2話 街に着きました
程なくして街の通用門の前にたどり着いた。門には、門番がいる。きっと身分証を提示しろ、とか言われるのだろう。
「身分証の提示をお願いします」
ほら来た。どうしよう、そんなもの……あ、ステータスプレートがあるか。制服のポケットからプレートを取り出し門番に見せる。
「どうぞ」
「オノヅカメグルさん、和国のほうの方ですかね。では、お入り下さい」
前半は独り言のように呟き、僕は門番に門の近くにある詰め所のようなところに案内される。当然付いていく。
すると、そこには水晶の様なものがあった。
「犯罪歴を調べますので水晶に手をかざしてください。規則ですのでお気を悪くされたら申し訳ありません」
門番のとことん丁寧な対応に、異世界にもこんな人はいるんだなと感じながらも水晶に手をかざした。
「……はい、確認が終わりました。ようこそ、迷宮都市ステューピッドへ」
門を抜けると、そこには、もう日も隠れてしまったというのにも関わらず、活気の溢れる光景が広がっていた。
赤や青など、色とりどりの髪の人達がある人は背中に剣を背負い、ある人は背丈程もある杖を持っている。
そんな中で、制服という異世界には似合わない衣服を着込み、周りをキョロキョロとしている僕は完全に浮いていたのだろう。その証拠である周りからの奇異の視線に気付いた僕は、そそくさとその場をあとにした。
視線から逃れるように路地裏の方に逃げ込むと、不意に何かにぶつかり、僕はその場に倒れ込んだ。
「いてて……」
強かに打ち付けた尻を摩りながらも立ち上がり、視線を前に向けると、そこには二十歳かそこらの男が二人程いた。
男達は卑しい顔を隠そうともせずにこちらを見据える。
「いってーな、おい! ……お! お前なかなか高そうな服着てんじゃねーか。俺らが貰ってやるからよこしな」
男の一人が薄ら笑いを浮かべながらそう言った。
「え、いや、この服僕のだし。あげるわけないじゃん」
僕はさも当然とばかりに言葉を返す。まあ実際当然なのだが。
「なんだこいつ、生意気だな」
「やっちまうか」
やっぱりあの門番見たいな人は少数なんだな、と改めて理解する。
悠長にしていると服だけでなく命まで取られそうだと判断した僕はさっさとこいつらを叩きのめす準備に入る。
「【幻実】」
すると、男達は目に見えて驚き出した。
何だろう、スキル名を口にするくらいしかして無いんだが。
「なっ! こいつ魔眼持ちか!?」
「予定変更だ、こいつは殺すな。奴隷にして売っぱらった方が儲かる」
言っていることの意味が分からないがとりあえず殺される心配はしなくても良さそうだと少しだけ安堵する。まあ、油断する気は毛頭ないが。
「【縮地】」
そう呟くやいなや僕は男達の真後ろに居た。
「消えた!?」
「なっ! ど、どこに行きやがった!」
【縮地】とは相手との距離を一瞬で縮める、と言うスキルである。このスキルを持っていた同級生が自慢げに話していたので、おおよそ間違いは無いだろう。
「【麻痺】」
そして、男達の背中に手を付け、続けざまにスキルを発動する。
やがて、そこには【麻痺】の効果により動くことの叶わなくなった男達がころがっていた。
別に【炎弾】や【光弾】でも良かったのだが、あまり目立って余計な厄介ごとを招きたくは無かったのと、単純に人間を傷つけるのに抵抗があったので、このような手段を取った。
足元で呻く男達から路銀と、ついでに服を拝借して元々着ていた制服は【アイテムボックス】にしまった。
よし、とりあえず今日の夜は野宿しないで済みそうだな。まあ、そっちから仕掛けてきたんだし仕方ないよね!
「うちは一泊朝食付きで銅貨二十枚だよ」
宿屋の女将さんは人当たりのいい笑みを浮かべながらも説明をしてくれる。
それにしても銅貨二十枚か。高いのか安いのかさっぱりわからん。日本円でいくらなんだろうか。
ラノベ基準で言えば大体銅貨一枚百円くらいが主流だよな。だとすると約二千円、かなり破格じゃないか。僕は男達から奪……拝借した路銀から銅貨二十枚を差し出す。
「部屋は突き当たりを右に曲がった所だよ。あと朝食は朝の鐘がなったらだから、鐘がなったらそこの食堂に来なさい。あまり遅れると朝食無しになるからね」
「うん、わかった」
とは言ったものの、朝の鐘ってなんだ? まあ、どうにかなるかな。
思わず大きな欠伸をしてしまう。あーあ、今日は疲れたな。色々とやらなくちゃ行けないことはある気がするけど、眠過ぎて無理だ。
僕は早足に部屋へと向かい、辿り着くやいなやあまり柔らかくないベッドに飛び込む。数秒も立たずに僕は夢の世界に旅立った。
おやすみ異世界。