第一体 共自殺屋
ーーーあなたは「自殺」したいなって思ったことありませんかーーー
この街にはある噂がある。噂といっても一般的にそんなに知られているわけではなく学生なんかの若者の間で
よくある都市伝説みたいなもので、ちょっとした話の種にもならないようなものなのだが、これを話さないと物語も何も始まらないので手短に説明する。
簡潔に言うと、、
この街には共自殺屋と呼ばれる死ぬ間際に現れる「死神」がいるという。こんな職種の人間がいるのかというようなどこにでもありそうなありきたりでつまらない疑問は一旦置いておいて、要するに自殺をしようとすると現れて一緒に死んでくれるというものである、だがこの噂には続きがある。
それは女性の前にしか現れず死んだ後には自殺を試みた本人の死体だけが残っているというものである。
そんな奇妙で不思議などこにでもある噂の話を今からしていくとしよう。。
第一体 共自殺屋
沈みかけの太陽が明るくとも暗いとも言いづらい光を放ち、堂々とたたずむビル街を照らしている。あるビルの屋上でそれを真正面に受け眩しいと言わんばかりの顔でフェンスの外側のギリギリのラインに素足をのせて立っている女性がいた。
髪は短髪で若干茶色の入ったような中途半端な色の髪が夕焼けの微妙な光を帯びて綺麗に透き通っている。顔立ちも結構整っているようだ、そんな彼女がなぜわざわざ風を真っ向に受け眩しそうな顔を夕焼けに向け素足で立っているのかと言うと答えは簡単である、「自殺」をしようとしているのだ。
女「よし、、、。」
ふっ、と彼女が掴まったフェンスから手の力を抜き前に体重をかけようとした時ビルの屋上の入り口から自分を見つめる視線に気がつく。
女「誰ッ!?」
思わず大声を出してしまう。
???「すいません、少し涼もうと思って」
返答が帰ってきた数秒後に扉から髪は少しもじゃっとしていて目は少し死んでいるイケメンとまではいかないにしろそれなりに整った顔立ちの男がドアを開けて出てくる。
女「涼みにきたって、、。完全に私のこと見てましたよね?」
男「ハハッ。すいません、こういうところに遭遇するのは初めてで止めた方がいいのかどうかなと思いながら
つい見入ってしまいました。」
男「それで、あなたはこれからどうするつもりなんです?」
女「そんなことあなたに関係あります?別に私が屋上でフェンスの外に出ていようが私の勝手でしょう?」
男「たしかにそうですね。僕には別にあなたとは初対面ですし止める義務も権利もありません。」
女「そうでしょ?ならさっさと出て行ってください、失礼かもしれないですけど目障りなんです」
男「すごい言われようですね、たしかに義務も権利もありませんがこのビルの屋上はみんなものじゃないですか?」
女「まあ、それは、、、確かに、。。。」
男「ごめんなさい、こんなことを言いたいわけではなかったんです、正直なところを言うとあなたを今見て綺麗だなっと思っていたんです。」
女「は?!、、急に何ですか?!どうして今の流れでそんな話に?」
男「戸惑いますよねw、急にこんなこと、でもやっぱり本当の事を言ったほうが逆にわかってもらえるかと思って。」
女「逆に胡散臭くなりました。あなた何なんですか?」
男「僕はまあ。何というか心病んで自ら命を断とうとする人のところに行って愛を囁く、ナンパ師?みたいなものです」
女「いや、普通に最低じゃないですか弱った心に漬け込んでそんな、、、」
男「そんなゴミを見るみたいな目で見ないでくださいよw、僕もこう見えても色々あるんですから。」
女「はあ、、、、それで、その最悪最低のナンパ師さんが今から自殺をしようとしている私を見つけて文字どうりナンパしにきたわけですか。」
男「簡潔に言うとその通りです」
女「そうですか、、で?なんです?別に今から死にますし、ここで1発お相手でもしてあげればどっか行って
くださるんですか?」
男「うわっ、急にそんな、、ヤケクソじゃないですか。。僕は確かにナンパ師ですけど急にそんなこと頼むような非常識な人間じゃないですよ。」
女「初対面の女の人に綺麗だなんて急に言うような非常識な人間だから大丈夫でしょ。。。」
男「それもそうかなw、では、、まあ、そこまで許してくれるようでしたら大丈夫そうですね。1つ頼みを聞いてくださいますか?」
女「私がここを離れずできることならどうぞ」
この瞬間次に出てくる男の言葉に一瞬言葉を失った
「僕と一緒に「死んで」くださいますか?」
ワンテンポ遅れて無理やりに言葉を返そうとするとすっとんきょうな声が出てしまった。
女「へ?。どっどう言うことですか??」
男「いえ、だから私と一緒にこの場所で自殺して欲しいんです。」
女「いや、意味がわかりません。あなたナンパ師なんでしょ??それと私と死ぬのと何の関係があるんですか??」
男「んー理由が必要と言うことでしたら、えーと、そうだ!僕は一緒のスリルを味わうことで興奮しちゃう吊り橋効果マニアのナンパ師なんです!!」
女「冗談言ってると話聞かずに飛びますよ」
男「あーすいません!すいません!、えーとでも自殺しようなんて答えは簡単じゃないですか、辛いからです
この人生から抜け出したいでも1人で死ぬのは怖いんです。」
女「簡単って、、そんな軽く言わないでください!!私は別にそんな軽い気持ちで命を断とうとしているわけじゃないんです!!いろんな事があって変えようとしたけど変わらなかった、、、だから、、もうどうしようもないから死のうとしてるんです!。そんな人の気持ちはあなたにはわからないでしょ!?」
男「わかりません」
切り捨てるように、吐き捨てるように男は言った
男「僕にはあなたではないですし苦労も苦難もあなたとは全く違いますからね、でも唯一僕達には共通点があるでしょ?」
女「共通点?」
男「はい、僕達はここで会ってどちらとも死のうとしているそれだけで心中するには十分でしょ?」
女「いやですよ!何で私があなたと心中しないといけないんです?それこそ、恋人とかだと思われちゃうじゃないですか。。」
男「いいんじゃないですか?別に世間体なんてどうせ今から2人とも死ぬわけですし」
女「それはそうですけど。。私はあなたの事を何も知りません。。。」
男「へー、結構可愛い部分もあるんですね。なおさら一緒に死にたくなってきました」
女「うるさい、、、別にそう言うのではなく、ただ意味のわからない人と一緒は嫌ってだけです。」
少し頬を赤らめて恥ずかしそうに俯いているのを確認しつつニヤニヤしながら男は続けて言った
男「わかりました、では自己紹介から始めましょうか」
女「圧倒的に今更感があるんですけど、、、」
男「いいじゃないですかw交流を深めるのに今更も何もないですよw」
「では僕から、僕の名前は太宰と言います。あの有名な太宰府天満宮の太宰ですね」
女「うわっ無駄にカッコいい名前。明らかに名前倒れしてるじゃないですか。」
男「結構心に刺さる事言いますよねw」
女「いいんです、そのまま心折れて帰ってくれた方が私は助かるので。」
男「もう、つれないなあ」
女「はあ、えーと。私の名前は、、」
一瞬迷った女性はとっさに自分の母親の名前を伝えた、
女「私の名前は姫丘 花です。」
男「姫丘 花さん、、ですか良い名前ですね!」
女「ありがとうございます」
男「じゃあ次は、、、っと、もうそろそろ日が沈みますねどうします?まだ名前しか言っていませんけど。」
女「もういいです。早く行きたいので、それになんとなくあなたのことは話していてどう言う人か分かった気がします。悪い人じゃなさそう?です。」
男はフェンスを登り隣に立って切り返す
男「何で疑問系なんですかw」
女「いいんです!そんな気がするってことです!」
男「じゃあ、姫丘花さん、改めて、、僕と一緒に死んでくださいますか?」
それはとてもいい笑顔で今死のうとしている人には全然見えなかった。ただただ清々しく爽やかなその笑みに
つい見惚れてしまった。
男「どうしました?僕の顔何かついてます?」
女「なっなんでもありません!」
顔がぽっと熱くなるのを感じると同時に突き抜けるように吹いてきたビル風が熱くなった顔を冷ます
男の指が手のひらに当たる、驚いてビクッと身を震わせてしまったがそれに対しては何も言わず男は言った。
男「手、繋ぎませんか」
女「いいですよ」
男の手が手に触れると反射的に恋人つなぎになる、不思議な感覚、今日会って話して何も特別なやりとりはしていない。ただ名前を言い合って、少し喋っただけの間柄、なのに恋人つなぎした手からは妙な暖かさが伝わってくる、優しくとろけるような人の熱がビルから突き抜けてくる風と相まってその熱をより一層引き立たせる。言いようのない安心感。
しばらくして目をつむるとふわふわした感覚に包まれその瞬間勢いよくただ下へ下へと落下した。。。
勢いよく地面に叩きつけられた直後少しだけ意識が覚醒する、目の前ははっきりしていない正直音も味も手触りも視界も何もないでもはっきり分かった一緒に落下した男性は最後に立ってどこかへ行く瞬間こう言った
ーーーーーーご利用ありがとう、ございました。ーーーーーー