6話 迷宮もぐりました
迷宮都市スィリーンには、大小様々な迷宮があるが、その中でも、神が造った迷宮と呼ばれる一つの巨大な迷宮がある。
『深淵迷宮リターデット』、それがその迷宮の名だ。
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迷宮にやって来た。この世界のモンスターは大体が迷宮に生息している。
迷宮に生息していない奴もいるけど、それはほんの一握りで、大体が弱いモンスターばかりだ。
あの時のスライムとかね。
迷宮には基本的に許可なく入れる。
ギルドの依頼を経由して迷宮に入ったら、何日も報告に来なかった場合救出依頼が出されるけど、その依頼を受ける人はあまり居ない。
迷宮は広いから探すのに苦労するし、大抵はモンスターに食い殺されて救出不可能だからだ。
何があっても自己責任という訳だね。
僕は迷宮の中へと入っていった。
「うわっ、暗っ」
迷宮は暗かった。
手を横に伸ばすと、剥き出しのごつごつとした岩肌が手に触れる。
先が見えない程に暗い通路は深淵迷宮なんて恐ろしい名前にぴったりだった。
あー、そういえば受付嬢さんもレベルが低いうちは深淵迷宮以外の迷宮にした方がいいって言ってたなあ。
なんでも、深淵迷宮に限りレベルが低いと暗くなるらしい。そして、同じモンスターでも深淵迷宮のモンスターは強さが段違いらしい。まあ多分大丈夫か。
「えーっと、【幻実】『トーチ』」
僕がそう灯りを作る魔術を唱えると、何も無い空間から、火の玉のような明るい塊が生まれ、僕の周りを回り始める。
「それー、『トーチ』『トーチ』『トーチ』」
僕はそのまま魔術を唱え、後に続く道を照らした。
この魔術はギルドの資料室で見つけた『魔術スキル大全』に載っていた魔術で、コスパが大変いい。
「――【隠密】」
さて、ゴブリン探すか。目指せ二十匹。
――いた。多分あれだ。
途中で『トーチ』より【夜目】使った方がいろいろイイじゃんと思い切り替えた。
そんな目に映るのは、緑色の体表にボロボロの腰布、そして錆びた剣などの武器を装備した小鬼。まさにゴブリン。
入り組んだ通路の先にあった小部屋。そこに奴らはいた。五匹程の群れで……あれは休んでるのかな?
「でも一応【神眼】」
【幻実】は既に使っているのでスキルだけを言う。どれどれ。
【ゴブリン】
スキル:なし
詳細:ぼろ切れを纏った醜悪な子鬼。
うん、ゴブリンだ。よし、倒そう。
正面から向かうのは反撃が怖いので、背後から奇襲をする事にした。
「――【縮地】」
【縮地】を使い、ゴブリン達の背後に回り込む。
「「「「「「グぎゃあ!?」」」」」
突然その場に現れた僕に戸惑いを隠し切れないゴブリンに、畳み掛ける様に僕はスキルを放つ。
「――『雷々』」
シュビビビビィィィ――――。
辺りに閃光と轟音が走り、思わず目を瞑る。
音が鳴り止み、薄く目を開けると、黒焦げになったゴブリン達がいた。
ちなみに閉鎖空間で火とか風はヤバい気がしたので雷にした。
よし、次いこう。そう思い、一歩踏み出そうと右足を上げると、突然力が抜け、その場にへたりこんだ。
「あれ?」
なんで? 敵の攻撃は一切受けてない筈だし……。
「……あ」
そういえば僕の魔力は下から二番目のFだった。思いっきり忘れてたよ。
あー、全身の力が抜ける。やばいやばい。これはもう無理だ。
残念だけど今日はもう帰ろう。
僕は壁にもたれ掛かり、半ば這いずりながら初めての迷宮を後にした。
そして冒険者ギルド。正直いってもう宿屋に帰りたいけどギルドに報告だけはしとかないと。
救出依頼なんて出されたらお金を請求されるし。
「ゴブリン討伐依頼をやって来ました」
いつもの受付嬢に報告をする。
「あら、随分と早かったんですね」
「魔力が無くなったもので」
「あらあら」
受付嬢さんは何時もよりも砕けた笑顔で話してくる。
「それでは、この水晶に手を翳してください」
「これは?」
門を通ったときに使った水晶とそっくりだ。違いと言えばこの水晶のほうが少し小さいくらいだ。
「この水晶に手を翳すと、あなたが討伐したモンスターが表示されます」
「へえ」
便利なものもあるもんだな。僕は水晶手を翳す。
「ゴブリン五匹ですね。魔石は売りますか?」
ん? 魔石? なんだそりゃ。
「魔石ってなんですか?」
「え、採ってないんですか!?」
なんだ。採った方がいいやつなのか?
「魔石は燃料などに使えるのでギルドでも買い取っているんです大体はモンスターの体内の中心に埋め込まれていますね」
なんだ、そんなものがあったのか。悔しい。
「まあ、持って来て無いのでは仕方が無いですね。討伐報酬のみお支払い致しますので袋を提出ください」
僕がお金の入った袋を提出すると受付嬢さんは銅貨二枚鉄貨五枚入れて返してくれる。
「ありがとうございます」
お礼を言って冒険者ギルドを後にする。
そして宿屋に直行。だめだ、疲労がヤバい。
「お、あんた今日も泊まるかい?」
「あ、はい。そうさせてもらいます」
そうだった。金払わないと。あー、このままだといずれお金が無くなっちゃうよ。
「そういえばあんた、親が居ないんだって?」
え、何で知ってんだ。親父さんに教えてもらったのか。……まあいいか。
「ああ、はい。そうですけど」
「大変だねえ。……そうだ! 宿屋の代金をまけて上げるよ」
「え! いいんですか!」
やった!
「ええ、その代わり朝の給士を手伝ってくれたらだけど」
「はい、手伝います!」
ということで、結局一泊銅貨二十枚の所を銅貨十枚まで負けてもらった。嬉しいけど、恐ろしいくらい眠い。
あー、明日起きられるかな。不安だ。
「うーん」
あ、そうだ。【神術】を使って何か新しい魔術を創ろう。
うーん、イメージが大切だよね。……よし!
「【幻実】――『目覚まし時計』」
僕が魔術を唱えると同時にほんの少しだけあった魔力が空になり、そのまま闇の中へと沈んでいった。