78話 沈黙(約一分経過。この一分は長い)
久しぶりに、あの二人が進展した気がします。
ある意味、今までより上です。
その世界には昔……数千年もまえ、3匹の竜が居た。
3匹の竜は始まりの竜と呼ばれ、生まれは少しの違いはあったがほぼ同時で、家族のような絆を持ち、神にも等しい力を持つ。
その世界の人々は、その3匹の竜を崇めた。
それこそ神と同じほどの物であった。
だが、その世界に対して…その竜の力は明らかに大きすぎた。
世界には入れられる量のエネルギーは限られていた。
長い間強力な竜を3匹入れ続けた世界は強大な力に耐えられなくなっていき、段々と壊れ始めた。
それに気づいた3匹の竜達は危険視し、それに対して対応することにした。
一匹の……一番最初に生まれた竜が自らの命を使い、他の二匹の始まりの竜とそれに付いて行く何百匹の竜を他の世界へと送り出した。
その一匹は死ぬが、その体は滅びることなく残り、その竜の死体の上に都市を立てたことによって建国された国が『ドラグニル』。
その国の王は異様に竜の力へと執着し、竜の死骸を使い竜の力を得るために何年も実験を繰り返していた。
そして何代も王はそれを受け継いで行き、ある王が人間を使っての実験を考え付き、何百人もその実験で死ぬ事になる。
そこで使われたのが異世界の人間。
異世界の人間に対して竜の力は上手く適応し、その人間に本来とは違う力を与えることができ、王は歓喜した。
だが、力を与えたことでコントロールするのは困難になり、特別な魔法具による拘束し、自分の思い通りになるように信頼のおける騎士達などをはじめとした部下を使って洗脳を時間をかけて行うことにした。
その間には、兵器となるモノを増やすために魔力石を人間に混ぜ込む実験を繰り返していた。
それも、失敗ばかりで何百人もの人間が死んでいく。
その王には一人の娘がいた。
その娘は王がやっていることを何も知らず、ただ優しい人間。
だが、ある日……何百人も死ぬ実験を見てしまった。
それから、その娘は自分の父である王へと問いただし、止めなければ他の国へと知らせると言ったのが娘の人生が変わった瞬間である。
その国にとって娘が知ったのは他国にバレてはいけないであろうモノ。
娘には優しかった王の表情が変わった。
追われる娘。
娘が追われる内に逃げ場がなくなり、城の地下へと続く階段を自然と下りることになる。
その地下にはいくつもの拘束具によってとらわれていた異世界の人間…つまり楓がいた。
娘は、楓と取引をする。
それは簡単なもので楓を自由にすれば、娘は助かるというもの。
そして、楓ははじめて城のそとの世界を知ることとなる。
二人の最初の目的は、その国から出ること。
その途中では追っ手などもあり、その追っ手は王の信頼のおける部下だったのだが、わざと撒かれてくれたりで、やっと無事に国を出られたのである。
何故、部下達が裏切ったのか。
それは、王の娘である少女のためか、それも元の世界に帰りたいとずっと泣いていた楓のためか。
それは分からないが、バレた部下は処刑され有能だった部下達を自ら殺した王が二人の行方を知ることは一切ありえなかった。
「楓、お前どこに向かっているんだ?」
「友達のとこ」
その会話は楓と体の至るところに包帯を巻いている美咲。
「それにしても、よくもまあそこまでボロボロになれたもんやな」
「ん? 三人相手にしてたんだが、なかなか手強くてな。
ま、他の三人も俺と同じぐらいボロボロにしてやったさ」
笑いながらそんなことをいう美咲に、珍しいことに楓は苦笑で返した。
「それに、わざわざウチにあわせて帰りを遅くしなくてよかったんよ? その体だったら、相当疲れてるやろ」
「別に問題はない。
それに俺の用事の時もお前はちゃんと最後まで付き合ってくれたからな、お返しだ」
そんな二人があるいているのは森の中。
どんどんと歩いていくと、一軒の家が見えた。
「あそこか?」
「ああ、ウチの友達の家。
その娘の父親を焼き殺しちゃったから、少し謝罪しようとおもぉてなー」
─ ─
「ふぃハァッ!?」
自分でも理解できるほど変な声と共に、起き上がった俺はどこか知らない天井の下にあるベットの上だった。
辺りを見回しても、どこだかよく分からない場所だ。
そして周りを見ている途中で気づいたのだが、俺が寝ていたベットには美月がベットの横にある椅子に座り上半身はベットの上に乗る形で寝ていた。
片足の針が刺さったであろう場所には包帯が巻かれている。
たぶん包帯の下は治療魔法で治してあるが、傷が開いたらまずいので包帯を巻いてあるのだろう。
「……んむぅ?」
俺の変な声か、それとも美月は俺の胸辺りに顔を乗っけている形で寝ていたので俺か飛び起きた衝撃か。
これらの二つのどちらかの理由で、美月が起きてしまい眠たそうに目を擦っている。
「お、おはよう……美月」
いつも思うけどぎこちねぇな、俺。
そんな俺はさておいて、美月は俺の方を数秒見つめてくる。
……何故? という疑問を考えていると、次の瞬間には美月が抱きついてきた。
一言だけ言うと、暖かい。
「え、あっ、なに? ナニコレどんな状況!?」
いい加減慣れろよ俺。
今まで何回美月に抱きつかれたんだよ? なんだ? お前は乙女か?
いや、つい…お前って言ったけど俺のことだけどね。
「良かったぁー、徹夜。
一日と半日以上、ずっと寝っぱなしなんだもの!!」
微妙に涙目の美月が俺の顔を見るために見上げてくる形になるわけだが、やはりこれは反則だと思う。
「は? 俺そんなに長い間寝てたの?
ということは4~5回の飯を逃したって言うのか?」
ホントに最悪だ! 飯を逃すとか、マジでもったいないことをした!
俺の人生の数少ない幸せが!
「ちなみに栞ちゃんが言ってたシュークリームは、徹夜がいつおきるかわからなかったから、私と栞ちゃんで半分こして食べたからね」
俺、絶句。
「……ふぇフるファ」
「そんな落ち込んで変な声をあげなくても……私が代わりに買ってあげるから」
なんか俺、子供みたいですね。
「まぁ、とりあえず真面目な話に戻るけど体は大丈夫?」
「ん、問題ない。
……というか、美月はいつまで俺に抱きついてるつもりだ?」
「絶対に離さない、というか離れない、そして最後に離れたくない」
「…さいですか」
俺の飽きれ気味の声に、美月は確固たる意思を見せるようにさらに抱きついている力を強くする。
正直、苦しい。
「……もし、今度こんなことがあっても」
「ん? どうした、美月?」
美月のポツリとした呟きに俺は、疑問の言葉で返す。
「もし…また同じ様なことがあっても、私の片足が傷ついても、吹き飛んでなくなったとしても、徹夜を守るからね?
今回みたいに、私のせいで徹夜が傷ついてほしくないから!」
本気だと言わんばかりの表情で俺の方をただジッと見つめながら、大声でそんなことをいう美月。
「それだと、俺が嫌な気分になるだろ」
俺は美月の頭を撫でる。
「今度は絶対勝とうな?」
必死な感じの美月をなだめるために、美月を俺の方へと近づける。
すると、抱きつかれていた俺も美月のことを抱くような形となり、美月にとって今回は後ろから撫でられてる形となった。
「…うん」
美月の短い返事。
「……」
「……」
沈黙。
「……」
「……」
さらに沈黙。
(30秒経過)
「……」
「……」
やっぱり沈黙。
(約1分経過。この1分は長い)
「「くはっ!!」」
俺も美月も両者ともに同時に耐えられなくなり離れる。
美月の顔は真っ赤で、たぶん俺も顔が熱いので真っ赤なのだろう。
やばい、雰囲気に流された……恥ずかしい。
「と、とりあえず左腕のコレをどうにかする!!!」
俺は乙女かっ!!
「その模様、いろんな人が無くそうとしてたけど消えなかったよ? もちろん治療魔法も」
「まぁ、これは俺しか無くせないだろうしなしょうがないだろ。
そういえば、ここはどこだ?」
「ここはフォルテ。
倒れている徹夜を菜奈ちゃんが、動けないでいた私を菜奈ちゃんが連絡して呼んだ瑞穂くんが運んでくれたの」
なんかあれの後だと美月の近くに居るのも恥ずかしい。
逃げていいかな?
「ふむ、わかった。
とりあえず話を戻すが、これは闇が細胞と細胞の間に闇が混ぜ染まれてるようなものだから離すのは不可能だし、これが健全な状態として認識されるから治療魔法も無理だ」
「じゃあ、どうするの?」
「闇でだったら分離は可能だ。
少し痛むだろうし終わったら出血はするだろうからな。
美月、治療魔法の準備おねがいな?」
「うん、わかった」
封印されてる左腕は、このままだと扱いきれないので戻すことにした。
─ ほんの1~2分前 ─
「あー、なんかボクは漫画見てるみたいな気分だよ」
「おお、奇遇だな俺もだ」
「シーッ!! 静かにしなよ菜奈に瑞穂」
「むぅ、我はあまり男に興味はないからな。
ああいうのはどんな気分なのだろうか?」
徹夜と美月は気づかない。
菜奈、瑞穂、要、ルル……この四人がこっそり扉の隙間から覗いていたことに。
最初は理稲を除く勇者達が徹夜が起きたかどうか確認するために来たのだが、無駄にはしゃいでいたルルが他のもより先行し、それを追って菜奈がついていったのだが……ルルが中の様子に気づいたのだ。
菜奈は男性陣を有無を言わさず一旦帰らせ、自分達は覗いているわけである。
(男なのに追い返されなかった瑞穂は複雑な気分だったが、徹夜と美月を覗くのを優先した)
「はぁ~ッ!! なんか、こういうの良いなぁ」
要のそんな言葉。
「おれ、こんな姿だけどどうなるんだろうか」
瑞穂。
「良いよね、こういうの。
ボクも憧れちゃうよ」
菜奈。
「ではナナ、我とやってみるか? 我自身興味があるしな」
「やめようね、ルル。
特別な意味もなく抱きつくのを言ってるんだろうけど、ボクは別に女同士でって訳じゃないから、そういうの担当は楓だから」
仲良いよね、二人。
そして、メタ。
「それにしても、二人とも動かないわね?」
要。
「あれじゃね? 二人とも恥ずかしくて動けないんじゃね?」
瑞穂。
「「「ぶっ!!」」」
つい、吹き出す三人。
「そんなわけないんじゃない? さすがに」
思わず吹いてしまった菜奈は、慌てて口を押さえながら瑞穂の言葉に返答した。
「いや、わからないぞ。
いつもイチャイチャしてるけど二人は片方が片方にやることは多いけど二人とも同時は少ないからな」
そんな瑞穂の冷静考え。
その答えは………お分かり通りだ。
ちなみに始まりの竜の二匹は姉弟だそうですね……完全にあの人たちです。
楓さんは前にも言ったとおり主人公として考えたキャラで、今回の過去話はその小説どおりに書きました。(その時の始まりの竜は、あの人達には関係ありませんでしたけどね)
誤字・脱字があれば御報告宜しくお願いします。