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20 意地と性格

「で? 相談って何だったの?」


 最近お気に入りの、幻想的な青い薔薇が描かれたティーカップを置いたシンシアは紅茶を啜るドーラに問いかけた。

 つい先ほどまでドーラは熊に襲われたことを長々語っていたため、すっかり冷めてしまった。実際見たので、曖昧な反応になってしまったが彼女は気にした様子もない。むしろシンシアの反応に、どんなに怖かったかを伝えられるように必死になっていた。


 熊が逃げ出したのは何故だかわからないが、神様が助けてくれたのであろうとドーラは結論付けたらしい。働き者を神様は見てくれているのだと嬉しそうだ。


 実際は正反対とも言っていい、魔物なのだが。

 そんなドーラだったが、落ち着いてきたようで菓子を貪るように食べている。


 今回もまた丁寧に作り上げられたクッキーは、ほとんどがとっくに彼女の胃袋の中で、シンシアの分も少し入っている。最近ドーラははシンシアが食べ残すとすかさず「これ貰っていい?」と聞いてくるようになったのだ。


 仲がより深くなった、親密になったといえば聞こえはいいが、ただ単に食い意地が張っているのと遠慮がなくなっただけ。図々しくなったとシンシアが苦痛の声をあげても、ドーラは御構いなしだ。


 むしろそのシンシアの様子に菓子を食べないようだと判断して、本人ではなくカイルに許可を得る。そして「いいんじゃないかな」と面白がって答えるカイルに、ドーラは嬉々として口に運んでいくのだ。


 ドーラ曰く、普段食べられないものだから、せっかくの機会を無駄にしてはいけないとのこと。しかし、これではただの甘いものが異常に好きなだけに見えてしまう。特にチョコレートが気に入ったらしく、それが含まれているクッキーはほとんど彼女に取られた。


 奪われるとしても、週に一度のこと。だからシンシアは文句は言いつつも怒りはしなかった。毎日の楽しみであるカイルの料理だが、貧乏で草の根をかじっていると言っていたドーラに叱咤するほど大人気ない行為はしない。そう、大人気ない行為はしないのだ。


 すっかり物言いたげな、じと目になってしまったシンシアの顔にドーラは笑いを堪えつつ頷いた。


「私のね、お姉さん……血は繋がっていないんだけど、お姉さん役をしてくれた人が結婚するんだって」

「へえ、それは喜ばしいことじゃないか。でも何を悩んでいるんだい?」


 ドーラが緩んだ頬を無理やり引き締めているのに気づいて、膨れているシンシアを宥めるようにカイルは軽く背中を叩く。しかし彼自身も状況を楽しんでいるようで、クスリと笑っている。当然シンシアの機嫌は悪くなる一方だ。


「はい。だから私からも何かお祝いしてあげたいなって。花でも送ろうかと思うんだけど、この近くに花畑とかありますか?」

「だってさ、シンシア」

「…………。あーもう! わかったわよ!」


 ニヤニヤ顔で見つめられ、我慢の限界だと荒々しく立ち上がる。ガタンと鳴った椅子は気にせず、気持ちを落ち着かせるように二回ほど深呼吸を繰り返して提案した。


「向日葵畑があるから! その結婚式とやらの三時間前に来なさい! どうせ昼からなんでしょう? それに元から向日葵畑には行く予定だったし……」


 冷静にはなれなかったようで、まだ頬が赤い。シンシアには子供っぽいところがあると、こっそりカイルに教えて貰ったドーラは、なるほどと相槌を打った。けれども話を蒸し返すようにドーラは呟く。


「シンシアったら帰りに見張りに渡すお金から、こっそり一枚銅貨をくれるようになったんですよ。これで美味しいものを買えって。仲よくなった証拠ですよね」


 これにはシンシアも耐えられなかったようだ。ほうと感心するカイルをよそに、内密の話をぶちまけてくれた口の軽いドーラを呪って、シンシアは食器を片付けに。もとい、この場から逃げるために厨房へと急いだのだった。


 後ろから「気を許した相手には態度が変わるって言っただろう?」と「嬉しいです!」などという会話が降りかかってきたが、それは聞こえないふりだ。

お久しぶりです

投稿遅れてすみません

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