第九節 特訓
「さて、ツトム。あそこにゾムビーのような柄のサンドバックがあるだろ? あれに超能力を使って攻撃するのだ。破壊しても構わない」
爆破の指示のもと、特訓が始まった。
「コクリ」
主人公が頷く。
「ハッ」
両手に力を籠める主人公。両手が微かに光り出す。
「タァアア!」
そして、サンドバックに攻撃した。
「ぼむっ」
サンドバックは少し揺れるだけで破壊されない。すると表示記が数値を出した。
「ピピピピピ……ピッ」
7kgとの表示。
「ふむ、たったの7kか、まるでだめだな」
爆破が呆れたように言う。
「あれは、一体?」
主人公が問う。
「ん? あの表示はサンドバックにどれだけの威力の攻撃が伝わったかを測るものだ。とりあえず、250kgは出してもらいたかったのだが……。狩人には、生身で700kg叩き出す者もいるのだぞ」
「生身で……ななひゃく……‼」
爆破の言葉に驚愕する主人公。
「さて、やみくもに反復して行っても、らちが明かないレベルだな。作戦を考えよう。ツトム、この間の、学校の体育館裏で超能力が発現した時はどのような状況だった?」
爆破の問いに答える主人公。
「はい、親友のコガレ君が、ゾムビーの体液に襲われそうになっている、正にその瞬間でした。それで、嫌だ、絶対にコガレ君を、死なせない、と強く思った時にゾムビーを吹き飛ばす位の力が出せました。それと、スマシさんに初めて会った日にも、微かですが力が使えた気がします」
「そうか、その時の様子も聞こう」
頷いた後、続ける主人公。
「その時は、嫌だ、死にたくないって強く思いました。それで、ゾムビーの体液を体から少しそらすことができました」
「ふむ」
2,3秒考える爆破。
「嫌だ、というキーワードが共通しているな。分かった、ツトム、今度は何かを強く拒絶する意識でもう一度サンドバックに攻撃してくれ」
「はい、分かりました」
返事をした後、考え込む主人公。
(拒絶……拒絶……ゾムビー達にみんなを襲わさせたくない!)
主人公の両手が、大きな光で包み込まれる。
(おお、これならいけるか)
期待を寄せる爆破。しかし、両手の光はしぼんでいってしまった。
「どうした? なぜ止めてしまったんだ」
爆破が問う。
「ちょっと待ってて下さい。これが無いと、なんか落ち着かなくて……」
そう言うと、革製の手袋を取り出した主人公。手にはめる。
「今度こそやってみます」
(……拒絶)
再び大きな光で包み込まれる主人公の両手。
「ハッ!」
主人公が力を籠める。瞬間、
「ドッ‼」
サンドバックが大きな衝撃を受けて、飛ばされた。辛うじて破壊はされていないサンドバック。3人は表示記を見る。表示記は269kgを表示していた。
「ハァ……ハァ……やった」
汗をぬぐう主人公。
「やったな、ツトム」
主人公に話し掛ける爆破。
「スマシさん……」
「ツトム、お前の場合は何かを拒絶することによって発動する超能力なのだな。私の場合はモノを爆破させる超能力だからそれを『バースト』と呼ぶことにしているんだ。お前の方は……そうだな、『リジェクト』と、名付けよう」
「……リジェクト?」
続けて言う爆破。
「250kはクリアだな。だが、真の目標は500kgだ。ここからは反復して行いつつ、精度を上げて行ってもらう」
「ご……ごひゃく……?」
唖然とする主人公。
「さあ! それに向けてこれから特訓して行ってもらうぞ!」
「は……はい」
特訓を受けることに対して少し後悔する主人公であった。
「それと、サケル!」
「ようやくご指名カ! 何でもやってやるゼ!」
少しふてくされ気味だったが、やる気になる逃隠。
「サンドバックはこのくらいの力だと5発前後で壊れる。君は新しいモノを運び、設置してくれ」
「ホントに雑用ダァ――――‼」
爆破の言葉にショックを受ける逃隠。
「設置の仕方だが……」
逃隠に説明をしている爆破をよそに、考え事をする主人公。
(500か……道のりは厳しそうだけど、これで力を手に入れられれば、みんなを救うことができる)
「グッ」
拳を握り、決意を固める主人公。
「次だ! ツトム、行くぞ!」
「はい‼」
爆破の呼びかけで特訓が再開された。
――3時間後、
「ハァ……ハァ……ハァ……」
ぐったりと疲弊しきっている主人公。
「ふむ、平均の威力は260kgといったところか……まだまだ改善せねばな」
今までの結果を概算し、軽く講評する爆破。
「ツトム、こっちに来い」
「は……はい? 何でしょうか」
主人公を近くに呼ぶ爆破。
「超能力でも何でもだな、集中力が肝心なんだ。こうやって手を見てだな……!」
何かに気付く爆破。
「何だ、いいしるしがあるじゃないか、ここだ」
「?」
爆破は主人公の手袋の手の甲にある、星を指差した。
「ここに意識を集中させて、力を発動させるんだ。手を合わせてみろ」
言われるがままに手を前に向けて、合わせる主人公。右手が左手の上になっている。
「この右手の星に意識を集中させて、もう一度やってみろ」
「はい」
頷き、サンドバックに体を向ける主人公。
(集中……この星に、集中!)
主人公の両手が、今までにないくらいに光輝き出す。
「リジェクト!」
「ドゴッ」
サンドバックが攻撃される。その時、あまりの威力にサンドバックを支えていた鎖が外れた。サンドバックが吹き飛ばされる。
「ゴッ……ドサ」
壁まで飛ばされ、壁にぶつかり、地面に落ちるサンドバック。表示記を見る3人、
結果は……
450kg!
「やったな! ツトム」
「スマシさん!」
爆破のねぎらいの声に喜ぶ主人公。
「ツトム、スポーツでも何でも、上達するときは反復して行っていく中、少しずつ上手くなるのではない。コツを掴んだとき急成長するものだ! 今の感覚を忘れるなよ」
「はい! スマシさん!」
特訓は続く。