77話 やーい徹夜くんリヤナさんの…(省略
楓のところは意味が分からない部分がありますが、次の話で補足をいれるつもりです。
周りから現れた闇が自然と集まり、徹夜を行動不能にした老人の攻撃のせいで焼け焦げなくなっていた服の背中の部分が修復された。
「はぁ~ッ!! 久しぶりに美月ちゃんに触れてうれしーッ!!」
「苦し…ッ!!」
むぎゅ~っ!! という感じに美月に抱きつく、あの人。
「ごめんね、美月ちゃん。今は出来るだけ魔力を節約しないといけないから、その足を治せないの」
「うん、大丈夫。自分で治せるから」
美月の言葉にあの人…リヤナはニッコリと微笑みながら、美月の頭を撫でた。
「美月ちゃんは偉いな~」
「……子供じゃないんだから、そんな事言わなくても」
少し恥ずかしげにそんな事を言う美月に対して、リヤナは表面上平静を装っているが内心めっちゃうざったい事になっている。
それは色々と今の場面には似合わないであろう描写なので、絶対に入れることはない。
入れたとしてしても……次のように。
「……(ああ、美月ちゃ《ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!》)」
全てピー音へと変わる。
だから、基本的に意味は無いだろう。
そして、そんな二人を見ている二人。
「唯時、おぬしの目にはどういう風に見えた? 見えた通りに言ってみぃ」
老人は倒したはずの男が立ち上がり、口調や肌の色などが変化したのに対して何もわからずに困惑していた。
「……色が変わった」
「色、じゃと?」
唯時の眼には、徹夜が立ち上がる前は青に近い色だったのだが、立ち上がる直前に赤へと変わった。
「ああ、俺自身この眼で見ることが可能な限度なんて知ってはいないが……景山 徹夜が、あの状態になる直前に何かの色が変わった」
「ふむ。今度、おぬしと一緒に魔物でも殺しに行くか」
「は? 何故だ?」
「その見える色が何かを確認するためじゃよ。
この時点でわからないのが惜しい所じゃが、とりあえずは目の前に集中するべきと考えておくべきじゃろう。
景山 徹夜がどう変わったにしろ、あの攻撃を食らった後に立ち上がるのは、わしにとっては予想外で異様としか言えんのでな」
老人が目を細めて徹夜……というより、リヤナを見つめる。
老人は相手が何だか分かっていないので、観察するために。
「さて、私も私で戦闘の前にやらなきゃいけないことやるかな」
「やらなきゃいけない事?」
「うん、やらなきゃいけない事」
次の瞬間には、美月を拘束するために腕に絡みついていた鎖が一瞬の内に断ち切られ、いきなりのことにビックリしてバランスを崩した美月が倒れそうになるのを、リヤナがおさえて美月をしっかりと座らせる。
「ん、ありがと。リヤナさん」
「どういたしまして」
その後、リヤナが魔法を発動し掌の上に魔力でできているであろう青白い鎖が現れ、それが左腕に張り付き黒い肌の中でも目立っている黒い模様の上から張り付き黒い模様を抑えるように青白い模様がついた。
「何したの?」
「ん、闇の混ざった左腕を一時的に封印しただけよ?」
「一応聞くけど、理由は?」
青白い鎖の模様が張り付いた左手をリヤナは少し触りながら美月のほうを改めて見て口を開く。
「闇は全てに干渉し、全てを食う。
そんな物を体の中に混ぜ込んだわけだけど……徹夜の闇を操る技術は、これを扱いきれるほどの物じゃないから、もともと消費率が悪いのに余計に体力や魔力とかを闇が食べちゃうんだよね。
しかも、今回は全てに干渉する闇は…徹夜の身体という器に入ってる魂まで食べちゃってるから余計に徹夜は疲れてたんだ。
私だったら闇を使えば多分扱いきれるんだろうけど、私の魂の質量は徹夜と比べると少なすぎるからね。
下手すると、一回失敗するだけで私は消滅する可能性あるからできないのよ」
私が徹夜に協力すればやれないことじゃないんだけどね、とリヤナは呟いた。
「さて、最後に…」
リヤナが、そんな事を呟くと美月の周りからいくつかの青い線が飛び出し、それが美月の頭上でひとつに纏まり、線と線の間に壁が出来上がった。
要するに結界のようなものだ。
「美月ちゃんは静かに見ているようにね。
……さて、やろうじゃないか」
「「…ッ」」
リヤナからゾワリと何かが漏れ、それに咄嗟に後ろに下がる老いぼれと唯時。
「そこの少年は巻き込まれないよう、後ろに下がってればいいよ。
私の八つ当たりを関係の無い、あなたにまでするわけにはいかないから」
リヤナの言葉に唯時はチラリと老いぼれのほうを見る。
この言葉に従うも何も、老人に命令されては下がることなんてできないからだ。
「唯時、下がってて良いぞ。
多分、これほどの殺気を放つヤツになんぞ…今のところ堕勇でも勇者にでも敵う者は居らんじゃろうしな。
この女(?)はワシ、一人で相手する」
その言葉を聞いた唯時は即座にバックステップするようにして、リヤナから距離をとる。
ツッコんではいけないと思うが老人の場合、人形を使ってるので一人とは言えないのではないだろうか?
「さて、ではかかって来い。女(?)」
「じゃあ、やるかな~」
そんな事を呟いたリヤナの体からさっきの物よりも、もっと鋭く重い物が漏れ、体の周りに赤い湯気のような物がたちのぼる。
そして、普段は黒のはずの瞳には血を思わせるような赤い光が宿る。
「これは私が怒れば怒るほど、強くなる強化魔法……簡単に言っちゃえば『狂戦士化』モードってとこかな?」
そんな軽い口調で言っているが、唯時がさらに後ろに下がるほど何かが漏れ出している。
美月は結界を張られているせいで、それらを一切感じてはいないが結界で守られていない老人や唯時などにはたまったものではない。
「これは、なかなか手強そうじゃな」
「私は絶対に許さない……美月を傷つけたお前を!!
昔も今も李氏を守れない、いつまでも弱く惨めな徹夜を!! この怒りの半分はお前に、半分は私に……これからする事の半分は八つ当たり。
せいぜい死なないように努力しろ、老人!!」
─ ─
相当固い扉の先。
その一番奥不覚に到着した楓の目の前には、一人の男が座っていた。
「やっと見つけたで」
「おお、何やら外が騒がしくなっていたが、やはりお前か。
久しぶりだな、実験台295号」
「その名前呼ぶのやめてほしいんやけど? このドラグニルという国の国王さん。
いつもなら周りに自分の信頼している騎士達が居るはずなのに、何で今回はいないんや?」
「その者達ならば、すでに処刑されておる。
どうやら、二年前のお前の脱獄には何やら関係していたらしいからな。
どうせ、お前は何も知ってはおらんのだろ?」
「……」
目の前の男の言葉に楓は黙る。
「それで、お前は俺に何の用だ?」
「ただの復讐やけど?」
男の言葉に楓は返答し、その言葉に男はあからさまに意味が分からないように首をかしげた。
「何が理由で?」
「ハァッ!?」
男の疑問に楓は変な声をあげた。
「何故だと聞いているのだが?」
「……ウチの元々の能力は『適応』。
その場の環境に適応するという能力は戦闘に不向きであるものの、それこそマグマの中でも死なない体へと変化させるものや」
楓は背中に生えた翼をチラリと見た後、目の前の男に向き直る。
「ウチの能力は、こんなモノやない。
こんな人に体をいじられて得た、こんなモノやないんや!
体に1つや2つ、穴を開けられても数時間死ぬことがない……そんな体にされて、誰が喜ぶっていうねん!」
「ふん、理解不能だな」
楓の言葉を男は鼻で笑う。
「1つや2つ、穴を開けられても数時間死ぬことがない体……最高ではないか。
それこそ俺の望む力、上位種の証ではないか!」
そんなことを叫びなから笑う男。
これに対して楓はもう何も反応することはなく、次の瞬間には竜の姿へと変わる。
『なに言っても、あんたには無意味やな』
「その姿……二年前にも数回見たが、やはりなんと美しいことか!」
そんなことを今の状況でも叫ぶ男。
そして、竜の姿の楓の口の中には高密度の魔力がためられていく。
そして、全てを燃やし尽くした。
─ ─
昔、彼女は『黒鬼』と呼ばれていた事がある。
その由来は、あまり短期ではなかったのだが溜めに溜め込んだ末くだらない理由でキレ(例としてはハイエルフのギエルにデザートを食われ本気でバトル。勝敗は不明)リヤナが発動させた魔法で大暴れしたための名前である。
実際、歴代の『魔界六柱』は合計何百人と存在するが、その中での強さならば真のNo.1。
あの単体で神の域に達していた魔王の娘だという事はあり、やはり相当の強さだったわけだ。
これを考えてしまえば、何百年という間は開いたが次に生まれた娘だったミルリアはリヤナよりも相当劣っていたことになる。
実を言うと、この状態になったリヤナは勇者と互角またはそれ以上に殺り合うことは可能である。
ただ単にリヤナが異常なだけなのだが…。
そして、生前のリヤナの性能などを比べると徹夜と比べると劣っており、今の体の方がリヤナにとって断然動きやすいわけである。
その体で相当運動能力を上げる魔法を使ったリヤナはどれほど強くなるのか。
そして、今回の敵はどの程度の実力なのか。
「ふッ!!」
リヤナの回し蹴りが炸裂し、人形の一体が吹き飛んだ。
その一撃で人形の体はバラバラにはならなかったものの再起不能へとなる。
だが、ギリギリでバラバラにならなかっただけである。
「……この体は鍛えているわけじゃないからなー、この魔法は少しきついな」
そんな事を呟くリヤナを狙って、三人の人形が襲い掛かる。
右から放たれる拳、上から狙ってくる鋭い刃、左から潰そうと狙ってくる巨大な足。
それらの攻撃の隙間である安全地帯に身を捻り、飛び込むリヤナのまわりでは攻撃が全てリヤナに当たることなく素通りしていく。
「ふッ!!」
次の瞬間にリヤナがさらに身を捻り空中で一回転すると、周りにいた人形達が吹き飛んだ。
「……人形の癖に上手く自分で後ろに下がってダメージ量を減らしたか、生意気だなー。
この体でこの魔法、あとは自分のできる範囲の動きを考えると、さすがにまともにやり合うなら二体…頑張って三体まで、て所かな」
少し鈍ったな~、という呟きを漏らしながら周りを見るためキョロキョロとしながら跳びまわるリヤナを追う様に動く人形達が五体。
それを見ているのは老いぼれと唯時、そして美月。
そこでのっぺりとした雑魚人形が、先ほどリヤナが再起不能にした人形を影の中に持って行き、影の中に入れたと思えば一秒もせずに五体満足の状態で影の中から飛び出してきた。
「人形の相手をしてても無意味、か…」
思わず嫌そうな表情になりながらリヤナが呟いた。
壊しても影の中に持っていけば回復して再び出てくるのだから、いくらリヤナが壊したところで無限ループを続けるだけで無意味。
「だったら、あの老人自体を潰そうかな!!」
その言葉と共に跳びまわってていたため当然、着地するのだが着地のために片足が地面についた瞬間に90度よりも鋭く方向転換をすぐさま跳び出す。
「ほっ!!」
そんな短い声ととも放たれる拳は地面に突き刺さりクレーターを作るが、そこにいたはずの老人は人形でも特に速い二体の内の一体が老人を抱えて、すぐさま攻撃を避けた。
「わしを直接狙うことしかないことは分かって居る。
だが、そう簡単には行かないし、わし自身あまり戦いたくは無いのでな」
「…逃がすわけ無いでしょ、老人!!」
それを追ってすぐに跳び出すリヤナ。
それを妨げるように人形達が飛び出してきて、リヤナに向かって攻撃を放つがやはりそれらは全て上手く受け流し、跳ね返すリヤナ。
「私の大切な美月ちゃんを傷つけたのは重罪なんだよ? だから、死ね」
リヤナが老人の目の前まで迫り拳を構えた瞬間に……
「けふ…っ!?」
リヤナの口から血が吐き出された。
「ほほぅ、その魔法……相当負荷があると見た」
そんな事を呟きながらニヤリと笑った老人だが、『狂戦士化』モードでの負荷だけではなく徹夜の状態の時に老人と戦っていた末のダメージなどのせいでもある。
魂は変わっても、体は1つ。
今まで受けてきたダメージがなくなるわけでもなければ、回復したわけでもない。
リヤナの、ただのやせ我慢である(血を吐くまでになっている理由の大体は徹夜の時のダメージのせいではあるが…)
「ちっ…」
思わず舌打ちしたリヤナを、一瞬の内に周りから人形が襲い掛かる。
そして、リヤナに人形の一体の拳が当たるかあたらないかの瞬間に、魔力の砲撃が一匹の人形を吹き飛ばした。
「なんか、よくわからんけども…間に合ったかな!?」
その声は奈菜。
メイドと戦っていたはずだが、何故か奈菜はほぼ無傷でここへと到着していた。
「し、ね……ッ!!」
苦しそうなリヤナの声だが、その手から闇を高濃度に集めた攻撃が放たれ爆発音が響いた。
その攻撃が当たった場所には大きなが穴が開いている……開いているだけだった。
「逃がした、かぁ…」
疲れたような声でリヤナが呟いた後に、その瞳は閉じ肌が通常の色に戻ると徹夜が倒れた。
それと同時にリヤナが発動させていた美月を囲む結界が消え、美月の叫び声が聞こえた。
「ねぇ、さっき誰が老いぼれと戦ってたの!?」
奈菜は、黒い肌の状態の徹夜は見たことはないので、この状況に困惑しつつ慌てて徹夜へと近づいていく。
徹夜の左腕についた封印は、そのままだ……当然、黒いマークも。
やーい、徹夜くんリヤナさんの足引っ張ったー m9(・A・)
(作者の癖にキャラを馬鹿にする、このウザさ)
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