9話 酒は飲んでも飲まれるな
こうして僕はギルドにやって来たのだった。めでたしめでたし。
さて、冗談はさておき今日はどうしようかなあ。昨日は迷宮で失敗したからなあ。そういえばまだ身体がだるいなあ。
うーん、あ、採取とかいいかも。これなら迷宮じゃないし【神眼】があるからだいぶ楽できそう。
よしよし。今日は採取の日だな。
個人の依頼よりギルドの依頼の方がいいかな。数の指定が無いし。
さて早速この依頼を……おっとこれは常時受け付けの依頼か。危うく剥がすところだった、あぶないあぶない。同じ間違いは繰り返さないぞ。
そして、受付の元へ向かう。冒険者から見てもう遅い時間なので、並んでいる人は一人もいない。相変わらず酒を飲んでる人はいるけど。
「おい、そこのガキ!」
うわ、声かけられたよ。めんどくさい。略してめどい。
話し掛けてきた男は、朝っぱらから酒をあおり、髭も濃く不潔だ。きっとこれはあれだな、新人いびり。ラノベで読んだ。
「何ですか」
「……お前、この前も見たな。死にたく無けりゃ帰んな」
「どういうことですか?」
「へっ、ここはお前みたいなのが来るような場所じゃねえ、さっさと帰ってママのおっぱいでも吸ってなってことだよ!」
男はじろりとこちらを見据えると、鼻で笑いそう言った。
「僕が何しようと勝手でしょ。何考えてるんだこの人は」
別にそっちに被害が行くわけでもないし、仕事が無くなる訳でも無いでしょ。
「ちっ! 口で言っても聞かねえってんなら、拳だな」
そう言うやいなや、男は拳を振りかぶり、こちらに向かう。気が早いな。
――って速い! こいつ本当に酔ってるのか!?
「うわっ! 【幻実】、【縮地】!!」
僕はいつもの【縮地】を使い、ギリギリで避ける事に成功する。
が、ホッとしたのもつかの間、男は一瞬で間合いを詰め、僕の腕を掴んだ。
――はあ!? やばいやばいやばい!! どうするどうする!?
「……なるほど、【縮地】か、それに【幻実】ってのは魔眼だな。効果までは知らねえが」
腕を掴まれているし、【麻痺】か【昏睡】を、……いや、効くのか? この男に。
そうだ!! 【神術】で新しい魔術を――
「まあ、ギリギリ合――」
「『強制転移』!!」
「――なっ!?」
僕が呪文を唱えると、男の姿が突然消失した。この事実には、今まで野次を飛ばしていた他の酒飲み達も唖然とし、その場はしん、と静まり返る。
今唱えた呪文は『強制転移』。相手を強制的にどこかに転移させる魔術だ。どこに転移したのかは知らない。感覚的に近くだと思うけど……なんかごっそり魔力持ってかれたな。
まあいい、皆が唖然としている今のうちにさっさと退散だ!
「すいません!」
「え……あ、はい! どうされましたか?」
「ギルド直轄のポリゴ草とエルデ草の採取依頼を受けたいんですけど!」
「え……っと、その依頼についてはギルド直轄の採取依頼ですので指定された物を持ってきて頂ければ自動で査定いたしますので報告する必要はありませんよ」
え、マジか。僕はまた間違えたのか。間違いは誰にでもあるのか。そうか、じゃあいいか。
「え、あの、待って――」
恥ずかしいので踵を返してギルドを去った。
そして街のはずれにある森に来た。ああ、疲れた。やっぱり酔っ払いなんて世界の害悪だよ。
あれ、そういえばどこに生えてるのか聞いてないな。でもまあ、薬草って言ったらやっぱり森でしょ。
と、言うことで。
「【幻実】【神眼】」
僕がそう唱えると、あの0と1のデジタル空間が広がる。そして、そこからさらに目を凝らすとデジタルな空間の中に目を凝らした先にある見たい物と、その情報が表示される。
ゴブリン見た時から思ってたけどこの仕組みめんどくさいな。背景が邪魔。これじゃ最初からあると分かっているものしか見れないから探し物が出来ない。
と、思ったその時、唐突にデジタルな空間が消えた。
あれ、なんだ、消そうと思ったら消えるのか。
――その瞬間、僕の目に写ったものは、情報、情報、情報。
いっそ暴力的とも言える白と黒の文字の羅列は、猛然と僕の網膜を刺激する。
「なんだこれ!? 目がチカチカする!!」
痛い痛い! そんなにいらないよ! 草、草だけでいいから!
すると、大半の情報は消え、ポリゴ草やエルデ草などの情報のみが残った。
はあ、はあ、ふう……。そうか、あのデジタル空間は大量の情報から脳を守るためのものだったのか。
あー、頭痛い。まあ、でもこれで【神眼】には検索っぽい機能も備わっている事が分かった。
全てのスキルが使えても使い方までは分からないからね。試行錯誤大事。
さてさて、やっと採取依頼開始だなっと。