1話 追い出されました
「二度と戻って来るなよ!」
そう言って騎士は僕を城門の外へと突き飛ばした。縋りつく様に騎士に顔を向けるが騎士は侮蔑を込めた表情で僕を睨みつけ、背を向きさっさと戻って行ってしまった。
しばらくその場に座り込んだまま呆然としていると、城門の門番をしている兵士に睨みつけられ、僕は逃げるようにそそくさとその場を立ち去った。
城を追い出されました。いや、どうしてこうなった。
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僕は、いや僕達は、地球とは異なる世界、スィリーンに召喚された。
最初は驚いたよ。学校の授業が終わって、さて次の授業まで寝るかって思った瞬間にはもう異世界に居たんだもんな。魔法陣が浮かぶとかそういうことも一切起こらなかったし。
で、突然景色が変わって戸惑っているところに、扉の向こうから一人の少女が出てきた。少女はドレスを纏っていた。少女は自分を王女だと言った。
そして、勝手な都合で召喚した事を詫び、この世界を支配しようとしている魔王を倒して欲しい。と泣きながら懇願してきた。他にも色々と話していたが、憧れていた異世界に来れた、という事実に興奮してあまり聞いていなかった。が、大体大筋は魔王討伐についてだった。
驚いたのはその願いに全員が賛同し、魔王を倒すと誓ったからだ。思わずそれに苦言を呈した。死ぬ危険何かもあるかも知れないのに。するとクラスメイト達と王女からいっせいに睨まれた。今思えばこれがいけなかったのかもしれない。
渋々僕も魔王討伐に賛同すると、次はステータスについて教わった。ステータスとは自分の成長を具現化したものらしく、レベルや体力、そしてスキルなんかも見れるらしい。
ステータスを見るためには専用のプレートが必要らしい。王女が全員にそのプレートを配り、僕達はステータスを見る事にした。
そして、僕のステータスがこれだ。
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名前:小野塚 輪廻
種族:人間
レベル:1
体力:E 魔力:F 筋力:E 頑強:D 精神:G 俊敏:E 器用:E
❮スキル❯ 幻実
❮称号❯ 異世界を生きる物
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王女は、ステータスの体力や魔力には七段階の表記があると言う。A~G、そしてSだ。
けどGは、例えば体力なら重度の喘息持ちだとか、俊敏なら片足を失っただとか、ほとんど機能しない、という意味で用いられるそうだ。ちなみに、平均はCらしい。
けど、Sだから最強とかそういうことではないらしい。ステータスというのはあくまでも、その人の素質で、大事なのはレベルらしい。
極端に言えば、レベル1で筋力がSだったとしても、レベル100の筋力Fの人と力比べをしたら負ける……らしい。
それを聞いて、改めてステータスを見てみて思った事は、弱すぎる! という事だった。いや、本当に弱すぎだろ。ステータスが一つも平均に達してないし。
ていうか精神がGだ……泣きたい。ちなみに精神とは魔法抵抗力などの事である。後のものは大体言葉通りだよ。
近くに居たやつのステータスを覗いてみると、レベルこそ1なものの、そのステータスのほとんどがSかAで構成されていて、スキルも豊富にあった。そして何より、称号の欄に勇者の二文字があった。それらの事は、僕を落胆させるのには十分だった。他のやつのステータスを見ても同じような結果が待っているだけだった。
そこからはトントン拍子に話が進んだ。僕の称号欄に勇者が無い事に王女が気づき、あからさまに嫌な顔をした後、それぞれの部屋が用意されているので移動しましょうという話になり移動していると、僕だけ騎士に違う場所に連れていかれ、そのまま城門まで来てさっきの展開、という訳だ。
わずか一日にして僕の異世界生活は崖っぷちに立たされてしまった。
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兵士の視線から逃れるように森の中に入った僕はこれからの事について考えていた。
とりあえずは追い出された街に戻る訳にもいかないし、別の街に行かないといけない訳だけど……
「遠いなあ」
森の入り口近くから追い出された街とは別の方向を見てみると、見渡す限りの草原の先に、小さく街のようなものがかろうじて見えた。
暗くなる前に早く行かないとな。こういう異世界って夜は魔物が凶暴になるのが相場だし、こんな所にいるのは絶対やばい。
とりあえずさっき見そびれたスキルの説明を見ておくか。
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幻実Lv.1
・スキルの習得が不可になる。
・現存する全てのスキルを使えるようになる。スキルのレベルは幻実に依存する。
・???
・???
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――チート来たぁぁぁ!!
思わずそう叫びそうになるがぐっと我慢する。ここは街の外だしいつモンスターが襲ってきてもおかしくない。
それにしてもこれはかなりのチートじゃないか。スキルの習得が不可というのは全てのスキルを使えるから実質関係無いし。これを使えばあいつらが持っていたスキルも使えるじゃん。
僕は早速使ってみる事にした。
「【幻実】!」
…………ん? 何も起きないな。てっきり何らかの演出があると思ったんだけど。まあいいや、これで全てのスキルが使える様になったのか。
僕はとりあえずあいつらが持っていたスキルが使えるか試してみる事にした。
「えーっと、たしか……【光弾】!
」
僕がそう言うと、手のひらから光が漏れ出す。
「おっと」
咄嗟に手を目の前にまっすぐに出すと、やがて光が凝縮し、小さな球体になり、前方に打ち出された。
そしてその光の球体は目の前の木に当たると、木に少しの焦げ目を残して消えてしまった。
「よし!」
レベルが1だからかあまり威力は出なかった。だが、持っていないスキルを使えた、ということは【幻実】はちゃんと使えているという訳だ。
さて、検証も終わった事だし、さっさと街まで行こう。
僕は街までの道のりを走った。
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もうすぐ街に着く、という所で、緑の草原には似つかわしく無い半透明のぶよぶよとした物体が蠢いていた。
これってもしかしなくてもスライムだよな。
まだ日が落ちるまで時間もあるし、弱そうだから戦ってみようかな……でもまだレベル1だしなあ……うん、だめだったら逃げればいいか。足遅そうだし。
「【幻実】」
そう言い僕は手を前に出し、次の言葉を口にした。
「【炎弾】」
すると、炎の球体が、手のひらから形成される。そして、それは間もなく打ち出された。
炎の弾は真っ直ぐに進み、スライムに着弾する。すると、着弾したところからスライムの体が、まるでガソリンで出来ているように激しく燃え出す。
やがて、スライムは燃え尽き、その後にはビー玉のような大きさの一つの球体が転がっていた。
「よっしゃ、倒せた」
この球体は定番で言うとスライムの核とかかな? この前読んだラノベにも同じような事が書かれてあったし。
ちなみに、【光弾】ではなく【炎弾】を選んだ理由はスライムは火が弱点だと何かで見たことがあったからだ。
まあ、何にせよこれで雑魚ならモンスターとも結構渡り会えることがわかったな。
日も暮れてきたので、それからはモンスター(と、言ってもスライムしかいないのだけれど)との戦闘は避け、僕は街までの道を急いだ。