7話 三日目の朝
おくれてすいません。ちょっと活字が見たくなかったんです。
ピピピピピピピピピピ!!!
「うおい!?」
けたたましい音が頭の中から響き、僕はベッドから文字通り飛び起きた。
「うるさっ! とまれとまれ!」
僕がそう言うとあんなにうるさかった音がピタリと止んだ。
他の人に聞こえてないか一瞬焦ったけど、昨晩唱えた『目覚まし時計』は僕にしか聞こえないように創ったはずだから大丈夫だろう。たぶん。
さて、早く着替えて宿の手伝いをしなきゃ。僕は着替えようと服に手を掛ける。
……うーん、若干、いやかなり臭うな。やっぱり風呂が無いからなあ。
よし、無いなら創ろうホトトギス。
えーっと、イメージが大事っと。
「【幻実】――『浄化』」
そう唱えると、突然体からフシュッと音がし、爽快感に包まれた。
おお、これはかなりいいな。風呂から上がった直後のような爽快感だ。
さて、さっぱりした事だし、手伝いに向かおう。
食堂に着くと、まだ朝の鐘が鳴る前だと言うのにもう朝食を食べているお客さんがちらほらいた。
親父さんはスープを煮込んでいるし、女将さんは給士をしている。
女将さん達は僕に気付き挨拶をしてくれる。
「あら、おはよう」
「おう、坊主、おはよう」
「おはようございます」
もちろん僕も挨拶を返す。やられたら、やり返す。これ基本。
「早速で悪いんだけど、アンナを起こして来てくれない? あの娘たぶんまだ寝てるから……」
昨日も寝坊していたのにまた寝坊か。懲りない人だなあ。
「はい、わかりました」
仕方ない、頼まれたしね。
「えーっと、ここかな」
コンコン、と僕はノックをする。
「はーい」
あれ、起きてるじゃん。
僕はドアを開け放つ。そこには下着姿の美少女が居た。
え?
「え、ちょ、なんで――」
「なんでアンタがいるのよ!?」
パンッ、と小気味いい音が僕の頬から響き、美少女――アンナは扉を勢いよく閉めた。
解せぬ。
「ごめんなさい。お母さんだと思って返事しちゃったのよ……てへっ」
アンナはペロっと舌を出す。
「うーん。あんまり許したくないなあ。まあいいけど」
ビンタをする必要は無かったんじゃないかなあ。
「それより、早く行かないと遅刻だよ」
「ホントだ! 先言ってるね!」
そう言うと、アンナはさっさと食堂の方へと向かった。早い。
僕も歩いて付いていく。
「それじゃあもうすぐ他の客も起きてくるし――あれ? あんた顔が赤く無いかい?」
あ、女将さんにバレそう。アンナに肘でつつかれる。ふむふむ。
「そそそそそんな事無いですよ」
バレたら面白いなあ。
「……そうかい? じゃあまあいいけど」
女将さんは訝しげな顔をするが、それ以上は追求しなかった。
「じゃあ今から給仕をしてもらうから。やり方はアンナに聞いとくれ」
「はい」
さあ、楽しい楽しい労働だ。めんどくさい。
「あんた性格悪いって言われない?」
「言ってくれる友達がいないんだ」
残念ながら。おっと目から汗が。
「え……ご、ごめん」
場の空気が重くなり、アンナが思わずそう零す。
「ええんやで」
「……友達になってあげようか?」
「なって貰おうじゃないか」
「やっぱりあんたって変ね」
「そんな日もある」
僕達が会話のドッチボールを楽しんでいると、女将さんがこっちを睨んでいたので慌てて親父さんのところへ向かう。
「えっと、教えるって言ってもお客さんが来たら朝ごはんを持っていって、スープのおかわりが欲しいってお客さんにはお椀を貰ってお父さんのところに持っていく、くらいね」
「うんうん、了解」
おっとお客さんがちらほらやって来たぞ。やったるで。