鼻から麺をだす特技
参拝する場所に立つと二礼二拍手一礼を完璧にそつなくこなしていた。
俺もそれを見てやったがどことなく動きが鈍かった。
野口英世さんを一枚お賽銭箱にいれるかどうか悩んでいたが、横の美少女は何の躊躇いもなく野口英世さんを一枚投げていた。
よく賽銭箱とかにお札が入ってるのをみるけど、多分全部のお札こいつのだわ。
「何のお願いしたの?」
横で美少女が目を瞑り長くお願いしていたので思わず聞いていた。
だって気になるだろ。
今頃の15歳の女の子のお願いって。
まぁどうせたいした事はないと思うけど。どうせほらあれだよ。好きな人に告白出来ます様にとかだろ。
「この世に生きてる全ての人が嘘を付かないでねってお願いしたの」
訳が分からないけど、一つだけ確かなものに気付いたけど、飛んでもないほど心の闇深そうなんだけど。
「そうか」
善光寺には参拝する場所がいくつかあり、それら全てを周り終えると、すっかり日も落ちていて観光客もぞろぞろと帰り初めていた。
「俺そろそろ帰るけどどうする?」
「私も帰る」
美少女は自然と前を見ながら言葉をはっした。
「ちなみに誰の家に?」
「あなたの家よ」
やっぱり俺の家かよ。昨日は泊められてすごい嬉しかったけど、空手やってる人は泊められないよ。手を出したら胴回し回転蹴りが飛んできそうで。
「あのーもし良かったらお名前とか教えてくれない?一緒に生活する上で名前を知らないと困るからさ」
そうはいっても泊めない訳にはいかないだろ。身寄りのない子を泊めるのが俺の中の正義だ。何か俺めちゃくちゃいい人じゃねーか。
「リカ」
「え?」
「だからリカ」
あまりにも素直に教えるもんだから、口から「え?」がもれちゃったよ。
リカって、おいおいキャバクラかよ。いった事はないけど。
いや、リカちゃん人形もこの世にはあるからみんなから愛される名前だわ。
俺達は夕日に照らされた、二つの影が一緒に目的地へと向かって歩きだした。
人間は当たり前だと思っていると、何の感謝もしないしお礼だっていいやしない。
俺もこの光景が当たり前だと思っているし。
「ご飯出来たよ?」
「あ、ありがとう」
リカちゃんが来てから一ヶ月経つと相手も、それなりに慣れて自然と会話が出来るようになっていた。
正直少しだけだが自分の中で怖くなっていたのもまた事実。
親が一向に現れる気配がないし、捜索願いもだされていない、まさかこいつ闇の組織と繋がっていてどこかの怪しい薬飲んで体が縮んでしまったんじゃないだろうな。
だが、手放せないのもまた事実。
だって目の前にはめちゃくちゃ旨そうな鮭やら卵焼きやら朝の定番メニューが美味しそうに並んでいるんだもん。
こういう食材費も全部あちらもちだし。
これが胃袋を掴まれたという奴か。それか金を掴まれたという奴か。
朝食を食べ終えて俺は身支度を済ませ「いってきます」といいボロアパートを飛び出した。
俺は地獄にも似たフュギュアの顔を取り付ける作業も毎日嫌で嫌でしょうがなかったが、リカが来てから少しばかりだが苦でもなくなっていた。
しあわせが精神を凌駕してるっていうの。まぁそんな感じだ。
仕事が終わり家に着くとテーブルの上に一枚の置き手紙があった。
『ちょっとお出掛けしてきます』
と1文書かれていた。
今日は久しぶりに夕飯カップラーメンか。
でもカップラーメンて久しぶりに食べるとめちゃくちゃ旨いよな。
絶対体には悪いと思うんだけど旨いんだよ。
ちなみに俺は口の中に麺を入れて鼻からだすという、飛んでもない特技を持っている。
リカの事など全く気にせずに俺は一晩を過ごした。