キノコ生えてるって
30歳独身童貞会社員の北澤 翔弥が今日も電車に乗りながらイライラしていた。
電車の中では学生、会社員、大人から子供までが何かの目的地に向かう為に同乗しなければならない。
それまでは赤の他人だが、何故か一緒の空間にいるせいか妙な連帯感がある。
その連帯感が怒りを呼んだのは俺は座っていて目の前にいる現在進行形で、15歳~18歳だと思われる高校生位の男女がキャッキャと喋っていた。
まさにリア充とはこの事を言うんだろうな。
俺も男女が一緒に喋っていただけで、そう思えるのは俺の心に余裕がないのか、それとも俺がモテないだけか。
間違いなく後者であるのは間違いがない。
何故ならもう魔法使いになっているからだ。
つーか誰だよ。童貞が魔法使いになるってでたらめ言った奴わ。
絶対嘘じゃん。
俺がその立証者。
自分で言ってて何故か悲しくなる。
自分への怒りか?
目の前の奴ら蹴散らしていいかな。
あー具体的に言うと男子にアイアンクローをかまして、そのままゴミみたいに床に捨てていいかな。
いいよね。
モテない男子代表で俺やってもいいよね。
そうしないとスーパーサイヤ人になっちゃうよ。
そんな事出来るはずもなく、電車は無情に目的地に向かっていた。
電車は長野駅に着くとドアが自動的に開き、我が先と言わんばかりに一斉に人が降りた。
田舎だから満員電車何てあり得ないと思っていたが、東京にも勝るとも劣らない電車のこみよう。
これもまた俺をイラつかせる1つの要因だ。
ようやく電車の中の人がまばらになると俺も立ち上がり人混みの流れに合わせるように、外にでた。
正直に言って仕事はつまらない。いや、つまらなすぎる。
無機質な空間で1人黙々とフュギュアの顔を身体中に装着するお仕事。
何にも生産性生まないし、自分の中の成長もない。何っつ言ったけそういうのヒャーマンスキルだっけ。
とにもかくにもつまらないという事実だけは変わらないのだ。
そんな事を考えていたら魔王城かと思わせる位の禍々しく妖気にみちた、会社に着いた。
休みの時は駅から降りてどこか向かう時は身体中に羽が付いたんだと思う位身体中が軽いのに、仕事場へ向かう時は鉄下駄でも履いてるんじゃないかと思う位、足取りが重い。重すぎる。
会社の自動ドアが開き中に入るといつもこう思う。
このままどこか遠い遠い所に行ってしまおうかな···と。
頭ではそう考えていてもそんな常識外れの事は出来ないので、身体中はある倉庫へと向かった。
仕事場へと着くと、本当にこの場所は人を駄目にする空間だと思う。
無機質は当然ながら、ただ段ボールが6個床に置いてあるだけなんだぜ。
その中に入っているフュギュアの身体中と顔をドッキングするだけ。
なぁ、つまんないだろ。
何ならちょっとカビ臭いし。もしかしてこの部屋の隅にキノコでも生えてんじゃねーの。
今度試しに備長炭で焼いてさっきのリア充共に、無理矢理食わせるのも悪くわないな。
アホな考えは捨てて、俺は手を動かし作業に取り掛かった。
フュギュアの女の子の顔を全部終わらせないと俺は帰れない事になっている。
簡単そうに見えて意外にむずか···いえ、簡単です。
まぁおよそ1箱1時間かかるから休憩入れて7時間、片付けで1時間、全部足して8時間だ。
なぁ、つまらないだろ。
しかも凄いのがここに来るまでに人と哺乳類と喋ってないんだから凄いだろ。なぁ凄いだろ。
大事だから2回言っといた。
更に驚くべくは人と喋らない事で孤独感にさいなまれるんだから怖いだろ。なぁ怖いだろ。
大事だから2回言っといた。
あまりの静けさで何か耳鳴りしてきた。
自分1人でアパートの中にいると、あまりの静けさで冷蔵庫の機械の音とか隣の部屋から騒音とか良く聞こえてくるあれだよ。
だけど耳鳴りって。
もしかして俺死ぬの。死ぬの。
大事だから2回言った···ってもうくどいわな。
自分1人でボッケとツッコミと意味不明な事を考えていたら、昼のチャイムが鳴った。
何故かここの会社の昼チャイム学校に置いてあるキンコーンカンコンという超オーソドックスと言うか、聞き慣れていると言うか、まぁ別にどっちでもいいんだけどね。
俺はキノコが生えているかも知れない部屋を後にして、食堂へと向かうと人でゴッタ返していた。
俺の会社にこんなに人がいたんだといつまでたっても慣れない光景である。
長テーブルが何列も並べられて椅子も無造作に置かれていた。
ケツポケットから財布を取りだし中を確認すると、お札は無しとボタンを開けると、小銭がじゃらじゃら入っていた。
確認すると10円玉だらけじゃねーか。
総額で200円しかなかった。
何も買えねー。
うまい棒20本しか買えねー。
意外とうまい棒っ腹たまるんだよね。
スーパーだと9円コンビニだと11円。
豆知識なこれ。