領地案内という名のデート
早朝鳥のさえずりと共に目を覚ます。
昨日は歓迎会をしたが夜はそこまで遅くはならなかった。
というのも参加者であるマリーとヒルデが早くに退出したからだ。
まだ二人とも幼いので当然といえば当然だろう。
ただ、風呂に入った後一緒の部屋にいたらしく日を跨ぐ前まで灯りはついていたのですぐに寝たとは思えないが。
今日は午前中は復興の指揮をとって午後からはマリーを案内する予定だ。
まだ朝食まで時間もあるので日課の鍛錬をする。
最近は忙しくてできなかったので丁度いい機会だ。
庭でラジオ体操から始まり、ランニング、素振りと黙々とこなしていく。
少し水分補給をしようと思うとコップが差し出された。
「ジーク様おはようございます。朝からお疲れ様です。毎日してるんですか?」
「おはようマリー。昔はそうだったかな、最近はできなくてね。」
「なるほど。見ていても邪魔になったりしないですか?」
「そんなことはないよ?」
「でしたら明日から見学してもよろしいでしょうか?」
「構わないけど面白いものじゃないよ。」
「いえ、私がやりたいんです。こうして水を用意して待っているの何だか夫婦っぽくてよくないですか?」
「それは、どうだろう?」
「むぅ。とにかく明日から見学させてもらいますね!」
「うん、わかった。」
こうしてマリーと話す時間が楽しくなっている自分がいる。
昨日で使用人達とも仲良くなっていたように見えた。
すぐに打ち解けられるのは一種の才能ではないかと思う。
偶にどうだろう?と思うこともあるけど不快に思うことは一切ない。
「そういえば今日は午後から案内していただけるとのことでしたが、午前中はどうされるのです?」
「一応復興作業の確認かな。終盤に差し掛かってるから最終確認をしていくんだ。」
「……あの、よければついていってもいいですか?」
「え、いいけどほんとに確認だけだから面白くないよ?」
「はい、構いません。仕事の邪魔はしません。ジーク様と一緒にいられればそれでいいのです。」
「そ、そっか。マリーがいいならいいよ。」
「ありがとうございますっ!」
こうして直接言葉で伝えられるとついドキっとしてしまう。
時折マリーと話していると六歳であることを忘れそうになる。
これはよくない、うん。
気を引き締めないと。
「そろそろご飯の時間だろうから戻ろうか。」
「はい、ブリュンヒルド領での初めての朝食楽しみです。」
「そんな期待してもらっても王宮に比べると大してものじゃないよ?」
「確かにそうかもしれません。ですが、それよりもジーク様達とこの地で食べられるというのがいいのではないですか!王宮だと一人の時も多かったのでそういったことも含めて楽しみなんです。」
「あはは、そっか。そうなのかもね。」
「はい、絶対王宮よりも美味しく感じると思います。」
屈託のない笑顔でそんなことをいうマリー。
最近は僕と妹の二人で食事を取ることが多かった。
それに僕も忙しいのもあって会話も少なく早めに食事を済ませていた。
マリーと出会ってから気づかされることは多い。
お礼しないといけないなと思い今日の昼からどうやって喜んでもらおうか考えていた。
朝食は和気藹々とした時間を過ごすことができてとても満足した。
セバスにマリーと朝から出かけることを伝える。
「昨日の内に急務は済ませているが何かあれば連絡してくれ」
「かしこまりました。今日はごゆっくりとお楽しみください。」
「ああ、ありがとう。」
そうしてマリーを連れて移動する。
セバスが恭しく頭を下げて送り出してくれた。
一瞬だけだけどとても嬉しそうな表情を浮かべていた気がしたのは気のせいだろうか。
「まずは森の近くの村から行こうか。それから龍脈が溢れた場所の近くの村を回って何もなければ買い物に行こう。」
「わかりました。それではお願いします。」
そうして二人で馬車に乗る。
最初は馬に乗って移動する予定だったのだが、護衛や荷物の観点から馬車に乗ることになった。
これは急遽セバスが用意してくれたものだ。
御者に行き先を伝え出発する。
そうして午前中の間村を次々と回っていく。
どこの村も問題はなさそうだった。
この後の作業の確認と指示をしてから食料やお酒を渡して移動する。
その度にどの村でも泣いて喜ばれた。
大体月一の感覚でこうして配給を行っているのにいつもこの調子だ。
毎度困っているとマリーに話すと、
「多分ですけど支給品だけではなくてジーク様が顔を出してくれているのが嬉しいのですよ。普通配給は臣下に任せることが多いですからね。それだけジーク様が慕われている証拠です。」
と言われて変に照れくさくなってしまった。
そんな僕を見てマリーは笑っていた。
そうして順調に仕事は終わり丁度昼時には領都についた。
確かマリーは海老と苺が好きといっていた。
「お昼は海老のクリームパスタがおいしいお店に行ってケーキ屋で苺のタルトをお土産に買おうか。」
「どちらも楽しみですっ!」
とりあえずの予定は決まった。
その後はアクセサリーを見に行こうと思う。
確か以前見かけたものがマリーに似合いそうな気がした。
領都でいつも行くお店『汐凪』に向かう。
新鮮な海鮮系のメニューからお肉まで幅広く扱う大衆食堂だ。
ここの店主のおばちゃんがとても気さくな人で気楽に立ち寄れるし、店の雰囲気もいつもいいのでお気に入りだ。
どうしても領主ということで敬遠されがちだがこの場所だけは気楽にいられる。
「いらっしゃい。あらジークちゃん久しぶりね。今日は二人?」
「おばちゃん久しぶり。そうだね。」
「わかったわ。空いてる席に座って待っていて頂戴。」
そうしていつも座っている席に向かう。
近くで空いている席は幾つかあるのだが、何となく席が固定化してしまっているのだ。
「お待たせ。メニューは決まってる?」
「ええと海老のクリームパスタを二つお願い。」
「了解。そういえばお隣の子は初めての顔ね?」
「ああ、昨日から滞在することになったんだ。」
「初めまして、マリーといいます。ジーク様の婚約者です。」
「まぁ、可愛らしいお嬢さんね。私はナタリー。気軽におばちゃんと呼んで頂戴。……ジークちゃんもしかしてだけど手出したりしてないわよね?」
「そんなわけないでしょ!?」
「そうよね、よかったわ。それじゃごゆっくり。」
そうして奥に下がるおばちゃんことナタリー。
いつもこうして茶化すようなことをいうが踏み込んだ質問をすることはない。
それこそ以前の婚約者の話とかマリーがどこの家の人かとか。
そういったことも踏まえて線引きはしっかりとしているのだ。
「ごめんね、少し賑やかかもしれないけど味は保証するよ。」
「いえいえ、こういった場所は初めてですけど嫌じゃないですので大丈夫です。」
「そっか。待っている間に少し話してようか。」
「そういえば聞きたいことがあったんですけど……」
パスタが届くまでの間楽しく話した。
届いてからはマリーは大好物の海老を堪能していた。
嬉しそうに食べる姿におばちゃんも喜んでいた。
会計を済ませてケーキ屋に移動する。
お土産用に買う予定だったがマリーが食べたそうにしていたのでその場でも頂くことにした。
滅茶苦茶おいしいですっと喜んでお土産の分を増やしていた。
多すぎないかと思ったが、後でヒルデとも一緒に食べるそうだ。
そうしてアクセサリー店に移動する。
以前見かけたネックレスはまだお店に残っていたようだ。
翠色の石に天使の羽を模したようなあしらいがされているものだ。
手に取ってマリーに尋ねる。
「これマリーに似合うと思うんだけどどう?」
「え、私にですか?」
「うん、その為にここに来たんだからね?」
「っありがとうございます。」
何故か自分の為だとは思っていなかったマリー。
少し目が潤んでいるように見える。
後で聞いてみようと思い今はネックレスを購入する。
近くの丘に夕日が綺麗な場所があったと思い今度はそちらに向かう。
つく頃には丁度いい場所に陽がさしているはずだ。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
明日はマリーの様子がおかしかった理由やあの子の現在をお送りします。
お楽しみに!
☆再度告知
12/29から1/4まで休暇ができました。
というわけで上記の期間連続投稿をしようと思います!
基本的にいつも通り21:00更新予定です!(今回は事前に予約投稿する予定です)
ぜひ楽しんでいただければと思います!
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