5話 スキルについて
あ、あったあった「スキル大全」。本多いなー、ここ。異世界って紙の普及率低かったりしないのか?
まあいいか、早速読もう。僕はページをパラパラとめくってみる。ふむふむなるほど。
しばらく読みふけていると、スキルについていくつか分かったことがある。
まず一つは、例えば攻撃力アップだとか、毒耐性など、いわゆるパッシブスキルと呼ばれるスキルが無い、という事だ。
何で無いんだ、とは思うけど、どこにも載ってなかったから、最初からこの世界ではパッシブスキルという概念が存在しないのだろう。
そして、二つ目は、この世界のスキルは、二種類に分かれている、という事だ。
その二種類とはシングルスキルとマルチスキルである。
シングルスキルとは、主に戦闘に用いられる「技」を「スキル」としてステータスに組み込まれたものである。
まあ、【縮地】とか【光弾】とかのことだよね、多分。
マルチスキルとは、シングルスキルを纏めたようなもので、一般的に、「魔術」や、「武技」などと呼ばれるものの事である。有名なところでは、【火魔術】や【剣技】などがある。
マルチスキルはシングルスキルと違い、スキル名を口にするのでは無く、魔術名などを言えばいいらしい。だから朝の奴は発動しなかったんだね。わかりずらいね。
んでもって、これが一番重要なんだけど、勇者共がもってたような強いスキルが載ってない。「スキル大全」とか書いてるくせに。
もっとこう、抽象的な、概念的な、名前は知られているけど存在は確認されていない、みたいな伝説級のスキルとか無いのかなっと。
僕は本棚にぎっしりと詰まった大量の本を吟味する作業に戻った。
「これだ!」
おっと、大きな声を出したらだめか。司書っぽい人がこちらを睨んでいる。
僕がやっとこさ見つけたもの、それはお伽話だった。
「勇者達の冒険譚」というそのまんまなタイトルで、その本の一節にこんな文章があった。
『賢者は【神術】を
剣聖は【神技】を
そして勇者は【神眼】をそれぞれ授かった』
これってどう見てもスキルだよね。使ってみよう、そうしよう。
「――【幻実】」
相変わらず何も起きないな。何かエフェクトみたいな物でも出ればいいのに。
とりあえずここで使っても大丈夫そうな【神眼】から使ってみよう。
「えー、【神眼】」
うおっ!
いきなり背景が、デジタル空間、とでも言うべきものへと変化した。緑色や青色などの背景に様々な数字の羅列が見える。そんな現代チックな世界は元の世界を思わせた。
これ絶対この本に載ってる勇者異世界人でしょ。僕は本を睨みつける。すると情報が直接脳内に入り込んでいった。何を言っているか分からないと思うけど、これ以上の表現方法は僕には無い。
決して不快感がある訳ではない。けれど、初めての感覚だったからちょっと戸惑う。
脳内に入り込んでいった情報はこんなものだ。
【勇者達の冒険譚】
著者:ユークリッド・セイウッド
状態:魔術保護
うん、この本の情報だよね。本にもそう書いてあるし。つまり、【神眼】っていうのは鑑定みたいなものか。
あ、じゃあいけるんじゃね。
イメージイメージ、【神術】と【神技】って何だー。
【神術】
・全ての魔法を扱う事が出来る。
・新しい魔法を創り出す事が出来る。
【神技】
・全ての武技を扱う事が出来る
・新しい武技を創り出す事が出来る。
出来た。やったぜ。
これは、かなり強いぞ。【幻実】も同じようなスキルだけど新しいものを作る事は出来ないからね。
よし、これでもうどんな敵が来ても何とかなるだろ。お金が心許なくなって来たし依頼でも受けよう。
僕は資料室を出て下の階へと行く。
うーん。Gランクの依頼って実入りが少ないなあ。1番いいやつでもこの『ゴブリン討伐』の一匹鉄貨五枚だし。
鉄貨十枚で銅貨一枚っていう事は、ゴブリン二十匹倒せばあの宿屋で一泊出来るのか。
はあ……地道に頑張るか。
僕は依頼を受理しに先程の受付へと向かった。
「すいません、この依頼を受けたいんだけど」
「はい、えー、この依頼はギルド直轄の依頼になります。数の指定は無く、討伐した分だけ報酬が渡される仕組みになっております」
「はい、わかったよ」
「あと、その依頼は常時受け付けなので剥がさなくてもいいですよ」
「あ、そうなの?」
あ、ホントだ、書いてる。
うう、顔から火が出る程恥ずかしい。
急いでギルドから出た。