88話 gdったりする
gdったりします
これは次の日である。
「ウアー、これで何日目だっけ?」
「三日目だっけかな…?」
俺の質問に美月は自信なさげに答えた。
まだ泊まり込みでして今日の朝なんか母から電話かかってきた。
本当の理由も言えないので嘘しか言えず、嘘はあまり自信ないので母に無駄に心配かけているようだ。
ホント、ごめんなさい。
「ああ、本当に帰りたいわ」
「我慢して、徹夜」
うはあ…と息を大きくはいた俺に美月はそんな感じで言葉をかけてきた。
子供っぽい事だけど、こんな我慢はしたくねぇ……。
「まあ、徹夜くん。
もう少しで本当に全部終わるだろうからさ、とりあえず我慢しようよ」
そこに奈菜が話しかけてきたわけだ。
「…今日も何か変なので集まるように言われてるんだけどさ、何があるんだ?」
「えっとね、尋問的なものかな?」
「尋問? 拷問とかではなく?」
拷問って言うのさ。
よく映画とかでも出てくるけど本来の拷問ってもっとひどいらしいよね。
詳しくは知らないけど絶対に体験なんてしたくないものばかりだしさ。
ふざけて俺が前にやったことがあるけど(※第一章の何話かは忘れましたがレーゲンの時です)あれさ…あのおじさんが忍耐力無かっただけで、正直本当の拷問と比べると全然だめだと思うんだよ。
「うん、拷問とは言えないかな。
特別な魔法陣の上で、ただ問い答えるのをただ繰り返していくだけだからね。拷問のように苦痛を与えて無理矢理口を開かせるのではなく正直に話させるものだから」
「へぇ、そういう感じなんだ」
「スプラッタな光景を見るハメにならなくて、俺的には感謝だな」
まぁ、色々とゆるくてラッキー。
「基本的にボクたちはあまりそういうのは好まないじゃない? 別にそれを見て気が狂ったりするわけじゃないけど、基本的に見たいと思うわけではないしね。
だから、この国で魔術師達が頑張って独自に開発した特別な魔法らしいよ」
「ほおほお」
なんか返事がテキートだな、俺。
「その尋問中は、魔法で一方方向から向こうを見れる壁…要するにマジックミラーみたいな壁があるんだけど、そこでボク達は見ることになってるからさ。
もう行っておこうか」
「うん、わかった」
「はぁ…了解です」
奈菜の言葉に俺と美月は適当に返事をした。
─ ─
その部屋には、ある魔法陣が床に書かれていた。
『フォルテ』独自の魔法が開発されている。
それはそれほど成功はせず、新しく魔法を開発する事はなかなか簡単な事ではない。
だが、それでもいくつかは成功する事があり…その魔法陣はその1つである。
その魔法陣の中心に立ち、いくつかの質問をされていくうちに魔法が徐々に中心に立った者へと効果を現していき、中心に立っている者は段々と質問にも素直に答えていく事になり、そんな質問も拒まなくなる。
その魔法人の中心に炎は立っていた。
「…わざわざ、こんな魔法陣を用意されてもなぁ」
そんな炎が呟いたのに対し、周りの兵士が黙れという短い言葉を炎へと向けた。
それに炎は少し嫌そうに溜息をつくと、魔法陣の真正面のイスにどっかりと座っている国王を見た。
その周りには、カントクが居て…数名の騎士達が一応のために鞘におさめたままの剣を腰に下げている状態で炎を睨むような状態で警戒している。
そして当然国王以外にもこの国のお偉いさんも集まっていた。
「…名前は神沢 炎で間違いないな?」
国王が口を開いた。
「はぁ…そうですけど」
気の抜けた返事は王への態度など気にしておらず、それにやはりお決まりのように騎士やら重鎮(だっけ?)のようなお偉いさんが炎への態度へと異議を唱えた。
それを炎は特に何も言わずに、つまらなそうな表情で見つめていた。
「よせ…無駄に長引かせるな、面倒だ」
基本的に魔法陣の効果はいつどんなタイミングで質問しても相当効くものだが、それでも一番効くタイミングというものがあり、それを国王は気にしている。
だから、無駄に突っかかっていく騎士たちやらを止めた。
「お前は、この『フォルテ』で『勇者』という存在として働いていた。良いな?」
「まあ、そうですね…好きでやってたわけじゃないですが」
「…ふむ。
お前の能力は物質を溶かし操るモノで違いないな?」
「そうですね。
ただ実際は物体を溶かし器となる体を作り、その体に精霊をいれて協力してもらう、というものですけどね」
「ふむ」
「魔法陣の効果を十分に発揮させるために、無駄な質問するのもいいですけど俺にとっては暇なだけなんだが…」
「悪いが最後まで付き合ってもらうぞ…こちらにもこちらにもやり方があるのでな。
では、お前は男でいいな?」
質問だったら何でも良いのでグダったりもする。
「……そんな事まで聞くのかよ、必要ないだろ」
「いいから答えよ」
「はい、男です」
ホント、グダったりもする…相当ひどく。
「あと数回はこの無駄な質問が続くわけだが、いいか?」
「いや、本当は嫌なんだけど…どうせ、断っても続けるでしょう?」
「もちろんだ」
内心、国王様も面倒とは思ってるのは間違いはないと思う。
これはいつもの事なのか、周りのお偉いさんや騎士たちは特に何かをいいたそうな顔をしているわけでもなく、ただただ炎を見ている。
内心、暇潰しに違うことを考えていそうなのも何人かは存在しているであろう。
でも、さすがに国の事を左右するお偉いさん達は外見上では怠けるダメ人間ではなく、鋭い眼(ただ目を細くしているだけなので鋭くは無いかも…)で、炎を観察しその動き一つ一つを見逃さないようにしている。
「では、次は…好きな異性のタイプは?」
何聞いてんだ、この人は?
「美女!」
胸を張りながら答えるなし。
「それは、まぁ…大雑把だな」
さすがに王様も引きます。
引くようなことになるんだったら最初から聞くなって話なんだけどね。
意味もない質問をした必要性はどこに存在してるのか……。
たぶん、この問答での問は基本的にその場で決めているのか…それとも今回は問いを用意し忘れたのか。
国王は色々と悩みながらどうでも良い問いを炎へと向けていた。
「…では、まだ魔方陣の効果の効き具合は本来のものとは違うだろうが、もうそろそろ本題へと移っていくとしよう」
国王はそんなことを言う。
「お前は『魔王』であるルル・サターニアを殺したか?」
「殺したかどうかを聞かれれば、誰でも殺してないと答えますよ? ここで「殺した」と言えば俺が死ぬはめになるんだから」
魔方陣の効果はまだ薄く、ふざけた様子で答える炎に国王はただ何も言わずに次の問いへと移った。
「では、お前は私の息子の誕生日のためのパーティーから退出したあと何をしていた?」
「知り合いにあってました」
「その知り合いとは?」
「俺が前に口説いた女性です……まぁ、友達として、ですけど。
どうやったら落とせるんだろうか…?」
後半はただブツブツと言っているだけだ。
炎が言っていることが本当かどうかはまだわからない。
「その女性はどこにいる?」
「さあ? 今頃、面倒に巻き込まれないように遠くに行ってるのでは?」
ニヤリと笑った炎。
「その女性が居れば、お前が助かるかもしれないのに何故本当の事をもうさない?」
「現場から俺の魔力が発見されてしまっているのだから、どうなろうと結末は決定してるでしょう。
なら、答える必要はないです」
「では、まだ質問のしていないことで隠していることはあるか?」
「あります」
あっさり答えるね、炎くん。
「それはなんだ?」
「俺の能力は国王様も言った通り『物体を溶かし、それを操る』というもので、ほぼかわりはないですけど…」
「……?」
炎の言葉に疑問の顔になる国王。
国王は『勇者』一人一人の能力を知っており、今炎が言おうとしている事が少し気になっている。
「本当は、この能力を使っても、何も変わらないのです」
「変わらない、とは…?」
「外見です。
この能力を使っても本来、俺の髪に赤いラインはできないんですよ」
その言葉と共に炎の髪に赤いラインができ、そのきれいに光るまっすぐなラインがドロリと形を崩した。
『ッ!?』
周りが驚き、騎士たちが炎へと飛びかかろうとする。
だが、間に合わない。
赤いラインは形を崩し少し粘着性のある液体のようなものになると炎の両手首にはめられたいる枷に落ちると共に爆発した。
ほんのすこしの液体で、爆風がうまくコントロールされていたのか炎に何も被害はないのに飛びかかろうとしていた騎士だけを吹き飛ばす。
「これはいざというときのために薄く髪に張り付けていた溶岩。
俺が特別な材料で作ったものだから不快感もなく、通常は真っ黒な髪に混ざって気づかれず、能力を使うと自然と熱が発生してしまい勝手に赤くなるから能力を使うと赤くなる特別な体質と考えられてただけ」
混乱しているその場に炎の声が響いている。
その足元の床が魔方陣ごと溶け竜の形へと変わっていく。
「だけど…最初からずっと、こんな時のために用意していた逃亡手段だよ」
炎を乗せた竜が、翼を大きく動かし飛び上がる。
すぐさま天井を火の玉で吹き飛ばし、太陽の光が漏れ始めた穴から炎が外へと飛び出した。
髪にラインの設定をつけた時点でこれはもう必然だったのです。
夏休みが終わる前にあと一話投稿したいです。
誤字・脱字があればご報告よろしくお願いします。