第二十節 平穏な夏休み
「えぇーっと、電圧V割る抵抗Rで電流Iだから……」
昼下がり――、主人公が自宅で夏休みの宿題をしている。8月も第3週目になった。
「もう3時間経ったんだ。ちょっと休憩しよう」
主人公が時計を確認して、ベッドに横たわる。天井を見上げる主人公。
(春から、ホントに色んな事があったな)
主人公が過去を振り返る。
病院でのこと、学校の体育館裏でのこと、狩人ラボでのこと、工場地帯の戦い……。ゾムビーとの闘いの日々がよみがえる。
(初めは、リジェクトも使えない状態でゾムビーに立ち向かったんだっけ……)
ふと机の上を見る主人公。そこには、いつも手にして戦った、手袋があった。
起き上がり、手袋をはめ、握ったり眺めたりする主人公。
「不思議な縁だなぁ。リハビリの一環で、デイケアで作ってただけの手袋だったのに……今は必要不可欠な相棒のような気分だ…………!」
主人公が何かに気付く。
「ここ……傷になってて破れそうだ」
左手手袋の、小指の付け根辺りが傷ついていたのだ。
「右手も……だ」
右手の手袋にも何カ所か傷があった。
「……ゾムビーの体液でも掛ったのかな?」
じっくり手袋を眺める主人公。
「よし、明日革を買ってきて、修理しよう」
手袋を手から外し、机に置く。更にポンと一撫で。
「ふぅ――休憩終了。おっしゃ! やるか」
再び宿題を始める主人公。やや疲れながらも、集中力は落ちないようだ。
――夕方。
「ツトムゥー? 宿題は順調? ご飯できたわよー」
母が1階から呼んできた。
「はーい、今行くよ。母さん」
リビングで夕食を食べる主人公と母。
「父さんね、今夜遅くなるんだって」
母が言う。
「大変だね」
主人公が返す。
「そうそう、3週間近くもお勉強会、よく頑張ったわね」
カチンと固まる主人公。
「ア……ウン……ソウダネ……」
動揺を隠せない。
「入院するまで追い込まれちゃってたツトムにそんなお友達ができて、私安心したわ」
上機嫌で話す母。
「ハハハ……ウンウン……」
目が泳ぐ主人公。
(ゾムビーと戦うために、狩人に入隊したって事、全然話してなかった。誤魔化し切れるかな? ……いや、いつか絶対話さないといけない。父さんも居る時に、いつか必ず!)
「手が止まってるわよ? 食欲無いの?」
母の言葉にハッと我に返る主人公。
「あ、いや……食べるよ」
――夜。部屋を暗くして、ベッドに横たわる主人公。
(母さん、心配するだろうな……父さんは……怒っちゃうかも……)
目を閉じ、ため息をつく。
「あ――――!」
頭を搔きむしる主人公。
「いつか言うったって、いつ言えばいいんだろう? すぐには言う勇気なんて無いし……」
しばらく考え込む主人公。
「夏休み! 終わるまでに言おう!」
心は決まったようだ。
「よし! それで決定。じゃあ寝よう寝よう」
主人公は深い眠りについた。
――翌日。
「行ってきまーす!」
主人公は買い物に出かけた。
ショルダーバッグに財布を入れて、ホームセンターに向かう。
日差しが強い。途中通りかかった家の犬も、犬小屋でハッハと息を乱して横になっている。
ホームセンターに着いた。革の材料が売っているコーナーを探す。数種類の革が売っている場所を見つけた。手袋を取り出し、色合いが合っているか確かめる。
ホームセンターを出る主人公。どうやら目当ての材料が見つかったようだ。家路を辿る。行きと同じく、日差しが強い。汗をぬぐう主人公。道にはうっすらとかげろうが。
家に着いた。2階へ上がり、糸と針、ハサミを用意する。先程買った、革の材料を、手袋の傷に合わせて少し大きめに切る。全て切り終え、針を使い縫っていく。作業に没頭していく主人公。30分程が過ぎた。修理は完了したようだ。手袋を手に取り、はめて確かめる主人公。縫った部分から傷が出てきていないか確認する。
「よし」
手から手袋を外す主人公。机の上に手袋を重ねて置く。
「お帰り!」
第一章 完




