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1-6.天才の苦悩



――母の様子がおかしくなったのは、ここ数日のことだ。


レイは、母、エレオノーラの秘書であるエリックからの報告に、頭を抱える日々を送っていた。突如として重要な会議をキャンセルしたり、これまでの友好な関係にあった貴族家と対立を生むような発言をしたり、あげくは公爵家の権限を行使し、研究機関などに圧力をかけて私物化しようとさえしている。


話をしていても、どこか上の空で、以前感じていた温かさや優しさは欠片も感じられない。


父は、自分が生まれてすぐに不慮の事故で亡くなったと聞いている。それから母は、女当主としてアルフリード公爵家を支え、ここまで繁栄させてきた。それを最も身近で見てきたからこそ、直近の母の行動には疑問が募るばかりだった。


ある休日、アルフリード公爵家邸宅に帰ったレイは意を決して母に尋ねた。


「母さん、いったいどうしてしまったんだ?ベンゲル侯爵家との交友を切り、取引を止めてしまった。ラヴィル家やルートヴィッヒ家との対立も深めているらしいじゃないか。今まで築いてきたものを自ら壊しているようで、正直、理解ができない。」


必死に訴えるレイを、エレオノーラは冷たい目で見つめた。


「余計なことは考えなくていいわ、レイ。あなたは自分のことをしていればいいの。大人の事情に子供が口を挟まないで頂戴。」


「母さん。だったら、これまでの行動の理由を説明してくれ。俺もエリックも正直訳がわからなくて・・・」


「いい加減うるさいわ!部屋に戻りなさい!」


もはや以前の母の面影はなく、まるで別人のような言動に、レイは絶望した。エリックや他の使用人に相談するも、誰一人として母の変わってしまった原因に心当たりはなかった。天才と持て囃されてきた自分が、何もできない状況に苛立ち、レイは八方ふさがりの状況に一人頭を抱える。


部屋で何時間も考え込んでいた時、ふと先日ルナが言っていた言葉が脳裏に蘇る。


『この前、庭園の手入れをしている時に、エレオノーラ様から邪悪な魔力を感じたの。だから私、心配で……』


もし、何者かが魔力で母を操っているとしたら?

その邪悪な魔力が、母親の人間性そのものを蝕んでいるとしたら?


そう考え出すと、すべての不可解な行動が繋がっていくようで、その可能性しかないと思えてきた。


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