76話 完全にあの人である
これ投稿される30分前まで急いで書いてたんですよ。
丁度、千と千尋の神隠しがやってたんで泥まみれの時の有名な神様かわいいな~、て思いました。
え? 可笑しいですか? まぁ、そういうのは人それぞれですよ
「……美月、逃げるぞ」
「うん」
疲れ果てている俺の言葉に、美月が短い返事を返した。
俺たちの行動は言葉の通り、逃げることだ。
今は何故かあの一撃を放った後異様に俺は体力を奪われており、それこそ無駄に動き回るのは相当辛い事になるのは間違いない。
「ワシが逃がすと思うのか? 景山 徹夜」
そんな事を老人が言った瞬間に、俺たちの周りに六人の人形が突然現れた。
その人形は普段ののっぺりとした顔のものとは違う。
簡単に言ってしまえば仮面を被った色々な体格の普通の人間……だが突然現れたのが、あの老いぼれがそこに召喚したのならまだ普通と言えるが、もしその人形での速さで現れたのならば異常だ。
俺でも目で追える速さの物がほとんどだが、一つか二つかの人形は俺の目では追えていなかった。
「これは、やばそうだね…」
「ああ……しかも、今の状態だと俺がめっちゃ足手まといになりそうだ」
頑張れ俺。
「さてさて、では始めるかの」
そんな老人の言葉と共に、俺たちの周りにいる人形どもが臨戦態勢へと移り、それに釣られるように俺たちも剣を構え(今回は巣ではきつそうなので剣を取り出した俺だ)
「まぁ、わしは積極的には戦わないんじゃがな」
そんな老人の言葉と共に人形達が一斉に動いた。
「「ッ!!?」」
今まで老人が使っていた老人が使っていた人形とは大違いだった。
スピード、パワー、動き…などなど、それらが何回かは戦ってきたが結局は戦闘の素人である俺でも分かるような動きの違いがあった。
「今回使っている人形どもを、今までの物と同じだと思うなよ?」
老人がドヤ顔気味に言うのも、しょうがないだろう。
「あぶねッ!?」
俺がそんな事をいいながら、前に転がるようにして跳ぶと、さっきまで居た所に太い腕が突き刺さり、人間を押し潰すであろう程の威力のせいで地面がへこんだ。
異様に疲れているせいで、いつもよりも動きが重い気がするが、それを相手が気にしてくれるわけでもないので、とりあえず頑張る事にする。
「らァッ!!」
そんな掛け声と友に、攻撃してきた人形の顔に蹴りをブチ当て吹き飛ばした。
だが、相手は老人入れて7人。
一人ぶっ飛ばしても他は居るし、さっきの一撃程度では倒すことはできないだろう。
そして、俺の横から小柄な人形の腕についた鋭い刃が迫ってきた。
「…っ!!」
「やらせないッ!!」
驚く俺と反して、素早く反応した美月が割って入り、俺を狙っていた刃を剣で受け止めた。
「悪い美月……おらッ!!」
美月が剣で受け止めた刃を手につけていた人形に対して俺が殴り付けようとするが、すぐに逃げられてしまった。
自然に美月と背中をあわせる形となり、回りを見回す。
ソレに対して人形は俺達を囲むようにして、逃げられないように周りで動き回っている。
しかも、動いてるやつらの中には俺が蹴り飛ばしたのもいるので、まだ一匹も減ってない。
「大丈夫? 徹夜」
「今はな……でも、この状況じゃあ俺も美月もヤバイな。
ホント、笑えないわ」
いや、マジで笑えない。
多分この人形どもは、少なくても俺達とほぼ同じような強さ。
今まで何回も戦闘はしてきたが基本的には素人。
それでも今まで勝てたのは、召喚されたことで手にいれた圧倒的な性能差のおかげである。
まぁ、闇などの魔法を除いて身体能力は前世関係で俺も美月も元々なので勇者召喚とかは関係ない。
とりあえず、戻るが……つまり、今回の状況はピンチだ。
異様なほどまでの性能の人形共は、あの老いぼれが作ったのか、それとも……。
「それはワシのお気に入りの人形共でのぅ。
……ソレらは、お主たちのいわば先輩と言うやつじゃよ」
「…先輩ってどういう事?」
老いぼれの言葉に美月が反応して声をあげた。
たぶん、この老いぼれの言葉で美月自身、あの人形がなんなのかは予想できている。
だが、聞かずにはいられなかったのだと思う。
「ソレらは、ワシが今まで殺してきた勇者の死体じゃ」
「クソ野郎が…」
思わず呟いてしまった俺を許してほしい。
あの老いぼれは殺した勇者の死体を腐らないように魔法をかけ能力はどうかはわからないが身体能力をそのままにして、自分の戦力として操っているのだ。
「何、そう睨むな。
影山 徹夜…お前も、最終的にはこの中に入るのだろうからな。
まぁ、その前にその能力が何処までやれるかを調べておかなければいけないがのぅ」
「そんな悪趣味なコレクションには入りたくないな」
あんなんになりたくない。
操られている昔生きていたであろう人達に失礼だが、やはりああはなりたくない。
「さて、無駄に話をしていると時間がどんどんと無駄になってしまうでな。
そろそろ終わりにしようかの」
老いぼれが見てて気持ち悪くなるほど最悪な笑みを浮かべた瞬間に一斉に人形が襲いかかる。
俺と美月では速度が違うため邪魔にならないようお互いに違う方向への避ける。
この6人の人形の中には俺には追えないスピードが二人ほど居て、あの老いぼれが操っているせいかコンピネーションも悪くはない。
数とコンビネーションと同等の性能。
すべてにおいて不利な状況、そのせいだろうか……。
「あぐっ!?」
美月の短い悲鳴。
美月の足に3つの針が刺さり、かくん…と、つい美月の足から力が抜け、動きが止まった瞬間に美月の両手に一本ずつ鎖が巻き付き美月を動けないよう拘束した。
「ふむ、狙っていた方とは違うがとりあえずは片方を潰しておこうかの」
そんな声が聞こえ、次の瞬間には老いぼれが美月に向かって相当の威力であろう魔法を放った。
爆発音が響いた。
─ ─
その家は剣道で有名な家系。
その始まりは、ある家の頭と言えるべき人間に何人も弟子がおり、その弟子達が立派になると自立し各々で道場を開く。
それで異様なほどまで名は広がっていき、有名になっていった家である。
だが、有名だからと言って、それほどまともな家とは言えるものではなかった。
その家の大黒柱と言える男や、その妻であろう女。
その二人には、息子と娘二人が居た。
その三人は、最初は剣道を習ったものの息子は高校にはあると同時に剣道をやめ、長女は剣道などやろうともせず友達と遊びくれる。
そして二人めの娘、三人の子供の末っ子……つまり葵は、剣道に積極的に取り組むも才能がなかった。
葵の姉は友達と遅くまで遊び、帰ってこない日まであった。
そして長男は受験に落ちた。
そんな葵の兄と姉に父と母は頭を悩ませ、自然と葵へ八つ当たりをするようになっていき、それは受験に落ちた兄も葵へ対して同様だった。
姉は、才能はなかったが剣道に熱心に取り組み続けていた葵へ対して何故かいつも目の敵にしている。
いつの間にか、葵の体にはたくさんの痣ができていた。
そんな環境で生きていく葵は、本人でも気づかない間にどんどんとねじまがっていく。
……それに気づかされたのはグレモアという老人が葵の目の前に現れてからだ。
「はあああああああぁぁぁぁぁぁーッ!!」
ザン…ッ!! という音と共に闇の霧と植物のツルを切断した葵。
その姿は全身ボロボロだが、堂々とした様子で刀を持っている。
「くそめ、本当に暴れやがって」
そんなことを呟いたのは美咲。
美咲も全身ボロボロで忌々しそうに葵を睨んでいる。
「ハハハハハッ!! なかなか面白いぞ、お前ら!! やはり戦いは最高だ!」
「うるさい、ルル・サターニア」
そんな事をいってるのはルルと理稲。
美咲と葵よりはマシだが二人ともソレなりに傷を負っている。
結構ボロボロな四人だが戦えないわけではなく、四人の戦いはさらに続いていく。
─ ─
息が切れるほどの勢いで走ってきた唯時は、目の前の状況に絶句した。
目の前には、周りに爆煙が残っており美月をかばうように徹夜がグレモアに背中を向けている。
「邪魔をするなよ、唯時」
老人が今来たばかりの唯時への命令をして、唯時は動けなくなった。
「くは…っ」
ほんのすこしの血を徹夜が吐き、徹夜は力なく倒れ、拘束され動けない美月に寄りかかる形となった。
「……てつ、や?」
美月の声に徹夜は反応せず、ただ薄く目を開けている。
誰がみても、おそらく意識はほとんどない様に見える。
「てつやぁぁぁぁぁ!!」
美月が悲鳴をあげる。
「唯時、あやつらを完全に拘束して連れてこい」
それを見ていたグレモアは、唯時へと指示を出した。
それに従うしかできない唯時は、徹夜たちへと近づいていく。
「ん?」
唯時は変な声をあげ…
「なんじゃ?」
グレモアが疑問の声をあげた。
「………てつや?」
美月が徹夜の名前を呼ぶ。
完全に動けないであろうと思っていた徹夜が、何故かひょこりと起き上がっていた。
「んぐぅ…ッ!?」
次の瞬間に唯時はとっさに腕をクロスして防御すると、そこに蹴りがめり込み唯時を吹き飛ばした。
「徹夜じゃあ、無いんだな~」
徹夜の口から女性のものが聞こえ、髪の毛がパサリと広がり、肌が黒くなっていった。
完全に、あの人である。
そういえば、徹夜くんと美月ちゃんが二人で戦って負けたのってこれが初めてですね。
誤字・脱字があればご報告よろしくお願いします。