第1章 ★ 科学の星(10)自由への叫び②
(10)自由への叫び(Part2)
ジーン達のデモに対して、平和に慣れきっていた惑星連邦共和国政府も、ようやくその重い腰を上げた。蜂の巣を突いたように大統領官邸は慌ただしくなった。
「なーんだと? 我が息子、ジーニアウスが、デモを行っているだと?……」
スタイン大統領は、驚くと同時に憤慨した。
「惑星防衛隊へ、出動の要請だ! 直ちに、主将ゴウドンと連絡を取りたまえ」
「はい、承知致しました。閣下」
参謀長官が取り次いだ。
スクリーンにはゴウドン(Goudon)の雄々しい姿が映し出された。ギリシア神話のヘラクレスを思わせる威風堂々たる大男である。
だが、実際に対話してみると分かるのだが、これがとても温厚な人柄で、『気は優しくて力持ち』の見本のような人物なのだ。
「いかがなさいましたか? 大統領閣下」
ゴウドンは、姿勢を正すと敬礼をした。
「お主の耳にも入っておるだろう? 今街頭で起っている事態は、何事だ?」
大統領は、スクリーンに飛び込む程の勢いである。
「ハイ。今朝初めて、本官も報告を受けましたが。デモのようです。まだ武力行動には、出ていないとのことで、現在は、経過観察中であります……」
ゴウドンは、ふくよかな頬を緩め、極太の眉を上げ下げしながら答えた。
「それに、小耳にはさんだのですが。閣下のご子息様が、先頭に立っておられるとのことで……。なおさら慎重に、情勢を窺っております。ハイ!」
ゴウドンの極太の眉尻は下がり気味になった。
「何を、暢気なことをしておる。お主は見かけによらず、『お人好しな奴』だな?」
スタインは眉を吊り上げ、一層怒りを露わにした。
「ハイ。申し訳ありません。よく言われます」
ゴウドンは、頬を緩めて頭を掻いた。
「何をまた、戯けたことを、愚か者め。……事は重大だ。我が子であろうと親であろうと、レジスタンスどもには、毅然として立ち向かうのだ……」
スタインの苛立ちは頂点に達し、スクリーンに映るゴウドン目がけ拳を突き上げた。
「容赦は要らん。政府に刃向かうデモなど、鎮圧せよ」
「はい! 仰せの通り。閣下」
ゴウドンは、強張った頬を更に引き締め敬礼をした。
ホワイト・スーツ運動は、一部の若者から共感を得られたものの、大きな協力は生まれなかった。ましてや、新政権を支持する大人達には殆んど理解されなかった。街頭運動でも、ジーン達の訴えは空しく響き、人々の冷めた表情を見ると、まさに四面楚歌だった。
鋭い直観力を持つジーンは、見えざる大きな力によって人々は洗脳されているように思えた。国民はマインドコントロールされ独裁的な政治に誰も気づいていないのだ。
更なる問題がある。先日、アーンの従妹に『赤紙』が届いたという。赤紙とは、PLCCへの招待状の通称なのだが、通常は十歳の誕生日を迎えた児童に届くもの。それは成人になった証しで、生命制御の始まりを意味する。
しかし、アーンの従妹アンナは九歳になったばかりだ。幼いアンナに何故届いたのか。アーンの話によると、次のような経緯が。
アカデミー教養コース初等科に通うアンナは、天才的な直感力の持ち主で、人一倍オマセなところが。アーンにも負けないお転婆ぶりに、アカデミーの指導者たちは手を焼いていた。更に、アンナのおませ振りは異性に対する興味へとエスカレートし、異性との肉体的交流に至る寸前のところで未遂に終わった。
心配した両親がPLCCに相談したところ。特例として十歳を待たずに生命制御を始めることになった。
この話は、肯定的に解釈すれば飛び級のようなものと考えられるが、アーンはもとよりジーンたちは疑問を感じた。生命制御とは表向きの大義明分で、性愛の問題を隠ぺいするためにPLCCがあるのではないか。
これまでのバイオ・スーツの違和感に対する以上に、政府への疑惑はおおきく大きく膨らんだ。




