120話 甘ちゃんのままでもいられない
「…では、せっかくじゃし一対一でやろうかの。
では、美咲よ…奈菜を吹き飛ばせ。そして殺して来い」
老人がそういった瞬間、俺も含め奈菜も身構えることができなかった瞬間に狼の姿になった美咲が咆哮を放ち奈菜を吹き飛ばした。
それを追って狼も走って行き、すぐに俺の視界から消える。
「そういえば、この本見てたんだけどさ」
「おぬしは…戦うといって、なかなか戦い始めないのぉ」
「…ま、気にすんな。戦い始めたら、結構早めに終わるんだよ…書いているほうも大変なんだよ。かわりばえもしない戦闘で千文字とか拷問なんだよ」
「おぬしは何を言っておるんじゃ?」
「…正直、自分でもわかってないから気にしないでくれ。若気のうんちゃらかんちゃら、だよ」
「むぅ」
俺の言葉に、何だか微妙な表情になっている老人だが気にしてはならないだろう。
そんな事はさておいて、本を俺は老人に向けて掲げる。
「この本には…よくは知らないが、この世界であろことの昔話モノが最初にかかれていたんだよ(※プロログです)
そうしたら、昔自分の妻やらを殺された不幸な勇者様が書かれていたわけだ…まあ、最悪でも300年程度は昔のようだが」
「……」
老人は俺の言葉に黙って、こちらをジッと見つめている。
そんな老人に対して俺は特に表情を変えることは無く、ただ口を開き言葉を吐き出し続ける。『おえぇぇぇぇ』という感じで吐き出し続ける。
なんか、ごめん。
「…でも、変な昔話の後に誰かがこの昔話を調べた際に、分かった事を細かく纏めて書いてある紙があったんだよ。
まあ、小さな綺麗な文字だから…俺に渡してくれた女の子だと思うけど」
本当に読みやすくて、助かった。
文字が汚すぎて、何が書かれているかを考えながら読んでいくのなんて本当に嫌だったから…俺的には助かった。
「…色々書いてあったよ。
まあ、さすがにその勇者様の本名とかまでは分からなかったし、何をどう調べたか知らないが…その勇者様が妻を殺された後の話とかまでね」
「…ほぉ、それはどんな事が書いてあったのじゃ?」
「なかなか簡単で馬鹿な話だったよ…何を考えたか知らないが、その妻を殺した国を数年かけて滅ぼした後に、他の国を攻撃し始める。
そして最後にゃあ、勇者様に滅ぼされて国と共に消えていった勇者召喚の魔法陣を再び開発した国…『フォルテ』を攻撃し始めるってやつ。
ホント、迷惑なヤツだよな……一番最初の堕勇さんは」
「……」
俺の言葉に、老人はこちらを睨みつけてくる。
やはり俺はソレを相手にせず、へらへらと笑いながらさらに続けていく。
「ちなみに、この本人は勇者様の能力まで書かれてあったぞ? 確か、能力は……」
俺が能力の事を言おうとした瞬間に、周りから雑魚人形が飛びかかってきたが、その全てが俺自身理解不能な動作から放たれた攻撃で全ての人形に一撃ずつ入り吹き飛ばされていった。
理解不能というのは俺が体を動かしたわけではなく、リヤナさんが話に夢中になっていた俺の体を勝手に使ったのだ。
ありがとうございます…あのままだと、攻撃受けてました俺。
「…『不老』。勇者の特性上、戦闘で死ぬことが無い限り一番強くなるはずの能力だな」
「……」
そう言った俺に対して老人は今までに無いようなひどい顔でこちらを睨んできている。
不老不死というわけではなく『不老』…これはダメージを受けたら死ぬが、死ぬような事にならなければ永遠に行き続けるであろうモノ。
この本の中では、その人物にとって一番体が発達し全ての身体能力においてベストな位置になったときに成長が止まるのだ。
「いい加減に、その人形を捨てたらどうだ?」
不老ならば…そんな老いた姿なわけがない。
「悪いの…これは長年使っていて、あまり手放したくは無いのじゃよ。
それに……これはワシにとって忌々しい国で一番偉いトップの人間の成れの果て……そう簡単に捨てるわけにはいかん」
「悪趣味だな、お前」
「なんと言われようが、ワシにとっては関係ない」
「そうですねー」
俺のテキトーな返事に老人は顔を歪めながらこちらを睨んでくる。
まあ、話すだけってのも可笑しい。
「…じゃあ、そろそろ真面目に殺りあおうか」
「……」
黙ったままの老人の周りにはいつの間にか勇者の死体を元に造った強い人形達が現れている。
それに怯むことがない俺の体には黒いラインが入っていく。
「…それは楓の世界の時に片方の腕だけなっておったな」
そう、これはあのときの右腕の状態と同じである。
……だが、右腕だけではなくソレは体全体へと入っていく。
本来俺だけならばできないモノ…だが、今の状態の俺の場合は体を動かすのは俺、体に混ざった闇を制御するのはリヤナさん。
俺の人生で初の共同作業(言い方が悪い)である。
全てをリヤナさんに任せると経ました場合一瞬で消滅してしまうので、体は俺が動かしている。
なので素人の俺はリヤナさんのように動けるわけではない。
だが、それ抜きにしても…この全身に闇を混ぜる状態の強さは半端なものではない。
「さて……」
その次の瞬間にはその場から俺は消えた。
相手の老人…というよりも老人を操ってる人物には見えたのかどうかは知らないが、老人の周りに存在していた人形にはおそらく追えなかったと思う。
その次の瞬間には、人形に囲まれていた老人が俺の拳によってバラバラに砕け散った。
正直、グロイ。
「言っておくが、今回の俺は本気で殺る気でだからな?」
甘ちゃんのままでもいられない。
─ ─
「ふッ!!」
短い掛け声と共に刀が振るわれる。
葵の刀が横薙ぎに一閃され、栞を捉えたかと思いきや、胴体を真っ二つに切断された栞の姿はぼやけて、霧が周りに散るかのように消えた。
「魔法は…ただ破壊するだけの物ではなく、相手を惑わすモノ」
その声が聞こえると共に、葵の周りに魔法陣が発動し、次の瞬間には爆発する。
結界により守られた部屋や神官たちは衝撃波を浴びることも無く、神官は目の前の戦闘を見るよりも、戦闘をしている二人の内の一人の言いつけを守るため、魔法陣に魔力を流し続ける。
「食らうかッ!!」
その爆発で生まれた炎を切り裂き、ほぼ無傷の姿で現れる葵。
葵が睨んだ先には栞が居る。
「…それなりに強いといっても所詮は魔法だけしか扱えない出来損ないだ。そんなモノに私が負けるわけが無いだろ」
「刀しか操れないあなたにとっての負け惜しみですか?」
剣などを代表とする体を鍛えることが主な武術(勇者は特に鍛えはしないが)、そして体は鍛えることは泣く精神力などが大切な魔法。
この正反対の二つをそれぞれ操っている二人ともそれなりにライバル意識があったりするのかもしれない。
「「…むっ」」
お互いに怒るのならば何も言わずに戦っていれば良いのに…というのは、置いておく。
そんな二人が同時に動き、葵が栞と十分な距離が開いてるのにもかかわらず刀を振る。
それに合わせたように栞が転移をしてその場から離れると、栞がいた場所の床が切断され……そして、それは栞の時空属性の魔法によってすぐさま直された。
「あなたの刀は何でも切断しますからね…結界を張っていても切断されてしまうので色々と厄介です。
だから、あまりソレを振るな刀馬鹿」
「ふん…そんな事は知るか」
栞が軽く杖を振ると、空気中に突然現れたトゲが葵に向けて放たれ…それは全て葵によって全て叩ききられ落とされた。
「この状況での、お前はつまらないな」
「……」
葵の呟きに栞は顔をしかめる。
「本来、お前の得意な魔法は相手が単体でも団体でも考える事無く放つ、広範囲に向けての高威力の殲滅魔法。
だが、この小さな部屋ではソレは使用不可能であるし、仮に使用したとしてもお前が私から守っている全ての者を自分で全て壊すことになる」
葵がそんあことをいいながら栞へと向けてダッシュする。
それを阻むように爆発を起こすが、ソレは葵の刀によって全て綺麗に切断されていく。
「お前の得意な状況で得意な魔法を使っていれば、それなりには苦戦していただろうが……この状況でのお前は、同じ力量の相手にとっては…ほぼ、無力だ」
迫ることを止められない栞は、転移魔法で距離をとろうとするが止められない葵を見て焦ったのか、葵の見えない刃が栞の杖を切断する隙が出来ていた。
転移魔法は魔法陣や大人数での発動が本来の基準であり、栞一人での発動は異常である。
発動できる理由は、栞が尋常なほどの魔力を保有していることもひとつではあるが、やはりソレを瞬時に発動させ…すぐに移動することは相当難しい。
それを可能としているのは杖に付加された魔法の効果であり、それが切断されたという事はすぐには移動することは不可能だ。
「…ッ!!」
「さよならだ……『魔道書』!」
刀を両手で持ち、栞の目の前まで迫った葵。
その次の瞬間には、栞は全身から血を噴き出し……力なく倒れた。
栞さんがリタイヤしました。
そして徹夜くんは最終変形をなされました…いきなりコレを出すのもアレなんで、楓の世界で腕一本だけやっていたわけですね。
誤字・脱字があれば御報告宜しくお願いします。