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10話 マジックアイテム

 切っ掛けと言うヤツは、人により状況によって全く違う形で現れる。

 今回竜の場合は、西草原地帯を探索し始めて6日後の事だった。途中雨で2日間探索できなかった為、探索日数で言うと4日と成る。

 その日、ギリギリではあるが規定量の『地虫の尾』を納品して、翌日の朝食・昼食を購入しいつもの定食屋で日替わり定食を食って宿屋に帰ってきた時の事だ。

 いつも通り、薄暗い部屋に入るとドア横の照明用スイッチを押した。このスイッチは天井に設置されて照明魔道具の一部で、スイッチと魔石投入孔の機能を持っていた。

 一昨日前に新規の魔石を入れたばかりなので、当然スイッチを押せば照明が点くはずだった。……だが点かない。

 一瞬、球切れ? などと考えてしまったが、この照明用のマジックアイテムは当然のごとく白熱電球でも蛍光灯でも無い。

 『球』に値する物が『切れる』物なのかどうかは彼は知らない。

(壊したと言われて修理代を取られる可能性って有りそうだな……)

 日本ならこう言った事は先ず無い。だがここは異世界だ。しかも治安の悪い異世界だ。

 以前の加護確認の際のマジックアイテム故障(実際は違ったが)の際と同じ心配をしてしまうのも仕方ない事ではある。

 しばらく、どのような言い訳をするべきか、もし修理代を請求された場合幾ら位を求められるか、などと言った事を考えていたのだが、腰に()いた剣が壁に当たった瞬間『リペア』の存在を思い出す。

(家電品や道具はどうにでも出来るけど、マジックアイテムってリペアで直せるのか?)

 この『リペア』は自動的に修理できるような機能は無い。有るのは『対象を見る機能』『対象を物理的に操作する機能』の二つだ。

 対象を見る機能とは、機能や構造分析する能力などでは無く、カメラや顕微鏡などで見るのと同じで、ただ見えるだけだ。違いと言えば、表面だけで無く内部まで見ることが出来ると言う事だけだ。

 そして、対象を物理的に操作する機能は、これまた単純に『見た』物を移動したり変形させたり出来るだけだ。ただ、その範囲が目視レベルから分子レベルまでだと言う事に過ぎない。

 つまり、扱う本人()にマジックアイテムの構造・機能に関する知識が無ければ、どこが故障しているかすら分からない可能性が高いと言う事だ。

 一般人が、壊れたテレビの基盤を眺めても故障原因など全く分からないのと同じだ。仮に半田ゴテやテスター、シンクロスコープなどが有ったとしても、知識無き者には意味が無い。

 そう言った理を理解している竜だが、ダメ元と言う気持ちでスイッチ部を『リペア』で見る。

(おいおいおいおい……)

 内部構造を『見』た瞬間、故障の原因が分かった。

 そして、このマジックアイテムの大まかな構造が、異常に単純で有ることも理解できた。

 何はともあれ、竜はスイッチ上部と魔石投入孔の間の壁を拳でドンと叩く。そして、その2秒後には室内はいつもの通りの明るさを取り戻している。

 何のことは無い、投入された魔石がきちんと下まで落ちきっていなかっただけの事だ。

 このスイッチユニットは、下部に魔石を受けてそれをエネルギーに変換するユニットらしき物が有り、その魔石と変換器をスイッチから出ている突起で物理的に切り離す事でOFF状態を作り出す構造になっていた。

 つまり、OFF状態にされた段階で内部のバリによって魔石が下に落ちない状態になっていただけの事だ。

 やってみれば10秒で解決する案件だった訳だ。

 この問題は解決した。だが竜は、解決と同時にマジックアイテムの構造と言う物に興味を持ってしまった。

 一旦、皮鎧などの装備を全て外し、身軽な状態にした上で再度スイッチ部を詳細に『見』ていく。

 スイッチ構造は物理的な物で竜にもハッキリ分かる構造だったが、その下の魔石を受けている部分は全く意味が分からなかった。

 ただ、電気の基板やCPUの内部パターンに似た感じだと思った。無論、CPUはもとより電気基板程の複雑さは無いのだが、膨らんだ複数の部分を配線が規則正しく繋ぐ構造がそれと似て見えたのだった。

 一旦そこまで確認した竜は、その『基板』から壁内を伝って天井へと繋がっている一本『線』をそのままたどっていく。

 その『線』は天井内を通り天井に設置されている30センチ×20センチ程の白い発光板へと繋がっている。

 天井の発光板にはスイッチ部のような『基板』は無く、白い発光板に『線』が繋がっているだけだった。

 その発光板も内部を確認すると、複数の物質が混ざっているようだが、機能しているのは8割方をしめている物質で、『線』を通して送り込まれた何らかのエネルギーに反応してその物質が発光しているだけの物のようだ。

 魔石が電池・燃料・エネルギーと考えれば、構造はある程度推測できる。

 スイッチ部分の基板がエネルギー抽出器で、もしかしたらエネルギー変換器の機能も有しているかもしれない。

 後はそのエネルギーを『線』を通して発光板へと送り、発光板内の発光物質に反応して光を発生する。それだけの構造だ。

 『基板』自体の構造も簡単では無いが、複雑怪奇と言う程でも無い。

(勉強できればある程度の構造は直ぐに理解できるんじゃ無いかな?)

 そう思わせるレベルの作りだった。

 この世界は、マジックアイテムで成り立っている。元の世界における電化製品がマジックアイテムに置き換わったような物だ。

 その為、意外な程文明レベルは高い。ガスコンロや冷蔵庫、クーラーや暖房機、印刷機などにあたる物もマジックアイテムとして存在している。

 なぜか乗り物系のマジックアイテムだけは存在していないのだが、モーターやエンジン的な物を作り出す事が出来ないのだろうか?

 もしくは、そう言った発想がまだ出来ていないだけという可能性も有る。

 この時点で竜が考えたのは、マジックアイテムの開発云々では無く、マジックアイテムの修理も出来るのでは?と言うものだった。

 無論、先ずは最低限の知識が必要ではあるのだが……

 その知識を得る事が可能かどうかは分からないが、この日この時をもって彼の未来に僅かなりとも光が差したのは間違いない。

 元の世界でインプラントを得た際と同様の光がまた差した訳だ。

 竜はこの事に気付く切っ掛けを与えてくれたスイッチ部のバリに感謝するのだった。



「マジックアイテムですか?」

 思いっきり怪訝な顔をする冒険者協会の窓口嬢を見て、また『やっちまったかな』と顔に出さずに思う竜だった。

 昨日の照明用マジックアイテムの故障に伴い、マジックアイテムの製造やその原理に興味を持った竜は、そう言った知識を身につけられる本や場所が無いか、いつものように冒険者協会の窓口嬢へ尋ねに来ていた。

 一応、TPOを考え時間帯をずらし、冒険者達がはけた時間に来ている。

 その上で尋ねたのだが、『何を言ってるんですか? この人は?』と言う顔をされ、その直後『困った人ですね…』と言う顔に変わっている。言葉には出していないが、10人中8人がそう理解できる表情と仕草だった。

 それでも、あきれ顔をしつつ彼女は説明をしてくれる。

「マジックアイテムの作成は高度な技術が必要で、ほぼ国が管理している工房でしか作成されていません。当然それにまつわる技術も公開されている物は無いのですよ」

「照明用やコンロとかの一般家庭用もですか?」

「はい、その通りです。一応、そう言った一般家庭で使われるような品につきましては、工房委託の一般業者は存在していますが、それらは設置が主な仕事で僅かながら初歩的な修理が出来る程度です。技術的な物は殆ど持っていないと思います。もちろん、仮にそう言った技術知識を持っていたにせよそれを他者に教える事は無いでしょう」

 一夜にして生まれた夢が、あえなく潰えた瞬間だった。

「本とかで解説されているとかって言う事は…」

 それでも諦めきれずに尋ねる竜だったが、答えはにべも無いものだった。「有りません」と……

(だけど、おかしいんじゃないか? この世界のマジックアイテムは元の世界で言う家電品などにあたる物だろ。それだけの数が販売されているのに、国営工房が一手に扱える物なのか?)

(これが、どこぞの国が一手に握っていて、門外不出と成っているってのなら分からんでも無いけど、各国に普通にあるとしたら、技術書的な物が有ってもおかしくないと思うんだが……)

 実際、この世界は印刷用のマジックアイテムなんて物が存在し、その為に印刷物はかなり一般的に出回っている。書籍が貴重品で高い価格で販売されているなどと言う事は無い。

 であるならば、マジックアイテムの技術書的な物が有ってしかるべきだろうと竜は考えたのだが、それはあくまで日本の常識をベースにした物だった。

 窓口嬢はあえて語らなかったが、国立工房に技術を集約しているのは、貴族の権益を維持する為のものだ。

 この世界は、モンスターなどの脅威が身近に有る関係上それらに対する事が国に求められ、その為に多くの予算を割かざるを得ない。

 当然、貴族だろうが王族だろうがその義務を果たす事が求められる。その義務を果たさなければ、その国なり領地なりから住民が居なくなるのだから。

 だが、それでも貴族・王族で有る以上は一定レベルの贅沢を求めるのは必定。その為の権益が『マジックアイテムの製造販売』と言う事なのだ。

 こう言う事は、知っていても彼女たちは公の場では口にする事はない。

 その為、竜の中には納得できない感情が残ったままと成ってしまった。

 この時点で、仕方が無い、と諦めるのが一般的な者だろが、竜はインプラントへの異常な拘りでも分かるように少し諦めが悪かった。

 竜は、自分の中に射した希望の光に関する事には徹底的に拘るタイプだった。インプラントがそうで有ったように、今回はマジックアイテムがそれだった。

 その日から、西草原の探索をしつつ、宿に設置されている色々なマジックアイテムを『リペア』で『見』て廻る。

 コンロのマジックアイテム、井戸ポンプのマジックアイテム、送風のマジックアイテム、暖房のマジックアイテム、冷房のマジックアイテム、湯沸かしのマジックアイテム。

 宿屋だけで、照明用マジックアイテムを除いても6種のマジックアイテムが存在していた。無論、竜が気づかない所にはさらに別種も存在する。

 それらを『見』て、買ったノートに書き写していく。

 書き写したのは、構造と、各部の材質だ。材質に関しては名前の分からない物が大半だが、仮の名前をアルファベットで付けて各マジックアイテムの『基板』構造の共通点を調べていく。

 その共通点から、『基板』内のパターンを機能別に大まかに分ける。そして、各マジックアイテムの機能から、その各パターンの機能・意味を推測していく。

 そうやって行くと、全ては推測の範囲では有るが、ある程度マジックアイテムの構造が分かってくる。

  ① 魔石からエネルギーを抽出する機能

  ② エネルギーによって事象を発生させる機能

  ③ 発生させる事象に指向性、調整などの変化を与える機能

 大まかにこの3つがある、と竜は考えた。

(だけど、どうも、魔法を発生させる機能辺り違和感があるんだよな…… そもそも魔石って何だ? エーテルとかアストラルとかの結晶って事か? 魔法はアストラルが関わってくるとかって言ってたからアストラルの結晶? ……インターネットが欲しい)

 色々調べれば調べるだけ疑問が大きくなり、自分が無知である事を実感していく。そして、直ぐに検索という形で大半の情報を知る事が出来た元の世界のありがたさを思い知っていた。



「また、あなたですか。今度は何でしょう?」

 竜は別段狙った訳では無い。たまたま開いていた窓口が前回マジックアイテムに付いて尋ねた窓口嬢だっただけだ。

 そして、他の冒険者が殆ど居ない時間帯であり、その手に依頼書の付箋を持っていない事から、彼女は、また何か変な事を聞きに来たのだろうと考えたのだ。

 当たりである。彼女の考えは正しかった。

「……何度も申し訳ありません。なにせ、無知なもので」

 色々と自覚のある身として、竜は素直に謝罪した。

 実際の所、竜は知らないのだが、この世界では情報は(かね)だ。尋ねてホイホイと無料で答えてくれるような事はほぼ無い。

 たとえそれが一般常識に当たる事だったにせよ、本人が知らないのであればその知識はその者にとっては価値のあるものとなる。故に有料なのだ。

 ならばなぜ彼女たちが彼に無料で今まで情報を提示してきたかと言うと、それはあまりにも無知すぎて呆れてと言う事と、屎尿処理に尽力してくれたから、と言う事が大きい。

「あの、また初歩的な事で申し訳ないんですが、魔法ってどう言う原理で実行できているのですか?」

 またあきれ顔をされると思ったのだが、以外にも今度はそうならなかった。

「魔法ですか? 確か竜さんは魔法は使えないはずですが」

「あ、はい、加護自体有りませんから。実は、マジックアイテムを独自に調べているんですが、よく考えたら魔法の事を全く分かっていない事に気づきまして……」

 そう言う事ですか、と納得した窓口嬢は少し考えを纏めるように考え込んだ後説明してくれた。

「先ず、魔法とは遍在するマナを人の体内にあるオドを使って事象とする行為です。マナは分かりますか? ……やはりですか、根本的な所から説明しましょう。

 マナとは、全ての根源だと言われています。説によるとこの世に存在するものの内魂以外は全てマナによって作られているそうです。

 ゲンシ? 何ですかそれ? 話を戻します。このマナは遍在、すなわちどこにでもあまねく存在しています。

 このマナを体内に取り込み、人の体内にあるオドと呼ばれるエネルギーと反応させる事によって魔法と呼ばれる現象が発生します。

 この際、各自が持つ加護の種類に応じた系統の現象となる訳です。水魔法系の加護でしたら水に準じた魔法現象に、火魔法系加護でしたら火に準じた魔法現象に。

 これは、加護によって魔法回路が人の身体に刻まれるのでは無いか、と言われています。

 逆説的に、加護とは人の体内に刻まれる同種の回路だ、と言う説を唱える者も居ます」

 竜は、彼女の説明を聞いて、やっと今まで感じていた違和感の原因が分かった。

(なるほどな。1つのエネルギーじゃ無く2つのエネルギーを使って、魔法現象を発生させている訳だ。だからあの回路に納得がいかなかった訳だな)

 彼は、マジックアイテムの回路を比較し、各機能ごとに回路パターンを分けて居たのだが、魔法を発生させる部分らしき所に漠然とした違和感を感じていた。

 元々、全ては推測だけの考察だった為、ある程度割り切っては居たのだが、それでもその違和感は根強く燻っていた。それが彼女の言葉によって解決した。

 だが、それと同時に、その事にも気付いた。

「あの、ひょっとしてですが、魔石ってオドですか?」

 当初は、魔石が魔法の元となるエネルギー体だと思っていたのだが、魔法を発生させる回路パターンが他のエネルギーを取り込む形で作られている事を今の会話で理解した事によって、外部からのエネルギー=マナで有れば魔石からのエネルギー=オドとなるのではと考えた。

「そうです。魔石はオドの結晶体だと言われています」

 教師が、理解した教え子に向けるような微笑みを浮かべる窓口嬢。

(遍在するマナ、体内のオド。マナって素粒子か? それとも全く別のエネルギー体? ……マナとオドが反応して魔法。酸素と水素で水が、みたいな事か?)

(マジックアイテムは、人の体内で行われる事を模したものって訳か。魔法回路……加護…… 加護が魔法回路と同等のものだとしたら、成長の加護と同じ物もマジックアイテムで作成可能って事に成るな。まあ、その回路パターンが分かればだけど)

 受付嬢に礼を言い、冒険者協会を後にしながら、竜は考察を続けた。

 ただ、彼は気付いていなかったのだが、窓口嬢が語る言葉の端々に『と言われています』と言う言い回しが使われていた。

 すなわち、確定した事項では無いものだと言う事だ。

 実際彼女が語った事は、一般常識化した推測であり、未だに研究者が検討を続けているものばかりだった。それらが実際正しいのか誤っているのかは不明である。

 故に、彼の考察も根本的に間違っている可能性がある事になる。

 確定されていない知識と、知識の無い素人の考察を元にさらに考察したものを元に、さらに考察しているのが今の彼の状態だ。

 その行為は、外部から見ると一見愚かな行為に思えるが、元の世界の科学なども同じ方法で考察と検証が実施されているものなので問題は無い。

 ただ、現状の彼では考察は出来ても検証が出来ない為、不確定要素だけが積み上がっている状態だが。



 マジックアイテムの研究は探索の合間を見てまだ続けられていた。

 そして、このほど竜は懐中電灯型のマジックアイテムを購入した。

 それは細かな部分を検証する為に、どうしても改造可能な品が必要だったからだ。

 要は、やっと検証の段階に入ったと言う事だ。

 その為、最も単純で最も価格が安いマジックアイテムである『投光器』と呼ばれている懐中電灯を選択した。

 この『投光器』は名前はともかく、形は握りの短い懐中電灯と思って差し支えない。そのままの形だ。

 構造も懐中電灯と同じで、電球やLEDに当たる部分が発光パネルになって居るだけで、ロート状の反射板とレンズ状の集光ガラスもはめられている。

 彼の検証は最終的な部分から遡って実行されていく。

 最初に確認したのは、発光パネルの素材の検証だ。発光パネルには複数の物質が含まれているのだが、最も多い物質だけが発光という現象を起こしているように思える。

 で有れば、他の物質は不要な物なのか、それとも触媒のような形で影響を与えているのかと言う事だ。

 それを検証する為、発光板内の物質を少ない順から取り出していく。無論、『手作業』に当たる行為なので無駄に時間が掛かる。

 だが、地道にそして確実に実行して、それが完了すると共にスイッチを入れて影響の有無を確認していった。

 結果としては、4番目に多かった物質と一番多かった物質の2つが必要で、4番目に多かった物質は発光を高める働きを持っている事が分かった。

 2種類の物質だけにした状態だと、余計な物質が無い為か、元々の状態より若干光量が多くなっていた。発光板内部に光を遮るゴミが無くなったと言う事だろう。

 次に検証したのは、発光板へと繋がる電線のような線だ。この線も発光板と同様に不要と思われる物質を抜いていく。

 今回は大半を占めていた物質以外は不要な物だったようで、電線の抵抗のようにマイナスの効果を与えていたものだった事も分かった。

 全てを取り除いた状態では光量が増えており、電気で言う所の電流が増えた事に成っているのかもしれない。

 その後は、各回路パターンの部分ごとに同様に不純物除去ととの影響を確認して行く。

 それらが全て終わると、今度は自分で分類した回路パターンが正しいか、各部で回路を切断してその際の状況からそれを検証して行く。

 その検証によって、いくつか間違っていた部分も分かった。そして、それによって分かった新たな回路パターンを考察する事で新しい考察も生まれる。

 こんな考察を宿屋に居る間の寝ている時間以外全ての時間を使って1ヶ月掛けて検証した。と言うよりも、1ヶ月掛かってしまったと言うべきだろう。

 やはり、『リペア』と言うインプラントは、細かでばらばらな物を操作するのには向かない。分子単位・ミクロ単位の『手作業』に成るからだ。

(あとは、魔法発生の部分の検証がしたいな。だけど、値段がな……)

 実は、竜が購入して検証に使用していた『投光器』だが、これには魔法を発生させる部分の回路パターンは含まれていない。

 なぜなら、このマジックアイテムは魔石からオドを抽出して、それを別種のエネルギーに変換し、発光板に送る事で発光板の物質とそのエネルギーによって発光を起こしている。

 ある意味この『投光器』は()()()()アイテムでは無いと言える。

 ただ、検証できていないのだが、発光板でマナとの反応が発生している可能性も有る。で有れば立派なマジックアイテムと言えるかもしれない。

 だが他のマジックアイテムのように、マナを取り込む回路パターンと魔石から抽出したオドを反応させる回路パターンは存在しない。

 その為『リペア』によるその部分の検証が出来ないのだ。

 故に、他のマジックアイテムを購入する必要があるのだが、高い。一番安い『お茶用湯沸かしポット』でも『投光器』の5倍の値段がした。

 元々金銭的に見て効率の悪い依頼を受けていた事もあり、竜の蓄えはかなり余裕の無いものになっていた。

(これは、インプラント探索はしばらく置いといて、金策に走る必要があるかな……)

 執着していたインプラント探索を一旦止める決断をする竜だったが、その理由がマジックアイテム研究と言う新たな執着の為だった。

 どこまで行っても彼は、自ら見いだした希望に拘り執着する。

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