるほど頭脳明晰、容姿端麗な娘が現れる。
トライル家の後ろ暗い噂を揉み消すくらいに彼女の活躍が他の領地にも聞こえてくる。
その為彼女を取り込もうと多くの貴族がトライル家に接触するのだ。
まあ、そんな彼女にも一つの噂が纏わりつく。
なんでも彼女の亡き母はある男爵家の出らしく、借金に困ったところをトライル家によって救われたのだとか。
でもそれがトライル家の自作自演なのではないかと言われている。
彼女の母はそれはとても綺麗な女性だったらしく、隣領の幼馴染と婚約が決まっていたらしい。
それを見初めたトライル家の現当主、ブラヒム・トライルが求婚するも断られたとか。
婚約者が既にいるのだから当然といえば当然なのだが。
だが、そんなあるとき男爵家の財政が傾いた。
商人から売られる品が全て法外な値段にされたことで資金が回らなくなってしまったのだという。
田舎のためどうしても仕入れるルートが限られている。
他の地方や王都へ連絡しようにも何故か話が通らない。
どうにも途中で盗賊に襲われたらしい。
そうして苦境に立たされた男爵家にトライル家から援助の代わりに婚約の申し出があった。
男爵家の当主も彼女の母もこれ以上領民に負担を掛けられないとその申し出を受けることになったのだ。
その後、援助と同時に値段もすぐに落ち着いた。
ちなみに男爵家が使っている商人のルートはトライル伯爵領を通っている。
ここまでくれば誰がみてもトライル家が何かしたように思うだろう。
だが、まったく証拠がでないのだという。
そうしてステファニーが生まれてから少しして心労により、彼女の母はこの世を去った。
これが父から聞いた話だ。
「それでジーク、お前はどうしたい?」
そうして僕に問いかける父の表情は険しかった。
それでも僕は意見を変えることはできなかった。
あの後幾つか声を交わしただけだったが、それでも彼女の美しさと人の良さに惹かれてしまったのだ。
「そうだとしても僕は彼女とまた会いたいです」
「そうか、わかった。すぐに婚約だとかはできない。頻繁に交流というのは無理だが交流自体は許そう。もう一度トライル家については調べた上でどうするかは考えさせてくれ」
「ありがとうございます。お願いします、父上」
すぐに婚約どうこうの話になるのはこの時代だからこそなのだろうか。
いや、そもそもそれもパーティーの目的の一つだった。
こうして一応は父からの許しは得た。
それからステファニー嬢の文通から始まり、王都で数度デートを重ねた。
彼女とは趣味が合うようで、お茶・食べ物の好みも一緒だった。
一緒に過ごす日々はとても楽しかった。
それから苦節五年、何とか婚約の話をまとめることができた。
相変わらず後ろ暗い噂は絶えないトライル家ではあるが、公爵家の力でなんとかできる算段がついたのだ。
こちらが被害を受けることもないと断定できたことと僕が行った領地改革を父から評価してもらい、婚約の話を進めることができたのだ。
発表は後日披露宴を開きそこで発表する運びとなった。
その王都からの帰り、盗賊に襲われている馬車を見つけた。
「!?馬車が襲われていますっ。早く助けなければ」
そうして御者と護衛に指示し襲われている馬車を助けた。
その際、盗賊の討伐に参加した。
ステファニー嬢と会うようになってからというもの、訓練や父上の領主としての手伝いを積極的に行うようにした。
今後のことを考えてももっと力や知識をつけたいと思ったのだ。
今では領地の筆頭騎士相手に五戦中に一度は勝利をもぎ取れるようになった。
そのときにまた神童と騒がれたのはご愛敬だ。
さて、この助けた馬車だが何とか被害は軽傷者を数名に留めることができた。
軽症者には応急処置として低級回復魔法をかけてあげた。
それから馬車からメイドが一人でてきた。
「ジーク様、主に変わりお礼申し上げます」
綺麗な所作でお礼をするメイド。
その装いも一級のものだ。
何より紋章からしてどうやらこの馬車に乗る方はやんごとないお方のようだ。
「いえ、偶々通りかかった故お助けした次第です。お気になさらず」
「主からまた日を改めてお礼申し上げたいとのことです」
「ありがとうございます」
「それでは心苦しいですが、主が心配ですのでこれにて失礼致します」
そうして馬車は王都を目指していった。
こんなハプニングはあったが領都への帰路についた。
だが、領地に帰った時遠くで何かが爆発する音が聞こえた。
「なんだ?」
窓から外を確認する。
「なっ!?」
窓から見えたのは領地の中心の土地から一つの大きな光が溢れていた。
「急いでくれっ」
御者に指示し、急いでブリュンヒルド城に向かう。
きっと浮かれていたんだと思う。
最近は僕が主導の領地改革も順調で、訓練の成果もしっかりでて強くなった実感もあった。
いつかステファニー嬢を迎えられるようにと頑張って、その話をしたステファニー嬢はとても嬉しそうに喜んでくれた。
そうしてなんとか婚約の話を纏めることもできた。
ようやく頑張った成果が実ったのだと思った。
努力が報われてほしいと僕も思う。
でも、世界はそんなに甘くはなかったのだ。
だからこそどうしようもなかったのだと思う。
いうなればこれは運命のいたずらなんだろう。
これが僕の運命の転換期になる出来事だった。
お待たせいたしました。
領地に何が起きたのか……来週明らかになります!
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