22話 オド
竜はエーテル体に関する問題が発覚した後も、自身では使う事が出来ない『身体強化の腕輪』の解析は実行した。
このマジックアイテムが使用出来ないにせよ、この解析によって得た知識は今後に役立つとの考えでだ。
また、自身のエーテルが無いのでは無く、周波数や位相的なモノが違うため作用する事が出来ないと言う可能性も有り、そう言った値を変更出来ないか、と言う思惑もあった。
だが、この事を検証するとなると、当然ながら竜自身が自分の身体を使って確認する以外ない。
『隷属の首輪』のごとく、アストラル体に影響を与える事で意識の希薄化が起こるように、エーテル体に影響を与えれば肉体に何らかの変化を生じる可能性が有る。
そして、その変化がバフの様に良い形で現れれば良いが、衰弱や病気、最悪は心停止などが起こる可能性も有る。
その事を考え、結局は他のマジックアイテムのように出力部などを不規則に変化させて実証していく事は実施しなかった。
その為、このマジックアイテムに関しては、検証後の最終的な改造は、燃費の向上と出力の向上のみと成った。燃費が3.5倍、強化率は2.5倍だ。
出力に関しては実際に検証できない為、出力されるエネルギーを『リペア』で『見』た値からの推測なので実際の値とは違うだろう。それでも2倍を切る事は無いと思われる。
この改造済み『身体強化の腕輪』は売却する事は出来なくはないが、確認がかなり面倒な事になる事が予想された為そのまま『次元収納』にしまわれる事になった。いつか役立つ日が来る事を祈りつつ。
そして、その後に竜が購入したのは『土壁の籠手』だ。価格は30万円だった。
改造『氷塊の腕輪』を売却した残と、今日までの貯蓄からなんとか捻出した。
この『土壁の籠手』は今までの戦闘用マジックアイテムと少し違う。
今までのマジックアイテムが、マナとオドによって炎や氷、電撃などを作り出していたが、このマジックアイテムは自然界に有る土を変形させる物である。
魔法における『元々存在する同一属性の物質を操作・変化させることが出来る』と言う部分をマジックアイテムで再現したモノだ。家庭用の『温風機』における風の制御部に近い。
ただ、これは魔法として使用する場合のように、イメージとして自由に造形出来る訳ではない。
前もって設定している形状で、設定している相対位置の地面にのみ造形出来る。
このマジックアイテムの場合は、名前の通り土の壁を作り出す訳だ。
このマジックアイテムは、使用者ではなくマジックアイテムの位置を基準として設定された相対位置に、設定した向き・形状の土壁を発生する為、籠手の位置・向き・地面の状態を把握した上で使用する必要がある。
そう言った意味では、かなり使いづらいマジックアイテムだと言える。その為、籠手サイズのマジックアイテムとしてはかなり安い価格になっている。
また、このマジックアイテムで作成した土壁は、魔法で形成した場合と同様に一定時間は形状を保つが、それを過ぎると強度が著しく落ちて、構成する材料によっては自壊する場合も有る。
無論、魔法によって顕現させた物質ではなく、その場に存在する土を変形させたのもなので、消えて無くなると言う事は無い。
このマジックアイテムの分析と改造には、今までのマジックアイテムとは若干違う魔法回路が使われている為、20日程の時を必要とした。
実証が宿屋内で出来ない事も、時間が掛かった理由の一つである。
だがその甲斐あってか、この籠手はかなりの改造を成せた。
先ず、元々の土壁を作る際の圧縮率を高める事で、土壁自体の強度を上げ、さらに形成した形状を維持する力も強める事で二重に強度が上がった。
そして、当然ながら魔石からオドを抽出する回路の高効率化と、各回路の不純物を除去する事で燃費も4倍ほどに上がっている。
その上、今回は初の試みとして、回路自体を縮小する事によって余った魔導回路の材料を使用して、もう一つの機能を追加した。
それは、石の槍を顕現させて打ち出すのもで、籠手に組み込んでいる事から、単独で呼ぶなら『石槍の籠手』とでも言うべき物だ。
これは土属性に関する材料は今回の『土壁の籠手』の余りを使用し、それ以外は今まで改造した『氷塊の腕輪』や『雷撃の籠手』の余りを利用している。
魔法回路自体は、殆ど『氷槍の腕輪』と同じで、属性に関わる部分だけを土属性用の材料に変えただけだ。
この『土槍』と元々の『土壁』を同じ籠手に縮小して組み込んである。エネルギー源の魔石は共用だ。
起動スイッチは別々に分けており、個別または同時に起動を可能としている。
さらに、元々この手の籠手型マジックアイテムのは予備武器という考え方からなのか左手用ばかりなのだが、あえて『リペア』で形状そのものを変化させて右手用にしている。
それは、すでに『雷撃の籠手』が左用として存在しているからだ。
つまり竜は、このマジックアイテムも売却せず自身で使用するつもりだと言う事になる。
竜にとっては『身体強化の腕輪』が使用できなかった事がかなり痛かった。
今回の魔改造は、現状を踏まえた上で何とかしようとした苦肉の策だと言える。
この『土壁と石槍の籠手』とでも言うべきマジックアイテムは、基本防御用として『土壁』をメインとして使用する予定である。
ただ、攻撃用の『雷撃の籠手』が魔石切れなどになって攻撃が出来ない状況で、別の攻撃手段として『石槍』を保険として持たせている、と言う考え方だ。
敵の数が多くて、接近戦になるまでにある程度数を削っておきたい時で、なおかつ『雷撃』が使えないという状況でしか使う予定はない。
滅多に無い事ではあるが、絶対に無いと言える状況でもない。そのもしもを想定するかしないかで最終的な生存率が変わる。
過去すでに多くの失敗をして来た竜としては、想定出来る範囲内においては出来る限り対処したいと考えている。
ところで、竜は自身の『エーテル体問題』を認識した訳だが、それによってアストラル体も同様で有る可能性も想定出来た。
そして、さらにその考えを突き詰めれば、竜の身体にはオドも存在しない可能性も有ると言う事が考えられる。
元々の世界に、オドと言う存在は確認されていない。で有れば存在しなかった可能性が有り、竜はオドすら有していないと言う事だ。
このオドと言う物は、魔法などに使用した際一定時間で回復するのだが、そのプロセスはまだ解明されていない。
『風の旅団』のミレイ嬢は「体内で形成される可能性と、大気中から吸収している可能性が考えられているの」と言っていた。
竜の場合は、体内にこのオドを形成する機関または魔法回路が無いか、大気中か吸収する機関または魔法回路が存在しない可能性が有る訳だ。
このオドの有無に関しては、体内オドを使用するマジックアイテムを使用すれば直ぐに分かるのだが、オド使用型マジックアイテムは一般的にほとんど販売されていないため確認は容易ではない。
このオド使用型マジックアイテムが販売されていない理由は、オド吸収回路が一定サイズ以上になる関係で価格が高く、さらにオドを使い切ってしまった者は気絶という形で意識を失うと言う問題がある為だ。
気絶問題はともかくオド吸収回路が安価であれば、『着火』などと言った連続使用しない家庭内で使用するタイプのマジックアイテムとしてなら、十分なニーズがあるのだが……
こう言った現状である為、竜がオドの有無を確認するのに使用出来るマジックアイテムと言えば、現状では『隷属の首輪』一択となっている。
だが、もし竜にオドがあり、そしてアストラル体も通常の形で存在していた場合、彼の意識は希薄となり自身で『隷属の首輪』を外す事が出来なくなってしまう。
他の者に監修して貰いながら行うとしても、よほど信頼出来る相手で無い限り任せられない。そして、残念ながら現在竜にはそこまで信頼出来る者が存在しない。この世界にも、元の世界にも……
もし、竜が単独でオドの有無を確認しようとするならば、『隷属の首輪』を入手してオド吸収回路を単独で起動するように改造する必要がある。だが、その前提となる『隷属の首輪』の管理はかなり厳しく、一般人が所持する事は許されていない為、実現は厳しい。
そして実は、この、竜の『オド問題』が事実であったとすれば、それによって導き出される物がもう一つある。
無論、これは仮定の上に仮定を積み重ねた物ではあるが、事実であれば、魔法・マジックアイテムに関する革命となり得るモノだった。
それは、以前『風の旅団』のミレイ嬢が、この世界の一般人と竜の体内魔法回路を比較する事で抽出した『成長の加護』の魔法回路に、このオド生成もしくはオドを大気中から吸収する魔法回路が含まれている可能性が有ると言う事だ。
もしこれが単独で抽出できて、マジックアイテムとして作る事ができたなら、マジックアイテムに魔石が必要なくなる。
そして、魔法を使用する者の体内オドの回復量も何倍にも高める事も可能となるだろう。
場合によっては、その魔法回路によって生成もしくは吸収したオドを魔石という形で保存しておくと言う事も可能になるかもしれない。
そこまで行けば、完全に魔導革命である。
だが、この事は間違いなくその可能性を秘めていた。
無論、体内魔法回路をマジックアイテムに落とし込む事は簡単では無く、場合によっては不可能な物も存在する。
特にこのケースに置いては、既存の物と全く違う物であるだけに、簡単にはいかないだろう。だが、実現の可能性は有る。
そして、この事実を竜が告げない限りは、その可能性は圧倒的に少なくなるだろう。
この、一般人の生活までを一変させ得る可能性を持つ事を、竜はミレイ嬢に伝えて検証する気は無い。
理由は、『加護』が無い事まではまだしも、オドすら無いとなると流石におかしいと判断される可能性が有るからだ。
魔法系の『加護』を持たない者でも、この世界の住人全てはオドを持っている。所持量は圧倒的に魔法系『加護』持ちには負けるものの、一定以上は間違いなく持っている。
それは、図らずも『隷属の首輪』が示していた。オド吸収型の『隷属の首輪』が作成されて以降、一度として効果が発揮しなかった者は居ないという事実によって。
それ故に、竜は異常と判断される可能性が高い。『加護』のみならずオドまで無いとなると、おかしいと言う範疇では無くなるだろう。
このオドは、完全に消費する事によって意識を保つ事ができなくなる。つまり、人が意識を保つ為に必要なエネルギーであると言う事になる。
それがない状態で、普通に活動できる生命体は『人間なのか?』と、この世界の者は考えるかもしれない。
故に、竜は話せない。
このオドについては、オドを使用するタイプのマジックアイテムが入手でき次第、検証はする予定だ。
竜のインプラントである『リペア』の『見る』力が生命体に効果が有るなら、体内のオドの有無を見る事ができるのだが、非生物限定である為不可能だ。
元々、生命体ではない空気中に存在している状態のマナや、空気中に拡散したオドも『見る』事ができていない為、さらに別の条件が存在している可能性も有る。
何はともあれ、オドに関しては現状のまま放置するしか無い。
さて、『土壁の籠手』を改造し終えた竜は、現在の所持金では新たなマジックアイテムが購入できない為、マジックアイテムの解析は当分できなくなった。
その代わりに、現在持っている『雷撃の籠手』と『土壁と石槍の籠手』を使用した戦闘方法を確立しようとしている。
これまで竜は、牙犬などの様に集団で襲いかかってくるモンスターとの戦闘を避けてきた。それは単純に、それらに対処できなかったからだ。
だが、雷撃と言う遠距離攻撃の手段と、壁を作成できる防御能力を手に入れた事で、それが可能になったと考えている。
当然直ぐには使いこなせる訳も無く、現在最も良い使用方法を模索中である。
その訓練の場として使用したのは、西の草原だ。
この西の草原は、辺境への入り口と言う事で、比較的高レベルモンスターが多かった為、竜には街周辺しか実質探索できなかった場所である。
他の方位は、草原部分は殆ど探索しており、探索していない場所は森と湿原部分だけだったが、『雷撃の籠手』と言う遠距離攻撃手段を活用する為には見通しの良い草原部分が良かろうと考え、西平原を選択した。
そして、目的はマジックアイテムの慣熟訓練では有るが、当然インプラント探索も実施しする。
ただ、かなり長い期間インプラント探索を実施していなかった関係で、インプラントが発する『違和感』を以前のように感知できる自信が無く、以前より狭い範囲のローラー探索となっていた。
本来はインプラント探索を実施しない方が効率が良いのだが、どうしても未探索エリアとなるとインプラントへの拘りが再発してしまう。
そして、『新たなインプラントが見つかれば、戦闘能力や探査力が圧倒的に上がる可能性が有り、盗賊狩りにも役立つ』と言う自身への言い訳が、その拘りを正当化させてしまっていた。
その様な形で、二兎を追う者となっているが、今のところ問題なくやれているようだ。
竜は『雷撃』を惜しみなく使用している。モンスターが複数で有る場合は、先ず遠方から『雷撃』を加え、全てもしくは殆どを動けなくしてから接近して短剣を振るった。
モンスターによっては『雷撃』のみで死亡するモノもいるが、大半は気を失うか動きが鈍くなるケースが多い。死ななくてもそう成れば後は竜の身体能力でも簡単に殺せる。
通常は魔石の燃費的な問題でそれほど頻繁に使用できないのだが、竜の場合は魔改造品である為、通常品の3.5倍使用できる。
また彼は、ソロである為、殺したモンスターから取り出した魔石をそのままマジックアイテムに使えると言う事もある。
パーティーであれば、入手した魔石は全員のものであり、個人のマジックアイテムに使う為には他の者達の了解が必要となる。たとえそれが戦闘に使用するものであるにしてもだ。
そう言った事を気にする必要の無い彼は、最大5個入る魔石マガジン内が3個になった時点で新たな魔石を補充するようにしている。
当然魔石による収入は減るのだが、その分今まで倒せなかっモンスターを殺して、いくつかの売却可能部位も入手出来ている為、トータルとしては十分にプラスになっていた。
とこで、モンスターの売却可能部位だが、ゲームや小説ではほぼ全てのモンスターに売却可能な部位が有るケースが多い。
だが実際は、売却可能部位を持つモンスターの方が圧倒的に少なく、しかも売却可能部位の半数以上は『肉』だったりする。
モンスターの牙だの角だの爪だの針だのが、全て売れるなんて事があるはずが無い。
ゲームやその手の小説であれば、『錬金術の素材として…』使えるから買い取りが実施される、と言う設定のようだが、この世界にはそこまでとんでも能力を有する錬金術は存在しないため、ありとあらゆる物を買い取ってくれるような事は無い。
竜が今まで入手してきた売却可能部位は、『地虫の尾』『斑蜘蛛の糸の元』『牙ウサギの肉』『岩猪の肉』だけで有る。
『地蜂の蜂蜜玉』はモンスターの身体の一部では無いので、薬草などと同じカテゴリーにしている。
ちなみに、西草原で頻繁に襲われる『牙犬』に関しては、肉は食えない事は無いがかなり臭い為買い取られず、皮もゴワゴワしている為服飾にも使用できない為買い取られない……つまり魔石しか得るものが無い。
ただ、この『牙犬』が人間以外で食料にしているのが『牙ウサギ』であり、『牙犬』が居るという事は『牙ウサギ』も居るという事で、その分の損失を『牙ウサギ』で賄えている。
この『牙ウサギ』はモンスターでは無く動物なので、人間に襲いかかってくる事は無い。その為、逆に捕まえたり殺したりする事がかなり難しい。
通常は弓矢などで射るのだが、竜の場合は『雷撃』を使って遠距離から殺している。
駆け出しの魔法系加護持ちが魔法を使うならいざ知らず、攻撃魔法系のマジックアイテムで『牙ウサギ』を採る者はまずいない。費用対効果的に割に合わないからだ。だが竜の場合は燃費が3.5倍なので、十分に元が取れる。
他の者と比べて、圧倒的にマイナス条件の多い竜だが、こう言ったプラス条件を積み上げる事によって、なんとか他の者達と同等の成果を上げられている訳だ。
ただ、この事を他の冒険者に言ったとしたら、「『次元収納』がある時点で、お前の方が圧倒的に有利だろう!!」と言われるかもしれない。この世界の冒険者達にとって最も手間が掛かる事が、獲物(主に肉)の運搬だからだ。
無論、一般に開示できれば──と言う事ではあるが……
竜の場合はインプラントを開示できない為、ダミーとして背負子籠を購入しており、門の出入り時にはこれをしょって誤魔化している。
この背負子籠の容量の関係で、『次元収納』で有ればそのまま入れられる『岩猪』をあえてバラして複数の肉屋に売却しなくてはならなかったりもする。
(この世界にアイテムボックスや魔法の袋的なモノがあれば……)
そう嘆く竜だが、他の冒険者は、棒などに括り付けて二人がかりで担いで運搬する事を考えれば、不自由ではあっても遙かにマシだろう。
西草原でマジックアイテムの慣熟訓練を行いつつ、インプラント探索を実施していた竜だが、この日、初めて『スライム』と対峙する事となった。
現在では、ゲーム等に置いては最下級の雑魚として位置づけられている『スライム』だが、元々はその様な事は無かった。
現在のコンピューターRPGの前身たるTRPGに置いては、雑魚では無く難敵として設定されているケースが多かった程だ。
そして、この世界の『スライム』も『ヒノキの棒』で倒せるようなモンスターでは無く、外観も可愛げなど皆無な『アメーバー』ないしは『粘菌』と言った姿をしている。DQタイプでは無くWizタイプだ。
この『スライム』は基本は森に生息し、樹上から獲物が通るのを待ち、覆い被さって捕食するモンスターで、草原に現れる事は滅多に無い。
しかも竜が遭遇した場所は、森から2キロ以上は慣れた場所で、周囲に木すら殆ど無い場所だった。
その為、岩に擬態していたそれ気づいたものの、直ぐには『スライム』で有るとまでは分からなかった。
だが、違和感を感じた段階で即座に『雷撃の籠手』を使用する。
魔石の消耗を然程気にしなくて良い竜は、マジックアイテムを使用する事に躊躇する事は無い。
左手人差し指の第二関節横面に作られたスイッチを親指で押すと、手の甲上部に直径3センチ程の雷球が発生し、1.5秒程の充電の後放たれる。
この1.5秒というタイムラグは小さくは無いが、元々が2秒から2.5秒ほどだった事を考えれば、かなり改善されていると言える。
そして、放たれた雷撃は一直線に進み、岩に擬態したそれに直撃した。
直撃を受けたそれは、瞬時に色を透明に変え、空中に薄く大きく広がると、そのまま裏返った様な形で地面へと落下した。
その変化によって対象が『スライム』で有った事に気付いた竜は、驚きつつ再度雷撃を放つ。
だが、その雷撃は全く効果を成さなかった。地面に広がった『スライム』はすでに死んでいたようで、表面を覆っていた細胞膜のような物が完全に破壊されており、体液とでも言うべきジェル状の物質が地面に広がっている。
この世界の『スライム』は打撃や斬撃には強いが、魔法にはかなり弱い。
だが、この世界の魔法使いたる『魔法系加護持ち』は然程多くはなく、4~5組のパーティーにやっと一人居れば良い程度の数だ。
その為、大多数の初心者冒険者パーティーにとっては天敵とも言える存在だった。
そんな彼らの対処方法は、松明等による火を使った攻撃か、専用の溶剤を使って表面の細胞膜を破壊するかしかない。
だが、火は生息域が基本森である為火事の危険があり、専用の溶剤(スライム溶解液)は1本2000円と言う価格の為費用対効果が悪い。
これがある程度レベルの高い冒険者であれば、圧倒的なスピードによって切り刻む事で細胞膜の再生を許さずに殺す事が可能だが、低レベルの者には不可能である。
当然レベル5相当の竜にも不可能だ。
(時々居るから気を付けろってイスミさんから言われてたけど、ホントに居たな…… と言う事はまだ居る可能性が有るか)
竜は冒険者協会の窓口嬢から、生息域外に居る可能性の有るモンスターについても説明を受けていた。
それが『スライム』『ゴブリン』『斑蜘蛛』だった。
『斑蜘蛛』に関しては、季節によって発生する年中行事だが、『スライム』と『ゴブリン』は規則性無く希に現れ、『ハグレ』と称されるようだ。
そして、雌雄同体で自己分裂にて増殖する『スライム』に関しては、一匹居たら5匹は居ると思え、と指導された。
表現方法としては、ゴキには及ばないが、それでも複数が居る可能性を示唆している。
そして、今まで以上に警戒して探索を続ける竜が、そのおかしな地面を見つけたのは5分後の事だった。
その地面は5メートル四方が10センチ程盛り上がっており、全体に草が生い茂っているように見える。
だが、その草の生え方に立体感が無く、絵に描いたような、もしくは草の絵の描かれたテクスチャを貼り付けた様な感じで、よく見れば間違いようが無いモノだった。
当然、即座に雷撃を飛ばすと、前の相手同様一撃で死亡した。
元々電撃に弱いのか、竜の改造した『雷撃の籠手』の威力が強いからなのかは分からない。冒険者協会で教えられたのは『魔法に弱い』と言う事だけで、属性に関しては教えられなかった。
どちらにせよ、一撃で殺せる事には変わりは無い。
端から見れば、実にあっけない結果ではあるが、『雷撃の籠手』が有るおかげであり、無ければ全く太刀打ち不可能な相手である。
その他力たる『雷撃の籠手』を使い、その後周囲でさらに5匹の『スライム』を殲滅した。
『スライム』自体は魔石以外は買い取り対象ではない為、益は少ない。
だが、竜の表情は明るい。
自力では対処できないモンスターを、自分で魔改造したマジックアイテムによって倒せるようになっている、その事が嬉しいのだ。
これによって、どれだけの強さが加算されたかは分からないが、確実に今までよりは上の戦闘力を手に入れたのは間違いない。
停滞していた現状が確実に覆され、少しずつではあるが前に進んでいる事を実感できている。
まだ『土壁』を使わなくては成らない状況には至っていない。と言う事は、現状でもまだ余裕があると言う事でもある。
(もう少しだ、もう少し戦える力を身につけるまで我慢だ。まだいける。俺はまだ強くなれる)
竜は自身の可能性を信じ、焦る気持ちを抑えて訓練を続けていく。




