友達になれるかも
「あ?」
鋭い眼光を放ち俺に視線を向けた。
「だから彼女嫌がってますんで」
周りにいる人も俺達の所を見てきた。これだけのすし詰め状態。普通の声で喋れば当然周りにも聞こえるのは当たり前。
「ちょっと次の駅で面貸せや」
と小さな声で俺にだけ分かる声で囁いた。
面を貸せって事は面を貸せって意味だよな。何か急に怖くなってきた。
『川中島駅川中島駅』
と車掌がいいタイミングで次の駅を指し示した。
川中島駅から歩く事30分。
『川中島の戦い』という歴史でも称された跡地がある。ここではかの有名『武田信玄公対上杉謙信』が戦った場所だ。
おいおい雰囲気だすじゃねーかよおっさん。
今まさに歴戦の戦いを思い出せるような戦いが始まろうとしていた。
中年サラリーマンと俺は両者向かい会い今まさに戦いが始まろうとしていた。
最初に動いたのは中年サラリーマン。俺の元にゆっくりと近付いてきた。
「お前何だおら。人の女に手だしやがって!」
違う違う。お前の女じゃないし、ただ痴漢してただけだから。
「あのー別に手、出してないですしそれにいつ頃彼女になってんですか?」
「うっさい、うっさい、うっさいわ。あなたが考えてるよりずっと前からです」
聞いた事あるフレーズをちょっと替え歌風に歌いやがって。しかもちょっとうまいし。
「え、何ですか。そんな前から彼女だったんですか?」
「まぁ、一方的だけどな」
「それってただのストーカーじゃねーか!?」
いかん。思わず心の声が出てしまった。
「何だとこら!」
中年サラリーマンは俺に顔を近付けて上下に顔を動かしていた。
「す···すいません」
「ただお前の言った事も一理ある。だがそれはストーカーじゃねー。純愛って言うんだよ」
「あ、納得です」
怖さに負けて思わず納得してしまったが、やべよー。この人ただのやベー人だよ。
「そんじゃあ俺はこれで」
と踵を返し離れようとしたら、あれ何で俺はこんな所にいるんだっけ。あーそうだ、痴漢されていた人を助けようとしたらこのオッサンに面貸せって言われたんだった。
もう一度方向転換して再びオッサンの前に視線を戻した。
「やっぱり痴漢は良くないっすよ。それは純愛じゃなくて、ただの好意の押し付けだよ」
「んだとこら!」
中年サラリーマンは完全に怒り声を荒げた。
「だってそうでしょ。やられた方は完全に嫌がってたわけだし。しかもあんたにはいるんじゃないんですか? 奥さんが」
奥さんがというワードを出した瞬間、俺は少しばかり悲しくなった。
「いねーよ」
すいませんオッサン。もしかしたらあんたとは友達になれるかも知れない。
「ちなみに彼女とかはいたことあるんですか?」
「だから電車のあの子が彼女だよ」
冗談だと思うけどそんな真剣な表情をされても困るんだけどな。
「いや今じゃなくて昔ですよ。20代とかですよ」
「もちろん。一度も付き合った事がない奴何ていないだろ」
俺は視線を下に落とし不適な笑みを漏らした。
「気持ち悪いな。何か変なもんでも食ったか?」
「あー最近までペンペン草とカツ丼食ってたわ!!!後お前とは一生友達になれねーしなる気もなくなったわ!!!お前は俺の逆鱗に触れちまったよ」
俺はオッサンの胸倉を掴みそのまま引き付けて顔面に1発パンチをおみまいした。
これで手を出したのは俺だから裁判になったら俺が負けるだろうな。
オッサンは怯むことなく俺の顔面にパンチを叩き込み、哀れな戦いがはじまった。




