~真実への道~
おかしい所がございましたら、アドバイスや、ご指摘等よろしくお願いします!
では、ごゆっくり、
肩にぬるりとした感触が伝わってくる。
どす黒い気配が後ろから感じられる。
後ろに何かいる。怖い。怖い。怖い。
逃げようとしても、体が動かない。
人生初の金縛りがこんな恐ろしいなんて、トラウマになりそうだ。
まあ、今この人生が終わる可能性も十分にあるのだが。
「た、たすけ……… 」
かすれた声が喉から出る。喉が異常に乾いていて、上手く声が出せない。
「ん?どうし………… お、おまえ、肩!! 」
やっぱり何かいるのか。
この異世界の生活も終わりを迎えるのかもしれない。楽しかったなあ。来世はもっと安定した人生を送りたいものだ。
「おい、ワカメついてたぞ 」
「は???? 」
俺の肩に憑いていたのは、髪の毛にいいことで有名な海産物だったようだ。
「驚かせやがって………… 」
「ツバサさんって、案外ビビりなんですね 」
「くっ 」
上品な微笑みが心にグサリと刺さる。
この人だけには言われたくなかった……
「ワカメがあるってことは、海が近いのか? 」
「はい、というか、ここ島なので 」
「え!!!!そーなんすか! 」
「あ、はい、結構小さい島ですよ。街も2つしかないし 」
「まじすか 」
2つというと、レガリー町と、ドゥジンクス王国の事だろう。この世界は結構広いみたいだ。
「でも、ここにいる人達はみんなこの島から出たことがないんです 」
「それはまたなぜ? 」
「一般島民は島から出られない。そういう決まりなんです。島から出ようとしても、厳重な警備と柵があって、とてもではないですけど出ることはできません 」
「そうか………… 」
しんみりとした空気になる。
この島の人達は、この島に囚われているということだ。
外の世界を見ずに人生を終えた人もいるだろう。
外の世界を夢みている人もいるだろう。
人の夢は壊してはいけない。
それが未来の価値だったり、財産になったりするのだから。
魔王を倒すことだけが、世界を救うとは限らない。
大きなことをしたからといってそれが誇れるとは限らない。
逆に、小さい、地道なことでも誰かを助けることがあるんじゃないか。
『助ける』ってなんなんだろう。
「来ちゃいましたね 」
「うん 」
目の前に扉がある。地下通路の出口だ。
ここからは計画していない。
なんでも、この地下通路はあることを知っている者はいたが、実際に入った者はいなかった。
つまり情報がひとつもないということだ。
ここからはノープランでの脱獄になる。
「開けるぞ 」
2人が頷く。
鍵を回すと、その扉はいとも簡単に開いた。
ギギギという音と共に、少しばかりの光が俺達を包み込んだ。
「ここは……? 」
俺たちが出たのは、食料庫のような場所だった。
木箱や樽がきちんと置かれている。
「ここからは誰にも見つかっちゃダメだ 。気合い入れていこう 」
「了解」
この食料庫には、誰もいないみたいだ。それにしても広い食料庫だ。全然住めそうなくらいの広さはある。
「翼ー、キッチンがあったぞー 」
「お、ナイス親父 」
どうやらここはキッチンと繋がっているようだ。
倉庫というよりは、大きな建物の一部なのかもしれない。
「ひっっろ! 」
俺が目にしたのは、テレビでも見た事のないような、広大なキッチンだった。
三ツ星ホテルのキッチンでもこんなに広くはないだろう。レストランかなにかなのか?
「アナトリスさん、ここって見覚えありますか? 」
「いや、ないですね……お役に立てなくてすみません…… 」
「いえいえ 」
一般町人は立ち入りできない場所なのかもしれない。慎重にいこう。
「しっかしだれもいないなあ 」
確かにその通りだ。俺らにとっては好都合だが、人が全く居ないというのも気味が悪い。
「まあ、とりま脱出しようぜ 」
「そーだな 」
キッチンを出ると、レッドカーペットが敷かれた、長い廊下に出た。ホテルなのか?
~数分後~
「はあ……はあ……はあ…… 」
迷った。完全に迷った。何せ景色がほとんど一緒のものだから、迷うに決まってるじゃないか。
こんな複雑に建てたやつの顔を見てみたい。
「困りましたね…… 」
「そうですね……」
その時、
カツ、カツ、カツ、カツ、カツ
前方から、足音がした。誰かが来る。
「まずい!! 」
できるだけ足音を立てないように、全力疾走で赤い絨毯を駆けた。
「まずい!行き止まりだ!! 」
「なっ!!」
カツ、カツ、カツ、カツ、カツ
こっちに向かってきている。近い。
「あ!こっちです! 」
アナトリスさんが見つけた部屋に、飛び込む。
バタン、ガチャ
「ふぅーーー 」
カツ、カツ、カツ、カツ、カツ
こっちに来る。大丈夫だ。鍵もかけてある。
カツ、カツ、カツ、カツ、カツ
どんどん音が大きくなって来る。
カツ、カツ、カツ、カツ
この部屋に来ませんように。
カツ。
その足音は、俺達の絶望を誘った。この部屋の目の前で、足音が止まったのだ。
ガチャガチャガチャガチャガチャガチャ
ドアノブを回している。
絶望と恐怖でどうにかなりそうだった。
「ちっ、ダメです。マヤ様 」
外から声がする。渋い男の声だ。
「もー!どうしてよ!!なんでこの部屋は毎回開かないのー! 」
女の声も聞こえる。苛立っているようだ。
「また明日来ましょう。暴れても無駄です 」
カツ、カツ、カツ、カツ、カツ、カツ
足音が消える。そろそろ居なくなった頃だろう。
「ふぅーーー、一時はどうなるかと思ったぜ 」
「アナトリスさん、ほんっとナイスです!! 」
ふと、アナトリスさんの方を向くと、複雑な表情を浮かべていた。
「どうしたんですか? 」
「いや……あの声と言い、名前といい、あの女の人のことしってるかもしれません 」
「え!だ、だれなんですか? 」
「カリアル マヤ、この町1番の権力者ですよ 」
「カリアル マヤ………… 」
「この町でこの名前を知らない人はいないほどの有名人です。なんでも、この島を牛耳ってるのはこの人、なんて噂もあるくらいです 」
「そんな大物なのか…… 」
権力ほど厄介なものは無い。金と権力さえあれば、出来ないことなんてないんじゃないだろうか。
俺らの命だって、簡単に奪えるくらいに。
「親父、この後どうする? 」
「……………… 」
返事がない。
「親父? 」
俯いている親父の顔を上げる。
親父の眼は、光を失っていた。
いいと思ったらブックマーク、星、コメントよろしくお願いします!!