31話 成長
購入した自宅を夜間に手直ししている間、日中は以前の通りに郊外での依頼遂行を含めたインプラント捜索を実施していた。
場所は町の北側で、主に森林地帯で活動している。
森に入った竜は、周囲の目視情報を元に作成した脳内マップによって、インプラントの違和感を感じられる範囲である30メートルを限度としたローラー探索を続けた。
この脳内マップは、竜の意識でなんとでも成る物なので、まさにゲームのオートマップさながらに目視範囲・違和感探知済み範囲・薬草採取場所が色分けされて記録されている。
無論、現実の地形よりも若干の誤差が出るのは間違いない。だがその誤差は、探索範囲を5メートル程重ねて探索し、その上で移動時に目視情報で随時修正を加え続けてる事で限りなくゼロに近づけられている。
そして、森で活動を続ければ、当然のごとくモンスターと遭遇する。この時遭遇したのは浅い森を活動場所としている『牙犬』だった。
7ヶ月前までは、5匹以上で活動するこの『牙犬』に対してはマジックアイテムによる『土壁』や『雷撃』を使用する事でなんとか対処していたのだが、今は違う。
竜は両腕のマジックアイテムを使用する事なく、剣と盾、そして体裁きだけで対処していく。
敵の位置、その時のベクトル、さらには立木の位置なども全て把握しながら、瞬時に優先順位と攻撃方法を定め、そして実行に移す。
一匹目を下から切り上げ、その流れで剣をそのまま上を回して振り返りざまに後方から襲ってきた個体の頭頂部に叩き付ける。
この間、体を180度回す間に、全周囲を再確認して敵の位置やベクトルなどを最新の物に更新する。そして、それによってさらに優先順位と行動方針を定めそれに従って行動する。
時に立木を盾として利用し、そのすきに他の個体を攻撃し、時に盾ではじき飛ばした個体を別の個体にぶつける事で牽制する。
竜は、この戦闘を俯瞰で把握し、完全に支配していた。
この戦闘能力は、7ヶ月前の竜とは比べものにならないものだった。そして、それはこの7ヶ月間によって培われたものでも有った。
竜はこの街を離れて、7ヶ月以上に亘って方々の盗賊を殺して回った。ほぼ私怨で実行した竜の場合、討伐などと言うもっともらしい言い方ではなく、殺して回った、が最もふさわしい表現方法だろう。
結果として、大小合わせて12組の盗賊団を皆殺しにしたのだが、その方法は最初の盗賊団同様暗殺によってだった。彼にはこの方法しか対処出来なかったのだから、それはしかたが無いだろう。
そして、この世界であれば、盗賊に対してはどのような卑劣な手でも全く問題とされるどころか賛頌すらされる。ここで盗賊とは、その様な存在なのだ。
竜は盗賊自体との戦闘は事実上の暗殺のみで、殆ど戦闘らしい戦闘を実施していない。
だが、そこに至るまでの間に、周囲を徘徊するモンスターとの戦闘は当然ながらある訳で、その戦闘を重ねる事によってある程度強くなっていた。
無論、レベルが上がったと言う事では無く、いわゆるリアルスキルが上がったと言う事である。
このリアルスキルと称されるものだが、竜の場合は二つに分けられる。
一つは、戦闘技能である肉体の効率的な動かし方、もう一つは、脳の処理能力だ。
竜の場合は『肉体操作』で最大限まで肉体そのものの能力は上げられており、随時最高の状態に維持し続けている。
だが、それを効率よく動かす事はまた別の話で、その分にまだ成長できる余地が有ったと言う事だ。
戦闘中の自分の身体の動き、さらには実際に与えたダメージなどを随時確認しながら、最高の効率を求めて試行錯誤していく。
武術の型の様に、体系的に纏められたものが学べない以上、独学で試行錯誤するしかなかった。
現状でも、まだ完全とはほど遠い状態ではあるが、それ以前と比べればだいぶマシになっている。
そして、『肉体操作』を前提とした動きも身につけた。
それは、通常で有れば筋肉や腱などを痛める為、実行できない、または実行するべきではない動きも実行できると言う事だ。
例えば、最大限の早さで剣を振っている最中、その軌道を急角度で変える場合などがこれにあたる。通常であれば方々の筋肉や腱を痛めるのだが、竜は即座に『肉体操作』を使って元に戻す事が出来るため問題ない訳だ。
この、即座に『肉体操作』で治す、と言う事を実行できるように訓練し、直るまでの間の痛みによって身体の反応が鈍らないように慣れさせた。
明らかに普通と違う訓練方法では有るが、『肉大操作』を有する竜に取っては正しい訓練方法なのかもしれない。
そして、脳の処理能力に関しては、脳自体の能力も最大限まで上げられており、これ以上上げる事は出来ない。で有れば後はどうするかと言えば、パソコンと同じだ。
パソコンの場合、ハードを変更せずに処理速度を上げるには、無駄な処理を削れば良い。
バックグラウンドで動いている現状使用されていないソフトや、OS自体が持っている不必要なサービスを切っていく方法だ。
これを、人間の身体に置き換えると、味覚・嗅覚などと言った直接戦闘中に不要な処理を完全に切り捨てると言う方法になる。
実際のところ、何かに集中した際人間はこの処理を無意識に実行している。だが、それは完全に切り離すのでは無くかなり小さいレベルにま押さえる程度となっている。竜はそれをほぼ完全に切る方法を身につけた。
さらに、パソコンで画像処理ランクを落とす事で全体の処理を上げられるように、視覚情報の処理から色情報を無視して白黒にすることが出来ないか、と模索したのだが、これはまだ実現には至っていない。
現状出来るようになったのは、不必要な入力(味覚・嗅覚など)の切断と、思考の簡略化だった。
思考の簡略化については、単純に言うと、戦闘中余計な事を考えないように出来るようになったと言う事だ。
脳の処理を最も多く使用するのは、当然ながら考える事だ。思考する事、検討する事、これらは戦闘中には必須の事では有る。だが、それと同時に脳の多くの処理を必要とする事でもあった。
その処理をなくし、その場その場に合った最適な行動を自動的に出来るようになるのが理想である。いわゆる『無我の境地』などと呼ばれる状態だ。
だが、普通の者は『無我の境地』になど成れない為、それに変わる形で『型』と言うものでそれを補っている。
竜の場合は、肉体のコントロールという意味では『型』は有効ではあるが、脳の問題に関しては全く意味を成さない。
その為、『無我の境地』に至れるようになる以外なかった訳だ。
そして、脳の強化が効いたのか、努力が実ったのかは不明だが、ある程度までであれば余計な事を考えずに戦闘を行えるようになった。
その結果、体感的な周囲の時間の流れが三割以上遅くなり、さまざまな対処がしやすくなった。
その為、最大限に集中した状態だと、まさにコールタールの中で身体を動かしているような感覚になる。身体の動きが意思よりも遙かに遅いのだ。
だが、この時間を使って身体の動きを変化させ、対象の行動に合わせたり、この時間を使ってインプラントを起動したり出来る。
特にインプラントは意思の力でコントロールする為か、加速した意識でも全くタイムラグ無しで起動する。
残念ながら現時点に置いては、攻撃に使用できるインプラントが存在しない為、逃走用として『ジャンプ』『透過』を起動するぐらいしか出来ないのだが……
これらが、この7ヶ月間の努力によって成された竜自身の成長だ。
この様に、竜自身もある程度成長したのだが、装備に関しても以前と比べると格段に性能が上がっている。
防具に関しては、二度に亘って致命的な損傷を受けた為、盗賊のアジトで入手したモンスター素材で自作してある。
この致命的な損傷とは、一度は『ジャンプ』で移動中に上空の死角から『ワイバーン』に襲われ右骨盤部分をごっそりと食いちぎられたもので、右足はかろうじて皮で繋がっている状態だった。
そして、もう一つは、名称不明の熊系モンスターに襲われ、『透過』で地中に逃げようとするも、瞬間移動に感じるほどの速度で接近され、スウェーで避けたのだが間に合わず、胸部を心臓ギリギリまでえぐり取られた。
この二件に置いて、その時着用していた防具は殆ど役に立っておらず、防具に大きな問題がある事が露呈した訳だ。
実際、この際に助かったのは『肉体操作』の『緊急時用自動処置』とでも言うべき機能が初めて働き、竜の意思によらず自動的に止血・痛覚遮断・最低限の回復が成された為である。それがなければ確実に死んでいたはずだ。
この『緊急時用自動処置』機能がどの程度の状態まで機能できるのかは未確認で、脳に損傷を受けた場合や心臓そのものがえぐり取られた場合などは確認しようがない。故に、変に期待せず、このレベルが限界と思って対処すべきだろう。
また、この胸部をえぐり取られた際、位置的に考えて『肉体操作』である曲玉もえぐり取られたはずなのだが、全く問題なく起動した事から考えて、体内に入ったと思われるインプラントは、実体としてその位置に存在する訳ではない、と言う可能性が出た。
で有れば、実際のところ、どのような形で存在するのかも不明である。エネルギー体として体内に遍在する可能性も有れば、竜という存在と重なる別次元に存在する可能性すら有る。これは現状では検証不可能な事だ。
そしてその後、この二件とは別に、左手の手首から先を『魔狼』と呼ばれるオオカミ系モンスターの中でも、さらに変異種である赤い個体に食いちぎられる事に成った。
これは、胸部をえぐり取られた時のように、『インプラントの位置が胸骨沿いではなくもっと身体の奥だった可能性も……』と言った疑問も無く、確実に『次元収納』の球と『抽出』のリングが失われたケースなのだが、これまたその状態で問題なく両方の機能が実行できた事から、インプラントがその位置にそのままの形で存在しない事だけは確定した事に成る。
インプラントの事はさておくとして、この事で防御力が極端に不足している事を痛感した竜は、その時点で所持していた盗賊由来の最も良い防具に着替えた上で、それ以上の物を作る事になった。
その際使用したのが、同じく盗賊の隠れ家で入手したモンスター素材だ。商会マークが入ったコンテナに入っていた事から、元々は商人が買い付けた物だったと思われる。
竜はその素材が、なんというモンスターのどの部位で有るかも知らない。とにかく、複数の素材を剣で攻撃してみて、最も強度があり、その上で最も軽い物を選んだだけだった。
多分、虫型モンスターの外骨格だろうと考えた。鋼殻獣の鋼殻ほどの強度は無いが、薄手の鉄鎧よりも固く、その割に軽い為動きも阻害しない。
ただ、その時点までに、竜はこのモンスター部位を使用した防具を使用した冒険者を見た事が無かった。
その為、確認の意味で『肉体操作』スロットに入れてある販売用データの一人に『変身』して、その部位を多少販売してみたところ、『地竜』と呼ばれる大型のトカゲ系モンスターの外皮で有る事が分かった。
この『地竜』は『竜』と付いてはいるが竜種では無く、あくまでもトカゲなのだが、外皮が硬くその巨大な身体による質量もあって討伐がかなり難しい為、その外見も合わせてこの地域では名前に竜を付けて『地竜』と呼んでいるようだ。
そして、討伐が難しく、さらに、加工も難しい事から、この外皮を使った防具はかなり高価な品となる事が分かった。
その様な高価な品をレベル1の竜が身につけているとなれば、当然ながら余計なトラブルが発生するのは目に見えている。
その為、手間ではあったが、中レベルな防具の素材として使われている『黒カマキリ』の外骨格に見えるように表面を加工した。この作業は、『リペア』による無駄に細かな『手作業』だった為に、これだけで3日間を要した。
防具に関しては、これ以外にも、左腕の籠手に小型の盾を新たに固定装着した。
これは、籠手自体に複数の魔法回路を書き込んだ関係上それを保護する必要が生じた為で、籠手そのものを分厚くして強度を上げるよりは、消耗品として別途盾を付ける形を選択した訳だ。
この盾にも魔法回路が仕込んであり、『土壁』や『石槍』などで使われた『維持力』とでも言うべき、魔法で作成した物体の状態を維持する力だけを生じるようになっており、それを盾自体に掛ける事で盾の強度を上げている。
当初は、この『維持力』は魔法によって作成された物にしか効果が無い物かと考えていたのだが、試しにそれ以外の物に対して使用してみると、普通に効果を発揮した。
それが分かった時点で、この魔法回路を盾に組み込み、その後さらに籠手以外の防具全てにもこの魔法回路を書き込んでいる。
この機能は、維持時間を約1分にし、盾とそれ以外という二つに分けて機能するようにした。
その為、各防具が全て内側で導線によって繋がれており、各防具間の導線はジョイント式になっているとは言え、その着脱に三倍以上の手間が掛かるようになったのは仕方ない事だろう。
この魔法回路の機能が人体にも作用するのであれば、身体自体の強度を上げられたのだが、生き物には効果が無かった。竜にとっては非常に残念な事だ。
さて、この『維持力』の魔法回路だが、これには起点・範囲・強度・維持時間と言う設定項目がある。
そして、ここで問題となるのが『基点』だ。
この『基点』はその魔法回路からの相対位置となっており、その相対位置が固定では無い場合は意味を成さない。
つまり、身体に装着した防具のように、身体を動かすだけで常にその相対位置が変わる場合は、一つの魔法回路で全ての防具に効果を与える事はできないと言う事だ。
それどころか、一種類の防具であっても、複数のハーツに分かれていて稼働する形になっている物も多い。と言うよりも兜と盾以外の防具は全てそうだと言える。
その為、この機能を全ての防具の全てのパーツで機能させるには、全ての稼働パーツごとにこの魔法回路を書き込む必要があった。
ただし、スイッチ回路と魔石からのオド吸収回路、大気からのマナ吸収回路は一本化して最も表面積の多い鎧のパーツに書き込み、各パーツには出力回路だけを書き込んで有る。
その為、各パーツを繋ぐ導線の保護などの試行錯誤も加え、この機能の作成には丸々一ヶ月もの時を要した。
だが、その甲斐もあって防御力に関しては、7ヶ月前とは隔絶した状態となっている。だから、ある程度までのモンスターであれば、その集団の中に切り込んでいく事も可能となった訳だ。
そんな竜が次に遭遇したのは、『ゴブリン』の集団だ。そこは森の中にポッカリと発生した切れ間で、中央を小さな川が流れる60メートル四方が見渡せる場所だった。
竜がその存在に気付いた時には、一匹のゴブリンも竜に気付き周囲の仲間に甲高い声で合図を送ろうとしたが、口を開いた瞬間には額を竜の放った『石槍』で貫かれ絶命している。
そして、その次の瞬間には『雷撃』が煌めき、別の固体を撃っていた。
竜はその二体の結果を確認せずに走り出すと、そのまま森と広間の境を回り込むようにして移動しながら、連続で『石槍』と『雷撃』を放つ。
そして、そのゴブリン集団でまともに立っている数が10体を切った段階で、その集団の中に切り込んでいった。
竜は、剣でゴブリンを斬り殺すかたわら、『氷杭』を扇状起動して一定方向のゴブリンを足下から貫き重傷を与えつつ足止めする。
そして、剣を振るタイミングと斜線が一致するように位置と動きをコントロールして、対面するゴブリンの後方にいる個体に『石槍』を放つ。さらに次の瞬間には左手からの『雷撃』で他の方向の個体を撃っている。
竜は接近戦における、剣による攻撃と魔法による範囲攻撃・単体攻撃を完全にマスターしていた。
今回の場合は、敵がゴブリンという弱いモンスターだった事も有るが、オーク程度までならば同じ数でも同様の手段で殲滅可能だろう。
これをなさしめているのは、先ほど言った竜の身体的な成長と、そして新たなる補助マジックアイテムである『レーザー・ポインタ』の存在だった。
この『レーザー・ポインタ』は、銃などに取り付けられている照準を補助する物と全く同じだ。
元々は、いわゆる殺人光線的な意味のレーザー光線を光のマジックアイテムで実現できないかと試行錯誤したのが始まりだった。
光系のマジックアイテムには二種類が存在している。一つは家庭用に使用されている照明のマジックアイテムと同じタイプで、もう一つが光魔法をマジックアイテムとして再現した物だ。
家庭用の照明は、オドとマナを使って作り出したエネルギーを、そのエネルギーによって光を放つ物質に導線を使って流し込む事で機能している。これは、光魔法とは全く別の原理によって成り立つものだ。
マジックアイテム自体の価格と、魔石からのエネルギー変換効率の関係から、こちらの形式の方が安上がりな為、一般家庭に置いては大半がこちらを使用している。
光魔法再現型は、価格は高いが、高い光度が出せるため広い部屋や一定以上の明るさを必要とする場合に使用される。
そして、竜がレーザー光線を再現するために使用したのは、この光魔法再現型のマジックアイテムだった。
ただ、竜は高校一年生であり、然程科学系の知識を持っていない。その為、彼の知識にあるレーザーとは、中学時代の理科担当教師が語った「波長と位相が完全に一致した光」と言う事だけだった。後はその際黒板に書かれた複数の正弦波図式だけだ。
僅かにそれだけの知識ではあったが、竜には『リペア』が有った。『リペア』のエネルギーを『見る』力が有った。
その『見る』力によって顕現させた『光』を随時確認して行き、その波長と位相の変化が一致するように出力部を変化させトライ&エラーを繰り返し、約三ヶ月ほどの時間を掛けて、レーザー光線といえる物を完成させた。
レーザ媒質も用いず、基底→励起→自然放出→誘導放出と言うレーザー発振原理すら経ずにマジックアイテムとしてレーザーそのものを顕現させた訳だ。
ただ、残念な事に、漫画やアニメに出てくるほどの高出力なレーザー光線を作り出す事は出来ず、最大でもある程度時間を掛けて溶接に使えると言うレベルだった。しかも、その出力だと、あっという間に魔石を使用しきってしまう。
つまり、武器として使い物にならなかったという訳だ。
だがそこで、映画などでよく見られる銃のレーザー・サイト/ポインタの事を思い出す。
そして、今まで目視と脳内マップ連動で照準していた左右の籠手の攻撃魔法に利用できないかと考えた。
後はさして時間はかからなかった。左右の籠手に必要最低限の出力に成るようにこの『レーザー・ポインタ』の魔法回路を書き込み、その射線と攻撃魔法の射線を完全に一致させるだけで済む。
一応、左右同時に使用する際に混乱しないように、右と左のレーザーの色を変え、左を赤にして右を緑に変更する。
そして、この起動用のスイッチも、防具の『維持力』スイッチと共にスイッチだけを並べた器具を別途作り、それを左手に握って操作するように変更した。
その際、射線を一致させた事もあり、同じ左籠手が放つ『雷撃』と『氷杭』の同時使用が意味を成さなくなった。それぞれの照準先の意味が全く違うためである。
その事はマイナスポイントとなったが、実際に試してみると別件で予定外の利点も生まれている。それは、『雷撃』射程の延長だった。
『雷撃』は射程が思ったよりも短く、20メートルを超えると一気に拡散してしまうのだが、『レーザー・ポインタ』と共に放つと30メートルまで拡散せずに届いたのだった。
これは、二つの魔法が干渉する事で何らかの作用が生まれた可能性も有る。また、低出力とは言え、レーザーが空気中を通る事で、その経路に雷の通り道が出来る事による誘雷現象が若干でも影響したのかもしれない。
実際のところの原因は竜には分からない。ただ、竜にとっては有りがたい効果が実際に発生していると言う事だ。
竜は、この『レーザー・ポインタ』を戦闘中に使用する事で、今までは目視でだいたいの照準を付けて攻撃を放ったり、脳内マップで視覚情報を3D化して手の甲の延長線上に引いた仮想のラインを照準にする必要がなくなった。
特に、精密射撃のために脳内マップを使用すると、それは脳の処理能力を多く使用する事になり、せっかく無駄な思考を排除する事で得た脳の処理能力を著しく落とす事になる。これが解消された事は大きかった。
特に高速な情報処理が必要な近接戦闘に置いては、多大なる恩恵を与える事になる。
竜はその恩恵を最大限に利用して、接敵から僅か30秒ほどで16匹全てのゴブリンを殲滅した。
そして、魔石の回収を終えた竜は、その血でぬれた手と装備を川で軽く洗うと、そのまま探索を続ける。
家の手直しが終了するまでの間は、この様な形でこの森での探索活動が実施された。




