第七節 狩人ラボ
「? どこにでしょうか」
主人公が問う。
「地図を渡そう」
爆破から紙が手渡された。
「今すぐにとは言わない。丁度良いことに、もうすぐ中学生も夏休みだろう? 夏休みになったら地図の示す場所へ来てくれ。待っている」
そう言うと帰ろうとする爆破。
「どうしてですか⁉」
呼び止めるように問う主人公。爆破が顔半分だけ主人公の方に振り向き、答えた。
「無理にとは言わない。しかしツトム、君に会わせたい人がそこにいるんだ……」
「僕に……会わせたい人……?」
困惑する主人公。
「では、さらばだ」
タンッと地面を蹴るように飛び立ち、消える爆破。隊員達も後を追うように走り出す。
「……行ったか」
友出が口を開く。
「もっと早く来いってんだ。畜生」
「コガレ君……」
「おいツトム、行く必要はないぜ。あんなふざけた奴の言いなりになんなよ」
友出の言葉に、うつむく主人公。
「ツトム」
口を開いた逃隠に顔を向ける主人公。
「俺はツトムが行くなラ、ついて行くゼ。何せ、あの狩人の誘いだロ? ゾムビー達を駆逐するための、いい情報が貰えるチャンスダ。そこに居る、友出……だったけカ? そいつは気が乗らないらしいがナ」
友出の方を見ながら話す逃隠。
「フン、勝手にしろ!」
少し怒鳴ったように言う友出。振り返り、立ち去ろうとする。
「俺はもう、おいとまさせてもらうぜ。じゃあな。……それと、ツトム」
「?」
「今日は……ありがとう……な。……助かったぜ。あと、親友ってお前の口から言ってくれて、嬉しかった」
「コガレ君……!」
顔をほころばせる主人公。
「おいおイ、顔くらい合わせて話してやったらどうなんダ、友出。そんなに礼を言うのが恥ずかしいカ?」
茶化す逃隠。
「うるせぇ! とにかく! そういうことだからな! 俺は帰る‼」
歩き出す友出。
「サケル君、そういうのはちょっと……」
「何が悪いんダ? ツトム。ホントの事を言ったまでだゼ」
「……」
たじろぐ主人公。
(それはそうと、スマシさんの誘い、じっくり考えよう。夏休みまであと10日くらいある)
――翌日。2年4組教室の扉前。いつものように主人公が扉を開ける。
「おはよう……」
(何で挨拶なんかしたんだろう。したところでサケル君くらいしか返してくれないのに……)
ふと顔を上げると、そこには友出の姿が。
「おはよ! ツトム」
友出は挨拶を返した。ぱぁっと明るい表情になる主人公。友出の周りのクラスメイトが口々に言う。
「コガレぇ。お前なんだってツトムなんかに」
「やめとけって」
「ん、別にいいじゃん?」
漂々としている友出。主人公はしばらく友出を見つめてから、席へ移動する。
「よウ、ツトム! 何ダ? ニヤニヤしちゃっテ」
逃隠が登校してきた。
「別に、何でもないよ」
喜びを隠しきれないまま、主人公は答える。
――10日後、夏休み初日。地図に書いてあった場所に到着する主人公と逃隠。
「ここか」
研究所のような施設を見上げる主人公。
「わくわくするナ、ツトム」
逃隠が話し掛ける。
(ここで何をしているんだろう、狩人の人達は……)
すると、施設の扉が開く。
「ウィ――ン……ツカ……ツカ……ツカ」
中から足音を立てて爆破が現れる。
「待っていたぞ、ツトム……と誰だ? 付き添いの者か」
「俺の名前は逃隠サケル‼‼‼ 俺の夢……いや、目標は! 世界中のゾムビー共を駆逐することダ‼‼‼」
転校初日の自己紹介の時と同じセリフを叫ぶ逃隠。
「はっはっは。威勢がいいな。よし、気に入った。サケル君、君も超能力を使えるのかい?」
「そういうわけではないガ、逃隠家に代々伝わる奥義、『回避の術』を使えル。ゾムビー退治に一役買える存在になると思うガ?」
爆破の問いに自信満々に答える逃隠。
「ますます気に入った。君もこの、狩人ラボに入るといい。二人とも、こっちだ」
そう案内する爆破の後に、続く主人公達。
中に入ると、外観と同じく、銀一色の内装で、時たま信号のような光が壁を伝っていた。
「うおぉぉおオ‼ シルバー! シルゥバァー‼」
はしゃぐ逃隠。
「はは、珍しいか? ここはゾムビーの体液では溶解出来ない、特殊な金属でできていてな、壁には様々な通信回路も備わっている」
「俺は感動したゼ――。生まれてきて良かっタ!」
「サケル君、静かにしようよ」
途中、忙しなしに資料や備品を運ぶ職員に出くわした。誰もが爆破にお勤めご苦労様です、と挨拶をするために足を止めていた。
しばらく中を進むと、一つの扉の前で、爆破が歩きを止めた。
「さてツトム。君に会わせたい人というのがこの扉の向こうに居る」
そう言うと爆破は扉を開けるスイッチを押した。
「ウィ――ン、ガシャン」
扉が開くとそこは研究室のようなところだった。研究者たちがコンピュータや実験器具の前で作業を行っている。
「こっちだ」
そう言って爆破が指差したその先に、ガラス張りの部屋があった。そこには女性のようなナース服を着たゾムビーが椅子に座っていた。
「あれは……尾坦子さん⁉」