誘拐
ちゅっ。
「ジーク様、いってらっしゃいませ。お帰りをお待ちしておりますね。」
「ああ、行ってくるよ。」
そうしてマリーはジークを見送る。
「おひぃ様、行ってしまわれましたね。」
「そうね、無事に帰ってきてくれることを祈ってます。」
「はい。ところでキスはどうかと思いますが……。」
「もう、メリッサは相変わらず固いんですから。いいではありませんか!」
「いえ、一応おひい様は婚前の淑女ですから―」
「またその話ですか!私は何があってもジーク様と添い遂げるのです!問題ありません。」
「さようですか。なら言うことはございません。」
「全く飽きませんわね、いつもこのやり取りしてますのに。」
「これが仕事のうちですので。」
マリーとメリッサはいつもの会話をする。
お転婆な第三王女につけられた唯一の世話係。
それこそマリーが生まれた時からメリッサは一緒にいた。
それから今まで同じ時間を過ごしてきたのだ。
この間に他のメイドも付けられることがあったが、メリッサ以外にマリーのお転婆っぷりについていくことができなかったのだ。
もちろん、メリッサもただ王女の後ろに付いていくわけではない。
世話係として時には優しく褒め、時には厳しく叱り接してきた。
そうして国王夫婦でさえ制御できないこのお姫様が唯一従う相手がこのメリッサなのだ。
「さぁおひい様、体が冷えてはいけません。中へ入りましょう。」
「えぇ、そうですわね。少し紅茶が飲みたいわ。」
「すぐにご用意しますので。」
「うん、お願い。」
そうして仲睦まじく屋敷に入る二人。
しかし、それから暫くして血を流して倒れるメリッサが見つかり、屋敷からマリーの姿は消えたのだった。
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「んっ……ここは?」
目を覚ますと周りは暗闇に包まれていた。
ポタポタと落ちる水滴、苔の生えた壁面と柵、そしてマリーを膝の上で寝かせてくれていた銀髪の少女。
「よかった、目が覚めたのですね。」
「私さっきまで、そうだっ。メリッサは!?」
「メリッサ様がどなたかは存じませんが、ここへ連れてこられたのはあなたお一人だけでした。」
「そんな!?メリッサが、メリッサがしんじゃ、う。」
そうしてマリーは涙を零しそうになる。
そんな時に少女の柔らかく温かい手に撫でられる。
「きっとその方は大丈夫ですわ。」
「でも、最後に抵抗して血を……。」
「ここに運んできた方達の様子を見るにあなたを攫うことが目的だったのでしょう。それ以上の追い打ちはかけてないと思われますので今はここからどうやって抜け出すか考えましょう。」
「そう、ですわね。」
ずっと撫でてくれるその手の平は安らぎをくれた。
不安だった心も少女の心地の良い声に不思議と落ち着きを取り戻していた。
「よかった、暗い顔はあなたには似合わないですもの。きっと笑顔はもっと素敵なのではないですか?」
「そうですね、私は元気が自慢ですの。」
そうやってお互いを見て微笑む。
昔姉上に膝枕をしてもらっていた時のことを思い出す。
武力の第一王女、知力の第二王女、偶像の第三王女と巷では呼ばれている王家の三姉妹。
そしてそのどれもを併せ持つカリスマ性のある王太子。
王家の未来は明るいともいわれている。
ただ、マリアンヌとしてはその呼ばれに納得はしていなかった。
偶像と崇められても中身はお転婆なお姫様なわけで。
外と内での乖離がとてつもなく多き思うのだ。
何より、姉や兄達はその手腕で幼き頃から活躍する天才。
マリアンヌはそんな姉達を見てきたからこそ自分の中の基準値が高くなっていった。
そうしてその基準値に届かない自分が恥ずかしく思っていた。
そしていつも上手くいかなくて泣いていた時に姉達はいつもマリアンヌを見つけて慰めてくれていた。
あぁこの人も姉上達と同じでとてもやさしい方なんだ、と理解していた。
「きっとすぐに助けが来てくれますから信じて待っていましょう。」
「はい、きっとそうです。」
そうだ、私の王子様が助けてくれる。
だから何も心配することはないんだから。
いかがだったでしょうか?
さてこの膝枕をしてくれた少女は一体……?()
明日続きを投稿予定ですのでお楽しみに!
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