修学旅行の最後ってだいたいこんな感じ
修学旅行の最後のバスの過ごし方といえば寝る限るだろう。
3泊4日の日程を終えた、木島優馬も例外ではなく、バスの座席に体を預けて爆睡というやつをしている。
雑音対策にヘッドホンをして寝息を立てている。
クラスメイトの大半は優馬と同じように旅で使った元気を補充するため眠っていてバスの中にはのんびりとした、微笑ましい雰囲気が漂っていた。
数名の男子生徒が知恵を出し合い、バスの座席に立って、懸命に人気の女子に寝顔をみようと涙ぐましい努力をしている。
単調な高速走路の風景よりよほど魅力的なのか何度か先生にばれ注意をされているが全くやめる気配はない。そのうち騒ぎで起きた女子にマジな説教を食らうまでそれは続いた。
起きている生徒も小声で雑談をしているが寝ている人たちに配慮してるので、眠りを妨げることはない。
よくある修学旅行の一幕。まさしく今の状況はそう言える。
何度目かのトンネルに入った時、それは起こった。
「へっ?」
クラスメイトの誰かの何かが漏れたような声。
「なんだよいきなり変な声出して」
それに反応したのは隣に座っているスポーツ刈りの優しそうな少年、青葉雄大だ。
「いや高速のトンネルっていつから緑になったのかなっと思ってさ」
「何言ってるんだよ、トンネルはコンクリートだぞ? 緑色なわけないだろ?」
「窓、見ていろよ」
そういわれて雄大は窓を見た。
窓の外に広がるのはトンネルではなかった。
窓一面の森林。
苔のようなものが生えた白い木が何本も所狭しと生えていてどこまでも広がっている。
静止する窓の外風景をゆっくり隅々までみた雄大は思わず感動の声を漏らした。
「おぉー。ほんとに緑だな。まるで絵みたいに止まって見える。え? 止まって……る?」
雄大はそこでおかしなことにが付いた。
バスが高速を走っていないことに。
「おい。バスが変だぞ」
事態の異変に気が付いた雄大をきっかけにクラスにも何かおかしいということがす伝わりだした。
ざわざわとわけがわからず雄大を含めた生徒が騒いでいると、突然バスの前方が激しく光った。
その光に一人を除いて生徒全員が注目した。
「ちわーっす!!……あーし、女神さまでぇーす」
変なしゃべり方の自称女神が降臨した。
透き通るような白髪に、セーラー服の布面積を極限まで少なくした露出癖でもあるのかといわんばかりの服装。特に胸周りは大きく発達しているおかげ、布がはち切れんばかりになっていて少し窮屈そうだ。
丈が圧倒的に足りていないセーラー服からはくびれたボディラインとかわいらしいへそが出ている。そして短いスカートと黒のニーハイよって生み出された絶対領域から覗く太ももが輝きを放っている。
アダルトコスプレのセーラー服。多くの男子生徒はそんな単語と共に家にある本やDVDを連想した。
背中に生えてる白い羽と、球体の赤い宝石がはめ込まれた七色に輝く杖とこの不思議すぎる状況がなければきっと信じられないだろう。
だが、生徒の反応は戸惑いとほんの少しの興味。それから女神豊満なバストに集まっていた。ちなみに男子の8割がバストに注目していた。
生徒達が戸惑いあるいはおっぱいに注目していると、担任教師が代表して口を開いた。
「なんだ君は? 一体どこからはいっ――」
誰かのいたずらだろうと思ったのか座席から立ち上がり自称女神に詰め寄り腕を掴んだ担任教師。しかしその続きが行われることはなかった。
「さわんな!!」
掴まれた腕をほどくとそのまま腕の担任教師の首に手刀を放った。
ゆっくり首と体がずれると小さな物音立て担任教師に頭と体が落ちる。
床に流れてくる恐ろしい量の血と不快な匂いが夢じゃないことをわからせて来る。
「はい、騒がない、騒がない。あんまりだるいのマジ勘弁なんで、手短に説明するから聞くこと。
あんまだるいことするとこうなるから」
女神は一瞬、下に目を向けてさもだるそうにそういった。
生徒たちは黙りむしかなかった。
この女神が本物かどうかはさておき、殺人にためらいがないこと、恐ろしい力を持っていることだけはしっかり伝わった。
「素直でいい達だね~。じゃあ、あーしがここにきた目的だけど、その前に今いる場所のこと知りたいでしょ?」
恐怖で声が出ないので壊れた人形のように必死に頷く。
「そんな怖がられるとまじショック~」
へたくそな泣きまねをしながらバスの運転手の首を容赦なく飛ばした。
もはやサイコパスか頭がおかしいとしか言えない、
「で、軽ーく説明すると、ここはあんたたちからすれば異世界ってやつね。魔物のもわんさか出るところだか気を付けてね~。それであーしがあんたたちを召喚した理由だけど。簡単に言えばあーし暇なわけじゃん? だから異世界人でもよぼうって呼んだってわけ」
女神発言は身勝手極まりないものだがどうしようもない。
弱者が強者に従うのは世界の理だ。会社で部下が上司に理不尽に仕事を押し付けられたり、先輩の無茶ぶりに後輩が応えさせられるなんて日本ではよくあることだ。
労働奴隷の日本人は特にこの傾向が強くわざわざ上の立場のものに文句を直接言うものはいない。
今、この場でもそれが起こっていて生徒は不満げな顔こそしているが誰もそれを声にはださない。
「どうすれば元の世界に返してくれんですか?」
勇気を振り絞った雄大が女神の問いかける。
「うーん。…………あっいいこと思いついたっ。ゲームしよっか? ルールは簡単、この世界のどこかに隠れているあーしを見つけるって言うゲーム。見つけるだけじゃあつまらないし、最初に見つけた人の願いをなんでもか叶えるって条件でどう? とっさに思いつとかあーしまじてんさい?」
誰も声一つ発さない、お通夜ムードの中で一人高笑いする女神。
恐怖と血に匂いが入り混じるバスは、もはや限界寸前だった。一部生徒は目の前で起きた二件の殺人で心が壊れそうになってしまっている。
誰もあの女神と会話をしようという勇気のある人間はいなかった。
「反論ないなら決まりね? それともう一つだけあんたたちにギフトを上げる。それ使ってあーしを見つけてじゃばいばーい」
女神がゆっくりバスの屋根から消えていく。
去り際に生きている全員何かを放った。純粋な光の束は。一部の生徒たちに結びつき淡い光を発している。
生徒たちの約7割ほど。
そしてこのひかりが彼らの運命を大きく左右することまだ誰も知らない。
こんな中、混乱があったにもかかわらず一人の生徒が睡眠をつづけていたことにも。