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プロローグ

 それは契約とは名ばかりの、ひどく一方的なものだった。

 声を発しようと息を吸い込むも、ヒュっと喉が枯れた音を鳴らすだけで言葉にはならなかった。


「これは我と汝の正式な契約である」


 地を這うような低い声が耳に届く。

 声と認識しているけれど、もしかしたら実際は声ではないのかもしれない。そんなことすらも曖昧に感じられた。


「期限はこれより3年の後とする」


 低い声が響くたびに空気が震え、まるで地鳴りがするようだった。

 次にそれが耳に届いたときには唐突に、身体の内側から燃えるような熱が沸き上がり全身へと広がっていった。

 

 ああ、変わっていく。変えられていく。

 身の内から、根底から自然の摂理を覆すように。

 焼かれるような痛みに血が、肉が、骨が蝕まれていく。

 苦しみから逃れるように見開いた目からは血の涙が流れていくようだった。


 熱い。

 骨が軋む。

 いっそのこと息の根を止めてほしかった。それくらい、抗いようのないほどの苦痛。


「そのとき、我が勝つか汝が勝つか。真実を見出すのはどちらであるか」


 呪うような声だった。

 言葉を紡がれるほどに、その呪いによって身体が腐敗していく気がした。

 目の前に存在する相手は恐らく通常の感覚ならば視認することができないであろう、明らかに人ならざるものであった。

 それがわかっていて、対峙した。自ら望んだ。


「勝者には(こいねが)うものを、敗者には命脈の深淵を」


 けれど、望む形は果たしてこれであったのか。

 自問自答が今は虚しく心を上滑りしていく。この大きすぎる存在の前では疑問を抱くことすら、意味を成さない。


「勝者が決まるのが楽しみよのう」


 闇の中に不気味に光る紅い目が、悦しげに嗤うかのように歪む。

 一切の発言を許さないまま、呪いにも似た残酷な契約を押し付けるようにして結ぶと満足した様子で、それは音もなく虚空へと消え失せた。

 

 まるで最初から、何もなかったかのように。

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