序譚
どうも、黒猫です。
――ある日、私は思いました。
すっげぇ中二な小説が書きてぇ、と。
そんな考えで始まったこの小説。
自分の中のあらん限りの中学二年生を叩き込もうとおもいますので、ぜひともお願いします。
それでは、開幕といたしましょうか。
○
それは、ある寒い冬のことだった。
一匹の狼が、人間の娘に恋をした。
しかし、動物である自分が、人間である彼女に、想いを伝えられる筈もない。
そう、自らの恋を諦めようとしていた時だった。
その女性は、なんと自ら、狼に声をかけてきた。
「君、暇?」
その女性の瞳はとても暗く、誰がどう見ても、‘何かあった’ことは明らかだった。
「私ね、振られちゃった」
星の見える丘に座り、少女はそう語りだした。
狼は、彼女の横で、寄り添うように座っている。
「素敵な人だったの。でも、その人にはもう、恋人がいたみたい」
自嘲気味に笑いながら、女性は狼の頭を撫でた。
そんな顔は、してほしくない。
そんな一心で、狼は女性の掌をそっと舐めた。
「くすぐったいよ、君」
女性はくすりと笑い、狼を見る。
狼は蒼瞳を女性に向け、くぅんと鳴いた。
――とくん。
と、女性の胸が高鳴る。
そして、自責の念も湧く。
――嘘だろう? 相手は動物だぞ? と。
「私、おかしいのかな?」
今すぐ、この狼をめでたい。
撫でたい。
一つになりたい。
こみ上げるその念を押さえながら、女性はその狼の頭を撫で続けた。
○
数年が経過し、女性はその丘に小屋を建て、狼と共に暮らしていた。
それは普通ではないと承知しながらも、何度も狼とまぐわった。
既に、全身が狼の味を知っている。
――そんな折。
帝が、その女性に恋をした。
勿論、帝は女性がその狼と恋仲であることなど、知ったことではない。
帝は、何度も彼女の小屋を訪れ、願った。
女性は、勿論断り続けた。
――ある、夜中のことだった。
狼は長い狩りを終え、その小屋の扉を、雉をくわえた頭で押し開けた。
そして、その雉を口から落とす。
――女性は、その胸に刀を突き付けられていた。
――その上で、帝は下半身を曝け出し、揺れていた。
――行為の証と血の匂いが、その小屋には満ちていた。
○
翌日、帝の護衛は、その小屋を訪れて愕然とした。
帝の姿が無いのだ。
それどころか、小屋そのものが。
あるのは、夥しい妖気と、点々と残る血痕のみ。
――やられた!
護衛は冷や汗をかきながら、腰に下がる刀を抜いた。
今すぐ、これをやった妖怪を討伐しなければ。
そう意気込む男を、すっぽりと影が包みこむ。
「――は?」
刀を持ったまま、男は振り向く。
――そこにいたのは、巨大な狼。
そいつは蒼い瞳に憎悪を浮かべ、全身から濃厚な妖気を発していた。
――まずい。
刀が、護衛の手から滑り落ちる。
――まずいまずい!
狼の口が、がぱりと開く。
――――死……!
その山から数千里離れた、小さな人里。
恋人を寝取られ、殺されたことで妖怪と化した哀れな狼の遠吠えは、夜中、その里まで悲しげに響いていたという――……
(『妖狼伝』より抜粋)