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9 少女との対面

 居心地悪そうにソファに座るドーラの肩には、柔らかなタオルがかかっている。それは雨によって濡れた体で部屋にいてほしくないからシンシアが渡したものだった。

 もう時間は随分と経っているが、それでも多少湿っているのに変わりはない。服の替えはさすがに渡すことはできないので、大きめの布をソファに敷いてもらっている。


 そしてシンシアは、礼儀として既に用意してあった紅茶を差し出した。しかし湯気のあがるカップを見たにも関わらず口にしようとしないので、シンシアは様子を見ることに決めて自分は砂糖を取る。それからミルクも加え、ゆっくりと音を立てずにかき回して香りを確かめた。しかし、やはり何かが違うとシンシアは相手に悟られぬよう、控えめに眉をひそめる。


 いつも飲んでいる、カイルの作った紅茶に似ているのかと匂いで判断するのがシンシアだ。飲んで味を確かめるという手もあるが、一度口にしたものに砂糖などを加えるのは少し行儀が悪い。よって香りを嗅ぐのが実に手っ取り早い方法なのだ。

 食材を手配するのも料理を作るのもカイルで、シンシアはこの方面では何もしたことがない。だが平民相手なら相手も気づかないだろうと腹をくくり自分で入れてみたのだ。ちょうどいい練習相手になるはずのドーラは落ち着かない様子で目を泳がせており、紅茶を飲むどころではないようだが。


 飲んでみて、やはりとシンシアは心の中で呟く。カップに入れる時間が少し遅く茶葉の量が多かったせいか、極僅かだが苦味を感じられた。

 成功すればカイルにも出したかったのだが彼は今、あいにく下の階の片付けをしている。それに失敗作など、上等な紅茶を作る彼には飲ませられないとシンシアのプライドが主張していた。


「ねえ、そろそろ聞いていいかしら? この森に入った理由と、どうやって見張りを破ったのかを」

「あ……はい」


 先ほどは嫌悪感を示し過ぎたと大人げない自分を叱咤し、優しく言ったつもりだったのだが、それが余計にドーラを縮こませてしまったらしい。言いにくそうにチラチラと様子を伺ってくる彼女にシンシアは話の方向を変えようかとカップを置いた。


「怖がらせてしまって悪かったわね。全て私がやったのよ。カイルは、まあ見ていただけで」

「笑い声とか開けろって言ったり蝋燭が灯ったりした、あの?」

「まあ、そうね。壁だけだ言っても隠し扉があるからそこで。蝋燭は正確に言うと貰い物なのだけれど」


 シンシアの安心させるように言い聞かせる声に納得したのか、なるほどとドーラは相槌を打って見せる。固かった顔を緩ませた彼女は、他に疑問が湧いてきたようで話を切り出した。


「あの怖い人形は?」

「お父様からの三年ぐらい前の誕生日プレゼントよ。人間にそっくりで妙に気持ち悪かったからしまい込んでいるのだけれど。まさかと思うけど人形が何かしたの?」

「いや、ただ不気味だったから……」


 シンシアの父親であるアーヴィンドは贈り物を選ぶセンスがない。自分の持ち物はそれなりにいいものを揃えているのに、誰かのためとなると違うのだ。

 プレゼントをシンシアに送るのは、森に閉じ込めている罪悪感か。それとも体だけでも生きている娘に対しての愛情なのか。アーヴィンドの本心はシンシアにはわからないが、何かしらは思ってはいるのだろう。


 だが、贈ってくる物が中途半端過ぎるのだ。無駄にきらびやかな靴下だったり、派手な黄色いピアノのカバーだったりする。少なくとも誕生日に渡す物ではないだろうとシンシアは常々思っていた。


 意見のあったドーラに、そうとシンシアは頷き再びカップを口につけた。その所作を真似するようにドーラもチラチラと確認しながらようやく紅茶を飲む。特に不味いとも感じなかったようで、初めて飲んだであろう高級茶葉に感動すら抱いているような瞳をしていた。


「美味しい……て言うか紅茶なんて初めて飲んだ」

「えっと、初めてって本当に?」

「うん。うちは貧乏だからね」


 想像を超える言葉を聞き、シンシアは狼狽えおうむ返しで聞いてしまった。上から目線の方が話も進んで楽だったが、素が出てしまい慌てて口つぐむ。

 と、ちょうどよくカイルが戻ってきたので、シンシアは紅茶は出さずに自分の隣に座らせた。理由を察したからか彼は紅茶のことには何も言わずに、話が本題に移るのを待っていた。その勢いに乗せてもらおうとシンシアも再度、先ほどの話題にすり替える。


「なら、私の屋敷で盗みを働くよう命令した人がいるのね。でもそんな状況になったら、まずは誰でもいいから大人を頼りなさい。母親が忙しくても、他に仲のいい大人がいるでしょう。でも、そのジャスティンとかいう男の手鏡を取ったのは一体……。でも脅されたなら仕方ない部分もあるのでしょうね」


 的確なアドバイスを混ぜつつドーラの話を確認した。こう話を聞くと彼女が哀れだ。何もしていないのに犯人扱いをさせられ、脅されるように森に侵入した。だがジャスティンを煽ったのは失敗かもしれない。余計に怒らせたら、ジャスティンの性格だと増す増す横暴になる人間だ。

文字数のため切らせていただきます

キリが悪いですが、よろしくお願いします

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