52話 六割の優しさと四割の欲
武器を構えた俺と美月、そして恐怖の機械を構えている明。
そして、その三人から少し離れた場所に魔力を放つほうの銃を構えたまま立っている和馬がいた。
「……別に良いけど、大丈夫なん?」
厄介な相手と戦うよりも、他の人に押し付けたほうが楽なわけだ。
「徹夜や美月みたいに異様に性能や能力が特化しているよりも、俺みたいに目立つ場所が少ないほうが、この女の相手をするのは楽だよ」
まぁ、確かに。
「言っておきますが、私は和馬さんとは何回も戦っていますので、ほぼ能力も完璧に使えますよ?」
「それでも徹夜の闇を使われるよりはマシだろう」
明の言葉に和馬が答える。
うん、面倒だから和馬に押し付けよう…自分から押し付けられに来たわけだし。
「ちなみに他の人たちはどうしてるの?」
「偶然通りがかったように見せかけて、できるだけ目立たないようにやってるよ……炎以外はな」
おい、炎……。
「まぁ、とりあえずは任せた」
「ありがとな。
200㍍でも離れれば、この女の能力範囲外に出るはずだ」
「うん、わかった」
「じゃあ、せいぜい頑張ってくれ」
俺と美月、どちらも同様に踵を返して走り出す。
いろいろと面倒な事から逃げたくなってきた。
「…またアナタとですか」
「別に良いだろ」
「……飽きてきてます」
「……」
そんな会話をしながら二人とも、武器を構えなおす。
「1つ聞くけど、何で『妖刀』がウチの国の王子様を襲ってきたときに、裏切った……?」
和馬…そして瑞穂は、基本的に徹夜達が居る国『フォルテ』の王族での一番偉い王の後継者である王子…まぁ、10歳ぐらいの子供なのだが、その王子を護衛しているというわけだ。
だが、前回は二人ではなく三人。
瑞穂、和馬……そして明の三人が護衛についていたのだ。
明は、メイド服を着ているという事もあり侍女にも見え、そして礼儀もそれなりにあるということで王子さんや周りの者からも、それなりに気に入られていた。
ある日…王子さんが、国の土地を見回るという事で三人も同行の形で国全体を馬車で移動することになった。
その際、ある場所で『妖刀』が襲ってきたのだ。
他にも護衛のために騎士達が数人居たが、それは容易く殺されてしまう。
だが、『妖刀』一人に対して…こちらは三人だったので、すぐに相手を退ける事は可能かと思った……そこで明は裏切った。
明の能力は『複写』…相手が多いほど戦い方は増え、面倒な相手となる。
この時、明に敵意を向けるのは瑞穂と和馬。
そして『妖刀』という少女は基本的に自分の仲間という立場の人間を信じてはいない。
その結果、明に少しでも敵意を向けるのは三人…10歳の子供を守ることもくわえれば和馬と瑞穂にとって不利でしかない。
…この場合の選択肢は、ただ逃げるしかなかったわけだ。
「ちゃんと質問には答えますが、とりあえずクイズです。
あなたはメイドが六割の優しさで出来ているのなら、残りの四割はなんだと思いますか?」
「可愛さ、とか…?」
和馬は、どこまでも…アホ。
「欲ですよ、欲。
私は、基本的に強く有利なほうに付くことが好きです。
私は数秒戦えば相手の身体能力をゲームのステータス同様詳しく理解することが出来ることは知っているでしょう」
「……」
「ですので、私はあの老人に付いて行くことにしました。
私が理解できた中では…勇者が数人居ようが関係ないほどの強さを持っています。何故、その力で直に敵を叩かないのかは知りませんが…どうせなら、確実に勝つほうが良いでしょう?」
「…あの老人が、そこまで強いからってお前らが勝つとは決まらないだろ」
「勝ちますよ……私や『妖刀』が勝たせますから。
あの『妖刀』という女は、あまり信じていい者ではありませんが……あの老人だけには忠実ですからね」
「……」
「まぁ、とりあえずは私に殺られてください」
その言葉と共に、明が動く。
明の元もとの性能であろう動きだが、それでも十分に速い。
「…ッ!!」
和馬は後ろに引くようにしながら両手に持った銃の引き金を引く。
それに対して明は自分の体が横になるように勢いよく跳ぶ。
それにあわせて回転を加え、回りながら空中を進む明は魔力の銃弾を上手い具合に避け、それなりに大きいチェーンソーが凄い勢いで振り回される形となる。
「…うおっ!?」
いきなりの事にびっくりしながらも、ギリギリで和馬は横に避ける。
だが、自分の体には傷はできなかったが自分の手に持っていた銃が千切れになった。
それに対して明は即座に体勢を建て直し着地すると、チェーンソーを和馬へと向けて振るう。
そして、さっき千切れになって何も持っていない和馬の手に、突然現れた銃…もう片方に持っていた銃を『増殖』で増やしたのだが。
その銃を和馬は明に向けて構えた。
銃声とチェーンソーの唸るようなエンジン音が、その場に響く。
─ ─
モン○ンのハプル○ッカみたいな魔物……もう面倒なので砂魚と呼ぼう。
その砂魚は、ある一人の少女に向かって大きな口を開けて突進していく。
「……」
その少女はただ静かに、それを見つめ。
少女に大きな口で噛み付く前に、突然砂から生えてきた植物が砂魚の体に絡みつき、動きを封じる。
ギャアギゃアと騒ぎながら植物の拘束から逃れようと、体全体を使って大きくもがき始める砂魚。
「…うるさいな」
さらに植物が生え、砂魚の動きを封じていき…無駄に大声を上げている無駄に大きな口を無理矢理閉じる。
それでも、もがき続ける砂魚。
だが、ある瞬間から動きが鈍り始め、ついには動かなくなった。
…この植物の事でもわかると思うが、これは古里 里稲である。
少女は特に何もいう事なく、砂魚に近づき観察するように眺めながら、それに触れる。
「ん……?」
里稲は、そんな疑問の声をあげる。
それと同時に拘束していた植物が動き、砂魚を凄い力で持ち上げた。
その尻尾があるところには、尻尾みたいな物があるわけだが…それは途中でちぎれた様な傷があり、そこには何かが繋がっていたであろうことが分かる。
「逃がした、か…?」
少しの間、ジッと何かを探るようにしていた里稲だが、ほんの少し立つとすぐにさっき捕まえた砂魚のほうを向き直る。
その砂魚の周りに拘束するために巻きついていた植物達は、さっきとは違いさまざまな色の花を咲かせ、逆に砂魚は栄養を吸い取られていくように肉体が干からび縮んでいく。
そして、吸い取るまで吸い取ったのかほぼ骨だけのようになった砂魚と綺麗に咲いた花。
里稲の能力は、木を生やすだけではなく植物全体を操る。
そのとき里稲が生やした植物が根を張り、その場の水分などを吸収する……その時に吸収するものは、水だけには限らない。
それこそ、魔力やソレの情報も含めて吸収するのだ。
「……完璧なクリアまでのピースが足りない?」
里稲は、ただソレだけを呟いた。
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