目撃情報11:この国に生きる人々
思えば龍は畏れられこそしたが、慕われる神だったかと言うとそれは怪しかった。
人心を掴む才はあったが、それ故に強引に自らの望みを押し通す面もあり、龍に近い立場のものほどその存在を疎ましく感じていたそうだ。
それでもこの国が平和であったのは、ただ単純に龍が強大過ぎて反抗するものが現れなかったからだ。
だがこの日龍は死んだ。
ギルガノットに魂を喰われて消えていった。
哀しむ者もいるだろう。
喜ぶ者もいるだろう。
だが一つだけ間違いないのは、平静の世は終わり世界に混沌が訪れる。
そして世紀末に等しい不安の中で、天から降り立つ銀色の怪物はあまりにも神々し過ぎたのだ。
街には既に新たな神の誕生に手を合わせる者さえいた。
そんな明日世界が存在するのかも分からぬ混乱の渦の中で、小舟に足をかけながら歯噛みする男がいた。
海洋学者コバルト=ホライズンだ。
「神になる気もないやつを神と崇める。そんなの龍のときよりも悪い結末しか見えないぞ……!」
ギルガノットの思惑の正確なところは誰にも分からない。
だが龍のように神としてこの世界を支配しようなどと思ってはいない。
それだけは確実に言えることだった。
コバルトがギルガノットの元へ船を近づけようとしていると、街からいくつかの火花が上がった。
(誰だ!?)
彼は予定にない攻撃に戸惑いその火を観察する。
一見ただの白く光る炎。
だがつい最近その類いの魔法について片っ端から調べていたコバルトには、その炎の正体が分かった。
(あれは幽霊殺しの聖炎だな)
特殊な儀式をして作り出される、魔法と言うよりも魔道具に近いもの。
幽霊を倒せこそ出来ないものの、怯ませ撃退することが出来る高価で希少な炎だった。
それを複数用意することができ、更に王国の情報網にも入らないとなると……。
「龍神の教徒か……」
古代龍論者の団体の一つ龍神教。
その教えはシンプルなもので、龍――彼らの言うところの龍神を唯一神と崇める巨大な宗教だ。
彼らからすれば、ギルガノットは正しく神を滅した邪神そのものである。
さすがに幽体化のことは聞いていたのか、密かに集めていた兵器の中から聖炎を持ち出してきたのだろう。
確かに――確かにこれまでのギルガノットには有効な攻撃だ。
だが――――
――バシュン
ギルガノットの巨体に炎が当たり爆発を起こす。
しかし煙の中から現れた白銀の姿には傷一つついてはいなかった。
予想通りとはいえ――コバルトは舌打ちをした。
「チッ! やっぱり龍の鱗はラーニングされたか!」
邪神や幽霊対策では今のギルガノットに攻撃を通すことは出来ない。
神を守るための教団では、神を倒す武器は持ち合わせていないだろう。
コバルトは正直なところ、この展開を予想していた。
いや――龍が負けると思っていたわけではない。
だが仮に自分達に出番が回ってくるとするならば、それは龍が喰われ――その力を得たギルガノットを相手するときだと思っていたのだ。
だからコバルトは。
だからこの日のために準備してきたのだ。
――神と戦う準備を。
通じるかは分からない。
だがやらなくてはいけない時がやって来た。
いざ――――
「――――その前に、だ」
コバルトはギルガノットに向かって――叫んだ。
「ギルガノット! 聞こえるか? 言葉は分かるのか!」
ギルガノットはゆっくりとだが、ついに海に落ちようとしていた。
コバルトは構わず話し続ける。
「僕はコバルト=ホライズン。そうだ、あの森で会った海洋学者だ。お前は覚えてなくてもこっちは覚えてるぞ。また随分とでかくなったもんだな」
ギルガノットは反応しない。
「僕はあの時から何度も考えた。お前は何故この国を襲い続けたのかを。そして答えを出した。合ってるかどうかも分からない勝手な推測だ。まぁ学者ってのは仮説と失敗の繰り返しなんだ。多目に見て欲しい」
ギルガノットは答えない。
「お前が人を襲う理由。それは――不安だからだ」
ギルガノットは――否定をしない。
「僕らはお前のことを恐れた――必要以上にだ。未知の生物、未知の驚異に怯えてきた。だが本当に怯えるべき立場なのは誰か。それはギルガノット自身に決まっている」
ギルガノットは尚も反応しない。
「知らない世界にただ一匹流れ着いて、ただ食事をしたら国中から終われる羽目になった。その中でどうするか何て、逃げるか戦うかのどちらかしかない」
コバルトはかつて逃げ出した。
学会に嵌められて、戦うこともせずに一人孤独に生きてきた。
だけど――――
「だけど、お前は戦う道を選んだ。尊敬するよ。神――いや、世界そのものにまで喧嘩を売って、こうして勝つ寸前までやってきた」
コバルトはここで、一瞬後ろを振り返る。
まるで誰かの到着を待つかのように。
そして、ギルガノットに決別の言葉を告げた。
「――だがまだ勝ちじゃない。最後の戦い――これで勝てばこの世界はお前のものだ」
コバルトにギルガノットの孤独が理解できた。
だからこそ奴をこのまま神にするわけにはいかない。
神とは世界を自由に出来る者でなく、ただその世界に縛られた存在に過ぎないのだ。
コバルトは発煙筒を炊くと、そこから白い煙が立ち上る。
そしてギルガノットが大津波のような水飛沫を上げて着水するのとほぼ同時に、上空から無数の何かがギルガノット目掛けて放たれた。
「ガーゴイル! 構わず銛を打ち続けるんだ!」
空から現れたガーゴイル部隊。
その弓から放たれし銛は、ギルガノットの龍鱗を貫きその身に食い込んだ。
◆
龍を崇め守る宗教があれば、そのまた逆もある。
もっともそれは見付かれば重罪となる思想だ。
彼らは秘密裏に、時には凍土に身を隠しながら、時には月の悪魔と取引しながら武器を作り上げた。
それがこの龍殺しの銛である。
だが龍殺の教団は実行に移す前に、龍に見つかり討ち滅ぼされてしまった。
――その銛だけを残して。
「くっ……刺さったのはまだ数本だけか」
銛は魔女が隠していた。
コバルトが人魚セセラギの次に話をつけに行ったのが森の魔女であり、それほどまでに今回の作戦の要となる武器だったのだ。
ミィアラキスの付き人シャウラは意外にもすんなりと銛を渡してくれた。
彼女は寂しそうに、だが厳しさも併せ持つ声でコバルトに託した。
『私たちはもう武力で覇権を取り合うことは辞めたのです。これからは技術と交易――そしてお金の時代ですから。…………まぁこれは全て姫が言っていたことですけどね』
魔女姫ミィアラキスはもしかしたら、龍の時代の終わりを予期していたのかも知れない。
きっと彼女ならば――
『当然。妾の目は千年先を見ておるからの』
とでも言うのだろう。
「風魔法が来るぞ! 備えろ!」
ギルガノットは初手こそ射たせてくれたものの、そこからは風魔法による抵抗をしてきた。
飛んできた銛を跳ね返すのと同時に、ガーゴイル自体を吹き飛ばす攻防一体の魔法障壁だ。
まだ刺さった銛は目標数には達していない。
焦るコバルトの目の前でまた銛が一つ弾かれ――――
「――――刺さってなっ!」
突如現れた人影は、弾かれた銛を上空で掴みとると、そのままギルガノットに直接突き刺した。
言うは易いが、下は荒れ狂う海。
上は風魔法が嵐のように吹き荒れている。
その状況で、このような妙技を出来る人物は一人しかいなかった。
「スピナ!」
「刺すのは私がやるから、どんどん打ち続けろ!」
「任せろ!」
ガーゴイルから飛び降りたスピナはそのままギルガノットの上で次の弾を待ち構えた。
当然ギルガノットも抵抗をした。
暴れまわり、魔法を放つ。
だがスピナは軽業師のように飛び回り、どうにも捉えることが出来ない。
「どうしたギルガノット? でかくなって攻撃が雑になったのか?」
彼女はそう言うが、決してそんなことはない。
ギルガノットの攻撃は以前よりも更に繊細かつ強力に仕上がっている。
ただスピナの感覚があまりにも研ぎ澄まされていて、神をも飲み込んだギルガノットの成長が追い付いていないだけなのだ。
そして気付けば、その白銀の体表には複数の銛が突き刺さったままの状態となっていた。
だが数が多くとも、その一つ一つは小さく、皮膚を超えても肉まで届かぬほどの浅い傷にしか見えなかった。
作戦を知らぬ者が見れば、嫌がらせ程度の抵抗に見えるだろう。
しかしこれは攻撃のための銛ではないのだ。
「よし、引き上げろ!」
コバルトの合図と共に、よく見れば銛についている縄がピンと張った状態になった。
そして縄の先からは、いくつかの大きな樽が浮かび上がる。
――いや、樽だけではない。
その更に後方。
樽から更に繋がれた縄の先には、何隻もの巨船が現れたのだ。
樽と船はギルガノットを海底へと逃がさぬための楔であり、そして奴を引摺り連れていくための馬の役割だ。
スピナはその船団を見て、胸が熱くなるのを感じた。
「そうか……みんな来てくれたのか」
コバルトが人魚や魔女に会いに行っている時、彼女はリザードマンたちの元へと赴いていたのだ。
それは彼女の父が残した、僅かな種族の縁だった。
ライフガードの父は船を持つ漁師や海軍との繋がりは少ない。
そこからこの危険な戦いへと彼らを向かわせたのは、説得をしたスピナの情熱と、そして彼女すら知らなかったリザードマンという種族の仲間意識だったのだ。
海を守るべく戦って散った父スパイクルは、いつの間にか彼らの英雄として認められていたのだ。
(結局父には守られてばかりだな)
今はそのことを素直に喜べる。
それがまた嬉しかった。
「いいぞ、負けてない……!」
銛で繋いで、縄でひたすらに引く。
単純な作戦だが、そこにはいくつもの仕掛けが施されている。
まずあれだけの巨大な生物。
船と樽だけではない浮力が足りなかった。
だから船には操舵の為の船員だけでなく、エルフが乗っている。
補助魔法の得意な彼ら彼女らは、こうしている間にも常に船底に浮力魔法をかけ続けているのだ。
また何人かはギルガノットからの魔法攻撃をレジストするために最前線で戦っている。
エルフは今回の事件の最初の犠牲者でもある。
普段は闘争心のなさゆえに魔女に劣ると思われがちな種族だが、本気を出したエルフの魔法はあらゆる物理法則を凌駕し得るのだ。
更にこの船には魔女も同舟していた。
彼女らの役割は帆に風を送り、船を進めることだった。
強力な攻撃魔法を操る魔女にとって、正にうってつけの役目だったのだが……。
「駄目! 風魔法だけじゃ拮抗するので精一杯だわ!」
船は先程から一向にすすむけはいはない。
その原因は潮の流れにあった。
ギルガノットを連れていこうとしている場所は、正にこの海流を逆行するルートなのだ。
いくら魔女の全力の風魔法と言えど、自然の作り出す流れにギルガノットの怪力が相手では分が悪かった。
何か手はないか、コバルトがそう考えていたときだ。
「あ、あれ?」
魔女の一人が異変に気付く。
「どうした?」
「あ、あの。船が急に軽くなったんです」
軽くなった。
その言い方には語弊があった。
船は軽くなってはいない。
だが急に船が進むべき方向へと動き出したので、彼女にはそのように感じたのだった。
突然船が進み出した理由。
それは進まなかった理由と同様、潮の流れにあった。
「こ、こんなことって……」
「海流が……」
彼女らの目の前で、本来ならばあり得ぬ事象が起きていた。
「海流が逆向きになってる……!」
あり得ぬことだ。
だが言葉の通りのことが起きている。
本来は西海岸から聖都へと流れる海流。
それが全くの逆向きになっているのだ。
混乱する船員たちの中でコバルトだけはこの思いがけない向かい風に心当たりがあった。
「みんな慌てないでくれ! これは恐らくだが人魚の力だ!」
「人魚だって!」と人々は驚いた。
それもそのはずだ。
人魚は基本的に人間には干渉――ましてや協力などしない。
唯一友好的だった人魚セセラギも今はいない。
正体が分かっても不可解な事態だった。
コバルトはしばし考えると、思い当たる節があった。
『手を貸していただけますか?』
『――分かったわ。あくまでも私セセラギ個人はね。海の底にいる人魚全体がどうかは期待しないほうがいいわよ』
不思議でもなんでもない。
人魚はセセラギの約束を継いだのだ。
セセラギ自身は自分を"はぐれもの"だと思っていただろう。
不干渉を公言しながらも、ギリギリまで人々に歩みより続けた異端の人魚。
確かに孤立した存在だった。
しかし実は他の人魚たちも彼女を密かに認めていたのかもしれない。
この無言の助力は人魚たちなりの不器用な手向けなのだ。
潮の流れが加わったことで、形勢は一気に傾いた。
エルフのレジスト。
リザードマンの船。
ウィッチの風魔法。
マーメイドの水操作。
これは種族の垣根を超えた、いわばこの世界と異邦者の総力戦である。
そして今、ゆっくりではあるが勝利は確実にこちらに近付いていた。
「現在、魔女の森付近を通過中。海は尚も荒れている。総員注意せよ」
リザードマンから連絡が入る。
聖都メリアスならだともっと時間がかかっただろう。
しかしギルガノット自身がティルシハまで下ってきたことは幸運だった。
目的地まではあと少し。
成功するかはまだ分からない。
しかし作戦そのものの完遂はすぐそこまで迫っている。
だが、ここでついに問題が起きた。
「コバルトさん!」
船頭に立つ一人が異変に気付く。
「どうした?」
「縄が――縄が千切れそうです!」
「――――ッ!!」
銛に付けられた縄は丈夫な物ではあるが、あくまでも普通の縄だ。
かつてない強力な引合い。
荒れ狂う波。
飛び交う魔法。
想定を超えた負荷に、縄が悲鳴をあげてしまったのだ。
コバルトは銛や人員の準備に精一杯でそこまで頭が回らなかったことを悔いた。
「くそっ! どこが危ない!?」
「銛の繋ぎ目が……!」
銛にくくりつけられた箇所。
一番負担がかかる場所だ。
ただほどけそうなだけならば、スピナに頼むことも出来ただろうが、切れてしまってはどうしようもない。
――その時。
まるでその会話を聞いていたかのようなタイミングで、ギルガノットは身をよじり暴れだした。
「まずい!」
「もう――限界です!」
――ブチッ
ついに一本が耐えきれずに宙に舞った。
本来ならばただ海へと落ちていくだけのはずの縄。
だがそれを――空中で掴み取る者がいた。
「スピナ!?」
「はあぁぁあー!!」
ギルガノットの背にいたスピナは、銛と自分を持参の縄で繋ぎ、それを命綱としてジャンプしたのだ。
無論、船が引く縄だ。
神に選ばれた怪力と肌を持つ彼女の手であっても、たちまち血が吹き出した。
「あぁあぁ!!」
身が裂かれるほどの痛み。
それでもスピナは離さなかった。
そのまま何とか引き寄せて再び銛に結びつけようとする。
しかし追い討ちをかけるように――
――ブチ ブチッ
二本目、三本目。
切れた縄の分まで増大する力に、既に限界だった残りも次々と。
「くっ……ッ!!!」
そしてスピナはそれを全て拾い集めてその手に束ねる。
数隻の船に匹敵する力が彼女の腕を引き裂こうとしていた。
――限界だ。
誰もがそう思う。
今出来ることは、この作戦を諦めて縄を切る事。
せめてスピナだけでも助けることだけなのだ。
だが――
――ここまでギルガノットを連れてきた。
もう少し――もう少しで終わりが見える。
その思いがほんの一瞬だけ船員たちの判断を鈍らせた。
一瞬――それは運命を分けるには十分すぎる時間。
スピナが引き摺られる足を全力で押し留めようとした時だ。
いつの間にかギルガノットの背中から、口の上へと移動してしまっていたスピナ。
その好機を見逃す相手ではなかった。
――【幽体】。
「しまっ――――」
口の上部を部分幽体化させたギルガノット。
スピナが乗っていた足場は途端に実体を無くし――
――彼女は暗黒の口内へと落ちて行った。
「スピナァァーー!!!」
コバルトの叫び声が闇の海に響き渡る。
◆
ギルガノットがティルシハの下に落ちてからどれだけ経っただろう。
リザードマンの船は海流に乗り、森の下流へ。
更に西海岸から少しだけ離れた入り江付近へと進行していた。
だがここでついに綱は断ち切られる。
しかも唯一身体能力でこの怪物と渡り合えるスピナを飲み込んでだ。
船の上は絶望が次々と広がっていく。
しかしコバルトは諦めてはいなかった。
「まずは風魔法の停止だ!」
このまま船だけ前進させても意味はない。
まず主力の推進力である風を止める。
ギルガノットが海流を遡り再び聖都を目指すにしろ、あるいは反転してこちらに襲い掛かるにしろ一度止まらなくては身動きは取れなかった。
だが船を止めたところである違和感に気付く。
「ギルガノットとの距離が変わらない……?」
どうやら奴も消耗してしまったのか――あるいは目的を見失ってしまったのかゆっくりと泳いでいるだけのようだ。
問題は船とギルガノットが絶えず一定の距離を保って揺れていることだった。
「も、もしかして――」
コバルトはある可能性に気付く。
そして船頭へと駆け出すと、急いで縄を引っ張った。
本来ならば切られた縄の先が揚がるはずだ。
しかしコバルトの推測が正しければ――
――ザザン
何かが水面から顔を出した音。
リザードマンの船員はそれに駆け寄り、目を見開いた。
「コ、コバルトさん」
「やはりそうか……まだ希望は残っている」
水から姿を現したのは縄の先ではない。
確かに縄ではあるが、先程まで弛んで水の中へ沈んでいた部分だ。
それは引っ張られ、そのまま張られると真っ直ぐに道を示していた。
まるで彼女の意思が敵を見失うなと激励するように。
そう――縄はギルガノットの口内へと未だ繋がっていたのだ。
どうやら縄がギルガノットに当たる部分だけは、幽体化の効果が残っていてまるで奴の体表に糸を垂らしているようだった。
しかしそれだけならば、縄はすぐに抜け落ちてしまうだろう。
つまりは――
「まだスピナは生きているのか――?」
――ドクン
コバルトは自分でも思っていなかったほどに、胸が詰まるように熱くなるのを感じた。
彼女と初めてあったティルシハの光景が目に浮かぶ。
自分を邪魔者だと追い出そうとしたあの時。
彼女はどうしようもなく、辛そうで、苦しそうで、そして変わらず真っ直ぐだった。
自らの死を厭わないと言う決心。
死にたくないと言う本心。
そのどちらもが見え隠れして――だからこそ自分は別の可能性を探りたくなったのかも知れない。
だが、それを実現するためにはやはり彼女の力が必要だ。
(頼む――生きていてくれ……!)
コバルト龍神でも魔神でもない。
ただ誰かに祈った時――
今まで緩み、微動だにしなかった縄が――
――ピン
と僅かに揺れた。
船員たちは食い入るように注視する。
すると今度は――
――ツンーーツン
と二回続けて引かれるような動きをする。
魔女やエルフには恐らくただ縄が引かれたように見えただろう。
だが、リザードマンやコバルトは知っていた。
漁師がロープを頼りに潜水するとき、いくつかの合図が存在する。
一度だけ縄を引くのは問題なし。
二度続けるのは引き揚げろ――などだ。
慌てて合図を忘れた者はただ我武者羅に引っ張るだけで、今のような一定の間隔で引きような真似はしない。
そして一度引いた後に、続けて二回――この合図。
誰も知らぬ怪物の中で彼女は言っている。
『構わず――引け!』
コバルトはスピナ生存の可能性が示された時――様々な逡巡があった。
本当にスピナなのか?
彼女の手は無事なのか?
引いていいのか?
ギルガノットの罠ではないのか?
だが合図に気付いた瞬間――全ての悩みは消し飛んだ。
「風魔法再開だ! 全力で引け!」
コバルトにはスピナの様子は分からない。
何が起きているのか把握はまるで出来ていない。
だが信頼する彼女がそうすべきと言っている。
迷いなく行動するには――十分すぎる理由だ。
縄は全力で引いても再度千切れる様子はなく。
再び始まった引き合いの末、彼らはついに辿り着いた。
水の楽園フリムローダ。
今は観光客も誰もいない静かなる西海岸。
その一角に戦火の影も見えない美しい浜辺があった。
知る者は少ない秘密の入り江。
最初の被害者が出たあの海岸。
――最初にギルガノットの現れた場所だ。
◆
「しまった――!!」
スピナは呑みこまれる瞬間そう思った。
決してギルガノットを警戒していなかったわけではない。
現に今までは奴の幽体化含めたあらゆるスキルに注意して戦っていた。
だが縄を摘みながらではどうしても躱すことは適わなかったのだ。
幽体となったギルガノットの口をすり抜ける瞬間、ヒヤリとした感触がした。
これはゴーストに触れた時特有のものだ。
そして口内に降りて、彼女をまず襲ったのは――
「ちっ!」
上下から襲い掛かる三角の刃。
言うまでもなく――ギルガノットの牙だ。
「やられて――たまるかっ!」
スピナはその初撃をすんでのところで躱す。
この怪物の歯は食い千切るための形をしている。
だから押し潰す形に比べれば、その当たる範囲は広くない。
だが――
(もう一枚――!!)
牙は手前のものだけでなく、奥にももう一重――同じように配列されていた。
実はこれについてコバルトから話を聞いたことがある。
『ギルガノットの牙はジャイアントの死体にいくつか食い込み抜けていた。だが実際に見たところ奴の歯が抜けている様子はない。つまり生え変わってるんだ――しかも短期間で。これだけ短い時間となると単純な生え変わりでなく既に新しい歯が用意されていると考えたほうがいいな』
スピナは口内でその仮説が正しかったことを知る。
どうやら本来の歯の後ろに新しい歯があるようで、生え変わりはそれが前に押し出されるのだろう。
今彼女を襲っているのは、次に生えてくる牙なのだ。
「おおおぉぉぉ!!」
スピナは体を捻り、飛び込むようにしてその隙間を抜けようとする。
勝算は二つある。
一つは事前にコバルトの説を聞いていたおかげで、最初の牙を避けた後に備えていたことだ。
油断せずにいたおかげで、速やかに動き始めることが出来た。
もう一つは、ギルガノットの体の大きさだった。
ジャイアントを食べた後も巨大化はしていたらしいが、それでも歯の間をすり抜けるなんて真似は出来なかった。
だが龍を喰い、怪物に相応しい大きさとなった今。
スピナの体を狙うには、あまりにもその牙は大きすぎた。
そして恐らくこの体になったばかりのギルガノット自身も、自分のサイズを把握し切れてはいないだろう。
「――ッ! あぁ!」
足が僅かに牙に当たる。
鋭利な刃物のような牙は、それだけでも足を切り裂いた。
だが――
「はぁ……! はぁ……! 避けきってやったぞ……!」
ギルガノットの牙を抜け、ついに奴の喉元へと辿り着くことが出来た。
しかも、その手には依然として束ねられた縄が握られていた。
ここまで来ればギルガノットには何も出来ないだろう。
そもそも彼女が生きてることすら分からないかもしれない。
ひとまず危機は脱した。
「――しかし、ここからどうしようか……」
体内にただ一人放り込まれて一体何が出来るのだろう?
まず考えたのは内部から奴を倒す作戦だ。
だがそれにはいくつも問題がある。
まず単純に今のスピナは何の武器も持っていない。
全て外で縄を掴む際に手放してしまったのだ。
それに神の力を得たギルガノットに攻撃が効くとも思えなかった。
次に考えたのはこのまま再び縄を引いてもらう作戦だ。
どうやら今は船が引くのを止めたようで、縄が強く引かれる様子はない。
だからスピナはただ持っていられるのである。
しかし仮に外部に合図をしたとして――問題は彼女の手だった。
スピナは自分の手の平を見る。
皮は剥け、摩擦で肉までもが焼かれている。
興奮で痛みが抑えられていて尚この激痛。
縄を持ち続けていることすら奇蹟に思える。
次またあの綱引きを再開したとして、その手が引き裂けない保証はどこにもなかった。
(せめて、あの銛の一本でもあれば……)
あれに巻きつけてまた刺すことが理想だ。
そこで彼女は気付く。
(そうだ、もしかしたら腹の中に貫通して落ちた銛があるかも知れない)
果たして一本やそこらの銛で足り得るのか。
だが現状どうしようもない事に比べれば、十分過ぎる希望だ。
スピナは縄を持ちながら喉の奥へと進む。
どうやらギルガノットも今は暴れていないようで、揺れもさほど酷くはない。
また臭いも想像と違い何の不快感もなかった。
これも龍の神性の力だろうか。
そういえば食道内も僅かに発光していて、とても生き物の体内とは思えない明るさだった。
やがて彼女はギルガノットの胃へと辿り着く。
(神も腹の中は存外汚いものだな)
そこには様々なものが消化されずに残っていた。
先程呑み込んだばかりと思える海獣の死体。
建造物の瓦礫。
様々なゴミの山。
中には――異世界の物だろうか?
見たこともない金属で出来た長方形のプレートも存在していた。
文と数字らしき物が書かれているが、見たことのない文字だ。
スピナは使えそうなものはないかと胃の中を歩き回る。
だがどこにも銛は見つからず、あるのはガラクタばかり。
焦燥感に包まれながら、彼女がふと足を止め、気まぐれに頭上を見上げた時――
――――それを見つけた。
「あ、あれってまさか……」
実物は見たことがない。
それでもフリムローダに住んでいれば一度は聞いたことがある外見。
ギルガノットの胃――その上部に突き刺さる赤い柄に鈍色の刃。
そう――間違いなく突き刺さっている。
この神性を持ち、人の干渉出来ぬ怪物の体に。
本来は勇者のみが持つとされ、何が起きてもその手に舞い戻る不滅の剣。
「――聖剣ベアウルフ!! 何故こんなところに!?」
勇者が喰われたことは龍しか知らない。
だからスピナは驚愕したが――困惑はしなかった。
何故ならそこに一縷の望みを見たからだ。
(銛どころの話じゃない……ギルガノットに対抗しうる最強の武器だ!)
彼女は考えた。
あれならばこの化け物を体内から切り裂くことが出来るのではと。
この巨体だ。
致命傷と言わなくても、しばらく動けなくすることくらいは出来るだろう。
ギルガノットを斬れる。
そう思うと、忘れかけていたはずの昏い感情が蘇る。
その瞳はギルガノットのように黒く黒く沈んでいく。
――父の仇。
倒せるかどうかじゃない。
奴を斬り自分の鬱憤を晴らす。
そのまたとない機会だ。
(そうだ、元々はそれが目的だったはずだ……)
スピナは剣を引き抜くために、その誘惑へと飛び上がろうとした。
その時――確かに聴こえたのだ。
――――――
「コバルト……?」
スピナの眼に光が戻った。
そして今度は、迷いなく剣へと飛び上がる。
剣を引き抜くためじゃない。
ギルガノットを傷つける為じゃない。
――彼女は持っていた縄を剣の柄へと縛り付けたのだ。
あんな小さな銛とは違う。
この巨大な剣ならば数本の縄を結び付けられるはずだ。
そして決して解けぬ様固く縄を結ぶと、その先をまずは一度。
少し間を空けてから続けて二度引いた。
かつて彼女の父から教わった、船乗りに通じる合図。
船乗りでなくてもライフセーバーだった父が知っていたように、海洋学者である彼にもきっと通じるはずだ。
そして――
「来た……!」
グンッと急激に引かれる縄。
彼女の伝令は外へと通じたのだった。
――ズルッ
急な衝撃と引かれる強さに聖剣は抜け落ちる。
だが問題はなかった。
剣は横向きになり胃に引っ掛かりながらも持ち堪えている。
そう、初めから透過が不可能なこの剣に結び付けた以上は、外部に付けた銛と違って何があっても外れることはない。
こうなれば後はどちらが引き合いに勝つかの勝負である。
スピナは壁にもたれ掛るように座り込む。
「コバルト……さぁ、お膳立てはしてやったぞ……」
ギルガノットを殺そうとしなかった彼の判断が正しかったかは分からない。
初めから全力で殺しにいけば、もっと早く勝負は決したかも知れない。
あるいは龍のように、力ではただ飲み込まれるだけだったかも知れない。
だがそんなことはどうでも良かった。
彼女自身が決めたのだ。
彼のやりたいことを信じようと。
気付けば先程負傷した足からはドクドクと血が流れ続けている。
ここに辿り着くだけでも体力の限界は過ぎていた。
疲労と出血に朦朧とする意識。
スピナはゆっくりと目を閉じる。
(あぁ、何だかここは落ち着くな……)
絶望でしかない腹の中は――何故か海に包まれるような潮の香りがした。
◆
「ついにここまで来たぞ……」
ギルガノットを引いた船は西海岸へと辿り着いた。
普段は穏やかな海。
だがコバルトらが訪れたことにより、人魚の海流操作と魔女の暴風で一瞬にして荒れ狂う。
紛れもない――これが最後の戦いだ。
ギルガノットもそれを分かっているのだろうか。
力を振り絞るように、より強く抵抗の意思を示す。
敵は必死だ。
そしてこちらも満身創痍には違いなかった。
「コバルトさん! マストが折れそうです!」
「あと少しだ! 自分の船を信じろ!」
「はぁはぁ……レジストも……もう限界……」
「頑張ってくれ! エルフにしか守りは出来ない!」
「ねぇ! まだなの!」
「もう少し……もう少しなんだ!」
船はギシギシと音を立てて亀裂が入る。
リザードマンたちが浸水した箇所を何とか塞ごうと走り回っている。
これだけの未知の天候の中舵を取る彼ら。
正に神業と言っても良い技術だった。
これが水の国の根幹を影ながら支える力なのだ。
またギルガノットはただ動いているだけじゃない。
引っ張り合う最中にも常に魔法を飛ばしているのだ。
無尽蔵なのかと思うほどの魔法の量。
その攻撃は決して単調ではなく、あらゆる角度から多彩な属性で攻め続ける。
数十人掛かりと言えど、改めてエルフの力を見せつけられる。
彼女たちはそのすべてに瞬時に的確な対応をして見せた。
もしエルフに野心があったならば、この国を支配していたのは龍でなかったのかも知れないと思わせるほどの知性と魔力。
だがレジストの使い過ぎで何人かは既に倒れてしまっている。
防御が破られるのも近いだろう。
そして単純な魔力消費で言うならば魔女が一番苦しいはずだ。
目を瞑りただひたすら風魔法に全神経を注ぐ。
それは言う程に容易くはない。
目の前に叫び声が聴こえようと、目前まで魔法が迫ろうとも微動だにしない。
これは彼女らなりのプライドの表明であり、エルフやリザードマンに対しての信頼なのだ。
勿論最大出力の魔法をずっと出し続けられるわけがない。
きっと限界は近いはずである。
しかし、彼らの努力はギリギリで間に合った。
一人の若いリザードマンが指差し呟く。
「あれは――虹……なのか?」
西海岸の沖にぼんやりと現れた巨大な虹。
それは水面にも反射して、まるで輪の出入口のようだ。
そしてそれがただの虹ではないことは、ここにいる何人かが知っていた。
コバルトは答える。
「あれは異世界に通じると言われる虹の扉だ」
それはこの海の魔力に反応して時々現れると言われている。
いつもあるわけではない。
しかしこれだけ魔力が渦巻く状況ならば、必ず出現すると確信があったのだ。
元々この研究をしていたコバルトは何度も見たことがあった。
だがこれだけ巨大なものは初めてだ。
「まるでお前のことを待っていたようじゃないか」
コバルトの作戦。
――それはギルガノットを元の世界に帰すこと。
実の所虹の輪が異世界に通じるているかどうか。
それについての確証はなかった。
何故ならあちらにいったものが、再びこちらに戻ることはなかったからだ。
物は確かに流れ着く。
だが生物がこちらに来た例はギルガノットを除き存在しなかった。
それでもこの海ではたまに神隠しが起きる。
報告がないだけで、あの虹が出入り口な事はまず間違いなかった。
「あとはあの中にこいつを放り込むだけだ!」
幸いにも出入り口は十分に大きい。
ならばそこまで引っ張って行けば、そのまま押し込むことが出来る。
ここまで来れば――後は単純な力比べだ。
「最後の力を振り絞れ!!」
「おぉーーー!!」
ギルガノットの魔法が鮮やかに宙を舞う中、人々は全力を尽くした。
穴の空いた船底。
そこに自らの体で板を押し当てるリザードマン。
叫びながらも魔法をかき消すエルフ。
血を吐きながら魔法を出し続ける魔女。
更には大量のガーゴイルも縄を引き、海流は渦を巻くように虹に収束していく。
今、この国に住む人たちの力が一つとなる。
――――!!
ギルガノットも抵抗を続けていた。
魔法だけではない。
分体を作り、幽体化を繰り返す。
だが急ごしらえの分体は渦に呑まれて消えていき、幽体化を何度繰り返そうとも縄が抜ける気配はない。
そしてついに虹の入口は目前まで迫って来ていた。
(あと少し)
(もうちょっとだ)
(これで終わる)
(何とか間に合った)
誰もが終わりを確信した時――ギルガノットの体が光る。
「チッ! まだ何かあるのか!?」
ギルガノットから出たのは黒い雲――雷雲だ。
コバルトはいち早くそれに気付いて皆へと呼びかけた。
「龍の雷雲だ! みんな伏せろ!!」
――ピシャーン
コバルトの忠告の直後、頭上から落雷が降り注ぐ。
「きゃああぁぁーーー!!」
「がっ――!」
「うわあああぁあ」
ギルガノットを持ってしても防ぎきれなかった神の雷。
エルフは懸命にレジストしたものの、やはり全ては消しきれずに船に何発も落ちてしまう。
直撃したもの、火事に慌てるもの、恐怖に伏せるもの。
船上は混乱に包まれる。
そして――
「くそっ! まだ粘るつもりか!」
ギルガノットは船の引きが緩んだ隙をついて巻き返しを図ろうとしている。
実際少しずつだが渦の中心から離れているようだ。
まずい――このままでは――。
コバルトそう考えた時――何てことない炎魔法の一つが彼にぶつかろうとしていた。
「コバルトさん! 危ない!!」
「――――! おい大丈夫か!」
それを救ったのは名も知らぬ若いリザードマン。
彼はコバルトの無事を知ると笑いかけた。
「……良かった……あなたが無事で」
その姿を見て。
コバルトは頭が真っ白になった。
何故自分は救われているんだろう。
彼ら彼女らは全力を尽くして頑張っている。
なのに、何の力も持たない自分が何故。
何故指揮を執り、彼らを犠牲にする?
何故スピナはこんな自分のために戦ってくれた?
そうだ、俺も――――
「俺も――体を張らなくっちゃな……!」
コバルトは走り出す。
そして縄に金具をつけると滑るようにそれを伝って行った。
「コバルトさん! な、なにをっ!」
後ろで船員たちが困惑する声が聴こえる。
だがもうここまで来れば船の指示は必要ない。
後は彼らの頑張りを信じるだけだ。
今自分に出来るのは――
「――ギルガノット!!」
コバルトはギルガノットの背に辿り着くと、それに向かって呼びかけた。
「お前は今どこに向かっている? 龍のいない抜け殻の王国か? 違うだろお前の行くべき場所は」
彼は足元にあった銛の一つを引き抜いた。
そしてそれを高く掲げると――
――再びギルガノットの背へと突き立てる。
「行くべき場所はあそこだろう!! こっちを向くんだ! ギルガノット!!」
――――
コバルトの声が届いたのかは分からない。
痛みについ反応しただけかも知れない。
だがギルガノットは一瞬だけ後ろを振り返った。
そして見たのだ。
「輪の中に……街がある……」
そこにいた人々は見た。
虹の輪の中に街が見えるのを。
見た事もない精巧な硝子で出来た建物。
鉄で出来た乗り物。
おかしな服装で街を歩く人々。
「あれが――お前の故郷か……」
変化は突然だった。
ギルガノットはその虹の向きへと進路を変え――
――そして吸い込まれるように輪の中に入って行った。
「ギルガノット……」
コバルトは最後――そこに向かう宿敵の表情を見た。
歓喜に満ちていた。
それは故郷へ帰れるものにも見えた。
だが同時に自分の本当に殺したい相手を見つけたようにも――
虹の輪はギルガノットを通すと、急激に小さくなり消えていく。
魔法が止んだことにより、空には青い空が。
西海岸の海は穏やかな波が戻る。
――この国に平穏が戻ってきたのだ。
「終わったのか――」
コバルトは振り落とされたまま海にプカプカと浮いていた。
多くを失ってしまったような喪失感。
救いたかった。
せめて彼女だけは――
「――――あっ!」
コバルトはつい大きな声を上げてしまう。
だがそれを仕方のないことだった。
彼は見付けたのだから。
自分がいる場所からやや離れた所にぐったりと浮かぶ人影を。
彼は全力で泳いで駆け付ける。
「スピナ!」
「あぁ……コバルトか……」
スピナは空を仰ぐように浮かんでいた。
元気はない――だが浮いているぐらいの力は残っているようだ。
「どうしたんだ? 泣いているのか?」
「呑みこまれた時は……もう駄目かと……」
「ふふっ……お前も言ってただろ。私は無敵だ」
「あぁ……本当だ……!」
「ギルガノットはどうした?」
「奴なら――帰ったさ」
「そうか……良かったな」
コバルトは顔をぬぐうと「あぁ」と答え、そしてスピナに手を差し伸べる。
「――俺たちも帰ろう」
フリムローダの海は、今日も何事もなかったかのように揺れていた。
異世界サメメモ
ラーニングを持つサメも、ついに言葉を得ることはなかった。
次話は明日(10/20)22時更新予定です。
そして次回ついに本編最終話となります。




