化け物
港を出て全力で移動するジーク。
一度マリーや使用人の無事を確認するためにも屋敷に戻らなければならない。
馬車では時間がかかったが今のジークが屋根伝いで駆ければ数十分程で戻ることは出来るだろう。
「頼む、無事でいてくれ。」
屋敷が見えてきた。
門番はその場に倒れて眠っていた。
脈は問題ない、強力な睡眠薬のようなものを吸わされたのだろう。
屋敷内に門番を運び布の上に寝かせてやる。
そうして屋敷の中を探る。
眩むような匂いが蔓延している。
屋敷の窓を全て魔法で開放する。
このままだと時間がかかるので風魔法を使って循環を促す。
そうしてマリーの姿を探すもどこにも見当たらない。
執務室近くでメリッサが血を流して倒れているのを見つけた。
すぐに止血をして回復魔法をかける。
徐々に顔色が良くなっていくのがわかる。
「うぅ……。」
「メリッサ、大丈夫か?何があったんだ?」
「ジークハルト、様。申し訳ございません。おひい様が闇ギルドのものに攫われてしまいました。」
「やはり、そうか。すまない、すぐに移動しなければならない。応急手当はしてあるから安静にしていてくれ。」
「はい、おひい様をどうかお願いします。」
「あぁ。」
そうしてすぐに移動を開始する。
向かう先は王都の郊外にあるスラム街。
どうやら予想はあっていたようだ。
先ほどジークを囲んでいた輩を手配書で見たことがあった。
情報が確かならあの男達は闇ギルドの構成員だったはずだ。
この場所には闇ギルドが潜伏している。
だが、王都の騎士はその実態を掴むことはできていない。
その為、誘拐や暗殺が横行し子供は行き場を無くし彷徨う。
そういったことが横行するため違法奴隷の売買もなくならないのだ。
どういう手段で闇ギルドと連絡を取ったのかわからないが、僕がどうしても邪魔なんだろう。
ああして呼び出して殺せればよし、もしもできなくても今度は王女を盾にして逃げる。
まぁ結局そんなことをさせる暇もなかったが。
スラム街自体はそこまで距離は離れていない。
が、広いこの場所の中からマリーのいる場所を探さないといけないのは至難の業だ。
すると目の前を塞ぐように強面の男が数人現れた。
「おいおい、坊ちゃんこんなところで一人何してんだ?」
「これはまたいい商品が手に入るんじゃねえか?」
「ひひひ、こんなことでお金がガッポリ稼げるなんて最高だぜ。」
なにやら気になる単語を口にした男達。
だが、これは好都合だ。
思わず笑みが零れる。
「なに笑ってんだ?」
子供だからと侮って、
「俺たちが誰だかわかんねえのか?」
自分たちをひけらかすような、
「ひひひ、泣く子も黙る闇ギルドの―」
愚かな者たちに、
「あぁ知ってるよ。丁度いいからおじさんたち、教えてよ。」
とてもいい笑顔で尋ねる。
「僕の大切な人をどこにやった?」
そうしてスラム街の一角で男の悲鳴があがる。
この男達はその後今日のことを忘れることはなかった。
それに、二度と悪事に手を染めることはなかったという。
いつか子どもの頃に聞いた言葉を思い出す。
悪さをしてろくなことはないよ、と。
なにせ、本当に悪いことをして何よりも恐ろしい化け物が来るというのを体験したのだから。
子供の頃よく悪さをすれば鬼が出るよって言われた記憶はだれしもあると思います。
まぁ実際怒った親が何よりも怖いなんてことはよくあることですよね?
さて、明日も続きを投稿予定ですのでお楽しみに!
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