71話 それぞれに重い物がある
前回のあらすじ
ミルリアの暴走を止め
姉と妹のちゃんとした再会
それを邪魔したものがいる
そして、そいつらとリヤナがぶつかりあう
それはリヤナの虐殺行為
そこは死に満ちた場所だった
魔族たちが逃げ惑う
その魔族たちは『魔隊』と言われ、それなりの精鋭部隊だった
『ぎゃああああああああああああああ・・・・』
悲鳴は途中でプツリと途絶える
『ひいぃぃぃぃぃッ!?来るなァァッ!!来るなァァァァァァァァァァァァァ・・・!!』
悲鳴を上げながら逃げ惑う
だが、その声もすぐに途絶えてしまう
その場所では血と肉が舞う
「フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!私は『魔界六柱』になるのだァァ!!!
フハハ・・・・・・フハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッ!!」
その中でもその精鋭部隊『魔隊』を率いるリーダーであったゴルド
魔隊筆頭ゴルド。そいつはまるで狂ったように笑っている
その片腕は失われ、血が大量に噴き出している
もう一方の残った片腕に握られた剣は砕かれ、武器とは呼べない状態になっている
その周りには十数名の魔隊の男達
その男達は恐怖で涙や鼻水で顔がグジャグジャになっているものもいれば
失禁しているものもいる
ほかの二百名強は全てが地に伏せ、目に光は無くピクリとも動かない
その魔族たちは、心臓さえも動いてはいない
残りの男達の目の先にはある女性
その魔族の女性・・・と言っても、そう見えるだけで元の体は完全に人間の男なのだが
簡単に言うと、リヤナさんだ
その女性の片手には血だるまと化した肉の塊がつかまれている
魔族であっただろう、その肉の塊はもう誰だったのかはもう判別できない
生き残ってる者は一人一人知り合いであっただろう戦友を気にしている場合ではない
「残りは、なァ~んにんだァ~・・・♪」
その女性から声が聞こえた。普段聞けば綺麗な声だな、などと思うかもしれない声は
この場において恐怖しか生まないものである
その女性はユラユラと近づいてくる
それに対して魔隊の男達はただ一歩程度下がる事しかできず
足が震えて「逃げる」という大幅な移動ができない
それは、意図的にリヤナさんがやっているのか、やっていないのか、それはわからない
ただ、魔隊の男達は、なにもせずに死ぬか、覚悟を決めて立ち向かって死ぬか、
その二択程度しかない
ただ、後者は絶対に選ぶものはいないだろう
まだ、戦い始めた時は数十人単位で一気に襲ったときがあった
それを物ともせずになぎ払うリヤナさんを見ていた男達はもう抵抗する気力は無い
『助けてくれェ!!助けてくれェ~ッ!!たすけ・・・』
また一人の悲鳴が響き、途中で途切れる
また命が一つ消える
そして・・・また一つ、また一つとどんどんと消えていく
そして、残ったのは一人
魔隊を率いていた魔族の男、ゴルドだ
その男の頭がガシッと捕まれ
その細い腕にはありえないほどの筋力で上に持ち上げられる
ゴルドの足が地を離れ、宙に浮く
「フハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!私がァ・・・、私がトップに立つのだァ!!」
それでも狂ったように笑っているゴルド
「アハァ・・・♪」
女性の短い笑いと共にグジョォッ・・・!!という生々しい音が響き
ゴルドの狂ったような笑いが途切れる
糸が切れた操り人形のようにカクンという動作で体の力が抜ける
そして、ゴルドはつかまれていた顔を離され、力なく地面に崩れ落ちる
《こわっ・・・》
リヤナの頭に体の主である男の声が響いた
─ ─
その光景を遠くから見ている影が一つあった
その影は女性。黒い髪に黒い肌。その女性は魔族
その女性は、魔王に仕える魔族のトップである
リーシ・トルゥマアと呼ばれる女
「ミルリアに使用された実験はいまだ暴走の危険あり
暴走すると理性が無くなり、敵を殲滅、または体から分離するまでは止まらないものと
思われます」
その女性は風属性の魔法『伝達』の染み込んだカードに声を向ける
『ふふ・・・我が一番目の娘、リヤナの時から実験をしているが
まだまだ、足りないようだな。今実験をしている学者は始末しておけ
もっと優秀なものにやらせろ』
そのカードから聞こえた声は30代の男性の声
魔王である
「・・・戻り次第、始末します
それであの女はどうしますか・・・?」
『リヤナか・・・。やめておけ、あいつは私の出来損ないの娘だが実力は本物だ
いくらお前とて準備をせずに戦うのは無謀というものだ
ここは、何もせずに戻って来い。あと、ミルリアの始末も怠るな』
「・・・御意に。あと、『魔隊』が無くなりましたが、よろしいので?」
『あんな物は所詮は雑魚の集まり、すぐに消えていたさ。特に問題は無い』
「了解です。では・・・」
その言葉を言い、通信機をきり、ポケットにしまう
そして、リーシが手をパンパンと叩くと
彼女の後ろに三人の魔族の男性があらわれる
「ミルリアを見つけなさい。・・・見つけ次第、始末するように」
その言葉を聞き、三人の魔族の男性は黙ったまま
また消える
その三人はもうミルリアを捜しに行っているはずだ
「ミルリアは実験の水晶によって、衰弱してるでしょうからあの三人で問題は無いとして・・・あとはミルリアの部下のロシアンですか、あの少年は体調は万全としても
一人で三人を相手にするのは無理でしょう・・・ふむ、問題なく進みますね」
リーシは、もうここから去る準備を始めている
「あとは、あの女・・・いや、男かな?とりあえずあいつをどうするかが問題ですね」
そう言ったリーシは、闇にまぎれて消えていく
─ ─
俺はさっきの崖より少し離れた所にペタリと座り込んでいる
服は血だらけ、すべて俺の血ではないのだが・・・
そして崖は、大勢の魔族の死体があるため、とりあえず離れた
《いや、本当にごめん徹夜。魔力を使い切るとは思わなかった・・・》
「なんなんですか・・・ザコに本気で攻撃して・・・
魔力の残量なんて考えてなかったでしょ」
《いや、妹を攻撃されたんだから、姉が怒るのは当たり前でしょ・・・♪(エッヘン》
「いや、エッヘンじゃなくてさ・・・
しかも、魔力がなくて治療魔法を使えないから、体が電撃でボロボロなんだけど・・・」
《いやはや、何も言えないね》
「・・・はァ」
俺は溜息をつく
めっちゃダルイ・・・魔力を使い切られた俺にとって一歩動く事もきつい事だ
「それにこれどうするんですか・・・完全にラルドさん達になにがあったか聞かれますよ・・・」
《あ、だけど派手に暴れたから、もうこっちに気づいて来てるんじゃない?》
「おまえ・・・」
《あっはっはっはっは・・・申し訳ない》
「・・・もう、めんどくさいなァ~」
《いつも思うが徹夜は「めんどくさい」が多いと思うね》
「あれ、俺って声に出してます?」
《私は君の中にいるんだよ?心の中で思ってることなんて筒抜けさ
今まで言った回数を数えてもいいんだよ?》
「過去のものなんて数えられないでしょう」
《いや、そこは1(話)から読み直して》
「・・・それはどういう意味ですか?」
《ん・・・いや、なんでもない》
「・・・?」
《とりあえず、話を戻すね。ミルリアはどうなったと思う・・・?》
「あの少年ならやってくれたんじゃないですか?結構強そうでしたし」
《ふむ、徹夜もそう思うなら大丈夫だろう・・・》
そこで俺は立ち、村へと歩き出す
《じゃあ、私はまた眠るよ・・・。すこしはしゃぎ過ぎた
・・・おやすみ》
「・・・」
そしてリヤナさんがもうしゃべらなくなる
あぁ~、もうやだよ
体中血でベトベトなんだけど
血生ぐせぇ~・・・
「それにしても・・・マジで魔王はどうするかな」
ここまで巻き込まれたら、もうマジでやり返すしかねぇよな
それに・・・ミルリアはミルリアの考えがあるとして俺を殺しに来たとして
私欲のために殺させるなんて事は『軍』としては、あってはいけないことじゃないか・・・?
ということは魔王が直々に命令として俺を殺しに来させたという事だろ
じゃあ、俺がやりかえそうとしなくても、時期にまた殺しに来る奴がいるだろうからな
俺も俺で魔王側を始末するほうになるか・・・
「わざわざ美月にやらせる必要もないよなぁ・・・」
俺のそんな呟き
俺が魔王を潰して、「勇者」という職の存在意味をなくしてやっかな・・・
「徹夜くん・・・。君は何をしている?」
突然聞こえたそんな声
そちらを見てみるとラルドさんとハクがいた
「・・・ちょっとした用事です」
さて、どうするべきか
こんな全身血にぬれた体。どんな説明をしてもアウトだと思う
「用事って何?徹夜」
ハクが俺に対しては珍しく鋭い眼で聞いてくる
・・・
「掃除だよ。掃除」
「へとへとだね、徹夜くん。魔力でも大量に使ったんじゃないか?」
ラルドさんんも言葉
「あっはっは~・・・」
おれの力なき笑い
「ハクは徹夜くんが歩いてきた方向を調べてきてくれ
こんな徹夜くんはラウやルミには会わせられないからな・・・。
とりあえず近くの川で体を洗ってもらう事にする」
「わかった・・・」
ハクは一つの返事をして走って行ってしまった
いや~・・・行かないでぇ~・・・
でも、今の俺には馬鹿なリヤナさんが魔力を使いきってしまったせいで
追う事もできない
「さぁ、来るんだ」
「いや、ちょ・・・俺のペースで行かせて~」
正直、普通の歩きの速度でも辛いです
「いいから、来なさい」
俺はラルドさんに手を引っ張られていった
─ ─
「ほら、服を村からもらってきた」
ラルドさんに服を渡される
今まで来ていた服はあまりにも真っ赤だったので洗って乾かしている
それを着た、その後に金属製のやつで髪を後ろにまとめる
ラルドさんが改めてこっちを見てくる
「なにをやったんだい・・・?」
「あっはっは・・・」
「・・・ハクが確認してくればすぐにわかる事だよ」
「姉と妹の再会を邪魔した人たちに天罰を下してました」
俺の正直な報告
「・・・」
白い目で見られた・・・
俺は本当のことを言ったよね?なんか理不尽じゃない?
「ふぅ・・・」
そこでタッという足音が聞こえるといつの間にか近くにハクが立っていた
よくもまぁ、頑張って確認してきたもんだ
「・・・崖のとこに300人ぐらいの魔族の死体があったよ」
ハクの報告。よくもまぁ、正確に数を数えてきたね・・・
「徹夜くんはなにをしていたんだ?」
再度ラルドさんが聞いてくる
「あれです、命を狙われてるから返り討ちにしたんです
あとさっきも言ったように、姉と妹の出会いを邪魔した奴らに天罰を下しました」
めっちゃ俺って正直者♪
「・・・命を狙われる、ってとこはギリギリでわかるが
妹と姉ってとこがわからないね」
「・・・」
なんか言っても信じなさそうだからやだなぁ~・・・
「別に秘密なのなら離さなくてもいいが、私達には闇のことを言ったのに
いまさら、話せないことでもあるのかい?」
「えっ!?闇っ!?」
ちなみにハクはまだ知らなかったり
俺は(魔力が無いので・・・)微弱ながらも闇を手の上に出し
ハクに見せる、それにもハクは驚いてるようだった
「・・・あくまで自分の問題なのでラルドさん達には関係ありませんよ
あの大勢の魔族は俺が殺した、あくまでそれだけです」
「・・・まぁ、人にはそれぞれいえないものがあるからな
今の所は、黙って置いてあげよう」
「ありがとうございます・・・」
「・・・とりあえず、その体の傷を治療しようか」
「あっはっは、・・・ダメージくらってんの、なんでわかったんです?」
「疲れのほかに体にガタがきていたみたいだからね
さっき手をつかんで引っ張ったときにわかったよ」
「・・・本当にありがとうございます」
そんな感じで治療の問題はなくなりました
─ 魔界 ─
ある少女が歩いていた
そしてある部屋に入る
「何か御用ですか・・・魔王様」
その少女の目の前には魔王がいた
「よく来たな。ルクライル・リーン」
その少女の名前はルクライル・リーン
『魔界六柱』のNo、6であり
得意な属性が水で『血水』という名前をつけられた少女
「・・・任務でございますか?」
「ああ、勇者か徹夜と呼ばれる男、どちらかを襲って来い」
魔王の言葉
「ですが、私は『魔界六柱』No,6・・・最弱の『魔界六柱』ですよ?
ジールクがかなわなかった相手を殺す事など不可能だと思いますが・・・」
「お前はただ攻撃してくれればいいのだよ。運が良ければ倒せるだろう・・・?」
「・・・ようするに「特攻」ですか?」
それは自分の身を犠牲にした攻撃。ようするに命を削って攻撃し運よくば殺せ、というもの
日本でも昔、飛行機に燃料を行きの分しか乗せない「特別攻撃隊」というものがあった
それと同じようなものだ
「ああ、そうなるだろうな」
なにも感情のない言葉
「魔王様の仰せのままに
・・・ただ、私のほかに闇ギルドの手伝いを借りてもよろしいですか?」
「ああ、かまわない。どこの闇ギルドを使うのだ?」
「闇ギルドで最強を誇る、トップ3の残りの1つ。『黒の冒険者』
その闇ギルドのメンバーは全員で2人で、そのどちらもが実力が認められた数少ないランクSSの冒険者です
そいつらは戦いに喜びを求めるものであり、強い者と戦う事が好きな奴らです
誘えばついてくる事は決まっております」
「ふむ、いいだろう
所詮、闇ギルドなど我らにとってはただの消耗品だ」
「ありがとうございます・・・」
ペコリと頭を下げるルクライル・リーン
「では、行ってよいぞ、勇者または徹夜を襲うのはいつでも構わない」
「ハッ・・・」
少女は歩き出し、部屋から出る
そして、どのくらいか歩き
「ふ・・・ついに私も使い捨てにされる時がきたか・・・
前から覚悟はしていたが、こうも早く来るとは思わなかった・・・」
ポツリと呟いたルクライルと呼ばれる少女
「お前も・・・大変だな」
横からふと声が聞こえた
ルクライルはそちらを向かずに答える
「ええ、もう私も終わりですよ。ジールク・ライ」
その男はジールク・ライ
その後ろには部下のメイトがいる
「お前も最後の任務だと思っていいだろうな」
「お前〝も"・・・?」
「ああ、俺も最後の任務を言われちまった・・・
もうすぐ絶対にあるだろう『戦争』の時に、俺は死ぬな」
「・・・そして、私はその戦争の引き金。とても不幸な役を渡されました・・・」
「ハッハッハ、お前は死ぬか、生きるか、それはまだわからないさ
だが、どの道不幸なのは変わらないけどな・・・」
「・・・女の子に形だけでも慰めの声をかけてあげる、という事はできないのか?」
「悪いな、俺はそういうことができないんだ
プライベートにゃあ、男友達しかいないし、仕事では友達なんてもんは作らない
それが俺だからな・・・」
「人間とも友達になれたくせに・・・」
「・・・むくれんな。そんなもんなんだよ・・・俺は」
「・・・そうですか。では、お互い死なない様に頑張りましょう」
そう言ってルクライル・リーンは去っていく
「・・・俺は絶対に死ぬ運命なんだよ」
ポツリと呟いたジールクの言葉はルクライルには聞こえなかった
「ジールク様・・・」
後ろにいたメイトがしゃべりかけてきた
「ああ、わかっている。行こうか・・・」
そう言って、ジールク・ライも歩き出した
「お前は生きてくれ、ルクライル・リーン。お前はまだその可能性が残っているのだから」
最後にジールクはそんな事も呟いた
その声はとても重く、悲しい響きがあった
誤字・脱字があればマジで御報告宜しくお願いします