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譲るもの、受け継がれるもの・後編

 即位はしても、父の存在があるうちは遠慮していたのだろうか。

 僕が一人になると、周囲は不穏な様相を見せ始めた。



 目の前にあるのは、執政を任せているものたちが十数人。

 長い机を囲んで、会議と言う名の茶番が繰り広げられている場所だ。


 上座から、彼らの話を注意深く聞きつつも口出しはしない。

 始めは、僕が何をか言い出すのではと懸念していたのだろう。ときに横目で様子を窺っているようだった。

 それも、僕がじっと動かず、さも子供らしく退屈そうな態度を終始見せている内に、通常に戻ったようだ。


 各所の報告や処置の判断など滞りなく行なわれていく。

 事前に各部所へと伺いを立てているのかもしれない。


 誰も僕に気を配るでなく、こうして日常は回っている。

 それでいいんだろう。

 王が介入する事態など、非常時に違いないのだから。


「では本日の議題に承認を。こちらですよ」


 子供をあやすようにして、差し出された書状に、文句を言うでもなく署名する。

 それで、早朝の仕事はおしまいだった。




 彼らの目にあった警戒は、それぞれ違う意味を持つのだろう。

 幼い王が無茶をし、国に損害をもたらすのではないかといった真っ当な心配ならばいい。


 ささいなことで僕の機嫌を損ね、地位を失うのではないかと保身に気を揉む者たち……これも、まだいい。


 僕を、値踏みするように見ていた者たち。

 彼らの顔を、覚えておく。

 なにか事を起こすなら、彼らだろう。




 案の定だった。


 人の気配を感じて飛び起きた。

 叫びは喉に張りついて出てこない。


 暗い寝室にうごめく影から、必死に後ずさる。

 ベッドの縁にくると、僕に伸びる腕を払った。


「心配なさらないで、トナゥス様。怖い夢を見たのね。うなされてましたよ?」


 話しかけられたことに驚いた。なら、殺しに来たわけではない。

 寝ている間にうなされていたからというだけで、侍女が忍び込んだのか。

 王となった、僕の私室に。


「……出ていけ!」


 怒鳴って突き飛ばすと、侍女は憤慨して出て行った。


 その晩から僕は、生まれてから過ごした私室を去り、王の間で暮らすようになった。

 まだ、あの部屋でないと力がうまく使えなかった。




 翌朝の会議の間に入る際、小声で政務官の一人が話しかけてきた。

 覚えておいた顔の一人だ。


「娘の行き過ぎた行動を、お赦しください。あまりに頼りなく見えたのでしょう。優しさからなのですよ」


 あの醜悪な者は、侍女では、なかった。


 この男は、堂々と自分の娘を送り込んだと言い放ち、僕が頼りないと貶めた。

 よく、怒りに飲み込まれず耐えられたと思う。

 だけど、釘を刺すこともできなかった。


 怒りをぶつけるなら、一人でも多く炙りだしてからが良いと考えていた。

 これは怖くて身が竦んでいるのではなく、機を見ているのだと、自分に言い聞かせながらではあったが。


 黙って会議室の端に座り、曇った行く末に思いをめぐらせていた。

 あの男だけでなく、動きだすだろう。

 一人が動いたと知れればなおさらだ。




 誰もかれもが、僕が子供であることを理由に、己の欲望を満たすため都合よく解釈しようとする。

 手懐けさえすれば、権威を笠に国を操れると、本気で思っている。


 それがまさか、こんな手でくるとは思いもしなかった。

 命を奪うよりは、よっぽど穏便な手だろう。


 だけど、手懐けるなら他にも手はあるだろうに、篭絡するのに女をあてがう。

 正当に婚約話を持ち込めば良いものを、既成事実を作ろうと躍起になっている。


 何も分かっていない。

 王になることがどういうことか。

 この国の中枢に携わってきた者が、何も学べていない僕以上に理解していない。




 気を張り続ける日が始まり、夜には疲れ切っていた。

 悔しいが、確かに体は子供のものだ。

 ベッドよりも大きな玉座の真ん中に寝転がり、膝を腕で抱えると、たちまち眠りは訪れた。


 ――王の間は、最も安全な場所だ。


 父はそう言った。


 命を守るというならば、僕もそうだと思っていた。

 なのに、また、誰かが眠りを妨げる。



「あら、トナゥス。起こしてしまったわね」


 父の、第三王妃だった女だ。

 母などと呼ぶこともなければ、滅多に顔を見ることすらなかった。


「ねえ、お父様がいなくなって、寂しいのでしょう。私も同じよ」


 勝手に僕の頬を撫でると、その手は腕へ絡みつく。

 総毛立った。


 正気なのだろうか。

 父の庇護がなくなったからと、息子の僕を取り込もうと、ここまでするのか。


「余に、触れるな……!」


 部屋の壁全体が蠢いた。

 ここは、王の間だ。

 僕の感情を、直に受け止める。


「お、怯えなくていいのよ。わたくしは味方だといってるの!」


 噂だが、贅沢が出来ると期待して輿入れしたと聞いた。

 実際に挨拶へと出向いた際にも、僕どころか父へも関心を示さなかった。

 関心を示したのは、手土産に対してだけだったのを覚えている。


 代々の王は、質素堅実に生きてきたことを、誰もが知っているはずだというのに、こういった者はいなくならないのか。


「父はなくとも、同等の生活を送れるよう保障している。それすら無くしたいか」


 まだ体も小さい僕が睨もうが、怯みはしないだろう。

 だけど、壁は歪に形を変え、軋むような音を鳴らす。


「小さな頃から面倒を見てあげたのに、恩知らずな!」


 迫る壁に慌て、文句だけは言い捨てると逃げ出していった。


 よくも、言えたものだ。王に向けて良い言葉でも態度でもない。

 自分の首を絞めると、なぜ気が付かないんだろう。




 翌日には、元第二王妃が訪れた。

 初めて昼間に真っ当な手段で懇願に来た者だが、結局は泣き言を聞かされただけだった。


 この女の父も、政務官の一人だった。

 僕を産んだ後に、母は体調が思わしくなく臥せっていた。

 これ以上の子を授かるか難しいのではと、縁談を持ち込んだらしい。


 しかし、この女は、第二王妃の立場など望んでいなかった。

 内気だからと考えて、周囲も親切にしていたと思うが、すぐに違うと分かった。


「慣れた家族もなく、父も一線を退いてしまいましたし、私、心許なくて……」


 彼女はいつもぼやいている。


「なんて、悲しい状況なのでしょう」


 その悲しい境遇にあるのは彼女だけで、他の者は含まれない。

 婚姻だって、気が進まなければ断って構わない。

 無理強いはしないし、評価への影響もしないのに、断らなかったのだ。


 ただ彼女は、「なんて私は可哀相なの」かと言いたいだけだ。

 自ら父を遠ざけたくせに、夜の渡りもないと愚痴っていたのだ。

 僕に話すようなことではない。

 いい加減に、うんざりしていた。


「その、散々貴女を苦しめた者は、この世にない。退出を許可する」


 彼女は弾けたように面を上げた。

 呆然とした顔を見るに、出て行けと言われるなど、考えてもいなかったようだ。

 さめざめと泣いて見せていた彼女の瞳は、潤んでさえいなかった。


 まともな人間は、居ないのだろうか。

 気が、狂いそうだった。





 この日々を、打開できないかと、蔵書を漁り王の力をあれこれと調べた。

 空いた時間に、練習を重ね、細かく制御できるようになった。


 公式に使われる正面の大扉の他に、側付きが出入りするための目立たない扉がある。

 この扉を開く者があれば知らせるような仕掛けを施し、玉座の周囲には砂粒で作った垂れ幕を張り巡らせた。

 ただの幕ではなく、外からの侵入者が触れれば、切り裂くように動くものだ。


 これを、寝ている間にも維持できるように動作を指示した。

 融通は利かず、僕の意志で命令しなければ取り消せないことだけが難点だった。


 だから、僕は守衛に、よく言い聞かせたというのに。


「夜に、この部屋へ、誰も入れるな」




 それでも、愚かな者たちは、繰り返した。

 扉からの反応に飛び起き、女の姿が浮かび上がる。


「いますぐ、立ち去れ」

「ま、まあ、お目覚めでしたの。飲み物をお持ちしただけですのよ」


 手に抱えた盆には、酒瓶が乗っていた。

 何か仕込んであるに違いない。

 その意図するところに、吐き気を催す。


 早くから娘をあてがい篭絡しようなどと、どれだけ、この醜悪な娘共に自信があるのか。


「下種なことを……出て行けと言っている!」


 おぞましい。

 心底、おぞましかった。

 まだしも命を狙われたほうが、ましだった。


 互いの間を遮っている砂の幕が、ざわりと揺らめいた。

 怒鳴っても、壁から杭を作っても、この女は怯まなかった。


「その怖いものをしまって、ふたりで楽しいことをしま……え」


 潰れるような声を発し、女の体は、引き千切られるように崩れ落ちた。


 子供の強がりだと思ったのだろう。

 侮ったことが、命を縮めた。

 そもそも、王の前において侮ってかかることが間違いだ。


 血に沈む肉塊を見下ろすと、かろうじて顔が分かることに満足した。

 身元が確かな以上、言い逃れはできないだろう。


 床に散った赤い染みの後を、外側から手前に向けて点々と追った。


「よかった。父上、玉座に穢れはないよ」


 砂の幕は、うまく作用してくれたらしい。




 なんとなく、その光景を眺め続けていると、見覚えのある顔が視界に入り、肉塊の側に座り込んだ。


「なんと、なんてことを……」


 物音を聞きつけた守衛が、走り去る音が聞こえていたな。

 すぐに駆けつけたことを見るに、計画がうまくいくか確かめるつもりで城内に残っていたのだろう。


「余の威光を貶めようとした罪は意に介さずとも、娘への罰は悲しむのか」


 男は立ち上がり、口先だけの謝罪を述べた。

 本気であれば、平伏しているだろうし、瞳には冷酷な光が浮かんでいる。


 この場はどうにか逃れ、敵を討とうと考えている目だ。


「送り出したのだろう? 己が手で殺めたと同じだ。なのに、余を恨むのか」

「子を成すのは、王に課せられた義務ではないか! それを、こんな風に」


 男は途中で言葉を止めた。

 しくじったという顔から、予想があたっていることを知ってしまった。


「なら、同じ場所に行くとよい」


 驚愕に彩られた顔が、娘の肉塊の上に重なった。


「二度と、同じ真似をさせるな」



 従えていた側付きや守衛たちは、感情が失せたように、立ち尽くしていた。


 守衛の一人が、ぎこちなく一歩踏み出す。

 隊を任せている男だ。


「わ、我々はいかがすれば……その、仮にも大臣です。それを、殺……ひっ!」


 言い募る兵の足元を、砂の鞭で打つ。

 殺した、なんて言おうとしたようだから、正しておく。


「慈悲だよ」


 兵は怯え、足は震えている。


「それに、この者達が、勝手に忍び込んだとでも?」


 分かりきったことだが、手引きをした者がいる。


 皆がそこから侵入するのは、当然通す者がいるためだ。

 地位の高い者に脅されては一兵士にはどうしようもないと言い訳すれば、大目に見てもらえるとでも考えていたのだろう。


 しかし、それが三度だ。押し切られたとは言い張れない。

 金銭か、地位か、便宜をはかる取り決めが存在することの証だ。



 眼前の兵は顔を蒼白にした。

 この男の仕業だとは分かっている。


「王の施しを当たり前と思い、敬う心を忘れるなど、許されるざることだ」


 つまらぬ金銭で、己が職を忘れるとは。

 人の驕り、欲深さとは、こうも醜いものなのか。

 代々築いてきた先祖の努力を、無駄にすることを厭いもしない。




 ――触れを出せ

 決して侵すなかれ

 王だけが許された場所を

 大地の怒りを愚弄した罰だ


 恐れ敬え

 代わりに、王の力在る限り、この地は祝福される


 余は、この地に住まう全ての民を記憶している

 全ての民の人生を追っている


 苦しいときも悲しいときも、決して手を差し延べはしない

 その代わりに

 喜びや豊かさに満ちようとも、うらやみ奪いはしない


 ただ、忘れるな

 この地は大地の王に託された


 民は余の裾野で安全を得られているのだということを

 先祖から子々孫々まで、王が守り抜いたのだということを――




 僕は、詩をつむいだ。

 警告の詩だ。

 誰にも、古き記憶を忘れて欲しくはなかった。



 血塗られた体が目にこびりついているようだった。

 息絶え、命がない状態。

 人とは、生くるものとは一体なんであろうか。



◆◆◆



 そう大きな国ではない。

 愚かな親子の不埒な行いを断罪したことは、瞬く間に広まっていた。


 息を詰めるように僕を見守る城内の者たちも、表面上は落ち着きを取り戻したころだった。


 身の回りが、こうも煩くては気づけようもなかった。

 世界が、徐々に、軋み始めていることに。



 その晩、世界が壊れる音を聞いた。

 耳を塞いでも、その音を遮ることは出来なかった。

 足元が粉々に崩れ落ちていく恐怖に、王の力は無意識に反応する。


 ――守れ、この大地を。国を、民を、そのために僕はいる――。


 本当に、自分の意志だったのだろうか。

 醜悪な人間に苛まれ、何のために生き延びようとしたのか忘れかけていた。

 生きる希望を、失い始めていた。


 ――例え、どんなものであれ、すべては愛でるべき余のもの――。


 そんな呪言ともいえる想いが、魂の内から迸っていた。


「壁を……領土の全てを囲む壁を作れ!」


 僕の命令を受け、大地が形を変えていくのが、手に取るように分かった。

 国境を囲うように、瞬く間に盛り上がる地面。

 立てないほどだろう、すさまじい揺れは続く。


 避難を勧告する心の余裕はなかった。

 夜間だから、室内にいてくれることを願っていた。


 だけど、誰も怪我など負っていないことが感じられる。

 僕は今たしかに、この大地そのものだった。


「ご無事ですか!」


 振動が治まると、慌てた守衛らが飛び込んできたが、皆が顔を引きつらせて固まった。


 自分の体を見下ろすと、壁から引き寄せた無数の杭に、全方向から串刺しにされている――ように見える。

 伝達を早めるためだった。

 けれど、負荷がかかりすぎたのか、相当量の土が失われたのも感じていた。


「案ずるな。揺れは、余がもたらしたもの。国を閉じた」


 ゆっくりと杭を細くし、体から消していく。


「遠く北の地に、大きな災いあり。各国との連絡を」


 雷に打たれたように、平伏していた兵や側付きは駆け出していった。


 後は、彼らの仕事だろう。

 酷い疲れに、僕はまた玉座に沈み込んだ。


「このために、僕は一生、ここから出られないんだ」


 恐ろしいほどの力の鳴動だった。

 全てを犠牲にし、これだけの王の力を手にした僕にも、どうにもできないことが、はっきり分かるほどだった。


 自然の偉大さの前には、人の王の力などこんなものなのか。


 奇妙な高揚と哀しみの中で、疲労に任せるまま眠りに落ちかけたとき、誰かに呼ばれた。

 体を起こすが、誰もいない。


「ぐっ」


 突然の押しつぶすような苦しみに、胸を押さえた。

 声は、体の奥、魂の底から聞こえてくるようだった。

 実際に音として伝わっているわけではないが、まるで自分自身の叫びを聞いているような近さがある。


 声は、絶叫に変わった。


「やめ、ろ……一体、どこから」


 悲痛な声。

 喉を裂かれたように耳障りな叫びでも、少女の声だと分かった。

 生きようとし、死にたくないと喚く。

 ただ喚き散らすだけなら、獣と同じではないか。



 だけど、その声は、家族を想って泣いていた。

 僕も、父上が去る日に泣いたように思う。



 そうだった。

 人の命とは、こういった想いを起こさせるものではなかっただろうか。





 まんじりとも出来ず、どこからか届いた声の在り処を探ったけれど、手掛かりはなかった。


 外の様子を確かめたくなり、夜が明ける頃、部屋を出て城の上階へ向かった。

 すでに、城内は騒然としていた。


 各国へと転話具を繋いで、状況を確認し、対策出来ることを準備している者が各部所を走り回っている。

 領内では、急に現れた外壁について兵達が走り回って説明し、混乱を鎮めて回っている。畑など、一部には被害を出してしまったみたいだった。


 北の被害状況はまだ分からない。

 遠い場所で起こったことで、直接の被害はない。

 せいぜい、南下してくる者を押し留めるくらいだろう。ならず者から民を守るためだ。


 なのに、なぜ僕は、とっさにあんな壁を築いたのか。

 それは外を見てはっきりした。


 町を一望に出来る、外に張り出した場所に立つと、白み始めた空に亀裂が走っていた。

 何処までも続く、亀裂だった。


「あれだ」


 色のついた光の腺が、空を切り取るように走っている。

 そこから降る光の粉には、身に覚えがあった。


「嘘だろう、あれは……精霊力じゃないか」


 これまでは、精霊力の通り易い物質を媒介にすることでしか視認できなかった光だ。

 僕に特別な力があるから、あれが見えるのではない。

 これからは、もっと身近になると、王の力は告げていた。


 吐いた息が白くけむり、眉をひそめる。

 この暖かな国では、滅多にないことだった。




 城内へ戻ると、そのまま会議室へ向かった。

 少し早いが、皆が集まっているだろう。


 僕が会議室を訪れると、室内の者全てが立ち上がり、敬礼を捧げてきた。

 なんの真似かと考えたが、父の姿を思い起こせば、これが常だった。


「真なる王の力、しかとこの目と心に刻みました」

「ハトゥルグランに栄光あれかし!」


 よくわからないが、度肝を抜かれたってことなんだろう。

 従順になってくれるのは、ありがたいことだ。


「よい。始めよ」




 各国とのやり取りに城内は忙しないが、行動にまとまりができたように思う。

 僕が、直接断罪したことに加えて、あの災害が頭を冷やしたのだろう。

 一時的にだとしても、今はありがたい猶予だった。


 僕がもっと学び、成長するまでの猶予だ。

 だけど、空の亀裂を起こした原因と、北にある何かに対策する時間は、どれだけあるのだろう。


 こうして時間が欲しい今なによりありがたいのは、もう女どもが送られることはなかったことだ。

 さらには、まともに縁談の話などを持ち込まれても、全て目の前で書状を引き裂き、うっかりでも言葉の端に乗せようものなら部屋を追い出すと、そういった話は途絶えた。

 いずれは誰かを娶らねばならないのだろうが、今は想像したくもない。




 ふいに幼い頃、母と父と過ごしたことが思い出された。

 父母の仲はよかった。

 僕も、生贄のように子をこの地に呑みこませるとしても、想いを遂げたいと思える人に出会えるのだろうか。


 泣き叫んでいた少女のことが、頭を過ぎった。


 大地を伝い、彼女が生きていることだけは感じるが、こちらの呼びかけは届かない。

 国内に居ないのは確かで、しかし王の力は反応した。

 ならば理由は、少女がこの国の民なのだろうということくらいだ。


「あの子に、いつか、会えるといいな」




 またもや「精霊界の崩落は亡国の魔術式を発動する」から。

 二章最期に中ボスのつもりで登場した人物です。

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