~天使な悪魔~
まだまだ続きます
おかしい所がございましたら、アドバイス等よろしくお願いします!
それでは、ごゆっくり
親父の様子が明らかにおかしい。
うつろな眼でこちらを見ている。生気を失ったような表情は、言葉にし難い不気味さを醸し出していた。
「お、親父……? 」
「トオルさん? 」
「……………… 」
返事がない。
この異常事態に困惑していた次の瞬間、
ボカッ
親父は親父の顔を勢いよく殴った。
「ど、どうしたんだよ!親父!!!!! 」
突然の出来事に、困惑を隠せなかった。
急に自分の顔を殴る奴がいたら、誰だって困惑するだろう。
「いってぇ…… っざけんなよあいつ 」
親父はあたかもごく自然の事のように、悪態をついた。
「お、親父?どうしたんだ? 」
「ん?ああ、なんか悪魔みてえのが俺の中に入ってきてよ、うぜえからつぶした 」
「は? 」
意味がわからない。いや、意識内の悪魔とか簡単に追い払えんのかよ。しかも殴りで?
脳筋すぎないか?
「まだそこら辺にいるんじゃねえか? あいつのことだし 」
いや、友達かよ。
「お、いたいた 」
悪魔を見つけた時のその笑顔は、取り憑かれていた時の何倍も不気味だった。
「そ、それが悪魔なんですか? 」
アナトリスさんの純粋な疑問は、俺の疑問でもあった。
いや、めちゃめちゃ可愛いんだが!!!!!!
親父に摘みあげられて、目をうるうるとさせているのが、オヤジに取り憑いた悪魔のようだ。
小学4年生くらいの身長だろうか。
つぶらな瞳や小さい顔を兼ね備えた、悪魔にはもったいないくらいの美少女だった。
悪魔の要素といえば、頭の上についた、小さなツノと、おしりについた、先がとんがったしっぽぐらいだろう。
それらを除けば悪魔どころか、
可愛い可愛い、天使だ!
「まあまあ、親父、それくらいにしてやれって 」
これ以上この天使を泣かせる訳にはいかない。
泣かせたやつは、俺が潰す!
「うぇえぇーん、うぇぇーーん 」
「よしよし、いいこいいこ 」
にこにこした顔で、アナトリスさんが天使をあやす。アナトリスさんも、この天使に一目惚れしたらしい。
~1分後~
「よし!泣き止みました! 」
「す、すげえ…… 」
ずっとあやすところを見ていたが、彼女の子供慣れは半端じゃない。
あやしスキルがカンストしている。
「で、君はどこから来たのかな? 」
「わ、私は、ずっとこの部屋に住んでるの…… 」
俺達がお邪魔してしまったということか。
申し訳ないな。
「なんでこの部屋にすんでるの? 」
「マ、マヤが怖いの………… 」
「!!! 」
マヤというと、カリアル マヤのことだろう。
悪魔にさえ恐れられる人物だということだろうか。
「どうして怖いの? 」
「昔、この島は悪魔と人間が共存していた島だったの。みんな協力しあって、楽しかった。
でもね、カリアル家が来てから悪魔を差別するようになった……
私たちは何もしてないのに、いっぱい嫌なことされるようになったの。
見つかったら終わり……どこかに連れてかれて、もう会えない…………
だから、自分だけでも生きようって……」
この島にそんな過去が……
驚きとともに、胸の奥がじわじわと熱くなるのが分かった。
悪魔を差別だって?なんの罪もないのに?
そんなの、明らかにおかしいじゃないか。
悔しい。不甲斐ない。この世界に来て、年月は全然経っていない。
でも、困っている人が沢山いることに気付かされることが何度かあった。
これからも何度も気付かされるのだろう。
その度に、こんな歯がゆさを感じるのはもうごめんだ。
「でも、どうして私達には開けてくれたの? 」
「アナトリス達は、優しいって、安全だって、そんな気がしたの!
マヤとは違うニンゲンだって。だから、開けたの! 」
小さな悪魔は、天使のような笑顔で応じてくれた。
今更可愛いなんて、言うまでもない。
と、同時に、自分が今やるべきことが分かった。
この世界に来て、今のままではいけないと。
"平凡"を演じているだけではだめだと。
気付かされた。
だからこそ、今やるべきことははっきりした。
「よし、マヤのところに行くぞ! 」
「よし!よく言ったぞ息子よ! 」
「私もそう思ってました!ぜひお供させてください! 」
謎の興奮状態でドアノブを回そうとすると、
「待って! 」
「ん?あ!天使ちゃん! 」
「むー!私は悪魔!天使じゃないの!! 」
天使ちゃんがほっぺを膨らませる。
ごちそうさまです。
「ま、いいや、これ!持ってって欲しいの!
何かよく分からないけど、かっこいいでしょ! 」
そう言われて、渡されたのは小さな石ころだった。
そこら辺の石より若干きれいくらいの石だ。
だけど、すごく元気が出る。
やっぱり可愛いは万能だな、
この笑顔は守ってやらないと。
「ありがとう! 大事にするよ! 」
「うん!!マヤは最上階にいると思うよ!頑張ってね!!!! 」
ぐっと拳を握り、ドアノブを回した。
ギギギという音とともに、ドアが開く。
心なしか、ドアが少し軽くなった気がした。
「とりあえず、最上階に向かおう 」
「おう 」
「はい 」
身を隠しながら長い廊下を進んでいく。どこに敵がいるかわからない。
それが、焦りと緊張感を生む。手汗がすごい。
心拍数も上がっているのが分かる。
いろいろなことが頭に入ってくるから、頭がくらくらしてくる。
「階段だ!これで最上階に行けるぞ! 」
マヤとの距離も近くなっていくのが感じられる。
極度の緊張で顔が火照る。心拍数がMAXになっている。
ん?待てよ?
「おい、マヤと会って何すんだ? 」
一気に心拍数が下がるのが手に取るように分かった。
マヤの所に行って何ができる?
特別力がある訳でもない。巧みな話術だってない。
この島を救いたい気持ちは本当だ。
でも、マヤに会って何か変わるのか?
こんなちっぽけな俺らが変えられるのか?
2人も、はっとした様な表情を浮かべる。
「俺らは……何をしていたんだ………… 」
今の俺たちに、なにか変える力があるのか?
答えはNoだ。
非現実的な自信だけで、動いていたらダメなんだ。
現実を見た方がいいのかもしれない。
「みんな、帰ろう 」
無理やり笑顔を作る。
ああ、今ちょっと涙声だったかな。
この屋敷から出るのは、簡単だった。
本来の目的の脱獄は達成出来た。
でも、足取りは重かった。
本当だったら、いえーいとか言いながら、町まで走っていたのかもしれない。
でも、脱獄した後も、終始誰も喋らず、とぼとぼと町までの道を歩いた。
誰も、追いかけてこなかった。
「じゃあ、私はここで 」
アナトリスさんが口を開く。複雑な笑顔を見せ、去っていった。
「俺らは宿にでも泊まるか 」
「そうだな 」
もう暗い。そこら辺の宿に泊まることにした。
お金は、親父が捕まる前に隠しておいたのがあったから、何とかなった。
「寝るか 」
「うん 」
電気を消す。
疲れているはずなのに、全然眠れなかった。
今日のことを思い起こす。
これで、良かったんだ。
今夜は、眠れない夜を過ごすことになりそうだ。
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