第一節 主人公ツトムの入院生活
2028年、春。精神病棟にて。ラウンジのテレビからニュースが流れている。
「昨晩、またしてもゾムビーが発生しました。ゾムビーはK県の繁華街にて発生。食事中の客などを襲いましたが、2時間後には政府公認部隊・狩人によって、事件後ゾムビー化した民間人を含む全てのゾムビーが処理されました。次のニュースです……」
ラウンジに座る少年、主人公ツトムがつぶやく。
「はぁ。入院生活なんて暇過ぎて退屈だなぁ。ゲームボー〇でも持ってくれば良かった」
と、そこへ。
「あぁ、あぁ。ツトム、ツトム、ちょっと」
排便タレオがやってきた。
ここは精神病棟。当然、患者がいる。主人公は軽い体調不良と診断され入院したが、ガチな人はガチである。
「どうしたの? 排便さん」
主人公が語り掛けると、排便はこう返した。
「ああぁ、あぁ、こっち」
促されるままに主人公は排便について行った。
辿り着いたそこは、トイレだった。
「あぁ、あぁ。流せない」
排便はそうやってトイレを指差す。トイレには汚物(小の方)が残っていた。茶色い。
主人公ツトム、絶句。
「……あっあのさっ。ここにボタンがあって、それを押すと水が流れるんだよ。押してみなよ排便さん」
「あぁ、ぁあ、無理。無理」
「無理じゃないよ。ボタン押すだけだから。何も怖くないよ、排便さん。やってみなって!」
「ああぁあ、無理。」
排便は言うことを聞かない。
「だから! ボタン押すだけなんだって、あぁもう! こんなことに時間使ってられないよ。……! 時間⁉」
ハッと時計を確認する主人公。時計は午後2時32分を指していた。
「やっば! 遅刻だ。じゃあね、排便さん。これからデイケアなんだ」
トイレから走り出す主人公。
「あぁ、あぁ……」
ポツンと一人残される排便であった。
デイケアとは、ゲームや簡単な手作業を通じて、社会復帰の体力と作業能力を維持、向上させることなどの福祉・医療関係施設が提供するサービスの一種である。ざっくり言うと、この病院ではオセロや将棋、トランプ、パズルやペーパークラフト、もの作りをやっている! 主人公は、このデイケアにて、もの作りとして革製の手袋を作っているのだ!
「今日で完成するかな。でも出来上がったら何に使おうか?」
速足でデイケアルームに向かう。
誰かが主人公に話しかける。
「あら、ツトム君、これからデイケア?」
「あ、尾坦子さん」
尾坦子ナース、主人公が入院している精神病棟で務めているナースである。グラマラスでおっちょこちょいな性格から、入院患者からの(主に男性)人気は高い。
「そうなんです。ちょっと遅刻しちゃってて」
そう主人公は返す。
「そうなんだ! 遅刻してるからって院内を走ったりしたらダメだよ。あと、デイケア、無理せず頑張ってね」
そう言って立ち去る尾坦子。尾坦子が立ち去った後、つぶやく主人公。
「尾坦子さん、今日もかわいいなぁ」
主人公も院内の尾坦子ファンの一人である。
デイケアルーム。入院患者たちが各々将棋、パズルをしたり革細工としてメガネケースを作ったり、大胸筋サポーターを装着するなどしている。
主人公がデイケアルームに辿り着く。
「遅くなってすいません」
受付に居る人が答える。
「ハイハイいいですよ。カード出して」
デイケアルーム使用に必要な紙を差し出す主人公。
「じゃあ、今日も行っていきましょうね」
「はい、よろしくお願いします」
軽く挨拶を済まし、作業台へ着く主人公。作りかけの手袋を台座に置く。革を縁取ってそれぞれのパーツを作るところまでは完成していた。
「刻印はどうしようか。……そうだ、手の甲に星を一つ。色は……」
作業を進める主人公。
そして――――
「よし、できた。あとはひもで縫い付けるだけだ」
暗めの茶色地の革の真ん中に黄色い星。ここから生地と生地を縫い付けていく。丁寧にひもで縫い付けていく主人公。
「ひもを縫う作業って案外楽しいんだよな」
時間を忘れて作業に没頭していく。順調に形が出来上がっていく。
――、
「できた」
手袋が完成した。
「我ながらいい出来だなぁ。……革の質感っていいな」
出来たてほやほやの手袋に頬ずりする主人公。
「匂いも……いい……」
「ジリリリリリリリリリリ‼」
「⁉」
驚く主人公。警報が鳴り響く。
「皆さん、逃げて下さい!」
尾坦子が息を切らしてデイケアルームに登場。続けて言う。
「奴らが! ゾムビーが! この病院に‼」