王女と妹
執務を片付けていると来客が来た。
どうやら王都からの使者のようだ。
「思ったよりも遅かったな。やっぱり大体予想はついてた感じなのかな?」
陛下の話だとマリーは脱走の常習犯らしいから今回もそうだろうと当たりをつけていたのだろう。
書類をどこまでしたか分かるように付箋をしておく。
どうも仕事が多過ぎるとどこまでやったかわからなくなってしまうのは前世から変わらない。
特に領主をしてるとこうして急な呼び出しもあるのだから尚更だ。
そうして使者が待っている応接室へ向かう。
「待たせてしまったようで申し訳ない。」
「いえいえ、その若さでしっかりと執務をこなされているのはさすが公爵家の神童と言われているだけありますな。」
「ありがとうございます。それで今回はやはりマリアンヌ殿下のことで?」
「えぇ、陛下からその件について文を預かっております。ご確認ください。」
「確かに。」
王家の紋章入の封を確認して手紙を開ける。
『此度は娘が迷惑をかけて重ね重ね申し訳ない。こうした文で伝える形で申し訳ないが娘のことをお願い出来ないだろうか?本来は婚約発表に向けての準備もあったのだがいつの間にかそういった物も終わらせていたようでな……こういうときの動きはいつも早い。誰に似たのやら。なによりこちらに戻す理由をアレコレ考えたがどうせ聞きやしないだろう。それならもう好きにさせようと思う。滞在している間の費用は復興支援の資金に多めに渡させてもらおう。お転婆な娘であるがどうかよろしく頼む。』
大体こんな感じの内容が書かれていた。
陛下と宰相が苦笑を浮かべている姿が目に浮かぶ。
その場で簡単に了承を伝える文を作成し使者に渡す。
「確かに受け取りました。」
「よろしく頼む。」
「はっ。」
さすがに夜も更けている為手紙が届くのは明日になるだろう。
使者も今日は領地の宿に泊まる予定らしい。
せめてもと思い宿代も一緒に手渡す。
こうしてマリーのブリュンヒルド領への滞在が正式に決まったのだった。
「……兄さま?」
執務室に戻ろうとしているとメイドを連れたヒルデがいた。
「ヒルデどうしたんだい?」
「……ちょっと気分転換をしてた。」
「そうか、勉強頑張ってるみたいで偉いな。」
「……うん。兄さまを支えられるようにひぃ頑張るね。」
「楽しみにしてるよ」
ひぃというのはヒルデの愛称だ。
たまに自分のことをこうしてひぃと呼ぶことがある。
妹の献身を目の当たりにして思わず顔が綻ぶ。
嬉しくなって照れを隠すために頭を撫でる。
ヒルデも嬉しそうに微笑んでいる。
メイドはそんな兄妹の姿に笑みを浮かべていた。
「そうだ、今日からマリアンヌ王女殿下がここに滞在することになったんだ。夜歓迎会をするから仲良くしてやってくれ。」
「……わかった、楽しみ。」
「それじゃまた後で。」
「……うん」
そういえばヒルデと同い年だったと思いマリーの事を伝える。
ヒルデは少し感情の起伏が乏しいと思われがちだが僕と接する時は先程のように表情がコロコロと変わる。
その上誰かの為に頑張れる優しい子で、とても可愛らしい自慢の妹だ。
きっと二人は仲良くなれるだろう。
そう思いながら再び執務室へ向けて歩き出す。
それからの書類仕事はいつもよりも捗った気がした。
数刻経ち歓迎会の準備が出来たと連絡が来た。
ヒルデに声をかけるようお願いして僕はマリーを迎えに行く。
メイドに任せようかとも思ったが何となくそうした方が喜んでくれそうな気がしたので僕が迎えに行くようにした。
「失礼します。歓迎会の準備が出来たので迎えに参りました。」
「まぁ、ありがとうございます。ジーク様自ら迎えに来てくださるなんて嬉しいです。」
「それはよかった。それじゃ参りましょうか。」
「はいっ。」
嬉しそうに腕に抱きついてくるマリー。
そんな光景に少しだけ微笑ましく思う。
後ろからメリッサの咳払いが聞こえたところでマリーが急いで離れて寄り添う形を取る。
咳払い一つで陛下も手を焼く王女様を動かすなんてほんとにこの人何者なんだろ?
そんなことを頭に浮かべながらも会場に向かい歩き出す。
今回の歓迎会は身内だけのものだ。
基本的にこの城で働いているものだけが参加する。
この会の目的は王女殿下との顔合わせだ。
我が領ではずっと新しくここに住まうことがある場合行っている伝統行事。
公爵家としては珍しいが身分も関係なく一緒に働く仲間として意識づけるためにこういった催しをするのだ。
王女様を迎えるのにどうかとも思ったが、本人がむしろ賛成していた。
これからずっと一緒に働く仲間ですからむしろやらない理由はないですわ、とのこと。
「皆急ですまなかった。今日からマリアンヌ王女殿下がこの城に滞在することになった。王女殿下からも一言お願いします。」
「皆様本日はこのような会を開いていただきありがとうございます。この度ジーク様の婚約者となりました、マリアンヌです。今後とも末永くよろしくお願いします。」
うおおと歓声が上がる。
僕はそんな様子に苦笑いしていた。
「今日は無礼講だ、沢山食べて飲んでくれ。」
そうして歓迎会が始まる。
貴族のパーティのように挨拶回りをすることはない。
最初の挨拶以降はただ飲んで食べて楽しむ会なのだから。
するとヒルデがこちらに挨拶に来た。
「初めまして、ジークハルト・ブリュンヒルドが妹ヒルデ・ブリュンヒルドと申します。マリアンヌ王女殿下にお会いできて光栄です。」
いつものような間の空いた話し方ではなくハッキリとした言葉で挨拶する。
「お会いしたかったですわ。どうしても王城にいると年の近い方がいなかったですから……。良ければお友達になってくれませんか?」
「それは、とても光栄です。」
「むぅ、友達になってくれるのでしたらそんな喋り方は嫌です!」
「……そう、だったらこれでいい?」
「ええ!その方が友達らしくていいです!」
「だったら私の事ひぃって呼んでいいよ?」
「まぁ、でしたら私は―――」
思ったよりも早く打ち解けた二人を見て驚く。
王女殿下はともかくヒルデの方が心を開くのに時間がかかると思っていたのだが。
目の前で楽しそうに話す二人
「……兄さま。ひぃはマリーと話してるからご飯食べてきていいよ?」
「えぇ、ジーク様。ひーちゃんと話してますのでお構いなく。」
「わかった、ちょっと行ってくるよ。」
そうして僕は食事を取りに行く。
終始ふたりは楽しそうに話していた。
その後も一緒にお風呂に入るとか一緒に寝るといって二人で行動していた。
うん、仲良きことは良きかな。
でも予想以上過ぎてちょっと僕は王城の件も含めて驚き疲れていた。
今回から妹と王女の絡みが増えていくと思います。
明日は領地の見回り(デート?)の予定です。
お楽しみに!
☆再度告知
12/29から1/4まで休暇ができました。
というわけで上記の期間連続投稿をしようと思います!
基本的にいつも通り21:00更新予定です!(今回は事前に予約投稿する予定です)
ぜひ楽しんでいただければと思います!
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