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ツン騎士シリーズ

ツンデレさんと騎士様②

作者: たかやす

ツン騎士シリーズ本編

「…………私、このようなところ初めてですのよ」

「………だろうな」

「わ、わかっているの!?きちんとエスコートして頂かないと!!」

「勿論だ。バーバラ様」


 そうして手を出すと、もじもじしながら震える手を差し出してくる。

 オレンジ色の長い髪が太陽の光に輝きを増し、きらきらと光り輝くように見える。いつもの煌びやかなドレスではなく、裕福な商家の娘のようなシンプルなワンピースを身に纏っていても。

 

 先日、このお嬢様と約束をしていた護衛の件で市場へと出かけているところだった。最終的には最近できたといわれるカフェに行くことにはなっていたが、その前にどこかへ行きたいと可愛いお願い事をされてしまったからにはなんとかしなくてはいけないと思ってしまった。

 とは言っても、毎日山のような仕事、訓練、討伐等でそのような事情にはとんと疎い。同僚のフレッドに聞いたら、市場とか珍しいんじゃないか、という情報を得て連れてきたものの……。バーバラ様の侍女の目が痛い。お付きの従僕や侯爵家の私設の護衛達の生暖かい目。失敗してしまったのだろうか。上司に叱責されるより辛いこの状況。


「……沢山の物があるのね」

「ああ、市場だからな」

「初めてで驚いていますの。私買い物なんてしたことないですし、いつも皆が必要なものを買ってくれるもの……」

「いつもはこないだろうから。案内しよう。美味しいものもあるからな」


 普段の態度からは思いもしない態度で、少し驚いてしまったようだが、いつもの態度ではないことに自分でも気づき、表情を高慢に見えるように慌てて取り繕っているところがばればれで可愛らしい。


「まあ!このようなところで物を売っているなんて!驚きましたわ!オーッホッホッホッホッホ」


 とってつけたかのような台詞に高笑いしたと思えば、興味津々で店の中を覗き込み、恐る恐る店員に話を聞いてうなずいている。何にでも興味を持ち、話を聞き、自分の目と耳と感覚で判断している姿は貴族として得難いものではないかと思う。だからこそ、彼女の兄弟、姉妹達はバーバラを守り慈しんでいるのではないだろうか。


 市場はテントが所狭しと並べられ、区画ごとに売られている物が分けられている。バーバラとクリフが来たのは、主に食材を取り扱っている区画で

、あちらこちらで屋台で買った軽食を食べたり飲んだりしている人達がいる。その姿に目を丸くして「外でご飯を食べているのね……」と呟いている。


「バーバラ様は甘いものは?」

「き、嫌いではなくってよ!」

「今日は少し暑いからな。これを」

 

 近くの屋台で売っていた果物とシロップを攪拌し、氷魔法で冷やしたジュースを手渡した。


「冷たい……はっ……こ、こんな冷たい物を私に直接手渡すなんて!」

「冷たかったか。ハンカチで巻いたら少しはましか?」

「………ま、まあ、ないよりかはましではないのかしら!?お味はどうなのかしら?」


 情報通のフレッドによると、ここの果物屋の搾りたてのジュースはとても美味しいと評判がいいらしい。

 バーバラ様も一口、恐る恐るだが飲んだら、嬉しそうな表情になったから、不味くはないんだろう。

 

「ま、不味くはなくってよ!」

「………お嬢様……」

「…………お、美味しいわ、く、く、くくく、クリフ様……」

「ここは評判がいいからな。バーバラ様の口にあって良かった」

「…………貴方が勧める物は何でもいいのよ……」

「何か?」

「…………っ何でもなくってよ!おほほほほっ」


 人通りの多い市場の通りをはぐれないように、手をつないで歩いていく。人混みにのまれそうになったり、見慣れない場所に興味津々でふらっとどこかへ行きそうになるので、手を繋いでいて本当に良かったと思っている。お付きの侍女もバーバラ様にしっかり手を握らないと逸れますよ、としっかり釘を刺しているようなので、一安心だ。

 食材の区画を一通り見た後、バーバラ様の希望があり、布や糸を取り扱っている区画に向かうことになった。今いるところからは、さほど遠くはなく、食材の区画と比べると人通りは少し落ち着いているようだった。


「何を見ますか?」

「……私が刺繍を刺すのにふさわしい生地と糸を売っているところがみたいわ」


 正直、さっぱりわからない。ちらっと侍女の顔を伺うと、目線で店を教えてくれる。さすがは侯爵家の侍女だ。何でもできるのではないだろうか。むしろできないことはないのではないだろうか。

 侍女の指示通りの店の前にくると、バーバラ様の表情が華やかになった。


「まあ!糸の色はこんなにも沢山あるのね!私に相応しいわね!?…………まあ!ハンカチの生地や色がこんなに沢山あるのね!迷ってしまいそうだわ……」

「………お嬢様……」

「……え?な、何かしら?……」

「……お好みを聞くのでは……?」


 侍女と二人で買い物をしている間に、お付きの護衛達と周りの様子を見ることにしたが、何故かバーバラ様の近くにいるように諭されてしまう。彼らの仕事を奪うことになるのだろうか。なんだか出過ぎたことをしてしまったようだ。高貴な方と一緒にいるとつい、仕事のようになってしまうようだ。今日は休日だというのに。


「く、くくくくっく、クリフ様!?ちょっちょちよっと聞きたいことがございますのよ!?」

「はい」

「は、はははは、は、はハンカチに好みはございまして!?あとと、ととと、し、刺繍とかはお好みありまして!??」

「ハンカチと刺繍?支給品ばかりだからな。特に好みは……。丈夫で使い勝手が良さそうな物がいいか。刺繍は妹達がよく花や動物を刺してくれるから、強いて言うならシンプルなものがいいか?」

「まあ!妹様がさしていらっしゃるの!?見せてくださらないかしら?私よりうまく刺せているのか、見てあげますわ」


 いつも持ち歩いているハンカチをバーバラ様に差し出す。長く使っているから少し寄れてはいるが、毎日綺麗に洗っているから大丈夫なはずだ。大丈夫だ。


「妹達はいつも森で狩りばかりするお転婆なんだ。様づけは不要だ」

「そ、そんなことはありませんわ!く、くく、クリフ様の妹様ですし、その、あの、えっと、いずれかは、その、私の……………。………森で狩りなんてなかなかできないことですし、私には真似できませんわ!お、女の子ですし、そんな野蛮なことやめるべきなのですわ………。…………………これは何を刺したのかしら??」


 バーバラ様が広げたハンカチは木綿の白いシンプルなものだった。その隅には妹が刺したと思われる刺繍があった。濃い緑色が団子のようになっており、所々に黄色や桃色の刺繍糸がのぞいているものだった。ぱっとみるとまるで団子虫のようだと、言われたこともある。


「妹いわく、それは花畑だそうだ」

「はな、ばたけ?」

「……随分と独創的な感性をお持ちになっているのでしょう」

「……刺繍のデザインはどんなものであろうと、使う分には不自由はしないからな。妹達は針よりも弓矢や剣を握っているのがいいようだな」

「……オリアナ、妹様達は確か働きに来るのでしたわよね?」

「……ヨハン様かバーバラ様付きの侍女と考えておりましたが、まずはご本人達の意向を伺おうかと……」

「それで結構よ」


 その後はハンカチの生地を選び、刺繍の図案を聞かれいくつか選び、必要な物を購入していた。物は後日侯爵家へ直接届けられるようだ。見回りしていた護衛達もいつの間にか戻ってきており、侍女と何やら話してため息をついていたようだった。侯爵家の仕事は中々難しいようだ。その分城勤めの下っ端は上司の命令を大人しく聞き入れておけば、問題なく終わるので難しいことは何もない。侯爵家の仕事が合わないようなら、城勤めを勧めてみようか。給金は幾分か下がるかもしれないが。何をとるかはその人次第だからな。


「お昼も近いですし、カフェへ向かおうか」

「ここから近いのですか?」

「ああ、歩いてすぐだが……歩けるか?何なら抱き上げようか?」

「………っ??!!!!そ、そんな、そんなこと、ななななななななー、なんてこと!ま、まだこん、こんこ、こん婚前、婚前前なのに!?は、はしたないわ!そんなこと出来ないじゃない!?」

「そうなのか?」

「そうなんですのよ!て、手をて、てててて、手を繋ぐくらいが精一杯なのよ!!」


 真っ赤になって叫ぶバーバラ様が可愛らしい。つい貴族と庶民では異性への考え方が少し違うことを忘れていた。いつも妹弟達にしているようにしてはいけないのだった。抱き上げただけで子どもができるとは思ってはいないよな?そこら辺の教育はしっかりしないと将来バーバラ様が大変なことになるし、旦那になる人が大層な目にあいそうだ。


「失礼した、バーバラ様。すぐそこだから歩いて行こう。疲れたら休むからすぐにいうんだ」

「私、大丈夫ですわ!余計な心配はしないで下さいませ!!」



***



「…………ぶ、無事に着きましてよ!私疲れてはいなくてよ!」

「足が随分と……」

「いいいい、いた、痛くはなくてよ!痛くはなくてよー!」

「……お嬢様……」

「ここのカフェは個室を予約しているから、とりあえずそこまで行こう」


 ヒールの高い靴だから、やはり靴ずれをおこしてしまったようだ。嫌がられても何でも抱き上げて移動してしまえばよかったと、今更ながら後悔してしまう。治癒魔法を使えればよかったが、生憎魔法はそこまで得意でもないのが悔やまれる。女性一人助けられず情けなくなってしまう。

 カフェは事前に予約できていたため、並ばずにそのまま個室へと案内される。バーバラ様の靴ずれが発覚して、移動する時にはバーバラ様を抱き上げて移動することになった。そのため周りから注目されてしまったし、バーバラ様は叫び誘拐騒ぎになりそうになったしで、とても大変な目にあったとだけいっておこう。こういうとき、高貴な顔立ちな良い貴族だと騒ぎにならないのだろうかとちょっと考えてしまった。というか、そもそもこういう場合バーバラ様も叫ばないのではないのだろうか。そういうことか。


「バーバラ様、先程はいきなり抱き上げてしまって申し訳なかった」

「ほ、ほほ本当に困りましたのよ!まだこ、こここんぜん前なのに!あ、あああああいうことされて噂になってしまうと、その、あの、私、く、くくくくクリフ様に嫁がなくてはいけなくなって……」

「ああ、ひとまずは靴ずれをどうにかしよう」


 バーバラ様は時々会話の最後が聞き取れないほどの小声になり、何を言っているのか聞き取れないことがある。そういう時には、したり顔で頷いておくと大抵何とかなるものだ。たまにバーバラ様の顔が真っ赤になってしまい、倒れたりすることもある。病気でないといいのだが。

 ちょうどカフェ側から応急処置の道具を借りてきた侍女が戻り、その処置を任せる。貴族の女性は素足を男性に見られるのは恥ずかしいこととされている。庶民も恥ずかしがることも多いが、そこまで気にはしないことが多い。夏の暑い日なんかは皆で川で水遊びをしたり、井戸で水浴びをしたりしている。


「……お嬢様、終わりました」

「ありがとう、オリアナ」


 傷自体は大したことがなかったようだが、踵に貼られたガーゼが痛々しい。


「バーバラ様、何を頼もうか?嫌いな物はないか?」

「自分で決められますわ!メニューを貸していただけるかしら。………………ち、ち、ちなみに何を頼むのかしら?」

「自分はサンドイッチとスープのセットにしようかと」

「まあ!いいんじゃありませんこと!?こ、ここのスープは具沢山で美味しいと聞いておりますわ」

「………来たことがあるのか?」

「んなぁ!?な、ななななななな、そ、そんな、じ、事前に調べたりとか、フルーツタルトが絶品とか、紅茶がホド産で希少な物だとか、スープが殿方にも満足な具沢山なんて調べておりませんわ!!」


 こういうところがバーバラ様の良いところというのが本人にはわかっていないようだ。ちなみにバーバラ様はサンドイッチとフルーツタルトを頼まれたようだ。ここのサンドイッチはメニューの中から幾つか選ぶタイプになっている。バーバラ様は女性らしくフルーツサンドとハム卵サンドを頼んでいた。


 サンドイッチやデザートを楽しみながら、バーバラ様との会話を楽しんだ。本当に面白い。バーバラ様はあの性格と顔や雰囲気で誤解されることも多いのだろうが、本来は素直で優しい人なんだろう。多くの人にバーバラ様の良いところを知ってほしいが、私だけが知っていてもいいのかなと思ってしまう。困ったものだ。妹のように感じているのだろう。手のかかる双子の妹と可愛いアマンダがいるが、もう一人増えても問題はないだろう。


「………今日は退屈ではなかったわよ!」

「…………お嬢様……」

「……………今日は楽しかったわ……」

「私も楽しかった。バーバラ様、ありがとう。兄弟達にまで土産をもらってすまないな」

「…………そんなの当たり前ですわ!私侯爵家の令嬢ですのよ!!失礼なことはできませんわ」

「遅くなっても困るから。送ってくれてありがとう」

「………また護衛として誘ってあげても良くってよ!」

「ああ、じゃあまた次の休みに」

「……な、なななな、ななんなんなんですって?!」


 そういってバーバラ様は馬車の中で倒れてしまった。侍女が介抱していたから大丈夫だとは思うが。本当に病気ではないだろうか。そして護衛の方々には何故か肩を叩かれてしまったのは何故だろうか。

 とりあえず楽しい休日だった。明日いきなりドラゴン退治とか祟りもの退治とかいわれても大丈夫だろう。バーバラ様から元気をもらったからな。以前は討伐依頼帰りでのドラゴン退治だったから大変な目にあったが、単発で入ってくる分には問題ないだろう。さあ、明日からまた仕事に励むとしよう。また明日の朝にはバーバラ様に会えるだろう。

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