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1-4.バラ園の貴婦人


学院の喧騒から離れた、静かな庭園の一角。私は、手入れの行き届いたバラ園のベンチで、一人の優雅なブロンドの女性と向かい合っていた。彼女、エレオノーラ様とはここに通い始めたときからの知り合いだった。


「あら、ルナちゃん。また来てくれたのね」

「はい。お庭の手伝い、させていただきたくて」

私が控えめに答えると、エレオノーラ様は優しく微笑んだ。身分を明かさない彼女だったが、その立ち居振る舞いから、裕福な貴族であることは明らかだった。エレオノーラ様は平民の私に分け隔てなく接してくれた。


「エレオノーラ様、このお花は少し元気がないみたいです…。」

「あらあら、ひどい泥跳ねね……。きっと、このところの嵐で、こうなっちゃたのね。でも大丈夫、この子はまだ諦めてないわよ。まずは、この葉っぱの泥を優しく洗い流してあげましょうか。葉の表面にある呼吸の穴が、泥で塞がっちゃってるの。」


彼女と一緒にお花の世話をしていると、彼女の人間性がわかってくる。彼女はお花に寄り添い、花の本来の力を引き出すようなそんな育て方をしているようだった。私は、そんなエレオノーラ様の人間性ややさしさに深い感銘を受けていた。


ルナは出会った頃のエレオノーラに言われた忘れられない言葉がある。


* *


「ルナはこの魔法学院の学生よね?どの属性の魔法を使うのかしら。」

会話の流れで出てきたエレオノーラ様の質問に、私は思わず言葉を詰まらせた。魔法が使えない私にとって、知らず知らずこの質問に答えることに抵抗を感じるようになっていたからだ。


「私、実は魔法は使うことができないんです。不思議と魔力の流れを感じることはできるんですが…。」


私がそう話すと、エレオノーラ様は興味深そうに目を細めた。少し考えて彼女は口を開く。


「人と違うということは素晴らしい才能よ。魔力は、本来人を傷つけるものじゃない。この世界に満ちている、命の光のようなもの。……ルナちゃん、それを感じられるあなたは、きっと誰よりも世界を美しく見ているのでしょうね。」


エレオノーラ様は、私が抱えるコンプレックスを、特別な才能として認めてくれた。それは、誰からも理解されなかった私にとって、初めての経験だった。私は、エレオノーラ様に深い尊敬の念を抱く。彼女は、力だけでなく、心も豊かな、本物の貴族だと思った。


「私、魔法は使えないけれど、この魔力探知の力を使って、いつか誰かの役に立ちたい。なんとなくですがそう思うんです。」


私が控えめに自分の夢を語ると、エレオノーラ様は微笑み、私の手を優しく握った。


「あなたと触れ合ってまだ少ししかたってないけど、あなたは誰よりも優しい心を持っているって感じるわ。あなたの優しい心は、きっとたくさんの人を救うわよ。」


エレオノーラ様の言葉は、私の心に温かく響いた。私は、彼女の温かさと知恵を深く尊敬し、彼女のような女性になりたいと強く思うようになった。


* *


レイ君とのノクシア討伐任務は、日を追うごとにペースを上げていった。


「ルナ。次のターゲットはどこだ。」


レイ君は、冷徹な口調で私の指示を促す。私はアルカナマップを眺め、経路を考える。アルカナマップには、魔力探知によって捉えられた赤い点が揺れていた。


緊張しながらも、レイ君に指示を出した。


「……7時の方角の茂みに、2体。そのポイントから西に4体。そこから森の中央に進むのがいいと思う。」

「よし」


レイ君は私の言葉を確認すると、その方向に向かい始める。連携は驚くほどスムーズになっていた。レイ君は、私をただの「道具」として扱っているようだったが、私は彼の完璧な魔法に圧倒され、彼の言葉には従うべきものだと感じていた。


ある日、訓練を終えたレイ君が、私に尋ねた。

「なぜ、昨日母上と一緒にいた?」

「お母様?私、レイ君のお母様とは面識がないと思うんだけど……。」


突拍子もない質問に戸惑う私に、レイはわずかに眉をひそめた。


「昨日、庭園で話しているのを見たんだ。母と知り合いなのか。」


その言葉で、初めてエレオノーラ様がアルフリード公爵夫人、つまりレイ君の母親であることを知った。私は内心驚きながらも、質問に答えた。


「あ……、エレオノーラ様ってレイ君のお母様だったんだね。エレオノーラ様はよく庭園でお花の手入れをしていて、それのお手伝いをさせてもらっているの。」


「……花か」

レイ君は興味なさそうに呟いた。


アイリス魔法学院は、アルフリード公爵領であるアイリスの街にあり、公爵家の邸宅もほど近い場所にある。レイ君の話では、セレスティア学院長とエレオノーラ公爵夫人は同い年の旧友なのだという。そのためエレオノーラ夫人は学院長に会うために定期的に学院を訪れ、そのついでに趣味である庭園での植物の手入れをしていたのだ。


しばらくは、そのように日常を過ごしていた。しかし、そんな日々は、突然終わりを迎える。

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