127話 …には、こんな過去がありました。
俺だって、頑張ってんだよ~!!
「炎の裏切り? というか炎の老人への接触は実際あったよ? でもね、それにはそれで炎くん個人ではあるけれど、事情があったんだ。
あえて言うなら徹夜くんが義理ではあるけど自分の妹を堕勇から抜けさせるために老人と会ったのと同じようなモノさ」
「……ククク、なんだ人形の話か」
奈菜の言葉に続けてきたのはグレモア。
くそ、左半身吹き飛んだんだから大量出血とかで死んでしまえばいいものを……なんでそんなに無駄にタフなんだろうか。
「面倒だから老人に頼もうかな…突き刺さったところが痛くて痛くて辛すぎるんだよ」
「ふふ…しょうがない話してやろう!」
なんだその無駄な仲の良さは。
マジで痛いのかもしれないけれどもさ…今の雰囲気で地面にうずくまってプルプルし始めるのはどうかと思うよ奈菜さんやぃ。
「ワシは、よく炎を空っぽの人形と読んでいたわけじゃが…それは炎がこの世界に来る前の世界での出来事が理由だ」
グレモアが喋り出す。
その世界は魔法は選ばれた…または、限られた環境の者しか使えない。
貴重な存在である魔術師は、どの国からも求められる存在だ。
そんな世界。そのある国で、所有されていた本に…魔法でも強力なモノを扱うなにかを召喚するモノが書かれていた。
そんなとき、その国ではずっと昔から他の国への対抗策として地下にはある魔物が封印されていた。
だが、その国には魔法が使える者はとうの昔に居なくなり魔物の封印が弱まっていくが封印できない。
それに焦りを感じていた国は『魔女』と呼ばれていた少女をとらえた。
その少女は封印の魔法は使えなかったが、それ以外の目的で捕らえたので問題はない。
その強力な何かを召喚し、自分達の生活している土地の下に眠る魔物を殺そうというつもりだった。
魔女は嫌がったが無理矢理いうことを聞かせ、その何か……勇者を召喚した。
そして数日間の間、魔女が勇者に世の中のことや魔法を教えることとなる。
魔女は自分が自由になるためにいうことを聞くしかなかった。
当然のことではあるが、封印の魔法を知らない魔女は勇者に封印の魔法を教えることは不可能だ。
勇者は魔物を倒すしかない。
…戦うしかない。
簡単に言ってしまえば、勇者は魔物を倒すことはできた。
だが、戦闘の最後で…止めを指す瞬間に魔物は勇者の大事なものを食らった。
それは目に見えないモノ、人としては重要で…それがなければ人の人生は色は失われ、昔のモノクロテレビのように味気のないものとなる。
勇者が食われたのは…感情だ。
「だから、空っぽの人形……感情を食われる前の自分を真似し、周りの人間を騙しつづけることを選んだ哀れな人間。
それが炎じゃよ」
「実際、老人への接触は裏切りとかじゃなく…感情を作り出せるかどうかを確認し、作り出せるからチョクチョク会ってただけ……まあ、老人でも完全に作り出すのは無理みたいだったけどね。
これは炎の問題だし知られるのは炎にとっては嫌みたいだから、カントクとボクぐらいしか知らないけどね。
それでいろいろと調べてたんだ」
やっとのことで痛みがおさまったのか奈菜はやっと平気そうな表情になって立ち上がっていた。
「ふうむ…色々とやってたんすね、マジで。
というか『それでいろいろと調べてたんだ』って唐突すぎんだよ、調べていたって何をだよ説明しろよ」
「そんな働いてない、みたいなこと言わないでほしいな。
まあ、とりあえず怒られたから説明するけど…ボクとカントクとルルと炎はね。ずっと里稲について調べてたんだよ。
まあ、どうせ理由を聞かれだろうから先に言っちゃうとね。勇者は甘ちゃんでなければいけないんだ。
本来はいくつかの戦いとかで人を殺しても気にしなくなったりはするだろうけど…勇者召喚の魔法陣は殺人鬼を作るものではあり、支配するための魔法。
出来るだけ召喚された者を召喚した側が操りやすくするために…大体は正義感を植え付けられたりに甘ちゃんなんだけど…何故か里稲ちゃんは甘ちゃんじゃなかったんだよ、最初から」
結構話が長いが…みんな静かにしてるね。
「まあ、その結果…ルルも死んで、炎くんも死ぬことになったんだ。
ボクが使ったこの魔法具は、二人のモノより結構グレードダウンしてるからね…他の二つのうち一つは死ぬと死を無効にして転移し、代わりのダミーの死体をそこに残す。
そしてもう一つはダミーの死体は無理だったわけだけど転移の機能を付けることは可能だったて所。
ルルは呪いのせいでまともに戦えないで死んだから戦うことは不可能だと判断し、炎はダミーの死体がないから派手に自分の体を残さずに死亡。
一瞬のうちに一片も残らず燃えつきたせいで壮絶な痛みを感じて動けずにずっと病院…里稲を殺そうとしたんだろうけど、自分の最高の攻撃に巻き込まれて動けずじまいとはアホだね、アホ」
「なかなか…面白そうな体験したんだな、炎は」
実際、あまり面白そうでもない。
「面白いとか絶対ありえないでしょ」
美月に突っ込まれた。
「ま、この結果じゃあ…ボク達四人とも里稲に惨敗っていうところかな。
この世界でも本来ボク達が生活しているはずの故郷の世界でも…どう調べても、どんなモノを使っても、魔法を使ってでさえも、里稲のことは分からなかったよ。
それに今回までは純粋に堕勇を倒そうとしていたみたいだし…何にもわかってないんだよ。教えてくれるかな? 里稲ちゃん」
「……それは私が、そこに転がってる死にぞこないの血を受け継いでいる者…つまり子孫だからだよ」
─ ─
「あら、要さん?」
「え? あ、明」
ぐでら~…と倒れて気絶している雑魚堕勇が三人。それを前足二本でむんずっ…という様に押さえつけている虎光(狂暴化バージョン)と電気をまとったサンに乗られて『ぐがががが…ッ』という声を上げながら倒れている堕勇が一人。
そんなときに明が曲がり角をまがって現れた。
それに対して要は当然のごとく攻撃を放つ体勢になるが、明はそれを手を上げてやめさせる。
「すみませんが、私は帰りますので戦闘はしない感じでお願いします」
「えぇッ!?」
驚くのにも無理はないと思います。
「なんで?」
「いや…私が見に行ったときにはグレモアという老人(だった者)は負けていましてね。私はいちばん強いであろうからついていったのに、景山 徹夜に負けていたのでは意味がありません。
景山 徹夜は老人を倒すほどの力がありますが…どうやらそれを扱い切れていないみたいですし、景山徹夜についていくというのは考えられませんからね」
「…ふ、ふぅん」
「なので、私はこれっきりで終わりにさせていただきます。いい暇つぶしになりました。
…どうやら、本命のはずの異名付きの堕勇はほぼ倒されているみたいですし…要さんは雑魚の堕勇と周りのジパングの兵士を…いえ、兵士の方は魔界から来たらしき軍で十分ですね。
とりあえず頑張ってください、要さん」
明は、そのまま要の横を通過し、そのまま通路をまがってどこかに消えた。
「……ふぅん、老人は倒されたんだ。じゃあ、頑張らなくちゃね」
─ ─
「…お前たちがどれだけ調べようと、わかるわけあるまい」
最初に口に出したのは老人だ。
まあ、今はもう老人というわけではないけどね。
「里稲は…お前らの故郷の世界での暮らしも、こっちの世界の勇者としての役目もすべてワシが用意したモノ……そして」
「私は…つい最近まで記憶を操作し、勇者として本気で活動していたのだから。ガチでやってる人間に裏があるわけないだろう?」
あ、ワシのセリフ…というつぶやきは聞かなかったことにしておこう。
「まあ、私は正直…こんな死にぞこないの考えなんてどうでもいい。この老人の無駄な恨みがどこまで、その老人の娘をはじめとした私の一族を操っていたのか知らないけど…」
そこで言葉を区切った里稲の表情は突然変わる。
「私は…ただ、人を殺せればなんでもいい」
嬉しそうな表情になった里稲は、ただ狂った人間としか思えない。
「この世界を壊す? そんなものなんてどうでもいい。私と『同じ形』をしたものが…今まで動いていたモノが動かなくなる様子を見るのがとっても楽しいんだ。
だから、魔神とかいうモノを利用して世界を壊すのなんてどうでもいい…あえて言うなら殺しやすいこの世界を壊すのは…私にとっては不都合しかない。
だから、殺そう…かな」
そう、言って里稲が不気味に笑う。
「何をしている、里稲!?」
声を荒げたグレモアの前で里稲のツタが真くんを狙う。
それに俺も驚いて真くんに向かうツタを迎撃(なんか、この言い方…カッコいい)するために動こうとしたが、それよりも先に他の二人が動いていた。
「やらせないよ…里稲ちゃん」
「…『重の大剣』!!」
ツタをすべてたたき切った美月と、奈菜が里稲へと向けて振り下ろした大剣。
それを里稲は疲れている二人とは違い軽い動きで後ろに跳んで避けた。
「そこの子は徹夜くんが、どうにかするって言ってたからね。やらせるわけには行かないんだよ…だから、ボクが君を倒してあげる」
「正直疲れてるんだけど…真くんは私にとっても居てほしいからね、かわいいし」
「…私もお前ら二人とは殺り合いたかったんだ」
剣を構えて里稲を見つめる二人に、里稲は嬉しそうにそんなことを呟く。
その瞬間に里稲の後ろにはいくつもの気がねじりこみ、今まででも一番の大きさの大木が生み出された。
その瞬間に里稲からは惜しげもなく魔力があふれ出た。
「こりゃ本気で行くしかないみたいだね~…がんばろっか、美月ちゃん。
私たち魔力も消費しているし、結構やばいんだよね」
「疲れてるのに…」
そんなことを呟いた二人。
「最終的にはこうなった!」
その瞬間に美月には光でできた布がまとわりつき、それは服をかたどっていく。
美月は光の衣装をまとい、異様に神々しい和風な服を着ていた。唯時と戦った際の足だけの時はイメージが固まったせいで足しかでなかったわけである。
なので完全にイメージが固まった結果…なんか神話の聖女みたいな感じになった(説明がアバウトすぎる)
足だけでも速さなどは格段にグレードアップしていたので全身の場合はどうなるのか…。
「美月ちゃん、何を言ってるの?」
そして奈菜の構えていた大剣がはじけ飛んだ。
大剣はいくつもの鉄の板が一つにまとめられて無理やり大剣の形にしたもの…というのがこの大剣の見た目であるが、その鉄板がすべて弾き跳んだのだ。
そして、奈菜の手に残っているのは一本の刀。
その刀は異様なほどにまがまがしいオーラのようなものを纏っている。
それを見た里稲は心底嬉しそうに笑みを作った。
「ふぃ~…美月たちも始めているし、俺もそろそろやるか」
俺は力が抜けて立てずじまいだが…足元から闇が展開される。
それは空へとのび……真くんの放っている異様なほどの魔力を食らい始めた。
何故、俺はグレモアとの戦闘で魔力を極限まで使ったのか…そんなん決まっている。
リヤナさんが俺に隠して貯めに貯めこんでいた魔力が邪魔だった…それがあると、全部吸収するには多すぎた。
だったらなくせばいいだけだ。
どんなに量が多くても…運動して空腹にすりゃあ、食べきれないわけじゃない(たぶん!)
真くんの底の見えない魔力、そして俺の底があるのか俺自身よくわからない闇の食力。
……どっちが、勝つと思う?
炎にはこういう過去がりました。そして里稲にはこんな過去もありました。そして俺は燃え尽きました、とさ…。
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