番外編 三人、その後
すべてがすべてハッピーエンドというわけでもありません。
納得のいかない終わり方をするものもあるでしょうし、ちゃんと良い終わり方だろうモノもあります。
その後が、わからない人もいます。
ある世界のある施設。
そこを一人の少女が花を花瓶にさし、両手で抱えながら歩いていた。その少女が歩いて行った先には、一つの扉があった。
その少女…徹夜に本を渡した人物なのだが、両手の塞がっている少女は器用に体を使って目の前の扉を開けた。
「……起きていたんですか」
「ん……別に起きれない状態でもないしな。一時的にはすっごい激痛を感じたと思ったら起きたら数日後だったわけだが…」
少女の言葉に反応した声は、ある少年…それは炎である。
花瓶を炎が横になってるベットの近くのテーブルに置いた。
「あなたは軽い死に方をして、そのあとに自分の体を爆発に巻き込まれさせて死んだようにみせればよかったものを……相手を殺すために自分事爆発に巻き込むこと自体馬鹿なんですよ」
「あそこまでの爆発を起こして、死ななかった里稲には驚きしかないわ」
「本当にあなたは馬鹿です……あなたのお世話していたら…結局、本の封印をとくのも忘れてましたしね」
「人のことは罵るくせに、自分も馬鹿なことしているんだな」
「あなたよりはマシです」
どっちも、どっちと言っておこうか!
「……それにしても、なんでアルは俺に付いてくるのかね…」
炎がアルと呼んだ少女の名前はアルヴィ・ダルネ。
アルヴィ・ダルネという名前のアルヴィを省略して炎はアル、と呼んだのだ。なんとも羨ましい事か…いや、何が羨ましいのかがわからないけど。
「何度もあなたには言っていますが私は、あなたに魔法を教えましたが……私は、あなたに人の優しさを教えてくれました。
まあ、感情がほぼないあなたには現在、その優しさがあるのかも、よくは分かりませんけどね」
「……今の俺はあの時の俺を真似してるだけだからな。人を哀れむ、という感情を知らない俺は人に優しさを与えることはできないだろうな。
今の俺が昔のように魔女と呼ばれてひどいようにこき使われているアルを見ても…たぶんスルーしていたと思う」
「…本当に、今のあなたはクソですね」
「否定できないな」
「まあ、私が居なければあなたが召喚されることもありませんでしたので…文句など言えないのですが……」
この会話を見ればわかると思うが、アルは炎の世界に居た魔女。
魔女は無理やり召喚するように強制されたわけであり、その強制させる方法は……それはまあ、なかなかひどい事だったらしい。
それをうんちゃらかんちゃらで色々あった…としか言えない!(別に考えるのが面倒だったわけでは…以下略)
それで、少女漫画的なうんちゃらかんちゃらがあったそうだ。
「魔法が普通に存在する、この世界だったら…アルは少し特殊な能力を持った女の子なんだから……自由に何かしたいことをしろよ」
「私がしたいことはコレです」
アルは炎との会話の途中も世話をし続けており、そんな事を言うときには炎の洗濯物である服を綺麗におりたたんだ。
アルの使える魔法には一つ特別なものがある。
それは、その地の歴史……つまり、その土地で歴史を知ることが来出るモノ。つまり徹夜が読んだ本は、アルの能力によるものだ。
「恋人作るとか…」
「たとえ……今のあなたが、私を愛していなくても私はあなたを愛し続けますよ? 過去のあなたに過去の私は色々な意味で助けられたから、今の幸せな私が居るのですから」
にっこりとほほ笑みながらアルは炎を見た。
「……重いなぁ、本当に」
炎は表情を変えずにそんなことを言う。炎にとって感情がないという事は、知っていたものが理解できないという事なのだ。
実際、昔の炎とアルならば相思相愛だろう。
いきなり知らない土地に呼び出されて色々と教えてくれたアルを炎は自然と好きになったし、炎のすぐに女性を口説こうとする馬鹿な性格は、ツラいであろう生活を送っていたアルにとっては本来のモノよりもずっと楽にしてくれていた。
だが、今の炎には感情がほとんどない。老人が作ったといっても感情を作るのは難しく、ほぼあってもなくても同じようなものだ。
今の炎は、ある人を愛していたことは覚えていても、愛するという感情が何なのか理解できない……そんな状態なのだ。
そんな炎の物語にはバッドエンドがあるとしてもハッピーエンドはあり得ない。
良くてバッドでもハッピーでもない、そんな納得のいかないものだ。
─ ─
《執筆用魔法具『言葉を紙に書く自動書記』は名前通り言葉を勝手に書いちゃいますよ、というモノです。
ナナ様により作られました》
《対象以外の人物だけに見られるように、プライバシー保護の魔法がかけられます。
保護しますか?》
はい or いいえ
《保護の魔法がかけられます。対象の人物は一人から四人まで指名することができます。
……対象の人物はニィ・サターニアですね。保護が完了します。
これより書記を開始します》
この手紙がニィに届いたということは、我はもう……この世にいないのだろう。
ならば、ニィに最後の言葉を……いたぁッ!? 何をする! なんでナナは我の頭を叩いたのだ!?
ん? なんで喋らない? あ~、この手紙に書かれてしまうからか……んん? 無言で拳を構えないでくれナナ。
怖いから! 真面目にやるよ、やればいいんでしょう!
む、キャラが変わってしまった。えっと、あぁっと…うぅぬ?
何を言えばいいのだ?
ルルは、死んでないって事を言えばいいだけでしょ!
なんでこう、グダるかなルルはっ! ああ…我慢できずに喋ってしまった。
あまり頭には自信はないのだ。だから、そういう事はすべてニィに任しておるのだぞ。
ニィさんって素敵ですよね。
おお、良くわかっているな小僧……というか、お主は誰だ?
この国の王子さんだよ、ルル……何度かは会ったことがあるでしょ?
ニィに任せているので、わかりませーん。
こいつ、殴りたいなマジで。
というか、お主にはやらんぞ我のニィは。我のニィは我のものであり、他の者のモノにはならんのだ。
まぁ、あえて言うならば……我に認められるのも最低ラインだな。
…頑張ります。
いいよ王子さまも、なんか決意したような顔にならなくてッ!
あ~ッ!! 本当にはなしが進まない! ニィちゃんに書くべきなのは、少しの間だけ自分の体の邪魔なものを取り除くために、この世界から一旦出るということ!
最低でも1週間かかるという事と、魔界の王都に置かれている遠距離用の無線型魔法具に信号が来たらフォルテに出来るだけ早めに来てほしいっていう事だよ!
ナナが言ったから、もう我が言う必要はないな。HAHHAHAHAHAHAHAHA!
こいつ、本気で殴っていいかな? あ、いい加減に、この魔法具切るね。
まだ完璧に充電できてないん……
そんな所で文が切れていた。
ニィはその手紙はニィの元へ飛んできた。飛んできたというのはニィたちがフォルテのを襲ったジパングたちの兵士を倒すためにフォルテを来た日とほぼ同じである。
これは奈菜が紙飛行機に魔法具をつけて飛びした手紙であり、その日から手紙の内容の魔法具がずっと反応していたのだが、具体的な連絡が来なくずっと怪しがっていたのだ。
それで、この手紙が届いたときに慌ててフォルテに向かっていったわけだ。
その時は必要な部分だけを見ていたため、ちゃんと内容を見れたわけではなかった。
「……私が一人で泣いていたのに、ルル姉さんはこんなコントをやっていたというわけですか。本当に困った姉です」
そんなことを言っているニィだが、その顔には嬉しそうな笑みがあった。
「泣いていたのか…ニィ?」
「ッ!?」
その笑みが驚きの表情に一変した。
ニィは背中側…つまり後ろから前へと向けて体重がかけられたのかニィはいきなり重くなったように感じたのだ。
ニィに寄りかかった人物…それはルルである。後ろからニィに抱き着くような形で奇襲したのだ。
「ルル姉さん……」
「ふっふっふ…我が死んだことは我とナナの予想通り、公開せずにいたのだろう? それならば、我が死んだふりを決め込んでいたのは、ほぼ問題な、痛い!!
なんだ? 何故我を殴ったのだ!?」
「妹を困らせる、困った姉には…罰を与えねばなりません」
「…え、えぇッ!?」
素で驚くルルさんも珍しい。
「それにしても、一週間と手紙に書いてありましたが…結構速かったですね」
「あくまでアレは長く見積もってのモノだからな……それなりに早く終わった。そして無事に体に混ざり込んでいた呪いを取り除くことができたぞ。
徹夜が居た世界には凄い存在が居るのだな…どうやっても敵いそうにない幼女が居てだな」
「そう言えば取り除く前の薬とかはどうしていたのですか? 私がスペアは持ってましたし…」
「それは我が死んだフリをしたときダミーの死体の手に握られていたものを奈菜が回収して、持ってきてくれたのだ」
奈菜はルルの(ダミーの)死体を目の前にしていた時、手に握られていた薬を奈菜は回収し…カントクに言って、どこかへと向かった。
それはルルや炎が転送される予定の治療専門の施設であり、そこに転送されたルルには薬が必要なため回収したのだ。
「すべては奈菜さんのおかげですね。奈菜さんが居なければ、ルル姉さんは今頃本当にポックリ逝ってます」
「……確かに、ニィの言う通りだろうな」
そんなことを会話していたルルとニィだが、ルルがニィの頭をがしりと掴んで目と目が合うような状態へとなった。
「本当に迷惑かけたな、ニィ」
ルルにしては珍しく、まともなテンションでまともな言葉をニィに向けて言う。
ニィは、つい…と言った様子で目じりに涙がたまっている。
「……本当に、ルル姉さんには無駄に迷惑をかけられました。なので、これからは絶対に、私を一人にしないでください。
私には姉さんしか居ないのですから……」
そう、ニィは小さく呟き…それに対してルルは当然だと言わんばかりに笑みを作った。
─ ─
そこは森。
夜の真っ暗な闇の中に一つの火が赤く光り…そこには火を囲んでいる少年と少女、そして女の子が少女にひざまくらされる形で眠っていた。
「……おそらく俺たちを何人かが追ってるだろうな」
少年は泰斗、少女はイブキ。女の子はアキである。
「そうでしょうが、とりあえず行き先はどこなのですか? 私には全然わからないのですが…ジパングに向かうわけでもないみたいですし。
まあ、ジパングに行くのは逆に危険でしょうが…」
「…ジパングに行ったら捕まるだろうし、ジパングに行かなくとも足を止めたらすぐに捕まえるだろうな」
「勇者の国を相手にならば、捕まっても問題はなさそうですけどね…」
「…周知の事実の通り勇者なら甘ったれだが…それだけだと国ってものはなりたたないだろ。
勇者が表なら、勇者の知らない裏だってある……まあ、奈菜なら裏にもかかわってそうではあるが、基本勇者は知らないだろうな。
俺も含め…おそらく、その裏に捕まったら終わりだよ。最悪死ぬ、良くても自由のない暮らしかな」
「……なかなか面倒ですね。
アキ様は、あの狂った王の娘であるというだけで……殺されてしまう可能性もあるのですから」
「………本当にな」
そんな会話をしながらも、泰斗は火に新しく木の枝を投げ込む。
メラメラと燃える火は、火花を色々な方向へと飛ばし…綺麗な光を放ちながら上下左右さまざまな方向に揺れる。
「あなたは、どうするつもりなのですか?」
「どうしようかな……」
泰斗に対し、イブキはチラリとアキの方を確認してから口を開く。
「あなたは…ナツメ様を殺したのですよ?」
「……俺はあいつに、ただ安全な場所にアキを送ってくれと言われただけだからな。無事に送り届けたのならば、俺は消えるさ。
どんな感じ消えるかはわからんが…」
「………」
泰斗を両目でジッと見据えるイブキ。
それに対して泰斗は知らんふりをして横になり、寝息を立て始めた。それに対してイブキは火に木の枝を入れながら、黙って火が消えないためと周りを警戒するために起きつづける。
もう少ししたら泰斗をおこし、役割を交換するだろう。
泰斗が起きたのは腹に走った激痛のせいだった。
「……っ?」
驚きながら目を覚ました泰斗の目の前には泰斗の腹へと涙を流しながら小刀を突き立てているアキが存在していた。
その泰斗の目の前で無口であまり喋ることのないアキが口をゆっくりとあけ、その口からは小さな声が漏れ始める。
「……昨日の夜…お前が、兄様を殺したって聞こえた」
泰斗とイブキの昨日の会話。完全に眠っていると思っていた二人だが、アキは起きていたのだ。
アキは、ナツメが死んだことを知らされていなかった。
その結果が、これだ。
その小さな声を泰斗が聞くと同時…泰斗は無意識のうちにアキを前へと突き飛ばしていた。
「アキ様!?」
そこに近くの川か何かに水を取りに行っていたのか、水の入った容器を抱えたイブキが帰ってきてアキへと駆け寄る。
イブキは泰斗の腹に刺さる小刀と突き飛ばされたアキを交互に見て、混乱している。
そして泰斗の右手は腰に下げられた刀…ナツメのものだった刀へと手が伸びている。それを視界のなかで確認したイブキは刀を抜き、アキをかばうように立つ。
そして、その次の瞬間には……アキとイブキの後ろから迫っていた全身鎧を着た騎士を泰斗が切り裂いていた。
「ッ!!?」
「行くぞ。追いつかれたみたいだ…もう目的の場所は近いし、時間もない。追手もすぐ近くまで来ているわけだし、急いだ方がいい」
それに驚くイブキとアキの手をひっぱり歩き始める泰斗。
その腹からは血が流れ続けている。
「……これを持っておけ」
泰斗は大き目な袋をイブキへと投げ、それをイブキはキャッチした。
「……その中には何日か分の食料と、あまり多いとは言えないが宝石。あとは色々と調べたものがまとめられているから、参考にしてくれ」
「…それは、どういう事ですか?」
泰斗へと、そんなことを訪ねたイブキの前では一つの光の柱があがった。
それは、もうすぐ目の前であり…森を抜けて見えた場所には、一つの大きな魔方陣が発生していた。
「……これから行くのは異世界だ。
フォルテの異世界への扉が開いたのを察知する魔法具は戦争時に俺が水晶漬けにして、活動不能にしてあるから問題はない。
あとは…今この魔法陣を見た騎士どもを排除すればいいだけだ…何で、どんな世界に行ったか解析されるかわからないからな」
泰斗がそんな事を言い終わると同時に、数人の騎士たちが泰斗たちへと向けて剣を構えながら迫り、それを泰斗がすべて斬り伏せた。
だが、泰斗は現在腹に小刀が刺さっており…そして、数日前に明の攻撃によって負傷している。
そのせいで全快の時よりも動きが鈍く…
……次の瞬間には泰斗の背中から剣が突き刺され、腹側から飛び出していた。
「…ッ!」
それはアキとイブキを躊躇なく殺そうとした騎士たちの剣から二人をかばうようにしたものであり、時間差で襲ってきたのだ。
「…くっ、そ!!」
そして血を吐き、悪態をつきながらも泰斗は無理やり体をひねり、後ろへと振り向きながらも騎士たちを一太刀で切り殺す。
「……お前ら、行け。こいつら全員殺すのにも、二人が居たら邪魔だ」
剣を鞘へと納め…その鞘に納められたナツメの刀をアキへと手渡した。
「あなたは、どうするのですか?」
「俺は消える」
そんなことを言った泰斗はアキとイブキを魔法陣の中へと放り投げる。その次の瞬間に二人の姿は消えた。
泰斗の手には水晶の棒のようなものができ、それに自分の体重をかけるようにして支えた。
「…一人一人、排除している時間もない。もしかしたら遠くに、後で報告するために見守るだけの騎士たちも数人いるかもしれない。
おそらく、全部排除は無理だな…だったら、一気に周りのやつらだけでも排除するしかない。俺は深い傷を負い、やけくそで能力を発動。
そして死ぬ…そんな所か」
やはり、泰斗を殺しに来ているらしく棒に体重をかけて、口から血を吐いている泰斗へと向けて容赦なく騎士たちが迫った。
「……疲れたな、本当に」
そんなことを呟いた泰斗の周りには水晶が突き出した。
それは一つや二つではなく、何百という数の水晶が生え…それは水晶でごつごつとトゲが飛び出した何メートルも水晶で覆うように山が生えた。
それは泰斗に迫っていた騎士も、森に潜んでいた残りの騎士も…すべてを貫き、殺しきる。やはり遠くには見守るためだけの騎士もいるようだが、さすがにそれまでは殺せない。
…それに、泰斗にそれほどの力は残っていなかった。
水晶の山は甲高い音と共に砕け散る。
それは、その能力を使った者自身に……その水晶を維持するほどの力が残っていないことの証拠である。
力なく水晶の棒に倒れ掛かる泰斗。
その目に、本来の時とは違い……ハッキリとした光はあらず、寄りかかった水晶の棒も砕け散り、そのまま前へと泰斗は倒れていく。
泰斗の目の前には魔法陣……魔法陣に向かって倒れた泰斗は世界から姿が消え、それと共に魔法陣も、その世界から消えた。
一人に2000~3000文字ぐらいかかってます。
この三人は第三章の最初から、こんな感じの終わり方にすることは決めていたことです。
今回、焦りながらも三日かけて書き終えました。誤字・脱字も多くなっていることは俺なので当たり前です。
もし見つけていたら、ご報告よろしくお願いします。